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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

日米に冷静さ求める地方紙・ブロック紙~北朝鮮の核・ミサイル問題で挑発の応酬、不測の事態を危惧

 北朝鮮の核・ミサイル開発問題を巡って、米国と北朝鮮の間で激しい言葉の応酬が始まっています。気になる動きを、報道を元に備忘を兼ねて書きとめておきます。 

 ■「ロケットマン」「完全に破壊」「必要なのは対話でなく圧力」

 まずトランプ米大統領が19日夜(日本時間)、国連総会の一般討論で初となる演説を行いました。北朝鮮を激しく非難。その中で、北朝鮮が弾道ミサイルの発射実験を繰り返していることから、金正恩・朝鮮労働党委員長をやゆするかのように「ロケットマン」と呼び、「自殺行為を行っている」と述べました。また、北朝鮮の脅威により米国が自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなるとして、武力行使を警告しました。 スパイ教育のために海岸から13歳の日本人の少女を拉致したとも述べ、横田めぐみさんの拉致にも触れました。

 次に安倍晋三首相が21日未明(同)、一般討論演説をしました。北朝鮮の核実験と日本列島越えの弾道ミサイル発射を「脅威はかつてなく重大で、眼前に差し迫ったものだ」と強調。過去の対話の試みは「無に帰した」とした上で、核・ミサイル開発放棄のため「必要なのは対話ではなく、圧力だ」と訴えました。また日本人拉致問題も提起し、解決への決意を表明しました。

 「(核不拡散体制は)史上最も確信的な破壊者によって、深刻な打撃を受けようとしている」「対話とは、北朝鮮にとってわれわれを欺き、時間を稼ぐため最良の手段だった」など、相当に激しいもの言いは、トランプ大統領の言葉の激しさに通じるものがあるように感じます。

 ■「暴悪な宣戦布告」「超強硬対応措置」「米国の老いぼれ」

 トランプ大統領に対して北朝鮮は激しい反発を示しました。21日に金正恩委員長自身が国家の最高位とされる国務委員長名義で声明を発表。トランプ大統領の国連演説を「歴代最も暴悪な宣戦布告だ」と非難し「史上最高の超強硬対応措置の断行を慎重に考慮する」と表明しました。金委員長が自ら声明を発表したのは初めて。祖父や父の故金日成主席、故金正日総書記の統治時代にも、最高指導者名義の声明は出されたことがないとのことです。警告の強さを示しています。北朝鮮の李容浩(リ・ヨンホ)外相はニューヨークで記者団に対し「超強硬対応措置」は「水爆実験を太平洋上で行うこと」ではないかと述べました。
 このほか金委員長の声明は「わが国と人民の尊厳と名誉、そして私自身の全てを懸け、わが国の絶滅をわめいた米統帥権者の妄言に対する代価を必ず支払わせる。米国の老いぼれを必ず火で制御する」と威嚇。「完全に破壊する」との発言について「歴代どの米大統領からも聞かれなかった前代未聞の粗野なたわ言だ。世界に向かって言葉を発する時は、語彙を慎重に選んで相手を見てすべきだ」と述べました。トランプ大統領について「最高統帥権者として不適格で、政治家ではなく火遊びを楽しむならず者、ごろつきに違いない」とし、「(発言は)私を驚かせ立ち止まらせたのではなく選択した道が正しく最後まで進むべき道であると確証させた」と述べ、核・ミサイル開発を続ける姿勢を示したと報じられています。

 ※以上の報道内容は共同通信の新聞用配信記事を元にしました。

 双方の相手方への罵倒は続いているようです。

※産経ニュース「トランプ氏、また金正恩氏を揶揄『チビのロケットマン』『あちこちにミサイル発射、のさばらせない』」=2017年9月23日

www.sankei.com 

  【ワシントン=黒瀬悦成】トランプ米大統領は22日、南部アラバマ州での集会で演説し、核実験や弾道ミサイル発射を繰り返す北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長を「チビのロケットマン」と呼び、「あちこちにミサイルを発射する狂った男をのさばらせるわけにはいかない」と述べた。 

