「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は公権力こそが守らなければならない〜BPO「NHK出家詐欺報道への意見」の核心 ※追記 政府、自民党が反論

 NHKが2014年5月の「クローズアップ現代」と同年4月の「かんさい熱視線」で放送した「出家詐欺」報道に対して、NHKと民放各局が設置した第三者機関の放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会が11月6日、「重大な放送倫理違反があった」との判断をまとめ公表しました。同時に、総務省がNHKに対し、放送法を根拠に番組内容を理由とした文書での厳重注意を行ったことや、自民党がNHKから事情聴取したことに対して、放送法が保障する「自律」を侵害する行為として批判しました。

※47news=共同通信BPO、放送への圧力と異例批判 自民・総務省に」2015年11月6日
 http://www.47news.jp/CN/201511/CN2015110601001860.html

NHKの報道番組「クローズアップ現代」でやらせがあったとされる問題で、放送倫理・番組向上機構BPO)の放送倫理検証委員会は6日、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を公表、その中でNHKを厳重注意した総務省と事情聴取した自民党を「極めて遺憾」「圧力そのもの」などと厳しく批判した。BPOが政府・与党を批判するのは極めて異例で、放送業界でつくった第三者機関が権力の介入に強く警鐘を鳴らすかたちとなった。
意見書は、総務省がNHKに文書で厳重注意したことを「政府が個別番組の内容に介入することは許されない」と非難した。

 安倍晋三政権下では、例えば安倍首相に近い自民党の当選1、2回の衆院議員らが勉強会で「マスコミを懲らしめるには広告料収入をなくせばいい」などとマスメディア批判をしていたことに代表されるように、「自民党1強」「安倍氏1強」の状況で異論を許さない空気が強まっているように感じます。その中で、放送界が設置した第三者機関のBPO総務相自民党の介入を批判したことは、放送の「表現の自由」を守る当事者としての毅然さを感じました。新聞各紙の報じぶりも、NHKの放送倫理違反行為それ自体もさることながら、BPO総務省自民党を批判したことをも大きなニュースとして扱っているのが目立ちました。

 BPOの意見の全文は、ネットでPDFファイルでダウンロードできます。
 ※BPOトップ http://www.bpo.gr.jp/
 ※「NHK総合テレビ『クローズアップ現代』"出家詐欺"報道に関する意見」
  http://www.bpo.gr.jp/?p=8322&meta_key=2015
  PDFファイル 151106NHK総合テレビ「クローズアップ現代」出家詐欺報道に関する意見.pdf 直



 総務相自民党に対する批判は、意見書の最後の「おわりに」に記載されています。少し長くなりますが、この意見の核心と言っても過言ではないと思えるほど重要で、一般にも広く知られるべきだと感じる部分を以下に引用します。

