読売「偏った判断」産経「奇矯感濃厚」朝日・毎日「司法の警告」〜高浜原発・福井地裁決定の在京紙報道の記録

 福井地裁で15日、原子力発電所をめぐる大きな司法判断が示されました。
※「福井地裁、高浜原発再稼働認めず 初の仮処分決定、『合理性欠く』」(47news=共同通信
 http://www.47news.jp/CN/201504/CN2015041401001499.html

 関西電力高浜原発3、4号機(福井県高浜町)の安全対策は不十分として、周辺の住民らが再稼働差し止めを申し立てた仮処分で、福井地裁は14日、原子力規制委員会の新規制基準は「緩やかにすぎ、合理性がない」と指摘、基準に適合していても再稼働を認めないとの決定をした。原発運転禁止の仮処分は全国初。訴訟の判決と異なり、決定は直ちに効力を持つ。
 2基は今年2月、九州電力川内原発鹿児島県)に次ぎ、規制委の審査に合格、関電は11月の再稼働を想定し、地元同意の手続きに入っている。裁判長は決定で、新規制基準に適合しても安全性は確保されていないと批判、基準に厳格さを求めた。

 樋口英明裁判長は、昨年5月にも関西電力大飯原発の再稼働差し止めを命じる判決を言い渡しています。昨年の判決に続き、今回の決定でも、原発の危険性によって原告の住民の人格権が侵害されていると指摘して、原発の運転差し止めが必要との結論を導きました。司法は従来、原発訴訟では行政の判断を重視するスタンスでした。それにとどまらず、裁判所が安全性の評価に踏み込んで判断し、「人格権」を根拠にした判決例が出てきたことは、2011年3月11日の東日本大震災東京電力福島第一原発事故後の顕著な変化の一例と言えるだろうと思います。
 当然ながら、この決定はマスメディアも大きく報道しました。原発の再稼働の是非は、それ自体がマスメディア、中でも新聞は、新聞社によって社論がはっきり分かれてきています。東京発行の新聞各紙を見ると、原発再稼働に反対ないしは慎重、限定容認の朝日、毎日、東京各紙と、原発再稼働推進を掲げる読売、産経、日経各紙では、この決定に対しても評価は正反対です。

 以下は各紙の16日付朝刊の1面掲載の本記と社説の見出しです。

朝日新聞
1面トップ「高浜再稼働認めず」「即時差し止め 初の仮処分」「『新基準、合理性欠く』」「福井地裁」
社説「高浜原発差し止め 司法の警告に耳を傾けよ」新規制基準への疑問/燃料プールの安全性/立ち止まって考える
毎日新聞
1面トップ「高浜再稼働 差し止め」「福井地裁 仮処分」「『新基準、合理性欠く』」
社説「高浜原発差し止め 司法が発した重い警告」
▼読売新聞
1面トップ「高浜原発 再稼働認めず」「仮処分 規制基準『不合理』 福井地裁」「関電 異議申し立てへ」
社説「高浜差し止め 規制基準否定した不合理判断」
産経新聞
1面準トップ「高浜原発 再稼働認めず」「福井地裁、仮処分 新基準を否定」
社説「高浜原発差し止め 『負の影響』計り知れない」
日経新聞
1面準トップ「高浜再稼働 差し止め」「地裁仮処分 原発新基準を否定」「政府 再稼働方針変えず」
社説「福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い」
東京新聞
1面トップ「高浜再稼働 認めず」「『緩い規制基準 合理性欠く』」「福井地裁 初の仮処分 3、4号機」「『250キロ圏住民、人格権侵害の危険』」
社説「国民を守る司法判断だ 高浜原発『差し止め』」当てにならない地震動/疑問だらけの再稼働/不安のない未来図を

 各紙の評価が2分されていることがもっとも分かりやすいのが社説です。読売新聞や産経新聞の社説では、この決定を批判する文中の表現や文言がいつになく激しいように感じました。それぞれ一部を引用します。

▼読売新聞 http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20150414-OYT1T50143.html

 規制委の結論を覆した今回の決定が、最高裁判例を大きく逸脱しているのは明らかだ。
 樋口裁判長は昨年5月、福井県大飯原発3、4号機の訴訟でも、運転再開差し止めを命じている。福井地裁には民事部門が一つしかない。再稼働に反対する住民側は同様の判断を期待し、同じ裁判長が、これに応えたのだろう。
 福島第一原発の事故後、原発再稼働に関し10件の判決・決定が出たが、差し止めを認めたのは樋口裁判長が担当した2件しかない。偏った判断であり、事実に基づく公正性が欠かせない司法への信頼を損ないかねない。

