「自民1強 安倍氏1強」で「異論排除」がまかり通るのか〜百田尚樹氏より危険な自民議員の言辞

 自民党の若手議員が6月25日に党本部で開いた勉強会「文化芸術懇話会」で、議員から「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働きかけてほしい」と発言したことや、講師として招かれた作家百田尚樹氏が「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と話したことが一部の新聞の26日付朝刊で報じられました。安全保障関連法案に対する理解が広がられない現状へのいら立ちが、法案を批判するマスメディアへの批判となったようです。26日に衆院の安保法制特別委でも取り上げられこともあって、27日付朝刊では、より大きな扱いになりました。
 百田氏は朝日新聞共同通信沖縄タイムスの取材に応じているほか、自身のツイッターでも事実関係や見解を述べています。マスメディアの報道のほか、そうした百田氏自身の発言も含めて、この勉強会でかわされたやり取りの何が問題とされているのかをまとめると、大まかに以下のように整理できるのではないかと思います。

  • 「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働きかけてほしい」と自民党議員から発言があったこと
  • 沖縄メディアへの批判を展開した自民党議員の質問に答える形で百田氏が「沖縄2紙はつぶさないといけない」と話したこと
  • 百田氏が米軍普天間飛行場について「飛行場の周りに行けば商売になるということで人が住みだした」「飛行場の地主は年収何千万円だ。六本木ヒルズとかに住んでいる」「基地が移転したら、えらいことになる」と話したり、米兵よりも沖縄県民による 強姦事件の発生率の方がはるかに高いと話したこと

 百田氏がツイッターで27日も発信を続けたりしていることもあってか、百田氏の発言に目が向かいがちですが、私は、この問題の本質であって、もっとも憂慮すべきであり警戒もしなければならないのは、公党であり政権党である自民党国会議員の中に「マスコミを懲らしめる」という発想があり、内輪の勉強会とはいえそのことを複数の議員が公言してはばからなかったことだと考えています。百田氏の「沖縄2紙」発言にしても、最初に議員から「沖縄のマスメディアをどうにかできないか」との発言や質問があったためでしょう。参加者の誰ひとりとして、それらの発言に異を唱えなかったと伝えられています。自分たちの考えが社会に広がらない、理解を得られないのはマスメディアのせいだ、そんなメディアには制裁が必要だ、という雰囲気がその場を覆っていたのではないかと疑います。
 そしてさらに、この勉強会の代表が自民党木原稔青年局長だったこと、安倍晋三首相側近の加藤勝信官房副長官萩生田光一・党総裁特別補佐も参加していたことをも合わせて考えると、「自民党1強」と呼ばれる政治状況での、さらに自民党内の「安倍総裁1強」の下で、安倍氏に近い層に「異論は力で排除すべし」という考えがまかり通り始めていることを疑わざるを得ません。
 百田氏の発言は、特に普天間飛行場をめぐる発言には事実誤認が少なくないように思いますし、「沖縄2紙はつぶさないといけない」も本人は「冗談」と釈明しているようですが、それで済む話ではないと思います。ベストセラー作家として社会的な影響力もあります。ただ、百田氏は民間人です。安倍首相が最終的には憲法改正を悲願としていることに鑑みて、今回の問題を憲法との関連で考えるならば、自民党国会議員たちは憲法99条で、この憲法を尊重し擁護する義務を負っている公務員です。マスコミを懲らしめるとか、沖縄のマスメディアをどうにかしなければいけないなどとする発想は、憲法21条の「表現の自由」をないがしろにするものであって、それだけでも明確に憲法99条に違反するのではないかと思います。そうした議員が巨大与党内で跋扈し始めていることは深刻に受け止めなければならない状況ですし、マスメディアの今後の報道も、そうした観点を踏まえるべきだと考えています。


