「共謀罪」の危うさは変わらない―2006年当時の経験から(再掲)

 過去3度、国会に法案が提出されながらいずれも廃案になった「共謀罪」法案が、名前を変えて再提出されるようです。朝日新聞が8月26日付の朝刊で先行して報じ、マスメディア各社も相次いで伝えています。
※47news=共同通信共謀罪、名称変え再提出へ 政府、対象絞り『テロ準備罪』」2016年8月26日
 http://this.kiji.is/141746085296834040?c=39546741839462401

 政府は26日までに、過去3回にわたって国会に提出され廃案となった「共謀罪」について、従来の構成要件を変更し適用対象を絞った組織犯罪処罰法の改正案をまとめた。2020年東京五輪に向けたテロ対策を強調し、罪名も「テロ等組織犯罪準備罪」と変更。9月に召集される臨時国会に提出する方向で調整している。
 共謀罪は、殺人などの重大犯罪の謀議に加わっただけで処罰され、対象犯罪が広範囲にわたるため、日弁連や刑事法学者から「市民団体や労働組合も対象になり得る」などと批判が出て廃案になった。今回の法案にも乱用の恐れがあるとの指摘が出ている。

 報道によると、従来との違いは、罪名を「テロ等組織犯罪準備罪」とし、2020年の東京五輪へ向けたテロ対策として理解を得ようとしている点のようです。また、構成要件に一定の準備行為がなされていることを加えるようです。しかし、いかに意義付けしようとも、共謀罪が人間の内心を処罰する性格を持つことに変わりはありません。共謀は密室で行われるものであり、立証のために盗聴や検閲が広く合法化されることは避けられません。密告も奨励されることになります。恣意的な運用の危惧もあります。歴史を振り返れば、治安維持法のように悪法はひとたび施行されるや、改悪を重ねて肥大化していく恐れがあります。過去3回の法案の提出のたびに指摘された懸念は、そのまま残っているように思います。
 安倍晋三政権はこれまでも選挙で大勝しては、「表現の自由」や「知る権利」を危うくするとの指摘が根強い特定秘密保護法や、憲法解釈を変更して集団的自衛権の行使を容認した安全保障関連法制を強引に成立させてきました。選挙戦では積極的に触れていなかったにもかかわらず、です。今回も参院選では共謀罪はまったく争点に上がっていませんでした。
 共謀罪がいずれまた復活することは予測できていました。その危うさについて、わたしは3年前にこのブログに書いています。今、読み返しても、その危うさは本質的な部分で変わっていないように感じます。3年前の記事を再掲します。


※「共謀罪新設は憲法改正に匹敵する大きな問題〜2006年当時の反対運動の経験から」2013年12月13日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20131213/1386901589

 特定秘密保護法の後は共謀罪とのことです。法案が実際に出てくるのか、出てくるとしたらどんな内容のものか、分かるのはまだ先でしょうが、基本的にわたしは共謀罪には大きな疑問を持っています。憲法改正にも匹敵する大きな問題であり、秘密保護法のような巨大与党による拙速、強行で決すようなことがあってはならないと思います。
※47news=共同通信「政府、共謀罪創設を検討 組織犯罪処罰法改正で」2013年12月11日
 http://www.47news.jp/CN/201312/CN2013121001003057.html

 政府は10日、殺人など重要犯罪で実行行為がなくても謀議に加われば処罰対象となる「共謀罪」創設を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案を来年の通常国会に提出する方向で検討に入った。政府関係者が明らかにした。
 共謀罪が広く適用されれば、国による監視が強化される恐れがある。機密漏えいに厳罰を科す特定秘密保護法に続く国権強化の動きといえる。秘密法成立で言論・情報統制が強まる不安が広がっているだけに、論議を呼ぶのは確実だ。
 政府は、2020年の東京五輪開催に向けてテロ対策の必要性が高まったと判断している。

