天皇の退位問題を巡り、象徴天皇の在りようについて天皇自身が語ったビデオを宮内庁が8月8日に公表したことを受けて、共同通信と読売新聞が世論調査を行いました。天皇が生前退位できるようにした方がよいかどうかでは、2件の調査結果とも8割以上が、した方がよいと答えています。ビデオ公表前の世論調査でも同じような傾向があります。
共同通信の調査はさらに踏み込んで、生前退位ができるようにした方が良いと答えた人たちに、そう考える理由も尋ねており、答えは「天皇の意向を尊重すべきだから」が67・5%に上りました。「公務ができなければ、天皇の座にふさわしくないから」としたのは11・3%。実際に公務を務められるかどうかよりも、重視すべきは天皇自身の意向であると考える人の方が多いようです。ビデオでは退位を指す直接の文言はなかったものの、将来の退位の意向は強くにじみ出ており、それだけインパクトがあったということなのだろうと思います。ただし、天皇が希望すればただちに退位できることがよいのかどうかは、別の問題だと思います。
また、共同通信の調査では、ビデオの公表をきっかけに生前退位を可能にする法整備が進んだ場合は、天皇が政治と関わることを禁じた憲法の規定の上で問題があると思うかも聞いています。結果は「問題がある」16・2%に対し「問題はない」72・6%と大きな差が出ました。天皇の発言自体には識者の間にも、政治的発言ではなく憲法上の問題はないとの意見があります。対象は外交や軍事などではなく、自身のことと象徴天皇の在り方のことだから、ということのようです。しかし、わたしは、以前にもこのブログに書いた通り、外見的には「天皇の意向」が政治に検討を促す形になってしまっているのは間違いないと思いますし、この点は憲法との兼ね合いで軽視すべきではないと考えています。
※参考過去記事
「『お気持ち』ビデオ公表、在京各紙の報道の記録―マスメディアは天皇退位問題の当事者に」2016年8月9日
http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20160809/1470754355
以下に備忘を兼ねて、共同通信と読売新聞の調査の主な結果を書きとめておきます。
▼共同通信:8月8、9日実施
・天皇のビデオメッセージの言葉の内容を理解しているか
理解している 46・8%
ある程度理解している 36・2%
あまり理解していない 4・4%
理解していない 1・3%
・公務と天皇の地位の関係は
公務を行うのが困難になれば退位した方が良い 81・9%
公務を行うのが困難になっても退位しなくてもよい 13・7%
・生前に退位できるようにすることをどう思うか
できるようにした方がよい 86・6%
現行制度のままで10・4%
・できるようにした方がよいと答えた人だけ:その理由
天皇の意向を尊重すべきだから 67・5%
公務ができなければ、天皇の座にふさわしくないから 11・3%
明治時代より前は生前退位が行われていたから 7・6%
外国には生前退位ができる王室があるから 8・9%
・現行制度のままでと答えた人だけ:その理由
摂政を置くことができるから 21・5%
天皇と退位した天皇が並立することになるから 17・0%
明治時代以降、生前退位が行われないことが定着しているから 11・0%
意にそわない退位や、恣意的な退位が行われる可能性があるから 30・5%
・生前退位の法整備は直ちに進めた方がよいか
直ちに手続きを進めた方がよい 54・1%
慎重に検討した方がよい 42・8%
・生前退位の法整備を進める場合、対象は今の天皇に限った方がよいか
今の天皇に限った方がよい 17・8%
今後の全ての天皇を対象にした方がよい 76・6%
・今回のビデオメッセージをきっかけに生前退位を可能にする法整備が進む可能性がある。このことが、天皇が国政に関与できないとする憲法の規定上、問題があると思うか
問題がある 16・2%
問題はない 72・6%
▼読売新聞:8月9、10日実施
・天皇の生前退位の問題に関心があるか
大いに関心がある 36%
ある程度関心がある 52%
あまり関心がない 7%
全く関心がない 4%
答えない 1%
・生前退位ができるように制度改正すべきか
改正すべきだ 81%
改正する必要はない 10%
答えない 8%
・改正すべきだと答えた人だけ:生前退位は今の天皇にだけ認めるのがよいか
今の天皇だけ 14%
今後すべての天皇 80%
答えない 6%
・政府は生前退位について、制度の改正を急ぐべきだと思うか
急ぐべきだ 52%
慎重に検討すべきだ 43%
答えない 6%