「核廃絶、ICANにノーベル平和賞」のニュースバリュー

 ことし2017年のノーベル平和賞は、国際非政府組織(NGO)の「核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN=読みは『アイキャン』)」に授与することをノルウェーのノーベル賞委員会が10月6日、発表しました。共同通信の配信記事によると、「授賞理由で、核兵器を史上初めて非合法化する核兵器禁止条約の制定に向け『革新的な努力』を尽くしたと指摘。広島や長崎の被爆者と連携し、核の非人道性を訴える活動を評価した」とのことです。
 核兵器禁止条約の制定に当たっては、広島、長崎の被爆者が原爆による惨禍の実相を訴え、核廃絶を求めて声を上げ続けてきたことが大きく寄与してきたのはまぎれもない事実です。その意味では、授賞の栄誉は被爆者に捧げられるにも等しいと思います。ICANにはピースボートを始め、日本の団体も参加しています。ノーベル平和賞という賞とその受賞者は国際社会で敬意を払われていることを考え合わせれば、ICANの受賞決定は、日本社会にとっても最重要の大きなニュースだと思います。

 この知らせに対し、日本政府は公式にコメントしませんでした。核兵器禁止条約に対しては、日本政府はかねて「核保有国と非保有国の間に分断が生じている」「日本は核保有国と非保有国の仲立ちをする。核廃絶を求める立場だが、アプローチが異なる」といった趣旨の主張をし、条約には参加していません。一方で、日米安保条約により米国の核の傘にとどまり続け、近年は北朝鮮の核・ミサイル開発などに対抗するためとして、米軍と自衛隊の一体化を進めているのが実情です。核廃絶に向けた独自のアプローチと言われても、実態も成果も見えません。そうした中では、NGOの平和賞受賞決定にコメントしようにも、何をどう言えばいいのか語る言葉が日本政府にはないのが実情なのかもしれないと感じます。

 報道の中で印象に残るのは、朝日新聞が7日付朝刊のオピニオン面に掲載した大型の識者評論のうちの元ソ連・ロシア軍縮大使、セルゲイ・バツァノフ氏の「地球の安保に核欠かせぬ」との見出しの記事です。要は、本当に必要なことは核廃絶よりも、戦争を防ぐことであり、そのために核はもはや「地球規模の安保体制の一部」だという主張だと受け止めました。「これを取り除くというのならば、戦争を防ぐという意味で、バランスをどうとるか考えなくてはなりません。戦争を防ぐには何が必要か。これは単純かつ、とても哲学的で、とても大きな問いかけなのです」との言葉は、核兵器廃絶の難しさを言い表しているのだろうということは理解できます。

 しかし一方で、そうやって現実はどう進んできたかを振り返れば、核保有国は増えるばかりです。現実に核保有を正当化している保有国があるために、自らの生存を担保するために核開発をあきらめない国があるのが実情です。ノーベル賞委員会は授賞理由の中で、北朝鮮を名指しして核保有を目指す国が増えていると指摘し、同時に核廃絶へ向けた次のステップには核保有国の関与が必要だと強調しました。日本政府が独自のアプローチで役割を果たすというのなら、とりわけ核保有国に対してのアプローチの具体策を早急に示し、何より具体的に取り組んでいくべきだろうと思います。

 さて、このように日本にとっても重要で大きなニュースなのですが、東京発行の新聞各紙のニュース・バリュー判断は分かれました。経済専門紙の日経新聞はともかくとして、一般紙では朝日新聞、毎日新聞、東京新聞が1面トップ、横見出しで揃ったのに対し、読売新聞、産経新聞は1面で扱いはしたものの、それぞれ1面の4番手、3番手の控え目の扱いでした。
 新聞はニュースの格付けメディアの一面があり、その日の重要ニュースは1面に集約し、中でも最重要のニュースをトップに置きます。次いでニュース価値の順位付けに従って、記事の掲載場所が決まります。今回は、読売、産経はトップニュースはおろか、2番手にもなりえないと判断したということです。朝日、毎日、東京とは大きな違いがあります。