※朝日新聞デジタル「北朝鮮、トランプ氏ののしる集会 ごろつき・老いぼれ…」=2017年9月23日

www.asahi.com 

 北朝鮮で22日、金正恩朝鮮労働党委員長によるトランプ米大統領を批判した声明を受け、党や軍の幹部らが相次いで決起集会を開いた。23日付の労働新聞(電子版)などが伝えた。参加者らは、トランプ氏を様々な表現でののしり、結束を確認した。 

 ■罵倒し合う大統領と独裁者

 国連を舞台に制裁が決議されても核・ミサイル開発をやめようとしない北朝鮮が批判を受けるのは当然ですし、肝腎なのは北朝鮮に核・ミサイル開発を断念させることです。仮に太平洋上で水爆実験を強行したりしようものなら、人類全体に対する犯罪行為として指弾を受け、責任を追及されるべきでしょう。

 北朝鮮に非があることは疑いがないのですが、そのことと、北朝鮮に核と弾道ミサイルをどうやって手放させるかは別の問題であるように思います。軍事力では北朝鮮をはるかに凌駕する米国の大統領が、国連での演説で「ロケットマン」と相手を茶化すように呼び、武力行使を示唆して恫喝することには違和感を覚えます。現に金正恩委員長はこれを「宣戦布告」ととらえ、「火遊びを楽しむならず者、ごろつき」と言い返しています。大統領と独裁者が直接、相手を名指しして罵倒し、激しい言葉の応酬を繰り返すことは、単に子どもじみていると言うにとどまらず、結果的には挑発の応酬となって、相手の真意や出方を読み損ねることになり、不測の事態を引き起こす危険性が高まることになるのではないかと危惧します。

 武力行使を避けて問題を解決しようとするなら、将来、いずれは北朝鮮を交渉のテーブルに着かせなければなりません。しかし、非難と言うよりも罵詈雑言に近い言葉の応酬が続くようでは、対話と交渉は遠のくばかりのように思えます。トランプ大統領が自国では不人気で、しかも元来、国連には批判的とされ、国際協調にも消極的とされるだけになおさらです。

 この問題をどのように考えればいいのかの一助として、この数日間の応酬について新聞各紙の社説がどんな風に論評しているのかを、ネット上で分かる範囲で見てみました。全国紙の関連の社説の見出しと各紙のサイトへのリンクを書きとめておきます(リンクはいずれ切れます)。

▼朝日新聞

・9月23日「対北朝鮮政策 圧力は手段にすぎない」

http://www.asahi.com/articles/DA3S13146830.html?ref=editorial_backnumber

▼毎日新聞

・9月23日「日米韓の対北朝鮮政策 中露との連携を深めねば」

https://mainichi.jp/articles/20170923/ddm/005/070/042000c

・9月21日「トランプ大統領の国連演説 北朝鮮は考え直すときだ」

https://mainichi.jp/articles/20170921/ddm/005/070/027000c

▼読売新聞

・9月23日「日米韓首脳会談 対『北』人道支援は見合わせよ」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170922-OYT1T50108.html

・9月22日「首相国連演説 対『北』圧力で各国と連帯せよ」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170921-OYT1T50118.html

・9月21日「トランプ演説 北朝鮮の非道を世界に訴えた」

http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20170920-OYT1T50176.html