 2015年4月28日、総務大臣はNHKに対し、『クロ現』について文書による厳重注意をした。番組内容を問題として行われた総務省の文書での厳重注意は2009年以来であり、総務大臣名では2007年以来である。NHKが調査報告書を公表した当日、わずか数時間後に出された点でも異例であった。
 総務大臣は、厳重注意の理由は「事実に基づかない報道や自らの番組基準に抵触する放送が行われ」たことであり、厳重注意の根拠は、放送法の「報道は事実をまげないですること。」(第4条第1項3号)と「放送事業者は、放送番組の種別及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。」(第5条第1項)との規定だとする。
 しかし、これらの条項は、放送事業者が自らを律するための「倫理規範」であり、総務大臣が個々の放送番組の内容に介入する根拠ではない。
 放送による表現の自由憲法第21条によって保障され、放送法は、さらに「放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。」(第1条2号)という原則を定めている。
 しばしば誤解されるところであるが、ここに言う「放送の不偏不党」「真実」や「自律」は、放送事業者や番組制作者に課せられた「義務」ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である。放送は電波を使用し、電波の公平且つ能率的な利用を確保するためには政府による調整が避けられない。そのため、電波法は政府に放送免許付与権限や監督権限を与えているが、これらの権限は、ともすれば放送の内容に対する政府の干渉のために濫用されかねない。そこで、放送法第1条2号は、その時々の政府がその政治的な立場から放送に介入することを防ぐために「放送の不偏不党」を保障し、また、時の政府などが「真実」を曲げるよう圧力をかけるのを封じるために「真実」を保障し、さらに、政府などによる放送内容への規制や干渉を排除するための「自律」を保障しているのである。これは、放送法第1条2号が、これらの手段を「保障することによつて」、「放送による表現の自由を確保すること」という目的を達成するとしていることからも明らかである。
 「放送による表現の自由を確保する」ための「自律」が放送事業者に保障されているのであるから、放送法第4条第1項各号も、政府が放送内容について干渉する根拠となる法規範ではなく、あくまで放送事業者が自律的に番組内容を編集する際のあるべき基準、すなわち「倫理規範」なのである。逆に、これらの規定が番組内容を制限する法規範だとすると、それは表現内容を理由にする法規制であり、あまりにも広汎で漠然とした規定で表現の自由を制限するものとして、憲法第21条違反のそしりを免れないことになろう。放送法第5条もまた、放送局が自律的に番組基準を定め、これを自律的に遵守すべきことを明らかにしたものなのである。
 したがって、政府がこれらの放送法の規定に依拠して個別番組の内容に介入することは許されない。とりわけ、放送事業者自らが、放送内容の誤りを発見して、自主的にその原因を調査し、再発防止策を検討して、問題を是正しようとしているにもかかわらず、その自律的な行動の過程に行政指導という手段により政府が介入することは、放送法が保障する「自律」を侵害する行為そのものとも言えよう。

 ※放送法の関係条文はこの記事の末尾に書き出しておきます。

 上記の中の「しばしば誤解されるところであるが、ここに言う『放送の不偏不党』『真実』や『自律』は、放送事業者や番組制作者に課せられた『義務』ではない。これらの原則を守るよう求められているのは、政府などの公権力である」との指摘は、憲法と公権力との関係にも似て重要だと思います。
 一方、BPOの意見に対して高市早苗総務相は反論の談話を発表しています。全文は以下の通りです。

1 昨年5月に放送されたNHK「クローズアップ現代」に係る、4月28日の行政指導については、昨年5月に放送されたNHK「クローズアップ現代」の内容が放送法に抵触すると認められたことから、放送法を所管する立場から必要な対応を行ったものであります。
2 また、放送法における番組準則に違反したか否かは、一義的には放送事業者が自ら判断するべきものですが、最終的な判断は、放送事業者からの事実関係を含めた報告を踏まえ、放送法を所管する総務大臣が行うものであります。つまり、放送法の番組準則は、単なる倫理規範ではなく、法規範性を有するものであります。
総務大臣による行政指導が拙速との指摘もなされていますが、4月9日のNHKによる調査委員会の中間報告で事実関係が概ね明らかであり、また、4月28日に最終の調査報告書が公表された後、その内容をしっかりと熟読し、一刻も早く具体的な再発防止体制を作っていただきたいという強い思いから行政指導文書を作成したものであり、拙速との指摘は当たらないと考えています。

総務省「NHKの番組に対するBPOの意見についての総務大臣談話」2015年11月6日 情報流通行政局放送政策課
 http://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01ryutsu07_02000099.html
 PDFファイル 151106NHKの番組に対するBPOの意見についての総務大臣談話.pdf 直