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 さらに、各面の関連記事の本数や行数など、つまりは情報量にも差があります。これらの扱いの違いは、核兵器禁止条約に参加していない日本政府の主張をどう受け止めるかと関係しているようにも思えます。日本政府の立場を支持するかどうかと符合しているようです。

 以下に備忘を兼ねて、東京発行の新聞6紙の7日付朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。いずれも東京本社発行の最終版です。 

【朝日新聞】
・1面
 トップ「核廃絶『ICAN』平和賞/ノーベル賞 核禁止条約に貢献」
 視点「被爆者の声 受賞の原点」副島英樹・広島総局長
・2面
 「核使用懸念 廃絶促す/禁止条約へ世界と連携/保有大国 米ロ動かず/北朝鮮・インド…拡散進む」
 「保有国の同盟国もカギ/ノーベル委員長」
 「ノーベル平和賞 どう決まったの?」いちから わかる!(Q&A)
・3面
 「日本政府には戸惑い/正式なコメント出さず/核禁不参加 変わらず」
・12面(特集面・ノーベル平和賞にICAN)
 「被爆者 反核の歩み/救済・援護 政府に求める/廃絶・軍縮訴え 世界と連帯」
・13面(国際)
 「条約参加へ 広がる期待/ICAN創設者『意義認められた』」/「非参加国 苦しい対応」
 ■授賞理由(要旨)
・17面(オピニオン)
 「美本の我育成策 転換点に」大阪女学院大学大学院教授・黒澤満さん/「地球の安保に核欠かせぬ」元ソ連・ロシア軍縮大使・セルゲイ・バツァノフさん/「核の問題はみんなの問題」

長崎大学核兵器廃絶研究センター准教授・中村桂子さん
 「戦争、原爆 まず心の底に置いて」漫画家 こうの史代さん
・社会面(34、35面)
 ※見開き見出し「核廃絶 もっと前へ」/「願い きっと届く」
 「平和賞 被爆者らの勇気に」/「『日本政府は考え直して』/ICANの『顔』サーロー節子さん」
 「被団協『励み 力になる』」/「運動 間違いではなかった」
 「すべての核 命脅かす」反戦、反核をテーマにした楽曲も手がける歌手の加藤登紀子さん/「平和の祈り より強く」祖母と母が被爆した広島出身のバレリーナ・森下洋子さん
・社説「核廃絶運動 世界に新たなうねりを」

【毎日新聞】
・1面
 トップ「核廃絶運動に平和賞/国際ネット『ICAN』/被団協と連携 禁止条約に貢献/ノベール委 米朝けん制」
・2面
 「日本『核の傘』依存/政府、公式コメントなし」
 ミニ論点「核保有国 取り込みを」日本国際問題研究所軍縮・不拡散促進センター主任研究員・戸崎洋史氏/「被爆者の活動重なる」大阪女学院大学大学院教授(軍縮国際法)・黒澤満氏
・3面
 クローズアップ「核廃絶 理想を追求/非核保有国動かす」
 「委員長 保有国に注文」
 「夢想家を笑うな」小倉孝保・外信部長
 「平和賞 誰が選ぶ? ノルウェー国会任命の5人 中立な選考期待」質問なるほドリ
・8面(国際)
 「核軍縮 展望なく/保有国 強く反発/米露 兵器更新へ」
 「北朝鮮 自衛論理維持か」/「緊張続く中東」/「中国は速報せず」/「仏『自主独立の象徴』」/「『現実を無視』NATO反発」
・社会面(28、29面)
 ※見開き見出し「通じた被爆者の叫び」/「世界の流れに日本も」
 「『核なき世界』追い風」
 「死が苦痛からの解放/4歳おいの惨劇 条約会議で演説 女性が平和賞祝福」
 「『運動に力与える』被団協」/「若者が主導 07年設立 ICAN」
 「惨状から未来へ一歩/ピースボート歓喜」/「全ての政府、批准を 川崎さん」/「遺影と喜び 長崎被爆者」
・社説「核廃絶NGOに平和賞 大きな国際世論の反映だ」

