麻生副総理「北朝鮮のおかげ」発言が示すもの~国民を守る責任が希薄になっていることを露呈していないか

 少し前のことになりますが、麻生太郎副総理兼財務相が10月22日投票の衆院選で自民党が圧勝したことについて「明らかに北朝鮮のおかげもある」と述べたことが報じられました。この発言がどんな意味を持っているのか、現在の社会状況の中でどんなふうに位置付ければいいのかを考えています。麻生氏にはこれまでにもいろいろと物議を醸す発言があり、「またか」と言う気もしないではありません。この発言についても深い意味はなく、北朝鮮の核・ミサイル開発に対する自民党・安倍晋三政権の対応方針が支持されたということを言いたかったのだろう、という見方もされているようです。しかし、それほど単純な話ではなく、本当の意味で国民の生命と財産を守り抜く政府の責任が見えにくく、希薄になっていることを図らずも示してしまったのではないかと感じます。
 まず先の衆院選です。安倍首相は衆院解散の理由に、少子化社会とともに北朝鮮の脅威を「国難」として挙げ、「国難突破解散」だと主張しました。「大義なき解散」として批判されたこの解散について、安倍首相が最初に相談したのが麻生氏だったと報じられています。麻生氏は自分が首相の時には、衆議院の任期満了が近い窮屈な日程の中で、不本意な解散を強いられて政権を民主党に渡した経験から、少しでも有利な時期のうちに解散するのが良いと、安倍氏に賛意を伝えたことが解散前後の新聞各紙の検証記事で報じられました。つまりは、10月22日投票に至る衆院解散、衆院選公示の日程は、少しでも自民党にとって有利な時期を狙ったものであって、いわば北朝鮮の脅威を選挙勝利のために〝政治利用〟したものではなかったのか。そして麻生氏の「おかげ」発言は、その本音が図らずも口をついて出てしまったのではないか―。わたしにはそのように思えます。
 「国難突破解散」を振り返っても、そこで安倍首相からは、どうやって北朝鮮の核・ミサイル開発を止めるのか、そのビジョンは何も示されず、ただ圧力を加えることだけが強調されました。ロシアのプーチン大統領が「雑草を食べててでも核開発をやめないだろう」と言い切った北朝鮮が相手なのに、とても戦略と呼べるような対処方針ではありません。何よりも危ういと感じるのは、11月5日に来日するトランプ米大統領に対して安倍首相が、軍事力行使を含めてすべての選択肢がテーブルの上にあるとするトランプ氏の方針を全面的に支持することを直接伝えると報じられていることです。仮に米国が北朝鮮に軍事力を行使すれば、出撃拠点に在日米軍基地も含まれ、自衛隊も米軍と緊密に行動することになるでしょう。その日本に対して、北朝鮮が攻撃してくるのは軍事の常識です。そういう事態をも安倍政権は受け入れる覚悟が既にできていると、トランプ大統領が受け取ってしまうのではないか。
 現在、日本にとってもっとも現実味を持って危惧される軍事的な危機は、北朝鮮から日本への先制攻撃よりも、先の行動が読めないトランプ氏による米国から北朝鮮への先制攻撃であり、それに対する北朝鮮の反撃によって日本も戦火に巻き込まれることのように思えます。そういう事態を招かないようにすることが、国民の生命と財産を守る政府の責任のはずですが、安倍政権はどこまでそのことを自覚しているのか。麻生氏の「おかげ」発言から感じられるのは、疑念ばかりです。

※47news=共同通信「麻生氏『北朝鮮のおかげも』/自民大勝の衆院選結果」2017年10月26日
 https://this.kiji.is/296257624994907233?c=39546741839462401 

 麻生太郎副総理兼財務相は26日、東京都内の会合であいさつし、自民党が大勝した先の衆院選結果について「明らかに北朝鮮のおかげもある」と述べた。政府、与党の北朝鮮対応が有権者に評価されたとの趣旨とみられるが、北朝鮮による挑発が続く中で、不適切な発言だとの指摘を受ける可能性もありそうだ。 

 そういう状況の中で、もう一つ気になるのは、全国各地で続くミサイル避難訓練です。報道で目にした範囲ですが、最近の事例では、10月24日に静岡県の大井川鉄道で電車の乗客を対象にした避難訓練が行われ、翌25日には長野県軽井沢町のJR軽井沢駅でも実施されました。10月30日に岡山県倉敷市のくらしき作陽大学で実施された訓練は、学生のアイデアを受けて、大学側が市に訓練を提案して実施が決まったと共同通信は報じています。

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 1週間の間に各地で3回。私たちの社会でミサイル避難訓練は日常の光景になっているように感じます。仮にミサイルが落下してきたら、仮に爆薬が装てんされていたら、屋外にいるか屋内にいるかなどで、生死が分かれることがあり得るでしょう。ですから訓練に意味がないとまで言うつもりはありません。しかし、こうした訓練のニュースに接するたびに違和感を覚えます。その違和感が何に由来するのか、突き詰めて考えれば、ミサイルは避けようがない自然災害とは異なる、ということです。北朝鮮にミサイルを撃たせないことが最も重要なはずであり、本来は訓練の徹底よりも、ミサイルを撃たせないことこそが国土や国民の生命、財産を守る政府の責任のはずです。ミサイル避難訓練が日常化することによって、その政府の責任が見えにくくなっていないでしょうか。何より、その責任を安倍政権はどこまで深く自覚しているのか。麻生氏の「北朝鮮のおかげ」発言からは、やはり疑念しか浮かびません。

 韓国の文在寅大統領は11月1日に韓国国会で「どんな場合でも、朝鮮半島で武力衝突はあってはならない」「韓国の事前同意のない軍事行動はあり得ない」と言明したと報じられています。安倍政権と落差を感じずにはいられません。

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【追記】2017年11月3日21時

 以下に、長野県軽井沢町で行われた避難訓練の模様を伝える信濃毎日新聞の記事から一部を引用します。参加者の感想も、決して一様ではありません。マスメディアは「日頃の訓練が大事」との声だけでなく、様々な感想や意見を紹介することが必要だと感じます。

※信濃毎日新聞「軽井沢ミサイル想定訓練 参加者住民 理解と違和感」=2017年10月26日 

 田中英昭さん(74)は駅構内の奥に身を隠した。やはり「何が起きるか分からないから」訓練にも意味はあると考えるが、「軽井沢にはいつも土地勘のない観光客が大勢いる。そうした人たちはどうなるのか」とも思った。
 コインロッカー脇で身をかがめた男性(70)は、「ミサイル飛来」という漠然とした前提で「大々的に訓練をするのはどうか」と感じた。破片、通常弾頭、核弾頭…。「何がどこに落ちてくるのか分からない」と話した。
 訓練後、軽井沢駅から約1キロ離れた全長439メートル、幅4・8メートル、高さ5・3メートルの旧信越線トンネルで行われた見学会でも、想定と現実との落差を指摘する声が漏れた。
 町はもう1本のトンネルと合わせて約2600人が避難できると見込むが、参加者からは「ここに来るまでに時間がかかるね」。北朝鮮のこれまでの弾道ミサイル発射実験でも、ミサイルはごく短時間で日本上空を飛び越え、太平洋上に落下していた。「高齢者や車いす利用者には難しい」との声もあった。

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