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「民主国家否定する暴挙止めよ」(愛媛新聞)〜辺野古の調査再開に批判的な地方紙・ブロック紙

 少し日がたってしまいましたが、備忘もかねて書き留めておきます。沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設をめぐり、日本政府は12日、沖縄県名護市辺野古地区で、代替基地建設のための海底ボーリング調査を再開しました。昨年9月の中断から6カ月ぶりのことです。以下に琉球新報の記事を引用します。

琉球新報「防衛局、辺野古掘削を再開 県の中断要求無視」2015年3月13日
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-240262-storytopic-271.html

辺野古問題取材班】沖縄防衛局は12日午前、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古への新基地建設に向けた海底ボーリング調査を再開した。県知事選や衆院選などへの影響回避で昨年9月に中断して以来、6カ月ぶりの調査再開となった。
翁長雄志知事は前知事の埋め立て承認を検証する間は作業を見合わせるよう防衛省に要請していたが、国は県の意向を無視する形で調査を強行した。
 防衛局は午前10時23分、11日に辺野古崎付近の調査地点に移動させた大型のスパット台船1基で掘削作業を開始した。別の台船1基も調査地点に移動させ、周囲を浮具(フロート)や油防止膜(オイルフェンス)などで囲い、掘削に向けた準備を整えた。昨年8〜9月にかけて水深の浅い海域7カ所、陸上部分5カ所の計12カ所で調査を終えており、今後水深の深い海域の残り12カ所の掘削調査の実施を予定している。
(中略)
 東京に出張中の翁長知事は同日午前11時すぎ、都内で記者団の取材に応じ「第三者委員会による検証作業の間は代替施設建設にかかる調査を見合わせるなどの配慮を申し入れていた中で、ボーリング調査が再開されたことは大変遺憾だ」と憤りを示した。
 菅義偉官房長官は調査再開について「一昨年に当時の知事から埋め立て承認をいただいて工事を行っている。埋め立て工事の許可を受けてその準備が整ったから、ただ粛々と開始した」と話し、今後も作業を進める姿勢を示した。


 昨年の11月知事選では辺野古への代替基地建設の可否が明確な争点となり、反対を掲げた翁長雄志氏が保革を超えた支援態勢の下で当選しました。続く12月の衆院選では、沖縄の4つの小選挙区すべてで自民党候補が敗北。沖縄の民意は、普天間飛行場の県内移転に反対であることは明確です。その中での今回の調査再開強行は、日本のほかの地域で同じようなことが起こり得るかどうか、という観点から見れば、沖縄に対する差別としか言いようがないと感じます。まさしく日本の民主主義が問われる事態であり、まずもって何よりも、辺野古で何が起きているかが本土で広く知られなければならないと思います。
 ここでは、12日以後、ネット上で目についた本土の地方紙やブロック紙の社説を引用、記録しておきます(地方紙・ブロック紙の社説すべてを網羅的に調べたわけではありません。また、見出しのみで本文は読めない新聞も含みます)。この問題をめぐる全国紙の論調は2極化して久しいのですが、地方紙は日本政府の強硬方針に批判的な論調が圧倒しています。今、本土に必要なのは、米軍基地は沖縄という一地域の問題ではなく日本全体の問題だ、との当事者意識なのだと思います。その意味で、「辺野古で起きている重い現実を、いま、日本の問題として国民全体で見つめたい」と説く愛媛新聞の社説(14日付「民主国家否定する暴挙止めよ」)は特に強く印象に残りました。


【13日】
京都新聞辺野古調査再開  中断し、民意に向き合え」

 政府はまず、強硬一点張りの姿勢を改めることだ。
 安倍晋三首相は選挙結果を受けて「民意を真摯(しんし)に受け止める」と語ったはずである。ところが翁長氏が再三にわたって上京し、移設問題の協議を求めても、いまだに会おうとしていない。
 沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる菅義偉官房長官は接触を模索する動きもみせるが、歩み寄る気配はなく、調査再開の日も「環境保全に万全を期しながら粛々と進める」と語った。
 「辺野古が唯一の選択肢」というなら、その根拠をきちんと翁長氏に説明すべきだ。それさえしないのは、政府の責任放棄であり、沖縄の民意を無視するのに等しい。
 この間、辺野古の米軍キャンプシュワブ前では、抗議行動の中でけが人や逮捕者も出ている。
 政府は地盤の強度や地質を調べた後、夏ごろにも埋め立て工事に着手する構えだが、強行すれば沖縄を傷つけるだけでなく、政権の命取りにもなりかねない。民主政治の質が問われている。

