備忘:「『土人発言』の責任は政府の差別政策にある」(琉球新報社説)

 沖縄の米軍・北部訓練場のヘリコプター地着陸帯(ヘリパッド)建設で、フェンス越しに抗議行動をしていた市民に警備の機動隊員が「どこつかんどんじゃ、ぼけ。土人が」と発言しました。別の場面では機動隊員が市民に「黙れ、こら、シナ人」と発言していました。いずれも10月18日朝のことで、それぞれ罵声を浴びせる様子の動画がネット上にアップされ、沖縄のマスメディアも報じました。19日になって沖縄県警は、いずれのケースも暴言と認めて謝罪し、本土マスメディアも報じました。2人の機動隊員は大阪府警の所属でした。事実関係は以下の琉球新報の2本の記事で過不足なく分かると思います。
※「『土人』発言、沖縄県警が謝罪 『事実』『極めて遺憾』」=2016年10月20日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-378318.html

(一部引用)
 県警は19日、米軍北部訓練場のヘリパッド建設を巡って警備に当たる大阪府警の機動隊員が抗議活動参加者に対し「土人」と発言していたことを「事実だ」と認めた。県警は一連の発言について「極めて遺憾だ」と述べ謝罪した。19日付で差別発言をした20代男性隊員は離県し、大阪府警へ戻ったという。処分については「大阪府警が判断する」としている。一方、菅義偉官房長官は19日午後の会見で機動隊員の発言について「許すまじきこと」と述べた。政府は事態の収束を急ぐが、県民への差別発言に対する反発が広がっている。
 県警は18日時点での本紙の取材に「確認されていない」と回答していた。県警によると、男性隊員は18日午前9時47分ごろ、米軍北部訓練場N1ゲート近くの斜面で提供施設内側からフェンスを挟み、施設内に入らないよう警告していた。市民らがフェンスを揺らしたりした際に「土人が」などと差別的な発言をした。

※「別の機動隊員は『シナ人』と暴言 北部訓練場、抗議市民に」=2016年10月20日
 http://ryukyushimpo.jp/movie/entry-378321.html

(一部引用)
 「シナ人」と発言したのは、「土人」と発言した機動隊員とは別だが、同じ大阪府警の機動隊に所属する20代の隊員。県警によると、18日午前9時ごろから米軍北部訓練場のN1ゲート付近で、政治団体と抗議活動参加者が口論したりもみ合うなどのトラブルがあった。その際、政治団体関係者から抗議参加者に対し「帰れ、シナ人」などと同様な罵声があったとし、「右翼関係者らの言動に影響された面は否めないが、いずれにしろ不適切な発言だ」とした。
 県警の聞き取り調査などに対し、機動隊員は事実関係を認めている。抗議参加者と政治団体とのもみ合いに大阪府警の機動隊十数人が間に入った際に、一人の抗議参加者に対して発言した。隊員は聞き取りに対し「興奮して思わず言ってしまった。差別的な認識はなかった」と釈明しているという。隊員は19日から警備現場を離れたというが、処分については「大阪府警が判断する」としている。

 この2件の出来事の本質は、場所が沖縄であることを考えると、単に警察官個々人の問題や大阪府警の問題にとどまらない、もっと大きな沖縄への構造的な差別の問題に行き着くのではないかと感じます。その観点からは、琉球新報の20日付の社説「警察『土人』」発言 『構造的差別』責任は政府に」は、さまざまに考えさせられるところが多い論考です。
 以下、一部を引用します。
琉球新報:社説「警察『土人』」発言 『構造的差別』責任は政府に」=2016年10月20日
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-378320.html

 反対行動を抑圧する警察活動の、事実上の指揮者は防衛局、政府である。大規模な機動隊投入、不当な車両検閲、市民や新聞記者の排除、自衛隊ヘリの投入と、ヘリパッド建設のため政府はあらゆる手段を取っている。
 建設を至上命題とする政府の意を受け、あるいは指揮の下に、警察法が規定する「公平中正」を逸脱する警察活動が行われているのは明白だ。
 沖縄差別は歴史的な問題だ。琉球処分、大戦時には沖縄を本土防衛の防波堤にし、戦後は米軍占領を許し、米軍基地を集中させた。
 政府の沖縄に対する歴史に根差した「構造的差別」の延長線上に、辺野古新基地建設、ヘリパッド建設がある。
 県知事選、名護市長選、県議選ほか幾たびの国政選挙で県民は基地反対の民意を示してきた。民意を踏みにじり基地建設を強行する国家政策そのものが「構造的差別」と言わざるを得ない。
 沖縄は日本の植民地ではない。沖縄差別、今回の「土人発言」の責任は政府の差別政策にある。沖縄に対する構造的差別を改めぬ限り、不毛な対立は終わらない。


 「土人」と発言した大阪府警の警察官に対しては、大阪府松井一郎知事のツイッターへの書き込みが論議を呼んでいます。


 松井氏は10月20日午前の報道陣の取材に対しても、「土人」発言は不適切だったとしながらも、この警察官に対し、職務を果たしていたとして擁護しているとも受け取れる見解を示しています。
琉球新報「『土人』発言報道『やり過ぎ』 松井大阪府知事が見解」=2016年10月20日
 http://ryukyushimpo.jp/news/entry-378521.html

 【大阪】米軍北部訓練場のヘリパッド建設を巡り、大阪府警の機動隊員が抗議行動をする市民らに「土人」などと差別的な発言をしていた問題で、松井一郎大阪府知事は20日午前、当庁時に報道各社の取材に応じ「表現は悪かったし、反省すべきだと思う」と述べた上で「(発言した)彼自身、命令に従って沖縄のために無用な衝突が起こらないように職務を遂行しているわけで、あまりにも個人を特定されて、大メディアも含めて徹底的にたたく。これやり過ぎでしょう」と述べ、発言した警察官への報道が個人への攻撃になっているとの見解を示した。

 (注)この琉球新報の記事には、松井氏の発言の全文をテープ起こししたと思われる詳報へのリンクがあります。
  http://ryukyushimpo.jp/archives/002/201610/DOC_20161020.pdf


 ただ、松井氏は20日午後には、ツイッターでの「出張ご苦労様」との書き込みは「全国から現地に派遣された警察官全てに対して述べたもの」と釈明しています。
毎日新聞「大阪知事に抗議相次ぐ 発言の機動隊員擁護で」=2016年10月21日
 http://mainichi.jp/articles/20161021/k00/00m/040/191000c

 松井氏は同日午後、「隊員の発言で沖縄県民を傷つけてしまったことは誠に遺憾」と述べる一方、ツイッターでの「出張ご苦労様」との書き込みは「全国から現地に派遣された警察官全てに対して述べたもの」と釈明。維新沖縄支部からの抗議状は届いていないとした上で、書き込みは撤回しない考えを示した。

 毎日新聞の記事は、大阪府によるととして、20日午後5時までに385件の意見が電話やインターネット経由で寄せられ、大半は「人権意識が欠けている知事は辞めるべきだ」「府民全体の人権意識が低いとのイメージを持たれかねない」などの抗議だったことを報じています。松井氏の発言に理解を示す意見も数件あったとのことです。


 琉球新報の社説が指摘している通り、今回の大阪府警の警察官による差別発言問題の本質は、端的に言えば「沖縄差別、今回の『土人発言』の責任は政府の差別政策にある」という点にあると感じています。個々の警察官を過剰に批判することも、また「職務に忠実である」と擁護するのも、ともに問題を矮小化しかねないのではないでしょうか。若い警察官に「土人」「シナ人」と言わせたものは何かを考えたいと思います。