 実はこの勉強会が開かれた25日は、自民党ではリベラル系議員による別の勉強会「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」が予定されていたものの、中止になっていました。朝日新聞などが26日付朝刊で伝えています。「文化芸術懇話会」開催とは表裏の関係にある出来事のように思えます。
※「自民、小林よしのり氏招く勉強会中止 党内の異論封じか」朝日新聞デジタル=2015年6月26日
 http://www.asahi.com/articles/ASH6T4RNFH6TUTFK00B.html

 安全保障関連法案をめぐり、自民党執行部が党内の異論封じへ引き締めを図っている。25日に予定されていたリベラル系議員の勉強会に「時期が悪い」と注文をつけ、結局、中止に。OB議員の批判にも神経をとがらせる。法案への国民の理解が広がらず、憲法学者から「違憲」と指摘された焦りからか、身内の動向にまで敏感になっている。
 中止に追い込まれたのは、党内ハト派とされる「宏池会」(岸田派)の武井俊輔、無派閥の石崎徹両衆院議員らが立ち上げた「過去を学び『分厚い保守政治』を目指す若手議員の会」だ。この日、漫画家の小林よしのり氏を招いて5回目の会合を開く予定だったが、2日前に急きょ中止が発表された。
 小林氏は、自衛隊を軍隊と位置づけるべきだとの立場から、改憲を主張する保守派の論客だ。憲法の解釈を変更して集団的自衛権を使えるようにした安倍晋三首相に批判的な立場だ。


 百田氏や自民党議員の発言は26日以降にニュースとして扱いが大きくなりましたが、東京発行の新聞各紙の初報の扱いはまちまちでした。「広告料収入をなくせばいい」との議員発言、「沖縄2紙はつぶさないといけない」との百田氏発言は扱いが分かれていました。普天間飛行場などの百田氏の認識については、どこも報じていません(沖縄タイムスは独自記事で報じていました)。以下に、26日付朝刊の東京発行各紙の初報がどんなだったかを、備忘を兼ねて書きとめておきます。読売や日経は、安倍首相を支持する若手議員の動きとしてのみ伝えており、産経も基本的にはそうしたトーンで、勉強会に参加した37人の名簿も付けています。

【6月26日付朝刊】
朝日新聞:4面(政治面)「広告料」議員発言のみ。百田氏「沖縄2紙」発言なし
毎日新聞:第2社会面、共同通信記事※「広告料」議員発言と百田氏「沖縄2紙」発言
▼読売新聞:4面(政治面)勉強会開催のみ、発言内容なし
日経新聞:4面(政治面)勉強会開催のみ、発言内容なし
産経新聞:5面(総合面)百田氏「沖縄2紙」発言のみ。「広告料」議員発言なし。参加議員リスト
東京新聞:2面(総合面)共同通信記事※「広告料」議員発言と百田氏「沖縄2紙」発言


 毎日新聞東京新聞が掲載した共同通信の配信記事は以下の通りです。全国の地方紙にも掲載されたのではないかと思います。
※「安保法案で報道批判続出 自民改憲派の勉強会」
 http://www.47news.jp/CN/201506/CN2015062501001696.html

 安倍晋三首相に近い自民党の若手議員約40人が25日、憲法改正を推進する勉強会「文化芸術懇話会」の初会合を党本部で開いた。安全保障関連法案に対する国民の理解が広がらない現状を踏まえ、報道機関を批判する意見が噴出した。講師として招いた作家の百田尚樹氏に助言を求める場面も目立った。
 出席者によると、百田氏は集団的自衛権の行使容認に賛成の立場を表明した上で、政府の対応について「国民に対するアピールが下手だ。気持ちにいかに訴えるかが大事だ」と指摘した。
 出席議員からは、安保法案を批判する報道に関し「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」との声が上がった。
 沖縄県の地元紙が政府に批判的だとの意見が出たのに対し、百田氏は「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と主張した。
 懇話会は木原稔青年局長が代表で、首相側近の加藤勝信官房副長官萩生田光一・党総裁特別補佐も参加した。