 曲がりなりにも裁判所の合議体が示した判断に対し「偏った判断」「公正性が欠かせない司法への信頼を損ないかねない」とは、最大級の批判の表現だと感じます。見方によっては、それを積極評価するかどうかは別として、福島第一原発の過酷事故が発生した事実を重くみて、最高裁判例を超えようとする下級審判断が出てきたとの意義付けもできそうですが、「判例を大きく逸脱」と断じて全否定です。


産経新聞 http://www.sankei.com/column/news/150415/clm1504150002-n1.html

 仮処分によって原発の運転が禁止されるのは、今回が初めてで、奇矯感の濃厚な判断である。
 (中略)
 そもそも現在の司法の体制で、高度に科学的、技術的な分野の判断に踏み込むことには無理があろう。知財高裁に相当する専門対応力を備えた「科学高裁」設立の検討が望まれるところである。

 「奇矯感」という用語を新聞の文章の中で今までに見た記憶はありません。この言葉ひとつで最大限、最大級の批判だと感じます。

 
 朝日新聞の社説からは、読売、産経両紙と対照的な以下のくだりを引用しておきます。 

 しかし、決定を突出した裁判官による特異な判断と軽んじることは避けたい。
 それを考える材料がある。
 昨年11月、大津地裁で高浜、大飯の原発再稼働の是非を問う仮処分申請の決定が出た。同地裁は運転差し止め自体は却下したものの「多数とはいえない地震の平均像を基にして基準地震動とすることに、合理性はあるのか」と指摘し、今回と同様、基準地震動の設定のあり方について疑問を呈していた。
 政府や電力会社の判断を追認しがちだった裁判所は、「3・11」を境に変わりつつあるのではないか。
 安倍政権は「安全審査に合格した原発については再稼働を判断していく」と繰り返す。
 そんな言い方ではもう理解は得られない。司法による警告に、政権も耳を傾けるべきだ。


 社会面も各紙のメーンの見出しを並べてみます。

朝日新聞「再稼働ストップ 再び」「原告ら歓喜『最後の内容』」
毎日新聞「住民側『最高の決定』」「立地自治体戸惑いも」
▼読売新聞「差し止め 関係者動揺」「『住民翻弄』『納得できぬ』」
産経新聞「『司法の暴走』町に痛手」「町長『私の責任で判断』」
日経新聞「再稼働に再び『待った』」「地元複雑、意見割れ」
東京新聞「『再考の決定』万感」「リスク恐れず申し立て」


 目を引くのは産経の「司法の暴走」です。


 以下に備忘を兼ねて、東京発行各紙の15日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。

朝日新聞
1面トップ「高浜再稼働認めず」「即時差し止め 初の仮処分」「『新基準、合理性欠く』」「福井地裁」/「新規制基準と基準値振動」(用語解説)
1面「規制と司法 異なる立場」(視点)
2面・時時刻刻「司法、新基準ばっさり」「『深刻な事故はめったに起きないという見通しにすぎない』」/「再稼働『人格権を侵害』」/「規制委『審査に影響ない』」/「想定内の関電『覆せる』」
2面・いちからわかる「高浜原発再稼働 差し止め仮処分って?」「正式な裁判の前に効力が生じる。異議申し立てもできる」
17面(オピニオン)耕論「高浜原発 差し止めの意味」/「事故前なら想像できなかった」元裁判官川崎和夫さん/「国民最後の砦からのメッセージ」後藤・安田記念京都市研究所理事長新藤宗幸さん
社会面トップ「再稼働ストップ 再び」「原告ら歓喜『最後の内容』」/「町長『行政責任果たせぬ』」/「全国、割れる賛否」
社会面「住民の意思くみ取った決定」九州大大学院教授(科学技術史)でシンクタンク原子力市民委員会座長の吉岡斉さん/国際環境経済研究所長の澤昭裕さん/樋口英明裁判長(略歴)
第3社会面・仮処分決定要旨
社説「高浜原発差し止め 司法の警告に耳を傾けよ」新規制基準への疑問/燃料プールの安全性/立ち止まって考える