▼日経新聞

・9月23日「北朝鮮の封じ込めへ日米韓は全力尽くせ」

https://www.nikkei.com/article/DGXKZO21463210S7A920C1EA1000/

▼産経新聞

・9月23日「『洋上で水爆実験』 圧力貫徹し恫喝を封じよ」

http://www.sankei.com/column/news/170923/clm1709230003-n1.html

・9月22日「首相の対北演説 日本は圧力の先頭に立て」

http://www.sankei.com/column/news/170922/clm1709220001-n1.html

・9月21日「トランプ国連演説 北の核阻止へ決意みせた」

http://www.sankei.com/column/news/170921/clm1709210001-n1.html

 読売新聞や産経新聞が、北朝鮮問題についてはトランプ大統領や安倍首相の強硬な演説を是とする一方で、朝日新聞は「危機をあおることなく、事態を改善する外交力こそ問われているのに、日米首脳の言動は冷静さを欠いている」「当事者であるトランプ米大統領と安倍首相の強硬ぶりは突出し、平和的な解決をめざすべき国連外交の場に異様な空気をもたらした」などと指摘しています。

 毎日新聞は9月21日付の社説「トランプ大統領の国連演説 北朝鮮は考え直すときだ」で「『全面的破壊』には会場に驚きが広がった。穏やかじゃない。乱暴だ。そう思った人も多いだろう」としつつ「無論、軍事行動など誰も望まない。だが、北朝鮮が国際世論も安保理決議も無視して挑発的な言動を続ける限り、軍事オプションがますます現実味を帯びてしまう」「国連に批判的なトランプ氏が総会で一致団結を呼びかけたのは皮肉な感じもするが、北朝鮮は『自滅への道』を歩んでいるという見方も含めてトランプ氏の指摘は正しい」などと、トランプ大統領の演説を評価しました。

 地方紙・ブロック紙は、目に付く限りでは、トランプ大統領や安倍首相に冷静さを求める主張が大勢のように感じます。特に安倍首相に対しては、強硬な物言いは衆院選を意識してのことではないか、との見方と批判が目立ちます。

 以下に、見出しとリンク先を書きとめ、印象に残った部分を引用して紹介します。

【9月23日付】

▼北海道新聞「日米と北朝鮮 非難だけでは解決せぬ」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/134007?rct=c_editorial 

 双方が言葉の限りを尽くしてののしり合う非難の応酬は、一触即発の懸念を強めるだけだ。

 トランプ氏に追随するかのように、安倍晋三首相も演説で「対話による問題解決の試みは無に帰した」と対話を全面否定した。

 「対話とは北朝鮮にとってわれわれを欺き、時間を稼ぐための最良の手段」だったと言う。

 北朝鮮が、対話による解決を期待する国際社会を裏切り続けてきたのは紛れもない事実である。

 だが解決の「出口」を考えたとき、武力行使による決着はあり得ない。圧力強化は交渉による解決へ導くための手段にすぎない。

 圧力自体を目的化するかのような首相の姿勢に、国内の強硬世論をあおり、衆院選を有利に運ぶ思惑があるとしたら容認できない。 

▼中日新聞・東京新聞「北朝鮮と日米韓 軍事衝突防止に総力を」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092302000142.html

 トランプ政権の高官らは軍事攻撃から対話まで異なる趣旨の発言をしているが、大統領自身の感情的な言い方が最も危うい。米朝双方が相手の意図と行動を読み誤る危険性が増したと、深刻に受け止めざるを得ない。

(中略)

 核、ミサイルを議題とする本格的な米朝交渉は現段階では難しいとみられる。しかし、国連代表部を置くニューヨークで高官レベルの接触はできる。双方の考えを正確につかみ誤解を解くためにも必要なことだ。

 安倍晋三首相は総会演説で「対話は無に帰した」と断言したが、軍事衝突を防ぐためにも日米韓が結束し、中国とロシアにも働きかけて北朝鮮を交渉の席に着かせる努力が欠かせない。

 ▼神戸新聞「北朝鮮への非難/解決に程遠い言葉の応酬」

https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201709/0010579283.shtml

  トランプ氏は演説の中で「(北朝鮮は)13歳の日本人の少女を拉致した」と批判した。横田めぐみさんを指している。国際社会に拉致問題をアピールしたのは確かだが、ののしるような演説が北朝鮮を必要以上に刺激すれば、問題の解決にはつながらないのではないか。