 以下は27日付朝刊の各紙の主な記事と見出しの記録です。東京本社発行の最終版です。
 一見して、朝日、毎日、東京と読売、日経、産経の扱いの違いが分かります。

【6月27日付朝刊】
朝日新聞
1面トップ「自民勉強会発言 与野党から批判」「百田氏『沖縄2紙つぶせ』」「議員『マスコミ懲らしめる』」
1面・視点「見逃せない異論封じ」
2面・時時刻刻「沖縄・報道の自由 威圧」「『広告なくなるのが一番』『沖縄のゆがんだ世論』」/「首相陳謝せず『私的な会』」
2面「沖縄2紙『言論弾圧の発想そのもの』」※沖縄タイムス・武富和彦、琉球新報・潮平芳和の両編集局長の『百田氏発言をめぐる共同抗議声明』全文/「百田氏『冗談のつもり』」※取材に対する百田尚樹氏のコメント/「『つぶせ』権力のおごり」砂川浩慶・立教大准教授の話
第2社会面「普天間地主『事実と違う』」「百田氏発言『沖縄保守も反発』」/「新聞・民放労連 抗議声明を発表」
社説2本「異常な『言論封じ』 自民の傲慢は度し難い」「最悪の国会にするのか」


毎日新聞
1面トップ「首相、弁明に終始」「安保特委『報道の自由尊重』」「自民勉強会問題」/「沖縄2紙が抗議声明」
3面・クローズアップ「安保国会 新たな火種」「与党、火消しに躍起」/「野党 首相追及で足並み」
5面(総合面)自民勉強会関連の質疑詳報
社会面トップ「『沖縄をばかにしている』」「普天間から怒り」「『背景理解していない』」/「『冗談として言った』」※百田氏のツイート
社会面「『まるで大政翼賛会』経済界」/「報道の自由侵害 新聞労連」「『不当な圧力』 民放労連」/「言論封殺の意図」前泊博盛・沖縄国際大教授/「全体主義の発想」砂川浩慶・立教大准教授/沖縄の2新聞に批判的な自民党/「百田氏発言をめぐる共同抗議声明」沖縄タイムス・武富和彦、琉球新報・潮平芳和の両編集局長※全文掲載
社説「自民党勉強会 言論統制の危険な風潮」


▼読売新聞
4面(政治面)「報道規制発現 批判相次ぐ」「『おごりの結果』『見過ごせない』」「自民若手勉強会に野党」/「安保審議で追及 『場違い』指摘も」/音好弘・上智大教授の話/沖縄2紙が抗議声明(全文なし)
※1面の国会審議記事「憲法解釈『今回が限界』」にも10行言及あり
社説「自民若手勉強会 看過できない『報道規制』発現」


日経新聞
4面(政治面)「自民勉強会 与野党が批判」「『マスコミ 広告で圧力を』『沖縄2紙つぶさないと』」「首相『事実なら大変遺憾』」「政権運営の火種に」/「沖縄の地元2紙 共同で抗議声明」(全文なし)/「自民青年局長 木原氏辞任も 勉強会の代表」/「『冗談で言った』百田氏が説明」


産経新聞
5面(総合面)「首相、改めて成立決意もまた難題」「報道批判…火消しに奔走 与党 失言にピリピリ」/「『言論の自由への挑戦だ』 野党 首相の責任追及」/「百田発言に沖縄2紙が共同抗議声明」


