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沖縄タイムス「強まる『対米従属』懸念」、琉球新報「『辺野古唯一』許されない」―日米首脳会談、共同通信調査「良かった」70・2%、NHK「評価」68%

 安倍晋三首相が2月10日、米国のトランプ大統領と初めての首脳会談を行いました。会談の中では表立った対立点の言及はなく、会談の成果としてはひとまず、日米同盟の強化で両首脳が合意し、経済関係については麻生副総理とペンス副大統領をトップとする新たな枠組みで協議することが決まったことに集約されるようです。日本の各マスメディアは、日本政府側が初会談を高く評価していると伝えています。加えて、安倍首相の訪米に際しては、大統領専用機に同乗して一緒に移動、トランプ氏のマイアミ州の別荘に宿泊、ゴルフを一緒にプレーなどの異例の厚遇が大きく報道されたためでしょうか。12、13日に共同通信が実施した世論調査では、日米首脳会談を「よかった」と評価する回答が70%に上り、内閣支持率も上がって61・7%と6割を超えました。NHKの調査でも、会談を全体として「評価する」が68%、内閣支持率は58%に上がりました。安倍首相の訪米の直前には、共謀罪に関する審議を巡り、金田法相が質問封じと受け取られかねない文書を公表して批判を浴び、南スーダンPKO派遣の自衛隊部隊の日報を巡っても、稲田朋美防衛相の「戦闘」を巡る答弁が批判を浴びるなど、国会では安倍晋三内閣にとって厳しい状況でした。そんな中で、安倍首相が米国に滞在中の12日に北朝鮮がミサイルを発射したことは、日米同盟の支持につながったのかもしれません。
 私が昨年の大統領選挙時から、関心を持って推移を見守ってきたことの一つは、沖縄の基地集中の問題がどうなるかに関してでした。その点については、日米共同声明でまず第一に「揺らぐことのない日米同盟はアジア太平洋地域における平和、繁栄および自由の礎である」と宣言され、その文脈の中で沖縄県宜野湾市普天間飛行場の移設問題に対しても「両首脳は、日米両国がキャンプ・シュワブ辺野古崎地区およびこれに隣接する水域に普天間飛行場の代替施設を建設する計画にコミットしていることを確認した。これは、普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である」と、トランプ政権になっても辺野古への移設方針に変わりがないことが明記されました。安倍首相の訪米に先立って日本を訪れたマティス米国防長官が、「一つは辺野古。二つ目も辺野古」と言ったとおりに、両首脳の間でも再確認されました。この辺野古移設の再確認に対しては、沖縄の地方紙2紙12日付けの社説で批判。沖縄タイムスは「基地を巡る『構造的差別』を半永久的に固定化するに等しい」と指摘し、琉球新報は「辺野古の海は日米への貢ぎ物ではない」と断じています。
 気になるのは、共同声明が「アジア太平洋地域において厳しさを増す安全保障環境の中で、米国は地域におけるプレゼンスを強化し、日本は同盟におけるより大きな役割および責任を果たす」とし、また「日米両国は、あらゆる形態のテロリズムの行為を強く非難し、グローバルな脅威を与えているテロ集団との戦いのための両国の協力を強化する」としていること、さらには外務・防衛担当閣僚に対し、安全保障協議委員会(2プラス2)を開催するよう指示したとする中で「日米両国のおのおのの役割、任務および能力の見直しを通じたものを含め、日米同盟をさらに強化するための方策を特定するため」としていることです。日本は、自衛隊の増強と活動領域の拡大を一層迫られるのでしょうか。


 以下に、日米首脳会談に対する沖縄2紙の論説、東京発行各紙の扱いと見出し、世論調査の結果などを書きとめておきます。

【沖縄2紙の社説】
 ▼沖縄タイムス:社説「[日米首脳会談]強まる『対米従属』懸念」=2017年2月12日
  http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/83829

 日米首脳会談では、米軍普天間飛行場の返還を巡り「辺野古移設が唯一の解決策」であることも確認された。恐らく日本側が主導し、国内向けに盛り込ませたものだろう。
 これまでも日米首脳会談、防衛相会談のたびに確かめ合ってきたことだが、それにしても「辺野古唯一」「辺野古唯一」と同じことを何度も確認し続ける、この異様さはいったい何なのだろうか。県民に対し、抵抗しても無駄だと言わんばかりである。
 しかし繰り返し繰り返し言わなければならないということは、逆に言えば地元沖縄の反対が極めて根強いからである。
 辺野古沿岸部への新基地建設を含む米軍再編計画は、そのほとんどが県内移設を前提にしており、基地を巡る「構造的差別」を半永久的に固定化するに等しい。
 状況の変化を踏まえた計画の見直しが必要だ。

 ▼琉球新報:社説「日米首脳会談 『辺野古唯一』許されない」=2017年2月12日
  http://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-443127.html

 安倍晋三首相とトランプ大統領の日米首脳会談で、米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古の新基地建設計画を「唯一の解決策」として推進することが確認された。世論調査などで県民の7〜8割が反対する辺野古新基地建設だ。日米首脳が沖縄の頭越しに「唯一」と規定するのは許されない。
 (中略)
 首脳会談の共同声明として初めて、辺野古新基地建設が「普天間飛行場の継続的な使用を回避するための唯一の解決策である」と明記した。
 一方で、喫緊の課題である普天間飛行場の2019年2月まで(5年以内)の運用停止について日本側が要求することもなく、沖縄の基地負担軽減は議題にならなかった。安倍首相が沖縄の基地負担軽減を政権の課題とみなしていないことが分かる。
 日米同盟を一層強化することでも一致し、米側は防衛面では日本側の要求をそのまま受け入れた形だ。
 (中略)
 防衛面では日本に譲り、経済面では自らの主張を通す。経済人トランプ氏ならではの「ディール(取引)」外交といえよう。
 しかし米国の経済政策と絡めて、ただでさえ米軍基地の過重負担にあえぐ沖縄に新たな基地を押し付ける日米の策が許されていいはずはない。辺野古の海は日米への貢ぎ物ではない。