(中略)

 一方で、事態打開に向けたメッセージが欧州の首脳から相次いで発信されている。

 フランスのマクロン大統領は、北朝鮮の核問題は多国間の話し合いで解決すべきだと指摘した。またドイツのメルケル首相も「交渉参加の要請があれば即座に応じる」と述べている。

 日米韓中ロの関係国に加え、国際社会が連携して事態解決を図る手法も模索するべきだ。

 ▼山陽新聞「日米韓首脳会談 問われる核放棄への戦略」

http://www.sanyonews.jp/article/601955/1/?rct=shasetsu

 ただ忘れてならないのは、問題は武力でなく、外交手段でしか解決できないということだ。ひとたび米朝で衝突が起きれば、日本と韓国は甚大な被害を免れない。日本政府が最優先課題とする拉致被害者の救出も難しくなろう。

 国連でトランプ氏が、米国や同盟国が防衛を迫られれば「北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告したのに対し、「歴代最も暴悪な宣戦布告だ」と金委員長は反発した。北朝鮮外相は水爆実験を太平洋上で行うことをほのめかしたりしている。過激な言葉の応酬は不測の事態を招く恐れもある。

 北朝鮮がこれまで、対話の姿勢をにおわせながら核開発をしてきたのは事実だ。制裁の効果が生じてくれば、情勢が一層緊迫化する可能性もある。だが外交手段を使った国際圧力で孤立させ、核放棄につなげる大原則はあくまで逸脱しないよう求めたい。

 圧力の先に対話による打開の糸口をどう探るか。外交戦略こそ問われてこよう。

 気がかりなのは、こうした大切な時期に、安倍首相が衆院解散・総選挙に踏み切ろうとしていることだ。国連では各国に結束を呼び掛け、国内ではおよそ1カ月間の「政治空白」をつくる。国民の理解は得られるだろうか。

 自民党は政権公約に北朝鮮対応を盛り込み、安倍首相の危機管理能力をアピールするようだが、解散戦略と絡めるのには違和感が拭えない。

 ▼熊本日日新聞「北朝鮮対応 外交含めた総合的戦略を」

http://kumanichi.com/syasetsu/kiji/20170923001.xhtml 

 安倍首相は、トランプ大統領、文在寅[ムンジェイン]韓国大統領と3カ国首脳会談を開催。北朝鮮に政策を変更させるため、結束して最大限の圧力をかける方針で一致した。しかし、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域の平和と安定を確立するには、北朝鮮を対話の場に引き出さなければならない。それには圧力強化とともに外交の力も問われよう。総合的な戦略が求められる。

 安倍首相の演説は、大半を北朝鮮問題に割く異例の内容で、過去の対話を否定し、窓口を閉ざすような発言があった。核開発凍結などを定めた1994年の「米朝枠組み合意」や2000年代初めの6カ国協議に関し、「われわれを欺き時間を稼ぐための手段だった」「対話による問題解決の試みは無に帰した」と断じ、「必要なのは対話ではない。圧力だ」と強調した。

 確かに、北朝鮮が対話の場に着くだけで見返りを要求し、その一方で核・ミサイル開発を続けてきた経緯はある。しかし、それでも対話の道を用意しておくことは必要ではないか。

 特に日本には、北朝鮮との対話を通してしか解決が難しい拉致問題がある。安倍首相は先日、東京都内で開かれた拉致国民大集会で「被害者の帰国へ全力を尽くす」と訴えたが、情勢が緊迫化すればするほど解決は遠のいていく。

 また、安倍首相は国連で、北朝鮮の脅威はかつてなく重大で眼前に差し迫ったものとも述べ、国際的な結束を呼び掛けた。その一方で、帰国直後に衆院を解散し、「政治空白」をつくることに各国の理解は得られるだろうか。今は外交努力に専念する時であり、解散・総選挙に疑問は尽きない。 