毎日新聞
1面トップ「高浜再稼働 差し止め」「福井地裁 仮処分」「『新基準、合理性欠く』」/「安全立証に全力」関西電力/「審査に影響ない」原子力規制庁の米谷仁総務課長/「再稼働方針に変わりはない」菅官房長官/決定骨子
1面「規制委審査 根底から否定」(解説)
3面・クローズアップ2015「事故リスク ゼロ求め」「『基準値振動 信頼失う』」/「原発回帰に冷や水」
3面「仮処分ってどんな制度?」「決定で即効力 判決まで待てない場合想定」(なるほドリ)
4面(総合・経済)「経済界 困惑広がる」「『再稼働を』『行方見守る』」/「与党静観、野党は評価」
9面・決定要旨/用語解説「基準値振動」「原発で基準値振動を超えた地震」「原発施設の対震分類」「新規制基準」「原発の多重防護」
社会面準トップ「住民側『最高の決定』」「立地自治体戸惑いも」/「『再稼働できぬ現実しかない』」/「福島避難者ら『当然』」/「基準値振動根拠記事の発言採用 福井地裁」/「大飯差し止めも判断」福井地裁・樋口裁判長
社会面「二重基準を作った」澤沼裕・21世紀政策研究所研究主幹(エネルギー政策論)/「電力側の問題明示」原発訴訟に詳しい伊東良徳弁護士(第二東京弁護士会
社説「高浜原発差し止め 司法が発した重い警告」


▼読売新聞
1面トップ「高浜原発 再稼働認めず」「仮処分 規制基準『不合理』 福井地裁」「関電 異議申し立てへ」/「再稼働の方針 官房長官強調」/仮処分のポイント/「高浜原子力発電所3、4号機」(用語解説)
3面・スキャナー「科学的知見を否定」「『絶対安全 結論ありき』識者批判」「『11月再稼働』に暗雲」/「検査『合格』2原発」「地震津波対策 大幅強化」
8面(経済)「『後続の審査に影響』」「電力業界に懸念の声」
社会面トップ「差し止め 関係者動揺」「『住民翻弄』『納得できぬ』」/「原発立地自治体『新基準 何のため』」/「大飯差し止め判決も」(裁判長横顔)
第3社会面・決定要旨
社説「高浜差し止め 規制基準否定した不合理判断」


日経新聞
1面準トップ「高浜再稼働 差し止め」「地裁仮処分 原発新基準を否定」「政府 再稼働方針変えず」
3面「安全思想 すれ違い」「リスク、抑制かゼロか」/「再稼働時期、見通せず」/福井地裁の決定の骨子/「具体的な危険 論拠に乏しい」森嶌昭夫・名古屋大名誉教授(民法・環境法)
3面「原発の新規制基準」「自然災害に厳格な対策要求」(きょうのことば)
13面(企業2)「関電、5期ぶり黒字 黄信号」「手続きの後ずれ必至」
社会面トップ「再稼働に再び『待った』」「地元複雑、意見割れ」「『最高の判断』『ショックだ』」/「『機は熟した』審理を集結」「大飯でも差し止め判決 樋口裁判長」/「『安全を最優先』『丁寧に説明を』3知事コメント」/仮処分決定の要旨
社説「福井地裁の高浜原発差し止めは疑問多い」
※1面トップは「イオン 投資6割増」


産経新聞
1面準トップ「高浜原発 再稼働認めず」「福井地裁、仮処分 新基準を否定」/「高浜原発3、4号機」(用語解説)
2面「規制委『審査に影響なし』」「科学的考慮一切せず」/「『方針変わらず』官房長官」/決定骨子
2面「火力燃費増 再々値上げの恐怖」「『うちは終わる』関電悲壮感」連載「原子力再考 仮処分の衝撃」(上)
10面(経済面)「原発訴訟への波及懸念」「東電・九電、経営に打撃も」
第2社会面「『司法の暴走』町に痛手」「町長『私の責任で判断』」/「『日本から原発なくす内容』」「申し立て側 規制委に基準変更要求へ」/「取り消しまで再稼働できず」/決定要旨
第2社会面「『人格権』根拠 異質さ際立つ」
社説(「主張」)「高浜原発差し止め 『負の影響』計り知れない」
※1面トップは「前支局長 出国禁止解除、帰国」