 共謀罪をひとことで言うと、一定の類型の犯罪を対象に、実行行為に踏み出していなくても、犯罪の実行を話し合えば、そこに参加していた者は処罰する、という罪です。犯罪の実行行為、予備行為がないケースでは外形的には何も起きていない状態ですから、話し合いに参加した個々人を処罰するということは、個々人の内心が捜査の対象であり、処罰の対象であることを意味します。共謀は密室で行われるのが常なので、共謀行為を立証するためには、必ず監視や盗聴、信書・メールのチェックが広く合法化されます。密告の奨励も行われ、共謀に加わっても自首すれば刑が減免されることになるはずです。上記の記事で「国による監視が強化される恐れがある」とは、そういう意味です。
 共謀罪は過去にも法案が国会に提出されました。特に2006年4月〜6月には衆院自民党強行採決に踏み切る手前までいきました。「共謀罪きょう採決」という見出しが全国紙の朝刊に載ったほどです。当時は、前年の郵政民営化をめぐる解散・総選挙で小泉純一郎首相の自民党が圧勝し、その気になれば自民党は何でも強行して決めることができる情勢でした。今日と同じです。しかし、最終的には審議が続き、やがて時間切れで廃案となりました。
 当時、わたしは通信社の社会部デスクの仕事を休職し、新聞労連の専従役員として中央執行委員長を務めていました。新聞労連として共謀罪創設への反対を重点課題に掲げて、他産業の労組や団体と共闘して運動を展開し、また個人としてもこのブログの前身のブログ「ニュース・ワーカー」に、いくつか関連記事を書き残しています。その中で2006年6月3日の記事「メモ・共謀罪に反対する理由」に、なぜ共謀罪に反対なのかをまとめています。次に共謀罪が法案となって形を表す時に、どんなものになっているかはまだ分かりませんが、事の本質はそうは変わらないでしょう。このブログ記事を今、読み返しても、個人意見として今も変わりはありません。以下に引用します。
※ブログ:ニュース・ワーカー「メモ:共謀罪に反対する理由」2006年6月3日
 http://newsworker.exblog.jp/3982286/

(1)未遂を含めて犯罪の実行行為を処罰対象とする日本の刑法の大原則の転換である。現行刑法の中にも、例外的に予備行為を処罰する罪もあるが、それぞれの罪ごとの“個別規定”になっている。共謀罪新設は“包括規定”であり憲法改正に匹敵する大問題。広く国民的な議論が必要。

(2)共謀は密室で行われるのが常。共謀行為を立証するために、必ず監視や盗聴、信書・メールの無断(当事者に知られないうちに、という意味で)チェックが広く合法化される。憲法が保障する思想・信条、集会・結社、言論、表現その他の自由と真っ向から対立する。密告の奨励(共謀に加わっても自首すれば刑が減免される)により、相互監視社会が出来上がる。

(3)団体の概念があいまい。「国境を越えた犯罪を実行するのが当団体の目的です」などと名乗る団体などありえない。2人きりの人間関係でも「団体」として、どしどし立件される。既に西村真悟衆院議員の非弁護士活動事件でも、非弁活動を行っていた男と西村議員のたった2人の関係が「団体」とされ、組織犯罪処罰法を適用して追起訴した前例がある。

(4)最終的に起訴→有罪とならなくても逮捕されれば、当事者の社会生命は大打撃を受ける。家宅捜索だけでも同じ。恣意的な運用の余地はあまりにも大きい。「共謀」とは、極論すればある2人の人間の間につながりがあることさえ立証できればいい。家宅捜索令状なら、今の裁判所は間違いなく出す。

(5)悪法はひとたび成立してしまえば、改悪を重ねて肥大していく。戦前の治安維持法を見れば明らかだ。与党側の思惑はまさにそういうことだ。

 共謀罪創設の理由を政府は「国際組織犯罪防止条約を批准するには不可欠」と説明してきています。他国との協調の上で必要という理屈は、特定秘密保護法とも似通っています。既に同法の中には共謀罪が含まれています。共謀罪をより広範に創設していく動きが出てくるのか、経緯を注視していきたいと思います。


 ※旧ブログ「ニュース・ワーカー」は、私が初めて運営したブログで、2005年4月から2006年10月まで記事を更新していました。当時は労働組合の専従役員で、現在のブログとは趣もテンションも異なりますが、私個人の活動と思考の記録として、記事は現在も閲覧できる設定にしています。現在もすべて考えは変わらない、というわけではありません。なお、記事中に張っていたリンクの多くは、現在は切れています。
 ※「ニュース・ワーカー」トップ http://newsworker.exblog.jp/

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「新聞は“じゃんけん後出し”しかできなかったのではないか」2006年6月27日
 http://newsworker.exblog.jp/3999358/