 【9月22日付】

▼東奥日報「打開への戦略はあるか/対北朝鮮 首相国連演説」

http://www.toonippo.co.jp/shasetsu/20170922028960.asp

▼信濃毎日新聞「首相国連演説 『圧力』の先が見えない」

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170922/KT170921ETI090007000.php 

 6回目の核実験を受け、国連安全保障理事会は石油供給の制限を柱とする制裁決議を採択した。実効性を伴うよう、各国に履行を呼び掛けるのは当然である。問題はその先だ。北朝鮮に政策を変えさせると首相は言うものの、具体策には言及していない。
 拉致問題も同様だ。「一日も早く祖国の土を踏み、父や母、家族と抱き合うことができる日が来るよう、全力を尽くしていく」とするにとどまる。対話なしにどう解決しようというのか。
 首相は、北朝鮮対応で米国の立場を支持することも改めて表明している。トランプ氏は国連演説で自国や同盟国の防衛を迫られれば北朝鮮を「完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と警告した。激しい言葉の応酬は抜き差しならぬ状況を招きかねない。
 圧力一辺倒でなく、対話の糸口を探ることこそ日本の役割ではないか。外交の真価が問われる。首相は政府の考え方を国会で説明するのが筋だ。北朝鮮対応の点でも衆院を解散する大義は見いだせない。改めて異を唱えたい。 

▼新潟日報「北朝鮮対応 平和解決の原則忘れるな」

http://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20170922347563.html 

 内外から北朝鮮を刺激するとの懸念が出ている。過度に圧力に傾斜する姿勢には疑問がある。あくまでも平和的な解決が最優先であることを忘れてはならない。

(中略)

 気がかりなのは、首相が「全ての選択肢はテーブルの上にあるとする米国の立場を一貫して支持する」と演説したことだ。北への強硬姿勢のアピールが解散総選挙を意識したものだとしたら筋違いだと言わざるを得ない。 

▼福井新聞「首相の国連演説 緊張あおりながら解散か」

http://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/240975 

 非難の応酬が緊張感を一層高め、不測の事態へと発展する懸念も捨てきれない。とりわけトランプ氏が発した「自国や同盟国の防衛を迫られれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」は、体制維持を強化する金政権にとっては最大級の警告に映ったのではないか。

 石油の上限規制や繊維製品の輸出禁止など安保理の制裁決議がじわじわ効果を見せ始めているとの観測があるが、実際には数カ月以上かかるとの見方もある。その間、情勢は緊迫の一途をたどる。日米韓合同の弾道ミサイル防衛訓練が予定され、米国は空母を中心とした艦隊を朝鮮半島周辺に向かわせる見通しだ。偶発的な軍事衝突を引き起こす可能性も否定できない。

 日本や韓国にとっては、軍事衝突が全面戦争の引き金になることを最も恐れる。安倍政権は日米韓の連携の深まりや、国際的包囲網構築への貢献などで危機管理能力の高さを示す狙いだろうが、圧力一辺倒に危うさを感じている国民も少なくないはずだ。

 県内でも弾道ミサイル発射を受け、県漁連が県に発射阻止や連絡体制の構築などを国に強く働き掛けるよう求めた。また西川一誠知事が小野寺五典防衛相に、原発の防御や自衛隊の基地整備などを緊急要請した。

 国民、県民が求めるのは、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域に平和と安定をもたらすこと以外にない。そのためには北朝鮮を対話の場につかせるしかない。問われるのは外交力だ。今は外交努力に専念する時であり、現段階での総選挙には疑問符がつく。それでも解散するなら、首相は外交的解決に向けた道筋を示すべきだ。 