東京新聞
1面トップ「高浜再稼働 認めず」「『緩い規制基準 合理性欠く』」「福井地裁 初の仮処分 3、4号機」「『250キロ圏住民、人格権侵害の危険』」/「決定覆るまで動かせず」/福井地裁決定骨子/「人格権」(用語解説)
1面「規制委審査 根底から問う」
2面・核心「再稼働に司法くさび」「川内原発の判断に注目」/「全国15原発24基を審査中」/「高浜原発3、4号機」(用語説明)
2面「大飯差し止めも担当」「仮処分決定の樋口裁判長」/「関電、裁判官交代求める」「結審不服 長期化狙い抵抗も」
3面「福井地裁が要約した仮処分の理由」「備え貧弱 いきなり背水の陣」「地震は人間の意図と無関係」/「再稼働さらに困難」吉岡斉・九州大教授/「再稼働審査中止 住民側が要求へ 規制などに文書」/「従来通り対応する」西川一誠・福井県知事/「あくまで司法判断」野瀬豊・福井県高浜町
6面(総合)「再稼働 政府『粛々と』」「規制委『審査に影響ない』」/「裁判所 判断に ふさわしいか」「同友会代表幹事 決定に疑問示す」
社会面トップ「『再考の決定』万感」「リスク恐れず申し立て」/「『安全保障ない』地元反応 雇用に危機感」/「『気持ち生き返った』茨城・東海村歓迎」
第2社会面「声上げ続け 結実」/「司法が代弁してくれた」/「ふるさと奪われた悲しみ今も」「福島県民も歓迎」/「各地の原発訴訟原告『希望持てる』」川内原発柏崎刈羽原発浜岡原発
社説「国民を守る司法判断だ 高浜原発『差し止め』」当てにならない地震動/疑問だらけの再稼働/不安のない未来図を


※追記 2015年4月17日6時45分
▽福井地裁決定の全文がNPJのサイトにあります。
 http://www.news-pj.net/diary/18984

▽弁護士の渡辺輝人さんが福井地裁決定を読み解いています。分かりやすく、とても参考になります。
 http://bylines.news.yahoo.co.jp/watanabeteruhito/20150416-00044872/
 東京電力福島第一原発事故の以前から、原発訴訟で最高裁は、重大な原発事故が万が一にも起こらないようにするために、規制基準とそれに基づく審査があると考えていたことが出発点だと解説しています。実際には、福島第一原発で重大事故は起きました。原発地震について、もはや想定外は許されない―。そこをどう考えるかがポイントのようです。


※追記2 2015年4月17日7時00分
 ほかの3紙の社説も一部を引用して書きとめておきます。

毎日新聞
 http://mainichi.jp/opinion/news/20150415k0000m070157000c.html

 私たちは再生可能エネルギー拡大や省エネ推進、原発稼働40年ルールの順守で、できるだけ早く原発をゼロにすべきだと主張してきた。それを前提に最小限の再稼働は容認できるとの考え方に立っている。
 それに対し、決定が立脚しているのは地震国・日本の事情をふまえると、原発の危険をゼロにするか、あらゆる再稼働を認めないことでしか住民の安全は守れないという考え方のようだ。
 確かに事故が起これば、広範な住民の生命・財産・生活が長期に脅かされる。そうした危険性を思えば、現状のなし崩し的な再稼働の動きは「安全神話」への回帰につながるという司法からの重い警告と受け止めるべきだ。

日経新聞
 http://www.nikkei.com/article/DGXKZO85697510V10C15A4EA1000/

 だが今回の地裁決定には、疑問点が多い。
 ひとつが安全性について専門的な領域に踏み込み、独自に判断した点だ。決定は地震の揺れについて関電の想定は過小で、揺れから原発を守る設備も不十分とした。
 これらは規制委の結論に真っ向から異を唱えたものだ。福島の事故を踏まえ、原発の安全対策は事故が起こりうることを前提に、何段階もの対策で被害を防ぐことに主眼を置いた。規制委は専門的な見地から約1年半かけて審査し、基準に適合していると判断した。
 今回の決定を下した裁判長は昨年5月、関電大飯原発についても「万一の事故への備えが不十分」として差し止め判決を出した。原発に絶対の安全を求め、そうでなければ運転を認めないという考え方は、現実的といえるのか。
 差し止め決定へのもうひとつの疑問は、原発の停止が経済や国民生活に及ぼす悪影響に目配りしているようにみえないことだ。
 国内の原発がすべて止まり、家庭や企業の電気料金は上がっている。原発ゼロが続けば、天然ガスなど化石燃料の輸入に頼らざるを得ず、日本のエネルギー安全保障を脅かす。だが決定はこうした点について判断しなかった。

東京新聞
 http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2015041502000122.html

 今回の決定でも、“命の物差し”は踏襲された。
 命を何より大事にしたい。平穏に日々を送りたい。考えるまでもなく、普通の人が普通に抱く、最も平凡な願いではないか。
 福島原発事故の現実を見て、多くの国民が、原発に不安を感じている。
 なのに政府は、それにこたえずに、経済という物差しを振りかざし、温暖化対策なども口実に、原発再稼働の環境づくりに腐心する。一体誰のためなのか。
 原発立地地域の人々も、何も進んで原発がほしいわけではないだろう。仕事や補助金を失って地域が疲弊するのが怖いのだ。
 福井地裁の決定は、普通の人が普通に感じる不安と願望をくみ取った、ごく普通の判断だ。だからこそ、意味がある。