参院選で問われてしかるべきは安倍晋三首相の政治手法―内閣支持率は55%超だが改憲に世論は冷静 ※追記・読売新聞調査

 安倍晋三首相は通常国会閉会を受けて6月1日に行った記者会見で、2017年4月に予定していた消費税の10%への増税を、19年10月まで2年半延長することを正式に表明しました。2014年11月に、延期を打ち出して衆院解散した際には、再延期はないことを断言していましたので、明白な公約違反です。この点につき、安倍氏は会見で「これまでの約束とは異なる新しい判断だ」「参院選で信を問う」と強調し、参院選の争点はアベノミクスだと強調しました。「またか」という気がしています。この日の記者会見はいろいろ話題になっていますが、私は強く違和感を覚えました。
 まず、明白な公約違反なのに、首相としての政治責任参院選の勝敗論にすり替えていることです。あたかも「新しい判断」と言いさえすれば、前言はなかったことにされるとでも言うかのようです。これがまかり通るならば(実際のところ、まかり通ってしまっているようですが)「新しい判断」は最高権力者が何でも思う通りにできる“魔法の言葉”です。
 また、議員の半数しか改選されない参院選が、公約違反の「信を問う」手続きとして適当なのでしょうか。「信を問う」と大上段に構えるならば、一般的には政権交代につながる可能性がある衆院選のはずです。ましてや消費税の税率アップをめぐっては、前述のとおり、安倍氏自身が「再延期はない」と断言しながら衆院解散し総選挙を行っているのです。しかも、有権者の受け止めとしては増税延期は歓迎のはずで、その選挙結果をもって「公約違反の信を問うた」と強弁するのは無理な理屈ではないでしょうか。
 19年10月まで2年半、増税を見送るというのも恣意的に感じます。2019年と言えば、春に統一地方選、夏に参院選が行われます。増税実施は選挙後となり、選挙への影響を回避したいとの思惑が疑われます。また、18年9月までの自民党総裁任期との関連を指摘する報道もあります。「『連続2期6年まで』の党則を変更しない限り『不人気政策の筆頭』(閣僚)とされる増税が『ポスト安倍』の有資格者である次期総裁を直撃する。出馬に慎重になるとされることから『任期延長への布石を打った』(党幹部)との見方がある」(共同通信の配信記事)。
 そして、会見のテレビ中継を見ていて「またか」と思ったのは、安倍氏が「参院選の争点はアベノミクス」と声を張り上げながら、結局、会見では、一時はあれほど盛んに口にしていた憲法改正に自分からは一切触れなかったからでした(正確に言えば、改憲発議に必要な全議席の3分の2をめぐる質問は出ましたが、ぺらぺらとはぐらかした、との印象です)。今までと同じパターンがまたも繰り返されようとしているように思えます。選挙では経済政策を前面に訴え、憲法改正は公約には載せるものの選挙戦では口にしない。仮に、自民以外の議席も含めて改憲勢力改憲の発議に必要な3分の2に達すれば、改憲にしゃむにに突っ走るのではないでしょうか。特定秘密保護法や、集団的自衛権をめぐる憲法解釈の変更を伴った安全保障関連法の整備がそうでした。
 この記者会見の直前の週末に実施された世論調査の結果が4件報じられていますが、安倍内閣支持率は7―3ポイント増の56―49%。3件は55%超でした。しかし、これまでも紹介してきた通り、憲法改正に関連する設問に限ってみれば、世論は冷静で、改憲の熱が高まっているとは言い難い状況です。
 参院選は6月22日公示、7月10日投開票に決まりました。選挙に勝ちさえすれば「白紙委任を得たも同然」と言わんばかりに、決して民意が求めていない政策を数をたのんでゴリ押しに押すという、という事態は招いてはならないと思います。そうしたことも含めて、この参院選では争点として、安倍氏の政治手法が問われてしかるべきだと感じます。
 以下に、4件の世論調査結果のうち、目に付いた内容を書きとめておきます。

内閣支持率
共同通信(5月28―29日実施)「支持」55・3%(前回4月調査から7・0ポイント増)「不支持」33・0%
毎日新聞(5月28―29日実施)「支持」49%(5ポイント増)「不支持」33%(5ポイント減)「関心がない」16%(1ポイント増)
産経新聞・FNN(5月28―29日実施)「支持」55・4%(6ポイント増)「不支持」34・0%(4・1ポイント減)
日経新聞テレビ東京(5月27―29日)「支持」56%(3ポイント増)「不支持」35%

▼消費増税の引き上げ再延期
共同通信 「賛成」70・9% 「反対」24・7%
毎日新聞 「賛成」66% 「反対」25%
産経新聞・FNN
 「公約違反」24・2% 「公約違反だと思わない」72・2%
 衆院解散して国民の信を問うべきか 「必要だと思う」33・6% 「思わない」62・0%

オバマ米大統領の広島訪問
共同通信
 「よかった」98・0%
 「オバマ氏は広島で謝罪するべきだった」18・3% 「必要はなかった」74・7%
毎日新聞:「良かったと思う」90% 「思わない」2%
産経新聞・FNN
 「評価する」97・5%
 オバマ氏が原爆投下について謝罪すべきだったか:「思わない」68・2%
日経新聞テレビ東京:「評価する」92%

憲法改正
共同通信:安倍首相の下での憲法改正に 「賛成」35・0% 「反対」54・9%
毎日新聞参院選改憲勢力が3分の2以上の議席を占めることを 「期待する」40%(6ポイント増) 「期待しない」48%(1ポイント増)

▼沖縄の女性遺棄事件に関連して
共同通信日米地位協定を 「改定するべきだ」71・0% 「改定する必要はない」17・9%
毎日新聞:沖縄の米軍基地について 「なくすべきだ」20% 「あった方がいいが減らすべきだ」59% 「維持または強化すべきだ」9%
産経新聞・FNN:「日米地位協定を見直すべきだ」83・7%


【追記】2016年6月11日10時35分
 読売新聞が6月3―5日に実施した世論調査の結果も報じられました。主な内容を書きとめておきます。
内閣支持率:「支持」53%(前回比±0ポイント)「不支持」35%(同1ポイント増)
▼消費増税の引き上げ再延期
・「評価する」63% 「評価しない」31%
・公約違反だと思うか:「思う」30% 「思わない」65%
社会保障政策に支障が出ることを懸念するか:「懸念している」54% 「していない」36%
オバマ米大統領の広島訪問:「評価する」95% 「しない」3%