「残業代ゼロ」容認を連合が撤回しても危惧は残る

 一部の専門職を労働時間規制の対象から外す新制度、いわゆる「残業代ゼロ」法案を含んだ労働基準法改正案を巡って連合は27日、中央執行委員会で、政府、財界との3者による修正合意を見送ることを決めました。連合の神津里季生会長は7月13日に安倍晋三首相と会談し、健康確保措置を強化するよう修正を要請。事実上、反対から容認に転じたとして、組織内から批判が出ていました。27日の中執委で、組織としても改正案に反対との原点回帰を確認したことになります。

※47news=共同通信「連合、『残業代ゼロ』容認撤回 政労使合意見送り」2017年7月27日

 https://this.kiji.is/263117756393457143 

 高収入の一部専門職を残業代支払いなど労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を含む労働基準法改正案の修正を巡り、連合は27日、札幌市内で臨時の中央執行委員会を開催。政労使での修正合意を見送り、新制度への事実上の容認姿勢を撤回すると決めた。

 神津里季生会長は同日午後に記者会見し「合意できる内容に至らなかった。理にかなった判断で政府との関係がおかしくなるとは思っていない」と述べ、見送りを正式表明した。

 委員会の出席者によると、神津会長は、執行部が政府に改正案修正を要請したことで組織内に混乱を招いたとして謝罪した。 

 しかし、いったんは政労のトップ会談で事実上の容認を公に打ち出してしまったことで、無視できない深刻な影響が出てくるのではないかと思います。菅義偉官房長官は27日の記者会見で「連合の修正要請を重く受け止める。責任を持って検討するスタンスに変わりはない」と表明したと報じられています。政労使の3者合意がなくても、安倍晋三政権は改正案を国会に出す構えです。その中に神津会長が安倍首相に要請した健康確保措置の強化が相当程度盛り込まれるとなれば、安倍政権にとっては改正案提出に「労働側の懸念にも配慮した内容になっている」とのある種の大義名分が加わります。 

 つまり、連合が「残業代ゼロ」法案反対の原点に戻ったとしても、言葉は悪いですが、政権によって体よくダシに使われたも同然です。神津会長が安倍首相に要請した事項が盛り込まれた場合、その当事者の下で本当に連合は反対を貫けるのでしょうか。連合がいったんはトップ会談に応じたことは、「残業代ゼロ」法案反対の観点から見れば、既に取り返しのつかない事態である可能性があるように思います。

 このブログの以前の記事(http://news-worker.hatenablog.com/entry/2017/07/24/002757)に書いた通り、わたしはとりわけ労働組合の組織運営の観点から、この問題を注視していました。報道によると、中執委の冒頭で神津会長と逢見直人事務局長が謝罪したとのことです。

※朝日デジタル「『残業代ゼロ』容認撤回、連合が決定 中執委で会長陳謝」=2017年7月27日

 http://www.asahi.com/articles/ASK7W35RMK7WULFA005.html 

 中執委の出席者によると、会議の冒頭、神津氏と逢見(おうみ)直人事務局長が「組織的混乱を招いた。みなさんに迷惑をかけて申し訳なかった」とそれぞれ陳謝した。執行部の責任を問う声は出なかったという。 

 しかし、問題は連合の組織内にとどまりません。連合が「残業代ゼロ法案」の事実上の容認に傾いたことに対し、7月19日には東京・神田駿河台の連合本部前で、100人ほどが集まって抗議集会が開かれました。朝日新聞は「連合傘下でない労組の関係者や市民らがツイッターなどで呼びかけたメッセージは『連合は勝手に労働者を代表するな』などのキーワードとともに拡散。参加者の多くはツイッターでデモの開催を知り、仕事帰りに集まったとみられる」と報じ、参加者の「労働者に囲まれ、デモまでされる労働組合とは一体何なのか。恥だと思ってほしい」「連合の一部の幹部だけが勝手に政府と交渉し、話を進めているように見える。一般の組合員は納得していないのではないか」との声を紹介しています。 

 連合へ働き手が異例のデモ 「残業代ゼロ、勝手に交渉」:朝日新聞デジタル

 神津会長と安倍首相の会談がどのような経緯で進められたのか、中執委で説明があったかどうかは定かではありません。トップ会談と言えば聞こえはいいですが、組織の討議と合意のないまま密室での「ボス交渉」があったとすれば、連合は信頼回復のためには、今回の一件についての責任の所在を自ら明確にするなど、よほどの覚悟が必要だろうと思います。以前の記事に書いた通り、万が一にも、交渉や争議の相手方との密会など、組合員に大っぴらに説明できないような行為があれば、それは労働組合の「結社の自由」「団結権」の価値をおとしめ、社会運動としての労働組合運動を危機にさらすからです。外部からは、今回の一件の経緯と責任があいまいなままのように思えます。

 このブログの以前の記事では、新聞各紙の関連の社説を紹介しました。今回は27日付京都新聞のコラム「凡語」を紹介します。「労働組合の組織原理は民主主義である。時間がかかってもみんなで議論して決める。トップダウンはありえない。なのに、連合は役員が『ボス交渉』に手を染めていた。組合員らが怒るのも無理はない」との指摘は同感です。

※京都新聞 「凡語」連合の迷走=2017年7月27日

 http://www.kyoto-np.co.jp/info/bongo/20170727_2.html

 一部を引用します。 

労働組合の中央組織「連合」が迷走している。「残業代ゼロ」法案に対する突然の方針転換がきっかけだ。事務局長らが政府高官とひそかに会って法案の一部修正で合意していた▼労働組合の組織原理は民主主義である。時間がかかってもみんなで議論して決める。トップダウンはありえない。なのに、連合は役員が「ボス交渉」に手を染めていた。組合員らが怒るのも無理はない▼過労死や残業代不払い、不安定雇用の増加など、働き方を巡る問題は深刻さを増している。「私は人間だ」という叫びは、現代日本にも共通する訴えではないか。連合幹部は政府高官と密談する前に、こうした声に耳を傾け一緒にデモ行進すべきだろう