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慰安婦問題「日韓合意」の在京各紙報道の記録

 日本の岸田文雄外相と韓国の尹炳世外相が28日、ソウルで会談し、従軍慰安婦問題の解決で合意したと伝えられています。日本のマスメディアも大きく報じています。
47news=共同通信「日韓、慰安婦問題で『最終決着』 10億円財団設立、首相がおわび」
http://this.kiji.is/54098343443873794?c=39546741839462401

 【ソウル共同】日韓両政府は28日、外相会談をソウルで開催し、従軍慰安婦問題の「最終的かつ不可逆的な解決」で合意した。日本は軍の関与と政府の責任を認めるとともに、元慰安婦への支援を目的に韓国政府が設立する財団に10億円を拠出する。この後、安倍晋三首相は朴槿恵大統領と電話で会談し「心からのおわびと反省の気持ち」を伝えた。合意内容も確認した。

 東京発行の新聞各紙も29日付朝刊でおおむね(東京新聞を除いて)1面トップの扱いでした。

 各紙の1面の本記の主見出しと社説の主見出しを並べてみると、以下の通りです。
朝日新聞:本記「慰安婦問題 日韓合意」 社説「歴史を越え日韓の前進を」
毎日新聞:本記「『慰安婦』解決 日韓合意」 社説「日韓の合意を歓迎する」
読売新聞:本記「『慰安婦』日韓合意」 社説「韓国は『不可逆的解決』を守れ」
日経新聞:本記「日韓 慰安婦問題が決着」 社説「『慰安婦』決着弾みに日韓再構築を」
産経新聞:本記「『慰安婦』日韓合意」 社説「本当にこれで最終決着か」
東京新聞:本記「慰安婦解決で日韓合意」 社説「『妥結』の重さを学んだ」

 「決着」を用いたのは日経新聞だけで、ほかの5紙は「日韓合意」。日本と韓国の政府間は合意したが、本当に決着するのかどうかは別の問題というニュアンスでしょうか。もう一つ、目を引くのは毎日、読売、産経は「慰安婦」とかぎかっこ付きの表記にしていることです。日韓双方の主張に大きな隔たりがあったことを意識してのことでしょうか。ちなみに読売と産経はまったく同じでした。社説はそれぞれの新聞の評価の違いが、見出しにもはっきり表れていると感じます。
 以下に、備忘を兼ねて各紙の1面の本記の見出し、署名評論や解説記事、小見出しを含めた社説の見出しをそれぞれ書きとめておきます。各紙とも東京本社発行の最終版です。
 

朝日新聞
▽本記1面トップ
慰安婦問題 日韓合意
政府の責任認定・首相おわび
韓国が財団 日本から10億円
「不可逆的解決」確認
▽署名評論・1面
 「日韓新時代 育むのは市民」箱田哲也編集委員
▽社説
 「慰安婦問題の合意 歴史を越え日韓の前進を」日本政府の責任明言/互恵の関係強化を/安保など課題山積


毎日新聞
▽本記1面トップ
 「慰安婦」解決 日韓合意
 「最終かつ不可逆的」
 日本、財団に10億円
 首相 おわびと反省
▽署名評論・3面
 「傷癒す真の解決を」岸俊光論説委員
▽社説
 「慰安婦問題 日韓の合意を歓迎する」こじれた四半世紀/後戻りさせずに


【読売新聞】
▽本記1面トップ
 「慰安婦」日韓合意
 「最終的・不可逆的に解決」
 日本政府10億円支援
 韓国 少女像撤去へ努力
▽署名評論(解説)・1面
 「世論へ理解広げて」国際部・中島健太郎記者
▽社説
 「慰安婦問題合意 韓国は『不可逆的解決』を守れ 少女像の撤去も重要な試金石だ」新基金は軌道に乗るか/支援団体の説得がカギ/「嫌韓感情」どう収める


日経新聞
▽本記1面トップ
 日韓 慰安婦問題が決着
 「最終的かつ不可逆的に解決」
 外相会談 新財団に10億円
 安倍首相「おわびと反省」
▽署名評論・1面
「未来志向の歯車回せ」内山清行政治部長
▽社説
 「『慰安婦』決着弾みに日韓再構築を」韓国は世論対策万全に/安保協力は待ったなし


産経新聞
▽本記1面トップ
 「慰安婦」日韓合意
 最終的・不可逆的に解決 確認
 日本、韓国新財団へ10億円
 外相会談
▽署名評論(解説)・1面
 「『像撤去』努力目標、決着は尚早」ソウル・田北真樹子記者
▽社説(「主張」)
 「慰安婦問題で合意 本当にこれで最終決着か 韓国側の約束履行を注視する」/「軍関与」に根拠はない/大使館前の像を撤去せよ


東京新聞
▽本記1面
 慰安婦解決で日韓合意
 「日本政府は責任痛感」
 10億円 韓国財団に拠出
▽解説・1面
 「首相『おわびと反省』韓国に配慮」関口克己記者
▽社説
 「従軍慰安婦問題で合意 『妥結』の重さを学んだ」米国が背中押した/戦後70年談話が転機/火種は残っている
※1面トップは「チェルノブイリは今」


※追記 2015年12月29日20時20分
 この日韓合意は、政府間の外交の上では大きな出来事であるのは間違いがないと思いますが、個人的には「これを解決、決着としていいのだろうか」と感じます。マスメディアの報道の中では、一審で日本政府に元慰安婦への賠償を命じた「関釜裁判」の原告側代理人、 山本晴太弁護士が「外交の駆け引きばかりで、生身の被害者の苦しみを置き去りにした印象だ。交渉担当者は被害者に会い、話を聞くべきだった。これで終わりにするなら、被害者や韓国世論が納得しないだろう」と、共同通信の取材に語っているのが強く印象に残っています(新聞用の配信記事なので、ネットでは読めません)。また、アジア女性基金で専務理事を務めた和田春樹・東大名誉教授が「日本政府の責任を認めたのは一歩前進だが、謝罪をどう被害者に伝えるのかがはっきりしない。長年争ってきた問題を終わらせるには気持ちを尽くすべきだが、岸田文雄外相は頭を下げなかった。被害者は気分が良くないだろうし、韓国の支援団体も反発する。被害者を支援する財団の中身も不透明だ。被害者の理解を得られなかったアジア女性基金の繰り返しにならないか不安だ」と語っている(これも共同通信の新聞用記事なのでネットでは読めません)のも印象に残りました。