「自民1強 安倍氏1強」下で「異論排除」は変わらないのではないか〜底の浅い安倍首相の陳謝

 以前の記事(「『自民1強 安倍氏1強』で『異論排除』がまかり通るのか〜百田尚樹氏より危険な自民議員の言辞」)で触れた自民党議員の勉強会での「異論排除」問題で、安倍晋三首相が7月3日、衆院特別委で陳謝しました。
※47news=共同通信「報道圧力発言、首相『私に責任』 不適切と陳謝、衆院特別委」2015年7月3日
 http://www.47news.jp/CN/201507/CN2015070301001086.html

 安倍晋三首相は3日の衆院平和安全法制特別委員会で、自民党若手議員の勉強会で続出した報道への圧力や沖縄をめぐる発言について「党本部で行われた勉強会で、最終的には私に責任がある」との認識を示した。同時に「大変遺憾で非常識な発言だ。国民の信頼を大きく損ね、看過できない」と指摘した。不適切な発言だったとして陳謝した。質問した民主党枝野幸男幹事長は「公権力を使ってメディアに圧力をかけることは、あってはならない」と批判した。
 首相は沖縄への批判的な発言に関し「県民の思いに寄り添って負担軽減や振興に力を尽くしてきた、わが党の努力を無にするかのごとき発言だ」と論評。

 作家の百田尚樹氏を講師に勉強会「文化芸術懇話会」が開かれのは6月25日。翌26日の朝刊で、議員が「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働きかけてほしい」と発言したことや、百田氏が「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない」と話したと報じられました。同日の国会で野党が取り上げ、安倍晋三首相はこの時点では謝罪を拒否。一方で、沖縄タイムス琉球新報は百田氏の発言に対する共同抗議声明を発表するなど批判は高まり、自民党は27日になって、文化芸術懇話会代表の木原稔青年局長を1年の役職停止処分とし、報道機関の広告料収入をなくせなどと発言した大西英男衆院議員ら3人を厳重注意としました。これらの措置は谷垣禎一幹事長が発表しましたが、安倍首相の謝罪はなし。30日には大西議員が「誤った報道をするマスコミに対して広告は自粛すべきだと個人的に思う」などと国会内で記者団に述べ、安全保障関連法案に批判的なマスコミ報道へ再び圧力をかけるような発言をしました(共同通信の記事)。25日の同様の発言についても「問題があったとは思えない」との認識を示しました。
 7月2日には、沖縄タイムス琉球新報両社の編集局長がそろって東京で会見し、議員らの発言を批判。与党内からも批判は出ており、ついに安倍首相も陳謝に追い込まれた、というのがこの間の経緯のあらましだと思います。一向に批判がやまないばかりか、大西議員のように自分の言動の何が問題なのかすら、自分で理解できていないような議員が重ねて報道への弾圧を口にする。安倍氏にしてみれば、今は集団的自衛権の行使を認める内容の安全保障法案を成立させることを最優先で考えるためには、この勉強会の問題は早くに沈静化させなければならない、そのためには自分が、と考えた末の陳謝だったのかもしれません。
 しかしわたしは、安倍氏は果たして今回の問題の何がどのように問題なのか、明確に自覚できているのかどうか疑わしいと感じています。
 安倍氏は陳謝した国会での答弁の中で、以下のようにも話しています。

 一方で首相は「安倍政権を厳しく非難している報道機関でも言論の自由を侵されてはならない。言論を守っていくことも私たちの義務だ」と強調。圧力が報道機関を萎縮させているとの批判を念頭に「本当に萎縮しているなら報道機関にとって恥ずかしいことだ。萎縮するのは権力におもねろうということだ。常に権力に立ち向かう姿勢こそ求められている」と述べた。

産経新聞「首相、陳謝も民主政権に皮肉? 『安倍政権はどこかの会社を排除したことない』」2015年7月3日
 http://www.sankei.com/politics/news/150703/plt1507030036-n1.html