▼京都新聞「国連総会演説  大国らしい言葉遣いを」

http://www.kyoto-np.co.jp/info/syasetsu/20170922_4.html 

 それにしても、「完全破壊」とは穏当ではない。「ロケットマン」は、ツイッターならまだしも、国連で発するのはいかがか。

 北朝鮮も国営メディアで挑発的な言葉を発し続けている。だが、世界最強の国の指導者が同じレベルに立つ必要はない。

 荒っぽい言葉は関係国の人々の心理にも影響する。言葉の応酬が偶発的な武力衝突を招かないか。ドイツのメルケル首相が「この類いの威嚇には反対だ」と述べるなど、各国から懸念の声が上がっている。

 トランプ氏はイランに対しても「残忍な体制」と批判した。その上で、米欧ロなどとイランが2015年に締結した核合意を「最悪の一方的な取引」と破棄を示唆した。

 イラン核合意は、原油禁輸や金融制裁などの圧力を強めた結果、イランも一定の譲歩を行った側面がある。米国もそれを主導した。

 北朝鮮に対し国際社会の求めに従うべきというなら、イラン核合意も尊重すべきではないか。 

▼山陰中央新報「首相の国連演説/対話の道も残すべきだ」

http://www.sanin-chuo.co.jp/www/contents/1506044167705/index.html

▼佐賀新聞「首相の国連演説 打開の戦略はあるか」

http://www.saga-s.co.jp/column/ronsetsu/465443 

 ただ、目指すべき目標は、北朝鮮に核・ミサイル開発を放棄させ、朝鮮半島を非核化し、地域の平和と安定を確立することだ。そのためには北朝鮮を対話の場に引き入れなければならない。圧力強化の一方で、北朝鮮を動かす打開への戦略はあるのか。平和的解決に向け、外交の力が問われている。

 首相の演説は、大半を北朝鮮問題に割く異例の内容となった。気になる点を三つ挙げたい。

 一つ目は、従来以上に米国の軍事的オプションを支持する姿勢を打ち出した点だ。(中略)

 二つ目は、過去の対話を否定し、窓口を閉ざすような発言だ。(中略)

 三つ目は、国内政治との整合性だ。首相は対北朝鮮での国際的な結束を国連で呼び掛けた。その帰国直後に衆院を解散し、日本が「政治空白」をつくることに各国の理解は得られるだろうか。

※署名は共同通信 

【9月21日付】 

▼北海道新聞「トランプ氏演説 『北』との対立深めるな」

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/133478?rct=c_editorial 

 トランプ氏の言葉に踊らされず、慎重な対応が求められる。

 こうした中、危うさを感じるのが、安倍晋三首相の言動である。

 安倍氏は今週、米ニューヨーク・タイムズ紙に寄稿し「北朝鮮と対話しても行き詰まる」との見方を示した。その上で「すべての選択肢がテーブルにある」との米国の立場を全面的に支持している。

 これでは軍事行動も支持しているようではないか。安倍氏は米国に追従するのではなく、トランプ氏に対話を促す責務がある。 

▼信濃毎日新聞「トランプ演説 国際協調へ軸足を移せ」

http://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20170921/KT170920ETI090003000.php 

 北朝鮮に対しては、世界に脅威を与えているとの認識を示し、核やミサイル開発の放棄を強く迫った。自国民を弾圧したり、横田めぐみさんを念頭に日本人少女を拉致したりしてきた、などと非道ぶりを訴えている。

その通りである。だからこそ国際社会は連携を深め、対処しなくてはならないはずだ。

 なのに、トランプ氏はまたも不安をまき散らした。言葉が乱暴で一方的だったからだ。米国や同盟国の防衛を迫られれば「北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と語ったときには、議場からざわめきが起きた。

 トランプ氏にリーダーシップを取らせれば、武力衝突に発展しかねない―。こんな不安を抱いた国が多かったのではないか。各国首脳に説得力ある言葉で解決への決意と結束を訴えなくては、事態が好転するはずがない。 

▼中日新聞・東京新聞「トランプ氏演説 脅して何を得るのか」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2017092102000145.html 