【読売新聞】
・1面
 「平和賞に核廃絶団体/ICAN 禁止条約採択に貢献/ノーベル賞」=4番手
 ※トップは「ドローンで被災査定/損保、迅速に保険金」
・2面
 「平和賞 北の核念頭/『衝突の恐れ 差し迫る』」
 「核兵器禁止条約 保有国や日本不参加」/「『被爆者への賛辞』ICANが声明」
・7面(国際)
 「核軍縮 環境厳しく/平和賞『期待』を優先」
 「核保有国 冷静な反応」
・34面(第2社会)
 「被爆者『活動の励みに』/ノーベル平和賞 ICAN受賞 喜び」

【日経新聞】
・1面
 「核廃絶『ICAN』平和賞/ノーベル賞 禁止条約主導のNGO」=3番手
 ※トップは「財源当てなき公約競争/目立つ曖昧さ、論戦に課題」
・3面
 「平和賞、核拡散に危機感/ICANにノーベル賞 北朝鮮を名指し」
・9面(国際)
 「『各国は核廃絶宣言を』/『ICAN』の事務局長」
 「『反核』の広がり 米に逆風」
・社会面(39面)
 トップ「被爆者『大きな励み』/核廃絶へ近い新た/仲間の受賞に涙」広島・長崎・東京
 「高齢化 伝承が課題/原爆投下72年/『語り部』存続難しく」

【産経新聞】
・1面
 「平和賞 核廃絶NGO/ICAN 授賞理由に北の脅威/ノーベル賞」=3番手
 ※トップは「掟破り 奇策あるか/希望『石破氏を首相指名』浮上」
・2面
 「核兵器禁止条約に寄与/ICAN『保有は違法』訴え」
・7面(国際)
 「米朝へ警鐘鳴らす/核廃絶運動の限界露呈も」/「保有国に真剣な交渉求める/主な授賞理由」
 「NATO『安保の現実も考慮を』/北は反応なし」
 「北情勢・核合意 背景に/欧米メディア『軍縮取り組み補強』」/「ICAN 北の威嚇を非難」
・28面(第2社会)
 「北への抑止効果 疑問/早紀江さん『暴発なら全て灰に』」
 「被爆者団体『意味ある受賞』」

【東京新聞】
・1面
 トップ「核廃絶NGO 平和賞/禁止条約実現に貢献/『被爆者と共に受賞』/ノーベル賞」
 「日本から7団体参加『ICAN』/連携 被爆者の声伝え」
・2面
 「核なき世界 実現迫る」/解説「ノーベルの遺志 原点回帰の選考」
 「首相の祝福談話出ず/条約不参加の日本政府複雑」
・3面
 「ヒバクシャの声 世界に」/核心「核禁止 進まぬ現実/日本は条約不参加」悲願/配慮
 「国連は歓迎■米は条約推進派警戒■北、反発か/授賞決定に各国反応」
・社会面(26、27面)
 ※見開き見出し「被爆者『感無量』」/「核廃絶 足掛かり」
 「ピースボート歓声/『世界が目覚める機会に』」/「『授賞式に被爆者いてほしい』/ICAN事務局長」
 「学生時代から平和運動 核軍縮発信/中心メンバー 川崎哲さん」
 「被団協『世界を動かす力に』/『友人、仲間がもらうよう』」
 「『タイムリー、意義大きい』被爆2世の作家 青来有一さん」

 

※追記 2017年10月8日6時40分
 東京発行の新聞各紙の扱いの違いについての記述を一部差し替えました。
 以下は参考です。

▼産経ニュース 社説検証:核兵器禁止条約 産経「制定で抑止に危うさ」=2017年4月5日 

月27日から国連本部で行われた核兵器禁止条約の制定交渉。だが、その交渉には米英仏露中の核保有国のほか、自らを「核強国」と誇示する北朝鮮も加わっていない。 日本も不参加を表明した。高見沢将林軍縮大使は交渉会議での演説で、「核保有国が参加しない形で条約を作ることは国際社会の分断を一層強め、核兵器のない世界を遠ざける」と指摘した。

 日本の不参加を産経と読売が支持し、朝日、毎日が批判するという対立の構図が浮かび上がった。 

www.sankei.com