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憲法尊重擁護の自覚ない「政策協定書」~「希望の党」が民進出身者に迫った「踏み絵」

  小池百合子・東京都知事が代表の「希望の党」による民進党出身者の公認問題は、憲法改正や安保法制是認を掲げる「希望の党」への合流を拒否する枝野幸男・民進党代表代行らが新党「立憲民主党」を結成し、民進党の分裂に至りました。立憲民進党は野党4党(民進、共産、社民、自由) 合意を継承して共産、社民両党との共闘を進めるようで、マスメディアの報道もここに来て、「自民党・公明党」「希望の党・日本維新の会」に加えて「立憲民主党・共産党・社民党ほか」の3極構造との報道でそろいました。自民党と希望の党、安倍晋三首相と小池百合子代表は憲法改正を始めとして、政治的志向は底流を同じくする部分が多く、両党で「二大政党制」と言うにはなはだ疑問を感じます。そうしたことから、衆院選では第3極の選択肢があることが有権者にとっては重要だと考えていました。結果的には、立憲民主党の結党によって、マスメディアも第3極に相応の力点を置いて報道するようです。

 民進党の分裂に際して違和感を禁じ得ないのは、希望の党が、衆院選で公認を申請した民進党出身者に署名を求めた「政策協定書」です。共同通信の出稿によると、全10項目のポイントは次の通りです。 

 一、党の綱領を支持し「寛容な改革保守政党」を目指す。
 一、安全保障法制は憲法にのっとり適切に運用し、不断の見直しを行う。現実的な安保政策を支持。
 一、税金の有効活用(ワイズ・スペンディング)を徹底。
 一、憲法改正を支持。
 一、消費税10%への引き上げを凍結。
 一、外国人への地方参政権付与に反対。
 一、政党支部での企業団体献金受け取り禁止。
 一、党公約を順守。
 一、党に資金を提供。
 一、党が選挙協力協定を交わした政党への批判禁止。 

 10月4日付の東京発行新聞各紙の朝刊でも、この「政策協定書」を取り上げた記事がいくつも目に付きました。

・朝日新聞:社会面トップ「『希望10カ条』のめぬ民進組/党へ資金提供『違和感』■安保・改憲『踏み絵だ』/不参加相次ぐ」※民進党から立候補予定だった新顔、元職、前職らの声を紹介

・毎日新聞:第2社会面「希望『多様性』に矛盾/『外国人参政権反対』踏み絵」※小池代表が「寛容な保守」「ダイバーシティー(多様性)社会」を掲げていることと、外国人への地方参政権付与への反対は矛盾しないか、と提起

・読売新聞:3面(総合面)「安保『踏み絵』弱める/政策協定書 理念・政策にブレ」※政策協定書のうち、安全保障法制を巡る表現が、「違憲」として法案反対に回った民進側の激しい抵抗で、大幅に修正されたことに対し、与党側の批判を紹介

・東京新聞:1面「民進出身者に『踏み絵』10項目/安保法、改憲支持、党に資金提供」※政策協定書の概要を紹介し「希望への合流をトップダウンで決められた後に、署名を求められては追認するしかない。異様な感じがする」との上智大・中野晃一教授のコメントを紹介

 記事と見出しはいずれも批判的なトーンです。各紙がそろって見出しに「踏み絵」を取ったように、実態としては安保法制や憲法改正に賛同しない人物をふるい落とすためのもので、民進党の前原誠司代表が当初、「全員で希望の党へ」と訴えていたことを考えれば、違和感の大きさは相当なものです。

 わたしがこの「政策協定書」の中で特に疑問に思うのは、憲法改正への支持を求めている項目です。憲法自体に改正の規定があるので改憲を主張することはいいとしても、一方で憲法99条は国会議員を含む公務員に、憲法に対する尊重擁護の義務を課しています。この2点を総合的に考えるなら、憲法を改正するにも限界はあり、憲法の基本原則が変わるようなことを国会議員は主張してはならない、ということだろうと思います。国会議員を生む母体の公党も同様です。例えば、国会議員やその議員が所属する政党が、この憲法の有効性を認めず、自主憲法制定を訴えるならば、その訴えも議員も政党もみな憲法違反でしょう。

 そうであるのに、何の留保もなく、憲法のどの部分をどんな風に変えようというのか、一切の説明がないままに「憲法改正を支持」と求め、また求められた側も異議なく署名してしまうとは、一体どういうことなのでしょうか。公党としても、国会議員ないしは議員になろうとする者としても、憲法99条の尊重擁護の義務の自覚を著しく欠いていると言わざるを得ません。そのこと自体で、憲法違反の疑いがあるといっても過言ではないと考えます。

 衆院選の論戦を巡っては、マスメディアはこの憲法99条をも踏まえて、各党や候補者の主張をチェックし、有権者に提示していくべきだろうと思います。 

 

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