沖縄・女性遺棄事件の捜査は地位協定が障害になっている―琉球新報社説「基地内の捜査権を認めよ」

 沖縄県うるま市で4月に行方不明になっていた20歳の女性が遺体で見つかった事件で、沖縄県警が6月9日、元米海兵隊員で軍属の男を殺人と強姦致死容疑で再逮捕しました。沖縄タイムスの記事を引用します。
沖縄タイムス「元米兵再逮捕 殺人と強姦致死容疑 認否留保遺棄罪で起訴」=2016年6月10日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=172556

 うるま市の女性遺体遺棄事件で、県警特別捜査本部(本部長・渡真利健良刑事部長)は9日、死体遺棄容疑で逮捕・送検していた元米海兵隊員で軍属の容疑者(32)を殺人と強姦(ごうかん)致死の両容疑で再逮捕した。同容疑者は容疑について「いまは話せない」とし、認否を明らかにしていないという。捜査本部は、同容疑者が刃物や棒などを事前に準備している状況から、暴行を目的に当初から殺意を持って女性を襲った計画的な犯行との認識を示した。那覇地検は同日、同容疑者を死体遺棄罪で起訴した。
 同容疑者の再逮捕容疑は、うるま市塩屋で4月28日夜、ウオーキング中の被害女性(20)に暴行目的で背後から近づき、殺意を持って棒で頭を殴り、草むらに連れ込んだ上、首を絞めて刃物で刺すなどして殺害した疑い。
 容疑に関する供述や殺害に使用した刃物、物証が乏しい状況での再逮捕について、渡真利本部長は「防犯カメラや携帯電話の通信記録などから足取りを追い、事件の関連品を発見するなど証拠を積み上げた結果」などと説明。強姦致死については、「暴行は未遂だが、暴行目的で傷を負わせ、死に至らしめたことで成立する」との認識を示した。

 沖縄タイムス琉球新報の2紙とも、10日付の社説でもあらためてこの事件を取り上げました。中でも「基地内の捜査権を認めよ」との見出しが付いた琉球新報の社説は、今回の事件で現に日米地位協定によって捜査に支障が出ていることを指摘しており、重要だと感じます。
 今回の事件では、翁長雄志知事をはじめ沖縄県内の自治体や県民、沖縄のマスメディアが求める日米地位協定の改定に賛意を示す本土マスメディアも地方紙を含めて少なくなく、米軍将兵や軍属の特権的扱いの規定を、事件事故が頻発する背景事情としてとらえています。ただ、容疑者の容疑内容自体は公務外でのことであり、沖縄県警が容疑者を逮捕することには支障がなかったためか、本土マスメディアでは日米地位協定が捜査へ影響を及ぼしているとの指摘はほとんど目にしません。琉球新報の10日付社説は、それにとどまらず、容疑者の身柄を押さえても日米地位協定によって基地内に県警が自由に立ち入ることができず、仮に容疑者が基地内で証拠隠滅を図った疑いが濃厚でも、その裏付け捜査が困難なことを突いています。一部を引用します。

琉球新報:社説「米軍属再逮捕 基地内の捜査権を認めよ」=2016年6月10日
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-295301.html

 20歳の女性が命を奪われた事件は新たな段階を迎えた。ここに至るまで、県警の捜査は常に日米地位協定の壁が障害になってきたことを見落としてはならない。
 県警が容疑者を逮捕したため、取り調べや身柄引き渡しなど、日米地位協定上の支障はなかったように見える。しかし、実態は違う。容疑者は米軍基地内で証拠隠滅を図った可能性があるにもかかわらず、基地内では直ちに捜査権を行使することができないのだ。
 県警は「遺体をスーツケースに入れて運んだ」という容疑者の供述に基づき、うるま市内の最終処分場で数点のスーツケースを押収した。この処分場は米軍基地の廃棄物を処理している。容疑者はキャンプ・ハンセン内でスーツケースを投棄した可能性がある。
 捜査の過程で県警が基地内での容疑者の足取りを把握しているならば、基地内の捜査は不可欠だ。
 ところが、日米地位協定は基地内での米国の排他的管理権を認めている。米側の同意がない限り、日本の警察は立ち入りできない。2008年12月の金武町伊芸区被弾事件では県警の立ち入り調査の実現に1年近くもかかった。
 米軍基地を治外法権のように規定し、米軍人・軍属の特権を認める日米地位協定が基地に絡んだ犯罪の元凶であることは誰の目にも明らかだ。しかし、今回の事件でも日本政府は日米地位協定の改定を米側に求めず、運用改善で幕引きを図ろうとしている。
 政府の対米従属姿勢はここに極まっている。新基地建設問題では「抑止力維持」を名目に辺野古移設に拘泥する一方で、県民の生命に関わる日米地位協定の欠陥には手を付けようとはしない。これでは国民の安全を守るべき責務を政府は放棄していると断じざるを得ない。

 この社説の指摘を読んで思い出したのは、2004年8月に沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場所属の海兵隊ヘリコプターが、飛行場に隣接する沖縄国際大学の構内に墜落した事故です。墜落現場は米軍施設の区域外だったにもかかわらず、現場はただちに米軍が封鎖し、沖縄県警は捜査権を行使することができませんでした。日本の国土でありながら、日本の主権や国内法が及ばないのが米軍基地であり、その特権的扱いは基地の外の出来事にも悪影響を引き起こしています。


 沖縄タイムスも10日付で「沖縄の怒り もう限界だ」の見出しの社説を掲載しています。一部を引用します。
沖縄タイムス:社説「[元米兵再逮捕]沖縄の怒り もう限界だ」=2016年6月10日
 http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=172554

 今回の事件に対する県民の怒りは、全県的に広がっている。
 県議会が5月26日に抗議決議と意見書を可決したのに加え、県内41市町村の全議会が事件への抗議決議を可決する見通しとなった。
 議会決議は住民意思の表明である。既に決議したほとんどの議会が綱紀粛正や再発防止策の策定に加え、「日米地位協定の抜本的な見直し」を盛り込んでいる。「全基地閉鎖撤去」や「海兵隊の撤退」など、強い要求を入れた議会もある。
 綱紀粛正では、もはや根本的な解決にならないと受け止められている証しである。
 在沖米軍は5月27日、県内に住む軍人・軍属やその家族に、基地の外での飲酒を禁じ、午前0時までの帰宅を義務づけると発表した。「喪に服するため」の1カ月間の措置だとした。
 ところが6月4日、米軍嘉手納基地所属の米海軍2等兵曹の女が酒に酔った状態で車を運転し、国道58号を逆走して軽乗用車と衝突する事故を起こした。2人にけがを負わせた。
 在沖米軍トップのローレンス・ニコルソン四軍調整官が会見で述べた「沖縄の人たちと共に喪に服し、悲しみを分かち合う」ことすら、徹底させるのは不可能なのだと露呈した。
 日本政府も、防犯パトロール隊の創設や警察官100人の増員、パトカー20台増車、防犯灯の設置などの対策をまとめた。一般的な犯罪抑止対策にはなりそうだ。だが、日米地位協定によって保護・優遇され、それが占領者意識を持つ素地となっている軍人・軍属に、実効性ある対策かどうかは疑わしい。