ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「安倍政治」への民意と選挙結果にズレ

 衆院選は10月22日に投票が実施されました。台風の影響で開票作業は一部の自治体で23日まで行われ、全465議席が確定したのは23日夜になりました。自民党281、公明党29で与党は計310議席。野党は立憲民主党54、希望の党50、共産党12、日本維新の会11、社民党2、無所属26でした。自民党は3人を追加公認しており、新しい議席数は284、与党では計313議席となります。
 東京発行の新聞6紙の23日付朝刊は、東京都内で配達される遅版では、未確定議席の残りはおおむね10前後になっていました。写真は自宅購読の新聞や近隣のコンビニで買い求めた新聞の1面の様子です。

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 その後、都心部で配布された紙面を見ました。いくつかの新聞で、見出しが変わっているのが分かると思います。

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 安倍晋三首相が、少子化社会と北朝鮮の脅威を「国難」と呼び、「国難突破解散」と名付けて衆院解散を表明したのは9月25日でした。同じ日に東京都の小池百合子知事が「希望の党」を立ち上げて代表に就任。衆院解散の日の9月28日に、野党第1党だった民進党の前原誠司代表が両院議員総会で、民進党の公認候補予定者は希望の党に公認申請することを呼びかけ、了承されました。民進党の事実上の希望の党への合流で、一時は本格的な政権選択選挙になるかに思われましたが、希望の党は民進系の候補を、憲法改正や安全保障法制を踏み絵に選別。小池氏は「排除」という言葉を使いました。希望の党への合流に疑問を抱いた枝野幸男氏を中心に「立憲民主党」が結成され、流れは大きく変わりました。
 結果を見れば、「巨大与党」「自民1強」の構図は選挙前と変わりません。しかし、自民党あるいは安倍晋三政権が高い支持を得たというよりは、野党の分裂が小選挙区では相対的に自民党候補を浮上させた結果です。このブログでも指摘したことですが、選挙前、あるいは選挙期間中の世論調査では、内閣支持率を不支持率が上回っている結果が目立ち、また安倍首相への期待も決して高くありませんでした。民意の自民党や安倍政権への期待の実相と、選挙で自民党が獲得した議席数との間にはズレがあります。

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 東京発行の新聞各紙の社説や編集幹部、政治部長らの署名評論記事でも、野党の分裂で自民党が浮上したこと、安倍首相や政権への世論の支持や期待は高くはなかったことを指摘する内容が目に付きました。各紙の記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
社説「政権継続という審判 多様な民意に目を向けよ」選挙結果と違う世論/筋通す野党への共感/白紙委任ではない
「『1強』政治 見直す機会に」中村史郎・ゼネラルエディター兼東京本社編成局長

▼毎日新聞
社説「日本の岐路 『安倍1強』継続 おごらず、国民のために」持続可能な社会保障に /緊張感ある国会審議を
「国民の声に耳を」佐藤千矢子・政治部長

▼読売新聞
社説「衆院選自民大勝 信任踏まえて政策課題進めよ 『驕り』排して丁寧な政権運営を」首相全面支持ではない/希望は新党の脆さ露呈/憲法改正論議を活発に
「おごらず政策実行を」前木理一郎・政治部長

▼日経新聞
社説「安倍政権を全面承認したのではない」勝手に自滅した野党/経済再生が政治の役割
「痛みと未来を語る責任」内山清行・政治部長

▼産経新聞
社説(「主張」)「自公大勝 国難克服への強い支持だ 首相は北対応に全力挙げよ」/「9条改正」ためらうな/社保改革の全体像示せ
「首相の強運 生かすとき」石橋文登・編集局次長兼政治部長

▼東京新聞・中日新聞
社説「安倍政権が継続 首相は謙虚に、丁寧に」国会は全国民の代表/続投不支持多数だが/森友・加計解明続けよ
「国民の声を聞け」深田実・論説主幹

 

※追記 2017年10月24日8時45分

(1)自民党が3人を追加公認していることを追加しました。

(2)東京発行6紙の社説、編集幹部・政治部長評論の中でわたしが目を引かれたのは読売新聞です。基本的には安倍晋三政権を支持し好意的に論じてはいるのですが、社説ではサブ見出しに「『驕り』排して丁寧な政権運営を」を掲げ、本文では以下のように、安倍首相にくぎを刺しています。ひと言触れて済ませたわけではなく、かなりの言葉を費やしています。

 今の野党に日本の舵かじ取りを任せることはできない。政策を遂行する総合力を有する安倍政権の継続が最も現実的な選択肢だ。有権者はそう判断したと言えよう。
 希望の党の結成や、民進党の分裂・合流、立憲民主党の結成という野党再編の結果、小選挙区で野党候補が乱立し、反自民票が分散した。これが、自民党に有利に働いた点も見逃せない。
 公示直後の世論調査で、内閣支持率は不支持率を下回った。首相は、自らの政策や政治姿勢が無条件で信任されたと考えるべきであるまい。与党の政権担当能力が支持されたのは確かだが、野党の敵失に救われた面も大きい。
 安倍政権の驕おごりが再び目につけば、国民の支持が一気に離れてもおかしくない。首相は、丁寧かつ謙虚な政権運営を心がけ、多様な政策課題を前に進めることで国民の期待に応えねばなるまい。 

 また前木理一郎・政治部長は署名評論の中で、安倍首相が「国難」と訴えた北朝鮮問題について、以下のように書いています。 

 来月初めの日米首脳会談では、北朝鮮問題への対応が最大のテーマとなるだろう。首相は選挙戦で北朝鮮への圧力を強調したが、軍事的選択肢に繰り返し言及するトランプ氏とだけ同一歩調をとるのは危険だ。中国などを含めた国際的連携を図り、北朝鮮の暴発を防ぐ包囲網を構築しなければならない。諸外国の首脳と比べても先輩格となった首相は、培った外交手腕を発揮すべきだ。 

 第2次安倍政権成立後のマスメディアの報道で顕著になっていることの一つは、安倍政権への支持と批判の2極化の傾向です。読売新聞は産経新聞とともに、基本的には安倍政権の政策を支持し、支持する政策については政治手法が強引であっても厳しい批判は避けてきたとわたしは受け止めています。そういうマスメディアがあることは「安倍1強政治」の強みの一部であるとも考えて来ました。その中で、今回の社説や署名評論も安倍政権を支持すればこそのものではあるとしても、内容自体は客観的な状況を踏まえた冷静さを持っており、その意味では朝日新聞や毎日新聞、東京新聞などとも、議論の前提になる情勢認識は共有しているように感じました。

 政権への支持、批判がマスメディアによって分かれるのは当然としても、事実や情勢認識を共有した上で各紙が主張を展開してこそ、複数のマスメディア、新聞が並び立つことの意義が深まるのだと考えています。