 「放送法における番組準則に違反したか否かは……放送法を所管する総務大臣が行うものであります。つまり、放送法の番組準則は、単なる倫理規範ではなく、法規範性を有するものであります」との見解を示していますが、上記のBPOのていねいな説明に比べれば、説得力を欠くように思います。
 放送法は第3条で「放送番組編成の自由」として「放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない」と規定しています。また第4条で「国内放送等の放送番組の編集等」として「放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下『国内放送等』という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない」と規定し、各号として「公安及び善良な風俗を害しないこと」「政治的に公平であること」「報道は事実をまげないですること」「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」を挙げていますが、少なくともこれらの条文に総務大臣の権限は出てきません。高市総務相は「放送法における番組準則に違反したか否かは放送法を所管する総務大臣が行うもの」との見解の根拠を詳しく説明するべきではないかと思います。



 このニュースを7日付の東京発行各紙朝刊も大きく扱いました。手元にある朝日新聞毎日新聞、読売新聞の3紙では、毎日が1面トップ、朝日、読売とも1面準トップでした。ただ、BPO総務省自民党を批判したことについては、毎日、朝日がリードで触れ、見出しにも取っているのに対し、読売は本記の末尾に近いところで9行触れているだけです。はっきり確認はしていませんが、産経新聞東京新聞も1面に掲載したようです。


放送法

第一章 総則
(目的)
第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

第二章 放送番組の編集等に関する通則
(放送番組編集の自由)
第三条  放送番組は、法律に定める権限に基づく場合でなければ、何人からも干渉され、又は規律されることがない。
(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
2  放送事業者は、テレビジョン放送による国内放送等の放送番組の編集に当たつては、静止し、又は移動する事物の瞬間的影像を視覚障害者に対して説明するための音声その他の音響を聴くことができる放送番組及び音声その他の音響を聴覚障害者に対して説明するための文字又は図形を見ることができる放送番組をできる限り多く設けるようにしなければならない。
(番組基準)
第五条  放送事業者は、放送番組の種別(教養番組、教育番組、報道番組、娯楽番組等の区分をいう。以下同じ。)及び放送の対象とする者に応じて放送番組の編集の基準(以下「番組基準」という。)を定め、これに従つて放送番組の編集をしなければならない。
2  放送事業者は、国内放送等について前項の規定により番組基準を定めた場合には、総務省令で定めるところにより、これを公表しなければならない。これを変更した場合も、同様とする。


【追記1】2015年11月10日8時25分
 BPOが政府、自民党を批判したことに対し、9日に菅義偉官房長官自民党谷垣禎一幹事長がそれぞれ記者会見でBPOに反論したと報じられています。
 


 

 ※「自民、BPOの圧力批判に反論 今後も放送局聴取の可能性」
  http://www.47news.jp/CN/201511/CN2015110901001347.html

 菅氏は総務大臣経験者でもあり、放送法の運用の実務には詳しいのでしょうが、会見では放送法の解釈について結論しか述べていないようです。先にも書きましたが、BPOの見解は相当に詳しい説明が記載されています。政府が「放送法の解釈を誤解している」というなら、具体的な突っ込んだ見解も聞いてみたいと感じます。


【追記2】2015年11月10日8時35分
 7日付の東京発行各紙朝刊では、産経新聞東京新聞もこのニュースが1面トップでした。ともに、政府や自民党BPOが批判したことも見出しに取っています。日経新聞は第2社会面です。横に「政府と自民党の『介入』強く非難」の別記事を並べて掲載しています。
 あらためて、各紙の本記の見出しを書きとめておきます。
 ▼朝日(1面準トップ)「自民の聴取『圧力』と批判」「BPO、NHK過剰演出『重大な倫理違反』」
 ▼毎日(1面トップ)「BPO 政府の介入批判」「NHKやらせ問題 異例の意見書」「放送倫理違反を指摘」
 ▼読売(1面準トップ)「BPO『重大な倫理違反』」「NHK園主『事実を歪曲』」
 ▼産経(1面トップ)「『NHK重大な倫理違反』」「BPO 異例の政府批判も」
 ▼東京(1面トップ)「『NHKに自民圧力』」「放送倫理機構 番組介入を批判」
 ▼日経(第2社会面)「『重大な倫理違反』」「NHK『クロ現』やらせ疑惑」