「皆で心を一つにして子や孫のため、どうしても負けてはならない」〜翁長知事の覚悟は日本本土に伝わっているか

 前回の記事(「大破したオスプレイ」が日本本土に問うこと)からの続きになります。沖縄の基地を巡って、米軍普天間飛行場所属の輸送機オスプレイが12月13日に名護市の浅瀬に墜ち大破して以降、いくつかの出来事が立て続けに起きています。
 事故を受けてオスプレイは全機飛行停止になりましたが、米軍は機体の安全性には問題がないとして、19日午後には飛行を全面的に再開しました。日本政府も追認しました。事故から1週間足らず。事故機の機体の回収は終わっておらず、また捜査権を持つ海上保安庁は機体の見分も、乗員の事情聴取もできていません。米軍の強硬姿勢ばかりが目立ちました。
 20日には最高裁が、名護市辺野古の埋め立て承認を巡る日本政府と沖縄県の訴訟で、沖縄県の全面敗訴となる判決を言い渡しました。普天間飛行場の移転先として日米両政府が合意している辺野古地区について、前知事が出した埋め立て承認を翁長雄志知事が取り消した処分に対し、日本政府が違法だとして提訴していました。これにより、埋め立て工事が再開されます。
 沖縄本島北部の米軍北部訓練場の約7500ヘクタールの敷地のうち、約4000ヘクタールが22日、日本に返還され、記念式典が同日午後、名護市で開かれました。日本政府からは菅義偉官房長官稲田朋美防衛相が、米側からはケネディ駐日大使や米軍高官が出席しましたが、翁長知事は出席せず、同日夜、名護市で開かれたオスプレイ事故の抗議集会に参加しました。
 この間、東京発行の新聞各紙は、最高裁判決まではおおむね1面で大きく報じてきました。大きな扱いといっていいと思います。特にオスプレイの飛行再開は、20日付の朝刊で朝日新聞毎日新聞東京新聞は1面トップ。読売新聞、産経新聞日経新聞も1面に入れました。読売、産経を含めた6紙全紙が社会面にも記事を載せ、沖縄の人々の怒りの声を伝えています。

 これに対して、22日の北部訓練場の一部返還とオスプレイ事故の抗議集会は、内容の重大さ、とりわけ抗議集会での翁長知事の発言の強いメッセージ性を持っているのに、相対的な比較ながら扱いが小さいことが気になりました。備忘を兼ねて、23日付の朝刊各紙の扱いと、抗議集会での翁長知事の発言をどう報じたかを書きとめておきます。

【朝日】
 第2社会面・見出し2段「知事は抗議集会に/沖縄・北部訓練場返還式」

 翁長知事は「政府の姿勢は沖縄県民を日本国民と見ていない」と述べ、米軍に対しても「占領時代と同じで良き隣人と呼ぶわけにはいかない」と批判した。

【毎日】
 社会面準トップ・見出し4段「知事参加し抗議集会/北部訓練場返還式は欠席」

 集会に参加した翁長知事は「政府は米軍の要求を最優先にし飛行再開を容認した。沖縄県民を日本国民とみておらず、強い憤りを感じている。政府が返還式典を強行したことは県民に寄り添う姿勢が全く見えない」と訴えた。辺野古移設については「新基地は造らせない。不退転の決意で取り組んでいく」と述べた。

【読売】
 1面・見出し3段「沖縄北部訓練場4000ヘクタール返還/本土復帰後最大の規模」
 ※翁長地の発言の記述なし
【日経】
 4面(政治面)見出し3段「『沖縄負担減に全力』/官房長官が成果強調/北部訓練場返還で式典」

 翁長知事は市民団体が名護市内の屋内運動場で開いたオスプレイ配備撤回を求める抗議集会に出席し「(政府が)返還式典を強行したことは県民に寄り添う姿勢が全く見えない」と主張した。

【産経】
 2面(総合面)見出し3段「返還式典 菅氏ら出席/翁長知事は抗議集会参加」

(翁長知事は)「県民に寄り添う姿勢が全く見えない」と政府の対応を批判した。

 5面(総合面)見出し3段「政府 移設返還加速/翁長氏 容認の矛盾/北部訓練場の次は那覇軍港、牧港補給地区…」

【東京】
 3面(総合面)見出し3・5段「翁長氏、返還式典を欠席/菅長官『沖縄の負担軽減』」
 3面・見出し3段「オスプレイ事故に抗議/名護で4200人」

 (翁長知事は)壇上から「日本政府や防衛省は県民を欺いているとしかいいようがない。県の有するあらゆる手法を用いて、新基地を造らせないという公約実現に向け不退転の決意で取り組む」と声を張り上げ、普天間飛行場宜野湾市)の名護市辺野古移設に反対する姿勢を改めて強調した。