東京新聞
1面トップ「『報道圧力』安保審議に波及」「政府・与党 釈明に追われ」
1面・議員らの発言要旨「マスコミ懲らしめるには広告収入なくせばいい」「沖縄のメディアは左翼勢力に乗っ取られている」/「沖縄の2新聞社 連名で抗議声明」※全文は26面(第2社会面)に
2面「安保法案に逆風 焦る自民」「野党反発『言論封殺の動き』『議員衰退』」/「まじめに受けず 経団連関係者」/「中立名目 強まる『圧力』」「衆院選前後から『要請』『聴取』」
6面・衆院特別委の質疑の詳報
社会面トップ「『民主主義意識に欠ける』」「脅し。メディア萎縮狙う」「識者、自民勉強会を批判」/「百田氏『冗談だった。2紙ほとんど読んでいない』」※共同通信の電話取材
第2社会面「『言論弾圧の発想そのもの』」「『報道の自由 否定の暴論』」「沖縄2紙 百田氏に反発」「百田氏『商売目的で普天間居住』」/2紙編集局長による共同抗議声明全文
社説「自民の報道批判 民主主義への挑戦だ」


 沖縄タイムス琉球新報の共同抗議声明は以下の通りです。
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244851-storytopic-1.html

 百田尚樹氏の「沖縄の2つの新聞はつぶさないといけない」という発言は、政権の意に沿わない報道は許さないという”言論弾圧”の発想そのものであり、民主主義の根幹である表現の自由報道の自由を否定する暴論にほかならない。 
 百田氏の発言は自由だが、政権与党である自民党国会議員が党本部で開いた会合の席上であり、むしろ出席した議員側が沖縄の地元紙への批判を展開し、百田氏の発言を引き出している。その経緯も含め、看過できるものではない。
 さらに「(米軍普天間飛行場は)もともと田んぼの中にあった。基地の周りに行けば商売になるということで人が住みだした」とも述べた。戦前の宜野湾村役場は現在の滑走路近くにあり、琉球王国以来、地域の中心地だった。沖縄の基地問題をめぐる最たる誤解が自民党内で振りまかれたことは重大だ。その訂正も求めたい。
 戦後、沖縄の新聞は戦争に加担した新聞人の反省から出発した。戦争につながるような報道は二度としないという考えが、報道姿勢のベースにある。
 政府に批判的な報道は、権力監視の役割を担うメディアにとって当然であり、批判的な報道ができる社会こそが健全だと考える。にもかかわらず、批判的だからつぶすべきだ―という短絡的な発想は極めて危険であり、沖縄の2つの新聞に限らず、いずれ全国のマスコミに向けられる恐れのある危険きわまりないものだと思う。沖縄タイムス琉球新報は、今後も言論の自由表現の自由を弾圧するかのような動きには断固として反対する。
 琉球新報編集局長・潮平芳和
 沖縄タイムス編集局長・武富和彦

 そのほか、沖縄2紙は普天間飛行場や沖縄をめぐる百田氏の発言の当否を検証する記事をアップしています。とても参考になります。

琉球新報「検証 百田氏発言」
普天間飛行場:米軍が住民排除戦前は村役場も
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244888-storytopic-288.html
・性的暴行件数:単純比較できずに疑問
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244889-storytopic-288.html
・軍用地料:200万円未満が大半
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-244890-storytopic-288.html


沖縄タイムス
・百田氏発言「普天間飛行場、元は田んぼ」「地主年収、何千万円」を検証する
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=121681&f=i


 沖縄タイムスは百田氏にインタビューも行っています。
百田尚樹氏に一問一答 「沖縄2紙は嫌い」「つぶれてほしい」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=121683&f=i


【追記】2015年6月28日1時25分
 新聞労連の声明は、レイバーネットの以下のページで読めます。
 「新聞労連が声明 : 百田尚樹氏と自民党国会議員の発言に抗議」
 http://www.labornetjp.org/news/2015/0626sinbun


【追記】2015年6月28日1時35分
 民放労連の委員長談話は以下のページで読めます。
※【民放労連委員長談話】政権党議員の暴言に強く抗議する (2015年6月26日)
 http://www.minpororen.jp/xoops/modules/news/article.php?storyid=271

 新聞労連の声明は、新聞労連のホームページにもアップされています。
http://www.shinbunroren.or.jp/oshirase/oshirase.htm