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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「世界は本当は広いのです」―他人ごとではない「『死ぬくらいなら辞めれば』ができない理由」 ※追記・毎日新聞が1面トップで紹介

 電通の新人社員だった女性が昨年12月に自殺し、長時間労働による過労うつ自殺と認定されたニュースは、社会の関心も高いようようで、マスメディアも続報を伝えています。それだけ、他人ごとではなく、わが身にも起こりうることと受け止めている人たちが少なくないということなのだと思います。そんな中で、ネット上でよく読まれているマンガがあります。タイトルは「『死ぬくらいなら辞めれば』ができない理由」。10月25日に、ツイッター上で2回に分けてアップされました。まだ読んだことのない方は、まずは読んでみてください。
※下記のイラスト部分をクリック、次の画面でもイラスト部分をクリックすると、4枚分が読めます。



 仮に「上」「下」と呼ぶとすると、この記事を書いている10月29日午前零時の時点で、上は13万2900回余り、下は13万9500回余りもリツイートされています。
 私が目にしたのは10月26日の朝でした。一度読んだだけで強烈な印象を受けました。今までに「死にたい」「死のう」と思ったことは一度もありません。しかし「今一歩踏み出せば 明日は会社に行かなくていい」との考えが、知らず知らずのうちに頭をよぎるような、同じような経験が私にもあったからです。
 もう15年以上も前、30代後半のころのことです。当時は長時間労働に加え、職責に対する重圧から重苦しさを感じる日々が続いている時期でした。「過労から『うつ』になり、自ら命を絶つ人はここをもう一歩踏み出すのだろうな」という一線が目の前に見えた気がしました。そう感じた次の瞬間、まったく突然に、気持ちの中に、まるで雲が湧き出てくるようにむくむくと「そうだ、会社を辞めてしまおう」という考えが浮かびました。本当に突然、「自分には会社を辞める自由がある」という想念が頭の中をいっぱいに占めて、そうやって、正気に戻りました。結果的に、その後も今日に至るまで会社は辞めていませんが、「会社を辞める自由」という当たり前のことに気付くことができたのは、実はまったくの偶然だったのかもしれないと、このマンガを読んで思いました。

 描いたのはフリーのイラストレーター・汐街コナさん。ネットメディア「ウイズニュース」の記事によると、かつて広告制作会社でデザイナーをしていたころの経験をもとに描いたそうです。
 ※「過労自殺『死ぬくらいなら辞めれば』ができない理由 漫画作者に聞く」
  http://withnews.jp/article/f0161027002qq000000000000000W00o10101qq000014213A
 28日には英字紙ジャパン・タイムスが紹介しました。同紙のサイトに記事がアップされています(紙面は確認していません)。
  http://www.japantimes.co.jp/news/2016/10/28/national/social-issues/manga-overwork-hell-goes-viral-wake-dentsu-suicide-reports/#.WBOCJum7qUn

 マンガの最後、「世界は本当は広いのです」「忘れないでください」の言葉は、そのまま私の実感です。そして、過労から自分を見失いかけている人たちへ、私も呼びかけたいと思います。「世界は本当は広いのです」「忘れないでください」と。


※参考過去記事
「ジャーナリストが新聞社に所属して働く〜JCJジャーナリスト講座で伝えたかったこと」=2015年12月20日
 http://d.hatena.ne.jp/news-worker/20151220/1450566160


【追記】2016年11月1日0時50分
 毎日新聞が10月31日夕刊(東京本社発行最終版)の1面トップで紹介しています。記事は29日に共同通信が配信したものです。あらためて、この漫画を多くの方に読んでほしいと思います。