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非自民・非希望の「第3極」が存在感を持つことの意義~「大連立」の近未来と有権者の選択肢

  衆議院が9月28日、解散されました。10月10日公示、22日投開票で衆院選が実施されます。

 安倍晋三首相は25日の記者会見で、「少子高齢化」と「緊迫する北朝鮮情勢」を「国難」と呼び、この解散を「国難突破解散」と名付けていました。それに対して「大義なき解散」との批判が巻き起こっていますが、同日、小池百合子・東京都知事を代表とする新党「希望の党」が立ち上がり、民進党が解散当日、立候補予定者のうち希望者は希望の党に公認を申請することを決定するに及んで、安倍政権の継続か、希望の党が議席の過半数を占めて政権交代に進むのかに、社会の関心も新聞やテレビの報道の重点も移ってきているように感じます。政権交代を問う選挙になるには、当面は民進党からだれが、計何人ぐらいが希望の党の公認を得られるのかが焦点です。希望の党の独自候補も合わせて、仮に議席の過半数を超える候補者を立てることが固まるとすれば、では首相候補はだれなのかが問われます。小池氏が衆院選に出馬するかどうかは、そこに大きく関わってきます。

 東京発行の新聞各紙は、28日夕刊に続き、29日付朝刊でも衆院解散を大きく報じました。

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 「自民vs希望」のとらえ方が主流のようです。「政権選択」を見出しに取ったのは毎日新聞、読売新聞、東京新聞でした(東京新聞は「政権選択色」と「色」を付けています)。もともと小選挙区で1人の当選者を決める衆院選は、政権選択のための選挙だと言われます。ただ今回は、安倍晋三首相が解散を決めた際には、自らの信任投票だと考えていただろうと思いますし、実際に民進党出身者も含めて希望の党の候補者がどれぐらいの数になるのか、仮に政権を取った場合の首相候補は誰なのかがはっきりしなければ、有権者から見て政権選択とは言えません。それでも、政権選択が建前でなく実態としても近付いてきていると感じるのは事実であり、そうした判断からの「政権選択」の見出ししょう。
 ただ、今は話題にもなっていないようですが、私は危惧していることがあります。選挙の結果によっては、具体的に言えば、双方が過半数を取れなかった時には、自民と希望の大連立がありうるのではないかということです。

 希望の党は、自公政権との対決軸の公約として、消費増税の凍結や「原発ゼロ」を掲げると報じられています。ただその余の主要な政治課題については、小池百合子氏と安倍自民党の志向に大きな違いはないように感じます。特に、小池氏は、民進党出身者を公認候補者に受け入れるかどうかの判断基準として、憲法と安全保障を挙げており、小池氏の過去の言動などに照らすと、憲法改正や日米同盟強化などは安倍自民党と大きな差はないように思います。もともと安倍首相は解散に際して「国難」と言っており、国難には「挙国一致」で当たるべきだ、などと言い出す可能性はないのでしょうか。仮に、そうやって自民―希望主導による大連立政権が立ち上がれば憲法改正へまっしぐらに進む道が開けます。「大連立」は、憲法改正の発議に必要な衆参両院の議席数の「3分の2」を巡っても、将来の選択肢に浮上する可能性があるのではないかと思います。

 そういう近未来も頭のどこかに入れておくなら、この選挙では「非自民」「非希望」の選択肢がとても重要になると感じます。具体的には共産党・社民党であり、希望の党に合流しない民進系の候補を含めた共闘関係です。

 民進党の党内討議では、前原誠司代表は民進党の候補全員で希望の党に行くのだ、と強調しましたが、29日になって小池百合子氏は、「安全保障や憲法観といった根幹部分で一致するのが必要最低限だ」とし、政策や理念が合わなければ「排除する」と述べました。前原氏と小池氏の主張のこの乖離はひとまず置くとして、民進党のリベラル系の候補予定者の中からは、無所属での出馬を検討する動きも伝わってくるようになり、民進党の枝野幸男代表代行は考え方の近い前議員らとの新党結成も視野に入れているとの報道もあります。

