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「辺野古承認取り消し」在京紙報道の記録と、翁長知事「日本の政治の堕落」の指摘(備忘)

 沖縄県の米軍普天間飛行場の移設計画をめぐり、沖縄県と日本政府・安倍晋三政権の対立が決定的になりました。沖縄県の翁長雄志知事は10月13日、移設先として日米両政府が合意している名護市辺野古の埋め立て承認を取り消しました。以下は琉球新報の記事の引用です。
琉球新報「知事、辺野古承認取り消し」=2015年10月14日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-153620.html

 翁長雄志知事は13日、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の埋め立て承認を取り消した。取り消しで辺野古新基地建設作業の法的根拠が失われ、防衛局は同日から作業を停止した。一方、中谷元・防衛相は同日の記者会見で「誠に残念。承認に瑕疵(かし)はない」と述べた上で、承認取り消しの無効化を求める審査請求と、その裁決まで取り消しの効果を止める「執行停止」を国土交通相に「速やかに行う」と表明した。防衛局は14日に申請する段取り。国交相は1〜2週間で取り消しを執行停止する可能性がある。その場合、国は工事を再開できるため、県と政府は最終的に取り消しの有効性をめぐり法廷闘争に入る可能性が高く、移設問題は重大な局面を迎えた。
 13日午前10時に、県庁で記者会見した翁長知事は2013年12月に仲井真弘多前知事が行った埋め立て承認について「第三者委員会の検証結果と防衛局への聴聞内容を十分検討した結果、取り消しが相当だと判断した」と表明した。その上で「今後も新基地を造らせないという公約の実現に全力で取り組む」と述べた。
 また「戦後70年の在り方や沖縄の過重な基地負担が議論されることを望む。法律的にも大変大きな権力を相手にしている。日本の地方自治、民主主義の観点でも、国民全体で考えてほしい」と述べた。

 このニュースを東京発行の新聞各紙は13日夕刊で大きく扱いました。主見出しは各紙とも「辺野古承認取り消し」でそろいました。写真の通り、朝日新聞毎日新聞東京新聞は1面トップ、読売新聞、日経新聞は1面左肩です。東京では夕刊を発行していない産経新聞は14日付朝刊で1面トップ。一番大きな見出しは「辺野古移設 政府に自信」です。朝刊では朝日新聞、読売新聞、東京新聞が続報を1面に掲載したほか、各紙とも総合面で、背景事情の解説や今後の展望を大きく取り上げています。
 【写真説明】東京発行各紙の10月13日夕刊1面

 【写真説明】東京発行各紙の10月14日付朝刊1面


 各紙とも14日付朝刊の社説でも取り上げています。見出しを書きとめておきます。
朝日新聞辺野古移設 沖縄の苦悩に向き合え」
毎日新聞辺野古取り消し やむを得ない知事判断」
▼読売新聞「辺野古取り消し 翁長氏は政府との対立煽るな」
日経新聞「沖縄の基地のあり方にもっと目を向けよ」
産経新聞(「主張」)「承認取り消し 知事の職責放棄するのか」
東京新聞辺野古取り消し 県内移設は白紙に戻せ」


 翁長知事の「戦後70年の在り方や沖縄の過重な基地負担が議論されることを望む。法律的にも大変大きな権力を相手にしている。日本の地方自治、民主主義の観点でも、国民全体で考えてほしい」との言葉を、沖縄県外の本土メディアで働く一人として、正面から受け止め、展開を注視していこうと思います。今後の報道に問われるのは、沖縄をめぐる歴史への理解、歴史観だろうと思います。


 沖縄タイムスのサイトに、10月13日の翁長知事の記者会見の全文がアップされています。
 ※「『承認取り消しが相当と判断した』 翁長知事の記者会見全文」=2015年10月13日
  http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=136934
 以前にもこのブログで書きましたが、翁長氏の言葉からは、歴史を踏まえた確固とした倫理観と政治の哲学を感じます。今回もそうです。ここではその一部ですが、沖縄タイムスの記事の最後の方に出てくる以下のやり取りを引用、紹介しておきます。

−知事が移設を阻止するための手段を講じると、必ず東京では移設が進まなくなる、固定化だ、翁長知事に責任がある、と喧伝(けんでん)される。責任論や責任の所在についてどう考えるか。

 「私はまさしくそれが日本の政治の堕落だと言っているんですよね。私に外交権があるわけじゃあるまいしね、沖縄県知事は当選したら内政といいますか、教育や福祉や環境は捨てておいて年中上京して、他の市町村や知事に、頼むから受けてちょうだいよ、沖縄は大変なんだよと言って歩くのが沖縄県知事の責務になるのかどうかですね」

 「こういったことを踏まえて考えますと、日本政府からこういう話をするのは、まさしく日本の政治の堕落である上になおかつ自分の意思で日本の政治を動かしているかどうかさえ日本政府には試される。日米地位協定日米安保も含めて、基地の提供について日本政府が自主的に物事を判断しながらアジアのリーダーになろうとしているのか、世界のリーダーになろうとしているのか。あるいは日米安保というものが、自由と平等と人権と民主主義というものを共通してもっている国々が連帯するような、そういったものをつくり上げようとしているわけです。自国の県民にさえそういったことについてできないような政府が、私は日米安保、もっと品格のあるものにしてもらいたいと思っているので、大変残念なことであります」

 「私も日本国民の一人として、その意味からすると品格のある民主主義国家として成熟した日本になって初めて、アジア、世界に日本が飛び出て行ける、沖縄の役割も日本とアジアの懸け橋としてアジアの中心にある沖縄の特性を生かして、平和の緩衝地帯というようなことも数十年後には考えながら沖縄の未来を語りたいにもかかわらず、ただの領土として、基地の要塞(ようさい)としてしか見ないようなものの中でアジアの展開があるのかどうか、日本の展開があるのかどうかということは今のような沖縄がこれを邪魔するからできないんだというような姑息(こそく)な、あれだけの権力を持って姑息な言葉を流すというのは、やはり日本の政治の堕落だと言わざるを得ないと思っています」