 権力者として報道機関に対して抑制的に接しているのならともかく、現に高圧的に接していながら「言論を守っていくことも私たちの義務」「(報道機関は)常に権力に立ち向かう姿勢こそ求められている」と口にすることに安倍氏には違和感はないのでしょうか。昨年の衆院選に際して、自民党はNHKと民間放送各局へ以下のようなことを行っていたのです。

 自民党がNHKと在京民放テレビ局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を渡していたことが27日分かった。街頭インタビューの集め方など、番組の構成について細かに注意を求める内容は異例。編集権への介入に当たると懸念の声もあがっている。
 要望書は、解散前日の20日付。萩生田光一自民党筆頭副幹事長、福井照・報道局長の両衆院議員の連名。それによると、出演者の発言回数や時間▽ゲスト出演者の選定▽テーマ選び▽街頭インタビューや資料映像の使い方の4項目について「公平中立、公正」を要望する内容になっている。街頭インタビューをめぐっては今月18日、TBSの報道番組に出演した安倍晋三首相が、アベノミクスへの市民の厳しい意見が相次いだ映像が流れた後、「これ全然、声が反映されてません。おかしいじゃありませんか」と不快感を示していた。

毎日新聞「自民 テレビ局の選挙報道で細かく公平性要請」2014年11月27日
 http://senkyo.mainichi.jp/news/20141128k0000m040069000c.html


 また、沖縄に対する百田氏の発言に対し、安倍氏が「県民の思いに寄り添って負担軽減や振興に力を尽くしてきた、わが党の努力を無にするかのごとき発言だ」と話したことについても、前回のこのブログの記事で触れた通り、ことしの沖縄「慰霊の日」の安倍氏のあいさつでは、昨年はあった「沖縄の方々の気持ちに寄り添いながら」の文句が消えていました。わたしには、安倍氏は都合のいい時だけ「気持ちに寄り添って」いるようにみえます。
 わたしはこのブログの以前の記事で、今回の自民党議員らの勉強会の問題について、「『自民党1強』と呼ばれる政治状況での、さらに自民党内の『安倍総裁1強』の下で、安倍氏に近い層に『異論は力で排除すべし』という考えがまかり通り始めていることを疑わざるを得ない」と書きました。この疑いはいっそう深まってきたように感じています。結局のところ、安倍氏も政権も自民党も、安保関連法案の審議と採決に悪影響が出かねない事態になったことを憂慮しているものの、表現の自由報道の自由を脅かしている問題であるとの自覚や真摯な反省はない、そういう問題であることが理解できていないように思えます。安倍氏が陳謝するまでに1週間以上掛かったこと自体、その証左ではないかと思います。民主主義の観点から警戒が必要なのは、個々の議員の資質ではなく(資質の要因も皆無ではありません)、こうした議員を生み出しているのは「自民党1強」「安倍総裁1強」の構造的な問題ではないか、という点です。その意味からは、底の浅い陳謝です。これで「異論の排除」がなくなるとは思えません。マスメディアの側にはいっそうの覚悟が必要だと思います。
 以下に、琉球新報の7月5日付の社説の一部を引用、紹介します。
 ※琉球新報:社説「安倍首相謝罪 『異論排除』の体質改めよ」=2015年7月5日
  http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-245289-storytopic-11.html

 今回の報道圧力問題の根底には「異論は許さない。排除する」という安倍政権の本質が流れている。
 安倍政権は「公正中立」を名目に、これまで何度も政治報道に注文を付けてきた。衆院選前の昨年11月、テレビ各局に衆院選報道の「公正の確保」を求めた文書を出した。同月下旬にはテレビ朝日アベノミクス報道を批判し「公平中立な番組づくり」を要請した。
 さらにことし4月、党の調査会が報道番組でのやらせが指摘されたNHKと、コメンテーターが首相官邸を批判したテレビ朝日の幹部を党本部に呼んで事情聴取した。
 安倍首相自身、官房副長官だった2001年1月、日本軍「慰安婦」問題を取り上げたNHK番組に対し、放送前にNHK理事と面会し、「公正・中立にやってほしい」と注文を付けたこともある。
 政権側は「表現の自由憲法で保障されている」と圧力を否定するが、結果的に報道機関が萎縮し、言論の自由を脅かす恐れをはらむ。
 政権や与党議員が、報道が気に入らないから圧力をかけよう、排除しようとするのは、憲法21条が保障する「表現の自由」を踏みにじる行為だ。言論、表現、報道の自由は民主主義の根幹を成すものであり、マスメディアが権力を監視、検証して批判することは当然の責務だ。
 これらのことを十分理解し、異論排除の体質、謙虚さを欠いた政権姿勢を改めない限り、真の謝罪とはいえない。