※47news「小池氏、憲法・安保で選別 枝野氏は無所属、新党視野」2017年9月30日

this.kiji.is

 今回の衆院選では、共産、社民、「非希望」の民進系など、仮に名づけるなら「第3極」が有権者の選択肢として存在感を持つことが極めて重要だろうと感じます。

 そういう目で29日付の各紙の朝刊紙面をあらためて眺めてみると、かろうじて朝日が見出しに「自公」と「希望」と「共産ほか」を並べて入れているだけです。

 公示日の10月10日まで、希望の党の公認候補を巡って慌ただしい動きが続くことが予想され、とりわけ小池氏の動向は「小池劇場」と呼んでもいいほどに大きく報じられることが容易に予想されます。それはそれで社会の関心が高く、マスメディアとしては報じないわけにはいかないテーマです。しかし、小池劇場と「自民vs希望」対決に収れんさせるのではなく、第3極の動きについても、候補擁立から公示後の選挙戦に至るまで、丁寧に報じるべきです。この選挙のマスメディアの報道を巡る論点の一つだと思います。 

 

 以下に備忘を兼ねた記録として、東京発行の新聞各紙の29日付朝刊1面の主な記事、政治部長や論説委員らの署名評論、社説のそれぞれの見出しを書きとめておきます。 

【朝日新聞】
1面トップ「安倍政治5年 問う/自公vs希望vs共産など/衆院解散10月22日投開票/小池氏の出馬も焦点」
1面「民進、事実上解党へ/両院議員総会 希望との合流了承
1面「『対抗軸』姿は見えた」佐古浩敏・政治部長
社説「衆院選 解散、与野党論戦へ 『権力ゲーム』でいいのか」政党政治の危機/政権は二の次か/『1強政治』への審判

【毎日新聞】
1面トップ「衆院解散 総選挙/自民vs希望 政権選択/来月10日公示 22日投開票」
1面「民進、希望と合流/前原代表『名を捨て実取る』」
1面「おごりが生んだカオス」古賀攻・論説委員長
社説「日本の岐路 衆院解散・総選挙へ 『安倍1強』の是非を問う」憲法改正の行方に直結/批判の受け皿は必要だ

【読売新聞】
1面トップ「自公と希望 激突/衆院解散 総選挙/首相、5年の実績強調/10・22政権選択」
1面「民進、希望へ合流了承」
1面「政党政治の否定だ」前木理一郎・政治部長
社説「衆院解散 安倍政権の継続が最大争点に 政治不信招く民進の『希望』合流」呆れた『実を取る』発言/首相候補を事前に示せ/北朝鮮警戒は怠れない

【日経新聞】
1面トップ「安倍vs小池 号砲h/衆院解散、来月22日投開票」
1面「小池氏 政権奪取/首相『看板替えた党』批判」」
1面「民進、希望に合流支配/小池氏は『合流と考えない』」
社説「野党は『希望の党』結集で何を目指すのか」

【産経新聞】
1面トップ「民進『解党』なのに高揚/衆院解散/1025人立候補予定/小池氏は出馬否定/10月10日公示、22日投開票」
1面「首相『丸ごと合流に驚き』/民進・希望と対決姿勢」
1面「『反安倍』結束/首相によぎる悪夢」※3面に続く
社説(「主張」)「衆院解散 現実的な『選択肢』示せ 大衆迎合で危機は乗り切れぬ」国難への回答避けるな/首相指名はだれなのか

【東京新聞】
1面トップ「衆院解散 来月22日投開票/前原氏『名捨て実取る』/小池氏『一人一人検討』/民進、希望へ合流了承/強まる政権選択色」
1面「『森友』『加計』も争点」
1面「3知事、政権交代へ連携/東京 愛知 大阪/共通政策発表へ」
社説「10・22衆院選へ 混迷の中に光明を」/「安倍政治」問う選挙/「小池人気」にすがる/未来を決める可能性