 
山陰中央新報 米軍普天間飛行場移設/対話の努力を払うべきだ

高知新聞「【辺野古移設問題】政府の強硬さは目に余る」

 辺野古周辺では、反対派の市民と海上保安庁や警察との衝突が続き、「過剰警備」との批判が高まっている。その抗議活動の目の前で、調査再開を強行した格好だ。
 政府は「沖縄の方々の理解を得る努力を続ける」(安倍首相の施政方針演説)と繰り返してきたが、これでは言行不一致と言わざるを得まい。早急に強硬姿勢を改めるべきだろう。
 政府と沖縄の関係は日ごとに、悪化しているといってよい。
 昨年11月の知事選に続き、12月の衆院選でも4小選挙区全てで辺野古反対派が勝利した。明らかな民意にも、政府は翁長雄志知事との対話拒否や予算減額など、意趣返しにもみえる姿勢を取り続けている。
 中でも、市民の反対運動への対応は目に余る。逮捕者や暴行を受けたとの告訴が相次ぐのは、明らかに異常事態だ。一連の選挙が終わったとたん、強硬姿勢に転じた政府に強い違和感を覚える。

 
大分合同新聞 普天間飛行場移設問題 「県民のため」に立ち戻れ※見出しのみ

熊本日日新聞 辺野古調査再開 移設の強行は禍根を残す※見出しのみ


【14日】
秋田魁新報辺野古調査再開 政府は地元と対話せよ」

 このままでは両者の溝は深まるばかりだ。関係を改善するため、政府はまず、翁長知事との対話から始めるべきだ。その上で隔たりを埋める努力をし、最良の方法を模索しなければならない。
 安倍首相には、意見が異なる人との対話を回避する傾向が目立つ。特定秘密保護法の制定や集団的自衛権の行使容認などでも、反対意見を十分にくみ取る努力をしたとは言い難い。
 異論があるときほど、時間をかけて議論し、相手の理解を得ることが欠かせない。移設計画では安倍首相の政治姿勢そのものが問われている。

 
中日新聞東京新聞辺野古調査強行 民意となぜ向き合わぬ」

 翁長氏の下、有識者六人による第三者委員会が設けられ、仲井真氏の埋め立て承認に法的な瑕疵(かし)がなかったか否かを検証しており、七月にも報告書をまとめる。
 翁長氏が求めるように、せめて検証が終わるまで作業を中止すべきではないか。作業を急げば急ぐほど、何か後ろめたいことがあるのではないかと疑いたくなる。
 在日米軍基地の負担は日本国民が可能な限り等しく分かち合うのが筋だ。沖縄県に約74%が集中する現状は異常であり、普天間返還のためとはいえ、米軍基地を県内で“たらい回し”しては、県民の負担軽減にはなるまい。
 民意と向き合わず、作業を強行すれば、辺野古への「移設」が完了しても、反基地感情に囲まれることになる。その是非は別にして基地提供という日米安全保障条約上の義務が果たせなくなるのではないのか。安倍内閣はいったん作業の手を止めて、今こそ沖縄県民と真摯(しんし)に向き合うべきである。

 
神戸新聞辺野古問題/工事強行は不信を深める」

 普天間移設計画は、20年前の米兵による少女暴行事件を受けて日米両政府が協議した結果で、米国はそれを機に軍の再配置に動きだす。それが基地負担軽減につながる−。
 政府が描く道筋だが、当事者である沖縄の人たちの心に届いているとは言い難い。
 むしろ、一連の政府の対応が不信を深めているといえる。
 一昨年末の仲井真弘多(ひろかず)前知事による抜き打ち的な埋め立て承認、反対を押し切る形での工事着手、政権による沖縄振興費予算の減額…。政府による露骨な圧力を感じている県民は少なくないだろう。
 対抗措置といっても県知事ができることには限界がある。「しようがない」という県民のあきらめを期待する声も政府内にはあるようだが、民意を踏みにじられた痛みは残る。このままでは計画への「理解」など到底得られない。

 
愛媛新聞辺野古海底調査再開 民主国家否定する暴挙止めよ」

 これが民主主義を掲げる国のすることなのか。
 政府は、米軍普天間飛行場宜野湾市)の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立てに向けた海底ボーリング調査を再開した。沖縄県の再開見合わせ要請や県民の強い反発に一切耳を傾けることなく、説明や対話の機会を持とうともしないままである。
 「粛々と工事を進める。法に基づいており、全く問題ない」(菅義偉官房長官)。権力を持つ政府が地元の民意を抑え込み、新基地建設へと突き進んでいる。これは民意の黙殺であり県民への抑圧にほかならない。民主国家を政府自ら否定する暴挙を、決して認めることはできない。直ちに中止を求めたい。
(中略)
 沖縄は戦争で多大な犠牲を出した。戦後も在日米軍専用施設の大半が沖縄にあり、今なお米国追従の影を背負わされている。戦後70年。米国の視点でなく、沖縄の痛みから国の針路を見つめ直す時機が来ている。地元の声から逃げず丁寧に対話することで、基地縮小の道を探らねばならない。軍縮と平和を沖縄から米国へ、世界へと発信したい。
 沖縄の人々は、自分たちの暮らしだけでなく、自然破壊を食い止め、海の生物を守るためにも声を上げている。ボーリング調査再開のため海中に投入した大型のコンクリート製ブロックが、県の岩礁破砕許可区域外でサンゴ礁を傷つけているのも確認されている。辺野古で起きている重い現実を、いま、日本の問題として国民全体で見つめたい。