【写真説明】自宅で購読している琉球新報のここ1週間ほどの紙面。連日、この問題を大きく報じました


 沖縄タイムス琉球新報は6月26日に共同抗議声明を発表したのに続き、7月2日には武富和彦・沖縄タイムス社編集局長と潮平芳和・琉球新報社編集局長がそろって東京の日本外国特派員協会と日本記者クラブで会見しました。
 ※沖縄タイムス「沖縄ライバル2紙が異例の共同会見 報道圧力発言を批判」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=122555
  ※琉球新報「『言論弾圧、極めて危険』 県内2紙編集局長、東京で会見」
 http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-245194-storytopic-3.html
  ※毎日新聞が自社サイトに詳報をアップしています。読みごたえがあります。
 報道圧力発言:「問題の本質は『事実に基づかない発言』だ」 沖縄2紙編集局長の会見詳報 
 http://mainichi.jp/feature/news/20150702mog00m040022000c.html


 この間、本土マスメディアの側でも「表現の自由」「報道の自由」をめぐって危機意識が高まり、これまでにない動きが出てきました。いくつか書きとめておきます。

 ▼山形新聞は6月28日付の朝刊1面に「言論封殺の暴挙許すな」との見出しで寒河江浩二主筆・社長名の緊急声明を掲載しました。ネット上でも読めます。
 ※「言論封殺の暴挙許すな 主筆・社長 寒河江浩二」
 http://yamagata-np.jp/achive_kiji/kj_2015063000706.php
 結びの部分を引用します。

 大政翼賛に走って、戦後大きな反省を余儀なくされた多くの新聞社がたどった道は決して無駄ではなかった。いつか来た道を、断じて再び歩んではならないことを、われわれに強烈に訴えてくるからである。国体が変わろうとしているのではなく、だれかが変えようとしている時は、眉につばして、よほど慎重に構えて事を運ばなければならない。その意味で、言論封殺の暴挙は決して許してはいけないのである。

 
 ▼大分合同新聞は7月1日付の朝刊1面に「沖縄の痛みとともに 言論の自由を守れ」との清田透編集局長の論評記事を掲載し、2日付朝刊に2ページの特集記事を掲載しました。特集記事はネット上でPDFファイルでも公開しています。
 ※「沖縄の痛みとともに 言論の自由を守れ」
 http://www.oita-press.co.jp/1010000000/2015/07/01/085855642

 ▼上記の大分合同新聞の特集記事にも掲載されていますが、共同通信は6月28日、沖縄タイムス社の石川達也・編集局次長と琉球新報社の松元剛・編集局次長の寄稿を配信しました。29日以降、全国の地方紙を中心に掲載されています。

 ▼安倍首相と政権に近い産経新聞も、6月30日付の社説(「主張」)で批判的に取り上げました。
 ※「自民勉強会発言 与党議員の自覚に欠ける」
 http://www.sankei.com/column/news/150630/clm1506300003-n1.html
 以下のくだりは、「自民1強」「安倍氏1強」の中で自民党が変質してきていることの、産経新聞なりの表現ではないかと感じました。

 問題発言があった議員らは、安倍首相の応援団を自任する当選2回の衆院議員だった。自民党小選挙区制の定着などで派閥が弱体化したこともあり、若手議員の教育を怠ってはいないか。
 「ハト派」議員の会合やテレビ出演の自粛が伝えられる通り党幹部の要請であるなら、自党議員を信用していない証左であろう。