ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「改憲勢力3分の2超」の意味―参院選翌日・在京各紙の報道の記録

 第24回参院選が7月10日、投開票されました。11日付の東京発行新聞各紙の朝刊1面は以下の通りです。開票作業は夜明け後も続いたため、確定結果までは入っていないものの、選挙結果の主なポイントは各紙の見出しにおおむね網羅されているのではないかと感じます。

 各紙の1面トップの記事(本記)に付いた見出しを書きとめておきます。
 国政選挙では各紙とも開票結果や、自社の当落判定の結果をなるべく遅くまで紙面に盛り込むために、締め切り時間を遅くしています。紙面に手直しが入った場合は版を更新したりします。参照した「版」も記載し、その後、さらに遅い版が確認できた場合は「※」でその変更点を記載しました。

▼朝日15版:改憲4党 3分の2に迫る/自公、改選過半数/民進11減、共産伸び悩む/法相・沖縄相が落選
▼毎日14い版:改憲勢力3分の2超す/自公 改選過半数/衆参で発議可能/1人区 野党11勝21敗
  ※14え版:見出し変化なし、表の「改憲勢力」が「163」→「165」
▼読売17版:与党大勝 改選過半数改憲派2/3超す/1人区 自民21勝11敗/民進振るわず
  ※17版◎:見出し変化なし、表の「自公」が「143」→「144」
▼日経16版:改憲勢力 3分の2/与党で改選過半数/民進苦戦、共闘及ばず/アベノミクスを継続
  ※17版:見出し変化なし、表の「改憲勢力」が「162」→「163」
▼産経14版☆:改憲3分の2 発議可能に/自民 1人区21勝11敗/来月に内閣改造/現職閣僚の岩城・島尻氏落選、今井氏は初当選
  ※15版:「現職閣僚の岩城・島尻氏落選、今井氏は初当選」→「現職閣僚の岩城・島尻氏落選・吉田党首も」
▼東京11版S:改憲勢力 3分の2/4党に無所属など加え/参院選 福島と沖縄 閣僚落選/投票率推計54・7%
  ※12版:見出し変化なし


 読売以外の各紙は、主見出しを「改憲」と「3分の2」で構成しています。読売は2本目の見出しに「改憲派2/3超す」を取りました。朝日の「改憲4党」は自民党公明党、おおさか維新の会、日本の心を大切にする党。毎日、日経、東京の「改憲勢力」は、この4党と改憲志向の無所属議員を合わせた表現です。産経も同じ文脈です。読売の「改憲派」も、記事中の表現は異なりますが、同じ内容です。この朝刊紙面を制作した時点で、無所属議員まで含めた「改憲勢力」は総議席数の3分の2を超えていましたが、4党だけでは達しておらず、朝日新聞は「3分の2に迫る」という途中経過の見出しでした。朝日新聞は11日夕刊(東京発行4版)で、あらためて「改憲勢力 3分の2」の見出しを1面トップで取っています。

 読売は「与党大勝 改選過半数」を主見出しにしました。序盤情勢でも終盤情勢でも、読売だけは与党が改選過半数を獲得できるかどうかを主見出しに取り、「改憲」や「3分の2」は一切見出しに入れていませんでした。その理由についてのわたしなりの推測もこのブログで紹介しました。しかし、今回は読売も2本目の見出しに「改憲派2/3超す」を取りました。やはりその意義は無視できないとの判断なのでしょうか。
※参考過去記事
▽「『改憲勢力『3分の2』確保の勢い―読売は『改憲』なし:参院選終盤情勢・在京紙の報道の記録 ※追記・読売の6月26日付社説」2016年7月7日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160707/1467848901

▽「参院選序盤情勢『改憲勢力2/3うかがう』、しかし参院選後の改憲『反対』45%、安倍首相の下で改憲『反対』48%―在京各紙の報道の記録」2016年6月24日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160624/1466725161


 「3分の2」は、憲法改正の発議には衆参両院で総議員数の3分の2以上の賛成を必要とすると憲法96条が定めていることを指しています。公明党自民党改憲案に難色を示していることなどから、この参院選で「改憲勢力」と「3分の2」を焦点ととらえることを疑問視する見方もあり、読売新聞の6月26日付けの社説もその一つのようです。しかし、これまでも安全保障法制では、自民党が渋る公明党を押し切るようにして従わせた例がありました。また、野党第一党民進党改憲それ自体を必ずしも否定してはいませんが、少なくとも安倍政権下での改憲には反対ないしは慎重姿勢で、そこは公明党とは明確な違いがあります。民進党抜きでも4党プラスアルファで3分の2を占めるようになったことは、それだけ憲法改正の現実味が増したということです。4党プラスアルファを「改憲勢力」と位置付け、それが参院議員総数の3分の2超を占めるのかどうか、地方紙を含めて多くの新聞が一貫して今回の参院選の最大焦点ととらえてきたことには、妥当性と大きな意味があると思います。

 安倍晋三首相は11日の会見で、改憲論議の加速を民進党など野党に促す考えを表明し「わが党の案をベースにしながら、どう3分の2を構築していくかだ」などと、選挙期間中は口にしなかった「改憲」について、一転して雄弁になったようです。やはり、選挙戦の期間中に改憲に触れなかったのは「争点隠し」ではなかったかと感じます。
共同通信「首相、民進などに改憲論議促す/内閣改造8月3日にも」
 http://this.kiji.is/125135464497528835?c=39546741839462401

 安倍晋三首相(自民党総裁)は11日、改憲勢力参院でも全議席の3分の2超を占めた参院選結果を受け党本部で記者会見し、憲法改正論議の加速を民進党など野党に促す考えを表明した。自民党改憲草案を踏まえて与野党で柔軟に議論し、改正項目などの合意形成を図る。
 (中略)
 首相は、自民党草案について「そのまま通るとは考えていない。わが党の案をベースにしながら、どう3分の2を構築していくかだ」と指摘した。

 今回の参院選で沖縄選挙区では、島尻愛子・沖縄北方担当相が10万票もの大差で元宜野湾市長の伊波洋一氏に敗北しました。米軍普天間飛行場辺野古移設問題を始めとして、基地の過剰負担の問題が最大の争点だったのは疑いがありません。現職閣僚のボロ負けは、基地問題に対する沖縄の民意を、これ以上はないほどに鮮烈に示しています。これだけ民意がはっきり示されているのに、それが容れらない地域が日本にほかにあるでしょうか。日本本土でもよく見られることでしょうか。そうではなく、沖縄でしか起こりえないことだすれば、やはり日本本土(ヤマト)と日本人による沖縄差別だろうと思います。

 もう一つ書きとめておきたいのは、東日本大震災東京電力福島第一原発事故の被災地である福島選挙区でも、現職閣僚が野党統一候補に敗れたことです。与党の言う「復興支援」が厳しく問われた結果なのだと思います。東北では六つの選挙区のうち、大震災被災地の宮城、岩手両選挙区を含めて、秋田以外の五つで野党統一候補が勝っています。全体で見れば与党、安倍自民党の大勝なのでしょうが、それではくくりきれない動きや変化が、日本社会のあちこちに起きているのだろうと思います。