黙らない、語り続けることができる社会のために~「共謀罪」施行の朝に

 犯罪の実行ではなく計画段階で処罰の対象とする「共謀罪」の趣旨を含んだ改正組織犯罪処罰法が7月11日午前零時、施行されました。とうとう「共謀罪」がわたしたちの社会に導入されました。

 振り返ってみると、「共謀罪」に対しては、マスメディア、中でも新聞の報道は賛成、反対に2極化し、論調だけではなく報道の量にも顕著な違いが生じたことは、このブログでも書いた通りです。 

 ※「朝日、毎日、東京と読売、産経の報道量に顕著な差~『共謀罪』法案 在京紙の報道の記録(5)5月30日~6月15日まとめ」=2017年7月3日

 http://news-worker.hatenablog.com/entry/2017/07/03/082506

 「共謀罪」については、主として反対、批判的なマスメディアが多角的、多面的な視野で様々に報じてきましたが、それでも最後までとらえきれなかったと感じる論点があります。それは、安倍晋三政権や与党はなぜこうまで強硬的に、例えば参院で委員会採決を飛ばして本会議に持ち込む“禁じ手”まで使って「共謀罪」導入をがむしゃらに推し進めたのか、という点です。マスメディアはこの点について、はっきりとした答えを示せていません。

 この疑問はわたしの中にいまだにあるのですが、一方で「ああ、そういうことなのかもしれない」と感じる出来事もありました。

 自民党が歴史的惨敗を喫した東京都議選の最終盤の7月1日土曜日。報道によると、安倍晋三氏は東京・秋葉原で初めて街頭演説に立ちました。近年の選挙で自民党が遊説の打ち上げに選んでいる聖地と言ってもいい場所ですが、安倍氏の演説に対して一部の聴衆から「帰れ」「辞めろ」のコールが湧き起こりました。安倍氏は感情をむき出しに、コールが発せられる辺りを指さし「演説を邪魔する行為を自民党は絶対にしない」と述べ、さらに「こんな人たちに負けるわけにはいかない」と口にしたと伝えられています。「大人げない」では済みません。自民党候補の応援とは言え、その場では「内閣総理大臣」と紹介を受けていました。街頭の民衆を「こんな人たち」呼ばわりするとは、一国の首相が自ら社会を分断するに等しい言動です。

 この出来事を伝える報道を目にして、「ああ、安倍氏は批判されることが大嫌い、批判を受けることを我慢できなのだろうな」と感じ、そして、正しいことをやっている自分を批判する人たちが一般人であるわけがない、というようなことを、もしかしたら安倍氏は思っているのかもしれない、というようなことも考えました。自分への批判封じのために「共謀罪」導入へ前のめりになった、とまでは言いませんが、もしも社会の中で、「共謀罪」を意識して、「おかしい」と感じたことを「おかしい」と口にするのをためらうような風潮が広がることになれば、政権への批判も減るでしょう。それはおそらく安倍氏が望む状況です。結果論であるにせよ、「共謀罪」導入によって、安倍氏にとって居心地のいい社会―それは権力者が批判を浴びない社会と言ってもいいかと思いますが―が到来するかもしれない、と漠然とながら感じました。

 だから、「共謀罪」の乱用を許さないためにも、まずは黙らない、語り続けることが大事なのだと思います。そして、マスメディアは黙らずに語り続けることができる社会を維持するために、語り続けようとする人たちを支えていく役割があるのだろうと考えています。
 戦前の治安維持法がそうでしたが、悪法は小さく生まれて大きく育つ場合があります。「共謀罪」は導入されてしまいましたが、これで決して終わりではありません。

物言えぬ恐怖の時代がやってくる 共謀罪とメディア

物言えぬ恐怖の時代がやってくる 共謀罪とメディア

 

  先日、「共謀罪」の危険性について、特にメディアとの関わりに重点を置いたブックレット「物言えぬ恐怖の時代がやってくる 共謀罪とメディア」(花伝社)が刊行されました。編著は上智大の田島康彦教授。わたしも少しお手伝いをさせていただきました。3月に開かれた集会「共謀罪と表現・メディアを考える」での議論をベースに出版作業が急ぎ進められましたが、結果的に発行日は6月15日になりました。まったくの偶然ですが、参院で法務委員会での採決が飛ばされ、本会議での採決強行によって「共謀罪」が生まれ落ちたその当日です。そういう運命的な一冊です。マスメディアに関わる方、マスメディアに関心のある方に手に取っていただきたいと思います。

 

 ことしの年明け、このブログで「よく見て、よく聞いて、よく話す」と書きました。あらためて意識して実践していこうと思います。

※ 「よく見て、よく聞いて、よく話す」=2017年1月1日

 http://news-worker.hatenablog.com/entry/20170101/1483274423

【写真】埼玉県秩父市の秩父神社でいただいた「よく見て、よく聞いて、よく話す」の三猿のお守りは携帯電話に着けて持ち歩いています。「見ざる、聞かざる、言わざる」への戒めです。

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