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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

米大統領 謝罪せず、首相は地位協定改定求めず―それ自体「第2の事件」ではないか

 沖縄県うるま市の女性遺棄事件で、沖縄県議会が26日、抗議決議を可決しました。沖縄の米海兵隊の撤退を求めており、沖縄県議会の決議として初めてのことです。事件に対する怒り、さらには、もはやどんな再発防止策を示そうとも、海兵隊が沖縄からいなくなることによってしか、再発防止は期待することができないことを訴えているのだと感じます。G7サミット前夜の25日夜に行われたオバマ米大統領安倍晋三首相の会談では、オバマ大統領からは「遺憾」の意の表明があったものの謝罪はなく、沖縄県の翁長雄志知事が求めた日米地位協定の改定も話題に上らなかったと報じられています。さらにその場では、安倍首相が米軍普天間飛行場問題について、「辺野古移設が唯一の解決策」と述べ、オバマ大統領と認識を共有していたと伝えられています。
 この1週間ほど、事件に関連した沖縄タイムス琉球新報の社説を書きとめてきました。そして今、思うのは、4月から行方不明になっていた女性が遺体で見つかり、逮捕された元海兵隊員の米軍属の男が、性的暴行を加えて女性を殺害したことを供述したことを第1の事件とすれば、米大統領が来日していながらそのことを謝罪もせず、日本の首相も抗議したと言いながら、沖縄の人々が求めることは何一つ要求すらしない、そうした日米両政府の対応は、それ自体が「第2の事件」と呼んでもいいのではないか、ということです。

琉球新報海兵隊撤退を初要求  米軍属事件に沖縄県議会が抗議決議」=2016年5月27日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-286777.html

 県議会(喜納昌春議長)は26日、臨時会を開き、県政与党と中立会派が共同で提出した米軍属女性遺棄事件に対する抗議決議と意見書を全会一致で可決した。抗議決議と意見書は遺族への謝罪と完全な補償などに加え、米軍普天間飛行場名護市辺野古移設断念のほか、在沖米海兵隊の撤退も求めた。在沖米海兵隊の撤退を求める県議会決議は初めて。自民会派のほか、嶺井光(無所属)、呉屋宏(同)両氏は退席した。
 可決した抗議決議と意見書は「元海兵隊員の米軍属によるこのような蛮行は、県民の生命をないがしろにするもので断じて許されない」と批判した。
 その上で(1)被害者への謝罪と完全な補償(2)日米首脳による沖縄の基地問題と事件・事故の対策協議(3)米軍普天間飛行場の県内移設断念(4)在沖米海兵隊の撤退と基地の大幅な整理縮小(5)日米地位協定の抜本改定(6)米軍人・軍属などの凶悪事件発生時に、民間地域への立ち入りと米軍車両の進入、訓練を一定期間禁止する措置―などを日米両政府に求めている。
 意見書は首相、外相、防衛相、沖縄担当相宛て。抗議決議は駐日米大使、在日米軍司令官、四軍調整官、在沖米総領事宛て。

 以下は5月27日付の沖縄タイムス琉球新報の社説です。
【5月27日】
沖縄タイムス「[日米共同会見の裏で]『辺野古』確認するとは」
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=170170

 25日夜行われた日米首脳会談で、安倍晋三首相が米軍普天間飛行場問題について、「辺野古移設が唯一の解決策」と述べ、オバマ大統領と認識を共有していたことが分かった。
 会談後の共同記者会見の模様はテレビ放映されたが、辺野古の話はまったく出ていなかった。元海兵隊員で米軍属の男による女性遺体遺棄事件に対する抗議の場で、多くの県民が反対する辺野古への新基地建設を改めて確認する−。県民を愚弄(ぐろう)しているというほかない。
 安倍首相は、翁長雄志知事が求めたオバマ氏との面談の要望を取り合わなかったばかりか、沖縄が求める日米地位協定の改定を提起することさえしなかった。その裏で「辺野古移設が唯一の解決策」と確認していたとは、一国の政治の最高責任者としてあるまじき行為である。
 翁長知事が「20歳の夢あふれる娘さんがああいう状況になった中で、辺野古が唯一などと日本のトップがアメリカのトップに話すこと自体が、県民に寄り添うことに何ら関心がないことが透けて見える」と厳しく批判したのは当然だ。
 県議会は26日、事件への抗議決議と意見書を可決した。在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理・縮小を求める内容だ。与党・中立会派が提出し、野党が退席する中で全会一致で可決した。県議会決議では初めて海兵隊撤退まで踏み込んだ。その意味を重く受け止めてもらいたい。

琉球新報「県議会抗議決議 海兵隊撤退で人権を守れ」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-286769.html

 残忍な事件に対する県民の激しい怒りと苦悩を込めた決議だ。日米両政府、特に伊勢志摩サミットに出席している安倍晋三首相とオバマ米大統領は沖縄の民意を正面から受け止めるべきだ。
 県議会は米軍属女性遺棄事件に対する抗議決議と意見書を可決した。普天間飛行場の県内移設断念、在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理縮小、日米地位協定の抜本改定を求めている。
 中でも海兵隊の撤退を初めて盛り込んだことは重要だ。否決された自民の抗議決議案も海兵隊の大幅削減を盛り込んでいた。在沖米海兵隊の撤退要求は県民の総意だ。
 米軍基地から派生する重大事件・事故による人権侵害の多くは海兵隊駐留に起因している。暴力装置である軍隊と県民生活は到底相いれない。海兵隊は県民と真っ向から対立する存在だ。
 1993〜96年に駐日米大使を務めたウォルター・モンデール氏は、米側が海兵隊の沖縄撤退を打診したのに対し、逆に日本政府が引き留めたという事実を本紙インタビューで明らかにしている。
 そもそも海兵隊はアジア太平洋を巡回配備しており、沖縄を守るために駐留しているのではない。森本敏元防衛相は「海兵隊が沖縄にいなければ抑止にならないというのは軍事的には間違い」と明言した。在沖米海兵隊の「抑止力」の虚構性は明らかだ。
 90年代に海兵隊撤退が実現していれば、今回の事件は起きなかったのではないか。米側の打診を断った日本政府の責任は極めて重い。
 海兵隊撤退は県民の人権を守るため、譲ることができない要求である。両政府は県民要求の実現に向けて直ちに協議に入るべきだ。

