安倍首相の本意は「謝罪の区切り」ではないか〜戦後70年談話の在京紙報道

 日本の敗戦から70年の8月15日です。
 東京発行の新聞各紙朝刊の1面は、前日14日に安倍晋三首相が発表した首相談話を大きく扱っています。
 とりあえず備忘を兼ねて、各紙の1面の主な記事の見出しを書き出しておきます(いずれも東京本社発行最終版)。

朝日新聞
「『侵略』『おわび』言及」「引用・間接表現目立つ」「戦後70年安倍談話 閣議決定
「政治は歴史を変えられない」大野博人・論説主幹
毎日新聞
「おわび 歴代の表現飲用引用」「侵略・植民地支配に言及」「戦後70年 安倍首相が談話」
「きょう終戦の日」「自戒を胸に報じる」伊藤芳明主筆
▼読売新聞
「首相『反省とおわび』継承」「『侵略』『植民地』も言及」「戦後70年談話発表」「日本との和解『感謝』」
「謝罪の歴史 区切りを」田中隆之・政治部長
日経新聞
「首相『反省・おわび』言及」「内閣の立場『揺るぎない』」「謝罪に区切り にじます」「戦後70年談話決定」
「過去を変えるのは未来だ」芹川洋一・論説委員
産経新聞
「『謝罪』次世代に背負わせぬ」「大戦へ深い悔悟の念」「『侵略、植民地 永遠に訣別』」「70年談話 発表」
「歴史 日本の視点示す」櫻井よしこ氏コメント
「『私たちで終止符』」「首相 肉筆に込めた思い」歴史戦 第12部 戦後70年談話
東京新聞
「『反省・おわび』継承」「『日本の侵略』明示せず」「安倍首相70年談話」
「歴史直視 終わりなし」金井辰樹・政治部長

 産経新聞が主見出しに取ったのは、談話の「日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」との部分です。産経は本記のほか、企画「歴史戦」でもこの部分を前面に押し出しています。安倍氏に近く、社論として歴史観もほぼ共有している産経新聞のこの紙面が、今回の談話の一つの特徴を端的に示しているように思えます。つまり、安倍氏は「侵略」「おわび」「謝罪」などの用語を用いながらも、この談話でもっとも強調しているのは、近隣国への謝罪はこれでひとまず終わりにしたい、ということではないか、という点です。それこそが安倍氏の本意のように思えます。この談話が閣議決定を経ていることを考えると、外交上の意味も小さくないだろうことは容易に察しがつきます。
 この部分について、読売も政治部長の論評で「謝罪の歴史 区切りを」と見出しにとって同調。対して東京は政治部長の論評見出しで「歴史直視 終わりなし」と1本クギを刺した形です。日経は本記の脇見出しに「謝罪に区切り にじます」を取りました。朝日、毎日は1面にこの部分を意識した見出しが見当たりません。
 談話の全文は首相官邸のホームページにアップされています。少し長くなりますが「謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません」の文言がどういう文脈で書かれているか、前後も合わせて引用します。

 ▼首相官邸内閣総理大臣談話」=2015年8月14日
 http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/discource/20150814danwa.html

 我が国は、先の大戦における行いについて、繰り返し、痛切な反省と心からのお詫びの気持ちを表明してきました。その思いを実際の行動で示すため、インドネシア、フィリピンはじめ東南アジアの国々、台湾、韓国、中国など、隣人であるアジアの人々が歩んできた苦難の歴史を胸に刻み、戦後一貫して、その平和と繁栄のために力を尽くしてきました。
 こうした歴代内閣の立場は、今後も、揺るぎないものであります。
 ただ、私たちがいかなる努力を尽くそうとも、家族を失った方々の悲しみ、戦禍によって塗炭の苦しみを味わった人々の辛い記憶は、これからも、決して癒えることはないでしょう。
 ですから、私たちは、心に留めなければなりません。
 戦後、六百万人を超える引揚者が、アジア太平洋の各地から無事帰還でき、日本再建の原動力となった事実を。中国に置き去りにされた三千人近い日本人の子どもたちが、無事成長し、再び祖国の土を踏むことができた事実を。米国や英国、オランダ、豪州などの元捕虜の皆さんが、長年にわたり、日本を訪れ、互いの戦死者のために慰霊を続けてくれている事実を。
 戦争の苦痛を嘗め尽くした中国人の皆さんや、日本軍によって耐え難い苦痛を受けた元捕虜の皆さんが、それほど寛容であるためには、どれほどの心の葛藤があり、いかほどの努力が必要であったか。
 そのことに、私たちは、思いを致さなければなりません。
 寛容の心によって、日本は、戦後、国際社会に復帰することができました。戦後七十年のこの機にあたり、我が国は、和解のために力を尽くしてくださった、すべての国々、すべての方々に、心からの感謝の気持ちを表したいと思います。
 日本では、戦後生まれの世代が、今や、人口の八割を超えています。あの戦争には何ら関わりのない、私たちの子や孫、そしてその先の世代の子どもたちに、謝罪を続ける宿命を背負わせてはなりません。しかし、それでもなお、私たち日本人は、世代を超えて、過去の歴史に真正面から向き合わなければなりません。謙虚な気持ちで、過去を受け継ぎ、未来へと引き渡す責任があります。
 私たちの親、そのまた親の世代が、戦後の焼け野原、貧しさのどん底の中で、命をつなぐことができた。そして、現在の私たちの世代、さらに次の世代へと、未来をつないでいくことができる。それは、先人たちのたゆまぬ努力と共に、敵として熾烈に戦った、米国、豪州、欧州諸国をはじめ、本当にたくさんの国々から、恩讐を越えて、善意と支援の手が差しのべられたおかげであります。
 そのことを、私たちは、未来へと語り継いでいかなければならない。歴史の教訓を深く胸に刻み、より良い未来を切り拓いていく、アジア、そして世界の平和と繁栄に力を尽くす。その大きな責任があります。

※以下は、備忘を兼ねた参考です
▼小泉元首相の戦後60年談話=2005年8月15日
 http://www.kantei.go.jp/jp/koizumispeech/2005/08/15danwa.html

▼村山元首相の戦後50年談話=1995年8月15日
 http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/danwa/07/dmu_0815.html