佐賀新聞辺野古調査再開」

 政府の頼みの綱は前知事による埋め立て承認だ。翁長氏は取り消しを視野に入れるが、政府は「取り消せない」と強調する。前知事も10年の再選時に県外移設を訴えながら変節した。承認の手続きに瑕疵(かし)がないとしても、県民の総意はそこにない。沖縄ではいくら選挙で意思表示しても、方向性を変えられないことへの不満が鬱積(うっせき)していることだろう。
 この問題は、普天間飛行場の危険除去を考え、日米両政府が飛行場返還で合意してから20年近くの歩みがある。強引な政府対応の背景には、合意を履行しなければ、同盟関係にひびが入りかねないとの危機感もあるとみられる。
 強硬姿勢は「知事に安全保障にかかわる基地問題の行方を決める権限はない」と言っているようなものだ。佐賀県には米軍も絡んだ佐賀空港への自衛隊オスプレイ配備計画があり、新知事に「佐賀のことは佐賀で決める」と主張した山口祥義氏が就任した。事情の違いはあれ、沖縄で起きていることを前にすると、こちらに決定権があるのか、不安に思えてくる。
(中略)
 埋め立て工事の着手時期を中谷元・防衛相は「夏ごろ」としている。既成事実を積み重ねれば、反対運動の勢いを削ぐことになろうが、このまま突き進んでは政府と沖縄、本土と沖縄に修復しがたい溝ができる。在日米軍基地面積の74%が集中する沖縄の不満が失望に変わり、爆発しかねない。
 基地の負担軽減を目指した普天間移設の原点は、「沖縄県民のため」だったはず。政府はここに立ち戻り、まずは翁長氏らと会い、互いの言い分に耳を傾けるべきだ。


【15日】
北海道新聞辺野古調査再開 なぜ民意に背を向ける」

 民意を平然と踏みにじる安倍晋三政権の姿勢には驚くばかりだ。
 沖縄防衛局は米軍普天間飛行場の移設先とする名護市辺野古沖で、昨年9月から中断していた海底ボーリング調査を再開した。
 11月の県知事選への影響を避ける配慮があった。県民は選挙を通し、辺野古移設に反対の意思を明示した。その結果をどう解釈すれば再開という判断になるのか。
 国民よりも国家を上位に置く安倍政権の政治姿勢が透けて見える。憲法国民主権の原則に逆行するものと言える。
 強硬姿勢を改め、県側と話し合うべきだ。そうするほかに解決の道はない。

徳島新聞辺野古調査再開 対立より対話が大切だ」

 政府の中には「手続きや工事が進めば、できたものはしょうがないという声も出てくる。県民世論も変わり得る」との見方があるという。
 既成事実を積み重ね、力で押さえつければ、反対運動はやがて下火になると見込んでいるのだろう。
 中谷元・防衛相は、夏ごろにも埋め立て工事に着手したいとの意向を示している。
 しかし、楽観的に過ぎるのではないか。
 沖縄では、移設計画が最大の争点となった昨年1月の名護市長選に続き、11月の知事選、12月の衆院選の沖縄4小選挙区全てで、辺野古反対派が勝っている。
 民意は明確であり、それを無視して推し進めるのは、怒りの火に油を注ぐようなものだ。反対の県民世論は一層高まろう。
 安倍晋三首相は、今年2月に行った施政方針演説で「引き続き沖縄の方々の理解を得る努力を続けながら、辺野古沖への移設を進めていく」と述べている。
 だが、翁長知事がこれまで7度上京したにもかかわらず、一度も会おうとしないのはどうしたことか。沖縄基地負担軽減担当相を兼ねる菅長官も同様だ。
 さらに、「普天間飛行場負担軽減推進会議」も翁長知事の就任以来、開かれないままになっている。
 沖縄の米軍基地負担問題について、首相や関係閣僚が地元首長と協議する会合であり、前知事時代は、事務レベルの作業部会を含めると毎月開かれていた。
 知事選の意趣返し、沖縄いじめとも取れるやり方に、県民からは「露骨な嫌がらせだ」との批判が出ている。
 異論に耳を傾けず、意に沿わない人は排除する。そんな対応で理解が得られるわけがない。

 12日以前にも、この問題に関連した社説がいくつか目につきました。見出しのみ書き留めておきます。
3月 2日 中国新聞辺野古サンゴ礁損傷 『粛々と』進められまい」
3月 4日 河北新報「米軍普天間移設/対話を通じて打開の道探れ」
3月10日 信濃毎日新聞辺野古移設 強硬姿勢が深める溝」


 全国紙の関連する社説は以下の通りです。
朝日新聞 14日 「辺野古移設 作業を止めて対話せよ」
毎日新聞 14日 「沖縄との対話 首相側から呼びかけを」
読売新聞 13日 「辺野古調査再開 理解得ながら移設を進めたい」