 28面(特報面)「抗議リーダー勾留2カ月超/『運動つぶす政治弾圧だ』/沖縄訓練場『返還式典』の陰で…」

 ちなみに共同通信は配信記事で「翁長氏は同じ名護市で同日開催されたオスプレイ不時着事故への抗議集会に参加し、自粛を求めた式典を政府が強行したとし『県民に寄り添う姿勢が全くない』と指摘。オスプレイの早期飛行再開にも『沖縄県民を日本国民と見ていない』と批判、強い憤りを表明した」と紹介した上で「政府と沖縄県の対立が鮮明になった」と指摘しています。地方紙などに掲載されています。

 日米両政府の式典に知事が欠席することは、知事にある種の覚悟がなければできないことだろうと思いますし、朝日、毎日、共同が伝えている「政府は沖縄県民を日本国民と見ていない」という言葉は、やはり知事として容易ならざる覚悟に至っていることをうかがわせています。そのことは沖縄のマスメディアの報じ方を見ることで、よく分かるのではないかと思います。以下に、沖縄タイムス琉球新報の23日付の社説の一部を引用して紹介します。

沖縄タイムス社説「[オスプレイ抗議集会]配備撤回のうねり再び」=2016年12月23日
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/77090

 登壇者からは「にじららん(もう我慢できない)」「がってぃんならん(合点がいかない)」と、うちなーぐちによる発言が相次いだ。
 翁長知事は「チムティーチナチ、クヮウマガヌタミニ、チャーシンマキテーナイビラン(心を一つに子や孫のためにどうしても負けてはいけない)」と呼び掛けた。稲嶺進名護市長も「オスプレイ辺野古新基地、高江のヘリパッドも駄目なものは駄目だ」と、しまくとぅばで訴えた。
 在沖米軍トップのニコルソン四軍調整官の「感謝されるべきだ」との発言に代表される米軍の高圧的な態度や、日本政府の住民軽視の姿勢に対し、沖縄の怒りは頂点に達しようとしている。
 オスプレイ配備撤回という政治的運動と併せ、沖縄の歴史体験に根差した県民の尊厳を守る闘いになりつつある。しまくとぅばでの表明はその表れだ。

琉球新報社説「北部訓練場過半返還 『負担軽減』にならない 県民の力で圧政はね返そう」=2016年12月23日
 http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-416614.html

 空席が目立った返還式典とは対照的に、政党や市民団体でつくる「オール沖縄会議」主催のオスプレイ撤去を求める抗議集会は熱気であふれた。
 翁長雄志知事もうちなーぐちで決意を述べ、「皆で心を一つにして子や孫のため、どうしても負けてはならない。辺野古新基地ができなければ、オスプレイ配備も撤回できる。必ず造らせないように頑張ろう」と呼び掛けた。
 基地の過重な負担への不安が高まる中、知事が県民に粘り強い運動を求めたことに、県民の多くが勇気付けられたはずだ。
 菅氏は返還式典後、「基地の負担軽減を掲げる知事が出席できないのは極めて残念だ」と述べた。知事が式典を欠席した重みを受け止められないとあっては、沖縄基地負担軽減担当相の資格はない。
 知事が欠席したのは当然だ。それに不快感を示すこと自体おかしい。オスプレイ墜落事故直後に返還式典を強行することで、県民を愚弄(ぐろう)したことに気付くべきだ。
 沖縄が求めていることは子どもたちが健やかに育つ生活環境の保障である。今回の返還が安全な暮らしにつながることはない。抗議集会参加者だけではない。多くの県民がそのことを知っている。
 沖縄の未来を切り開くのは県民である。県民の力で圧政をはね返すことを改めて誓いたい。

 「沖縄県民を日本国民と見ていない」と日本政府を批判し、沖縄の言葉で「皆で心を一つにして子や孫のため、どうしても負けてはならない」と呼び掛けたことは、もはや翁長知事が、日本政府には何の期待も持っていないこと、最高裁判決も考慮すれば、日本国の国家機構にも何ら期待していないことを表明したのに等しいように思えます。仮にそうだとして、そのことは日本本土に住む日本国民、日本国の主権者にどこまで伝わっているでしょうか。
 基地の過剰な集中に代表される沖縄の現状は、この10年ほどの間に報道の上でも「差別」との表現でしばしば語られるようになりました。日本全国ほかの地域で、自己決定権が完全に否定されている同じような事例が見当たらないのだとすれば、沖縄への差別にほかなりません。差別は解消されるべきです。そのためには、沖縄以外の日本本土に住む人たちが差別の構造を知り、無意識であれ差別する側に身を置いていることを自覚することが必要です。まずは、沖縄で何が起こっているのかを知らなければ(知らされなければ)なりません。本土のマスメディアの責任はとりわけ大きいと感じます。


共同通信の動画です。北部訓練場の返還式典の後、1分56秒から翁長知事のスピーチです。