琉球新報「日米首脳会談 事件防ぐ意思感じられない」
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-286770.html

 元海兵隊員の米軍属による女性遺棄事件の責任の一端は、米軍の最高司令官であるオバマ大統領、基地を提供する安倍晋三首相にもある。その認識が両首脳には決定的に欠けている。
 一体何のために今回の事件を日米首脳会談で話し合ったのか。県民を失望させる結果になったことを両首脳は重く受け止めるべきだ。
 オバマ氏は「お悔やみと遺憾の意を表明する」と述べたが、謝罪はしなかった。謝罪する立場にないと考えているならば、問題である。
 ケリー米国務長官は「犠牲者の遺族や友人に深い謝罪の意を表明する」と岸田文雄外相に伝えている。国務長官が電話で謝罪すれば済む問題なのか。大統領が謝罪するほどの事件ではないと考えているのではとの疑念さえ湧く。
 事件の再発防止策でも、何ら成果はなかった。オバマ氏は再発防止のために「できることは全てやる」と述べた。「できること」は米側の恣意(しい)的な判断で決まる。これまでの経緯からして、米側が「できること」に期待はできない。
 (中略)
 事件が後を絶たない背景には日米地位協定の存在がある。「事件を起こしても守られる」との米軍人・軍属の特権意識を取り除くことが必要だ。だが、両首脳とも「運用の改善」にとどめ、県民要求を一蹴した。
 協定を抜本改正しないとあっては、凶悪事件の発生を根絶する意思を感じることはできない。全在沖米軍基地の撤去でしか、県民を守る手だてはない。そのことを首脳会談は証明した。


 26日付の沖縄タイムス琉球新報とも、米海兵隊が沖縄に着任した兵士らを対象にした研修資料を英国人ジャーナリストが情報公開制度で入手したことを報じています。27日夜の時点で、本土マスメディアの報道は見当たらないのですが、これからでも報じる価値は十分あると思います。
沖縄タイムス沖縄県民を見下す海兵隊の新人研修 『世論は感情的』『米兵はもてる』」=2016年5月26日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=169960

 在沖縄米海兵隊が新任兵士を対象に開く研修で、米兵犯罪などに対する沖縄の世論について「論理的というより感情的」「二重基準」「責任転嫁」などと教えていることが分かった。英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏が情報公開請求で発表用のスライドを入手した。米軍が事件事故の再発防止策の一つと説明してきた研修の偏った内容が明らかになり、実効性に疑問が高まりそうだ。
 スライドは2014年2月のものと、民主党政権時代(2009〜12年)とみられる時期のものの二つ。「沖縄文化認識トレーニング」と名付けられている。
 「『(本土側の)罪の意識』を沖縄は最大限に利用する」「沖縄の政治は基地問題を『てこ』として使う」などとして、沖縄蔑視をあらわにしている。
 事件事故については、「米軍の1人当たりの犯罪率は非常に低い」と教育。「メディアと地方政治は半分ほどの事実と不確かな容疑を語り、負担を強調しようとする」と批判する。
 特に沖縄2紙に対しては「内向きで狭い視野を持ち、反軍事のプロパガンダを売り込んでいる」と非難。一方で、「本土の報道機関は全体的に米軍に対してより友好的だ」と評する。

沖縄タイムス「再発防止どころか差別意識を拡大 沖縄海兵隊の新人研修」(解説)=2016年5月26日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=170024
沖縄タイムス「「良き隣人」の本音あらわ… 沖縄海兵隊の新人研修」(サイド)=2016年5月26日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=170018

琉球新報「これが海兵隊の研修か!! 米軍は『カリスマ』沖縄県民見下し…」=2016年5月26日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-286151.html

 在沖米海兵隊が沖縄に着任した兵士らを対象に実施した沖縄の歴史や政治状況を説明する研修で、沖縄の政治環境について「沖縄県と基地周辺の地域は沖縄の歴史や基地の過重負担、社会問題を巧妙に利用し、中央政府と駆け引きしている」と記述し、沖縄側が基地問題を最大限に政治利用していると説明していることが分かった。
 米軍に批判的な沖縄の世論については「多くの人は自分で情報を入手しようとせず、地元メディアの恣意(しい)的な報道によって色眼鏡で物事を見ている」と記述するなど、県民を見下すような記述もあった。
 英国人ジャーナリストのジョン・ミッチェル氏が情報公開請求で入手した。資料には「2016年2月11日」と日付が記載されており、最近の研修でも使われたとみられる。
 ミッチェル氏は琉球新報の取材に対し、「米軍が兵士に対して県民を見下すよう教えている。それが海兵隊員の振る舞いに影響を与えていることが分かる。『沖縄への認識を深める』という海兵隊の約束は失敗している」とコメントした。