 敵と味方を峻別して社会の分断を深める手法は、外交姿勢でも同じようだ。トランプ米大統領の初の国連演説は、敵と見なす国への敵意と脅しに満ちていた。これでは世界を不安定化させるだけだ。

 トランプ氏は北朝鮮とイラン、ベネズエラを「ならず者国家」と呼んだ。北朝鮮に対しては「米国や同盟国の防衛を迫られる事態になれば、北朝鮮を完全に破壊するしか選択肢はない」と最大限の脅しを利かした。

 これに先立って登壇したグテレス国連事務総長は北朝鮮の核・ミサイル問題に絡んで「激しい言葉のぶつけ合いは致命的な誤解につながる危険がある」と警告を発したばかりだった。

 トランプ氏と金正恩朝鮮労働党委員長の予測不能な両トップによる威嚇の応酬は、不測の事態を招きかねない。 

▼西日本新聞「トランプ氏演説 『協調主義』へかじを取れ」

https://www.nishinippon.co.jp/nnp/syasetu/article/360215/ 

 トランプ氏が国連総会の場で、北朝鮮の核・ミサイルの脅威をアピールしたのは、国連加盟国が北朝鮮の危険性に対する認識を高める上で大きな意味を持つ。拉致問題に言及して国際社会の関心を喚起したことも、日本にとってありがたい側面支援といえよう。

 ただ、米国が今後どれだけ北朝鮮問題で世界をリードできるかは不透明である。トランプ氏は北朝鮮に対する加盟国の一致した対応を呼び掛けたが、その一方で当のトランプ氏が国連の役割や国際協調主義を軽視する言動を繰り返してきた矛盾があるからだ。

 トランプ氏は大統領就任前、国連について「おしゃべりして過ごす仲良しクラブ」とツイッターで発信し、就任後も米国の国連拠出金の削減を主張している。地球温暖化防止の国際的な枠組み「パリ協定」からの離脱も表明した。

 北朝鮮のミサイル開発が進み、米国への脅威が増したことで、トランプ氏は北朝鮮包囲網の形成に迫られ、国際連携の重要性を訴え始めたのだろうが、これでは「ご都合主義」との批判を免れない。 

▼南日本新聞「[トランプ氏演説] 外交の理念が見えない」

http://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=87165  

 トランプ氏は北朝鮮の脅威が強まれば「完全に破壊するしか選択肢がなくなる」と述べ、「ロケットマンの金正恩氏は自殺行為をしている」と批判した。異例の強い表現に、議場からざわめきが起きる場面もあった。

 北朝鮮の軍事強化路線が常軌を逸しているのは確かだ。だが、挑発に威嚇で応えるような態度は、国際社会のリーダーとしての振る舞いとはいえまい。 

 

 北朝鮮問題では、河野太郎外相のこんな発言もあります。

※産経ニュース「対北断交160カ国に要求 河野太郎外相、米コロンビア大で講演 北のICBM『ニューヨークにも到達可能な技術の開発推進』」=2017年9月22日

www.sankei.com 

【ニューヨーク=杉本康士】訪米中の河野太郎外相は21日夕(日本時間22日午前)、ニューヨーク市内のコロンビア大で講演し、核・ミサイル開発を進める北朝鮮と国交を結ぶ国が160カ国以上あるとした上で、「外交関係・経済関係を絶つよう強く要求する」と断交を求めた。北朝鮮に対しては「対話のための対話を行うときではない。圧力を最大限強化すべき局面だ」と述べた。 講演は河野氏の希望で同大学で行い、大学関係者や学生らを前に行った。 

 国交があるから働きかけもできるはずです。そもそも朝鮮戦争の当事者であり、朝鮮半島に軍を駐留させる米国と、その軍事同盟国を自認して一体化を志向する日本とは、他国は北朝鮮との向き合い方が異なっていてもむしろ当然だと思います。国連を舞台にした制裁の履行を呼びかけるのはともかく、他国の外交にまで口を挟むとは、何を考えているのか理解できません。