【東京発行各紙】12日付け朝刊の主な記事の見出しと社説の見出し
◇1面トップ
朝日新聞尖閣に安保 共同声明/経済対話 枠組み新設/日米首脳、同盟強化を確認」
毎日新聞「日米 経済対話を新設/両首脳『同盟強化』/トランプ氏 通商要求せず/共同声明/年内訪日固まる」
▼読売新聞「日米経済対話 新設/『戦渦国安保』明記/共同声明 核による防衛も/首脳会談合意/トランプ氏 年内にも来日」
日経新聞「日米で新経済対話/通商・金融など合意/初の首脳会談/米の尖閣防衛義務を確認」
産経新聞「日米ナンバー2 経済対話/『同盟に投資』防衛力強化/首脳会談 トランプ氏 年内訪日へ」
東京新聞「経済対話で新枠組み/米大統領『公正な貿易を』首相『米雇用に貢献』/同盟強化へ共同声明/辺野古推進も確認」

◇社説
朝日新聞「日米首脳会談 『蜜月』演出が覆う危うさ」/移民。難民は内政か/多角的な外交こそ/「国際益」をめざせ
毎日新聞「日米首脳会談 厚遇の次に待つものは」/日本を満足させた声明/「対米追随」では危うい
▼読売新聞「日米首脳会談 経済で相互利益を追求したい 個人的信頼を基に同盟強化せよ」/尖閣『安保適用』は重い/自由貿易の対話深めよ/投資環境の整備が重要
日経新聞「日米は新経済対話を冷静に進めよ」個人的信頼はできた/通貨安批判に反論を
産経新聞「日米首脳会談 揺るがぬ同盟への決意だ 『自由』の恩恵に資する対話を」/個人的信頼も深まった/保護主義抑える努力を
▼東京・中日新聞「安倍・トランプ会談 蜜月の影響見定めねば」/片務的との誤解を解く/尖閣適用が示す脆弱性/多角的、重層的関係こそ

 各紙の主な記事の見出しです。

朝日新聞
・1面
 「尖閣に安保 共同声明/経済対話 枠組み新設/日米首脳、同盟強化を確認」
 「親密さを国際協調への礎に」佐古浩敏・政治部長
・2面
 時時刻刻「取引 会談では回避」「安保 満額回答ギリギリで得る/対中国ズレ トランプ氏、融和的」「経済 日本車や円安 批判出ず/課題先送り 麻生・ペンス対話に
 「通訳イヤホンなし 日本語にうなずく/トランプ氏、共同会見で」
・3面
 「『蜜月』優先 手放し称賛/入国禁止 首相、会談で触れず」
 「米メディア『おべっか』皮肉も」
 「首相宿泊のリゾート 入会金2260万円/トランプ大統領就任決定後、倍額に」
・7面(国際面)
 「『ホームラン』安心は尚早」山脇岳志・アメリカ総局長
・38面(第2社会面)
 「日米首脳ニコニコ/車の街はモヤモヤ」

毎日新聞
・1面
 「日米 経済対話を新設/両首脳『同盟強化』/トランプ氏 通商要求せず/共同声明/年内訪日固まる」
 「FTA今後の焦点」/「『友好』前面に」
・2面
 「強硬姿勢を封印/巧妙『トランプ流』/与野党、歓迎と批判」
 「『トウキョウの懸念 安保で緩和』米メディア」
・3面
 クローズアップ「手応え予想以上/安保、日本に『満額』」
 「投資、雇用を強調/通商 火種そのまま」
 「首相招待どんな別荘?/高級会員制リゾート 政治的会合も」質問なるほドリ

▼読売新聞
・1面
 「日米経済対話 新設/『戦渦国安保』明記/共同声明 核による防衛も/首脳会談合意/トランプ氏 年内にも来日」
 「中国念頭 蜜月アピール」安倍・トランプ新時代(上)
・2面
 「安保 満額回答/トランプ氏『同盟重視』/駐留費負担増求めず」
 「経済対話 今後のカギ」小川聡・アメリカ総局長
 「両首脳 近い距離感/ハグで歓迎・握手19秒・移動中に写真」
・3面
 スキャナー「通商 探り合い/日本 ルール重視・米 実利狙う」
 「トランプ氏 円安批判なし/口先介入なお警戒」
・38面(第2社会面)
 「尖閣に安保 沖縄『安心して漁に』」
・39面(社会面)
 「豪華別荘で歓待/専用機相乗り、ゴルフも/トランプ氏 成功の象徴」
 「トランプ氏 うなずいてたけど/首相の発言中イヤホンせず/共同会見冒頭の同時通訳」

日経新聞
・1面
 「日米で新経済対話/通商・金融など合意/初の首脳会談/米の尖閣防衛義務を確認」
 「握手の先 世界に責任」菅野幹雄・コメンテーター
・2面
 「同盟強化 足並み/『核の傘』確認 駐留経費言及せず/安保 日本の負担増も/受け入れに謝意」
 「異例の厚遇」「ハグ・握手19秒/大統領機に同乗/別荘中庭の円卓で夕食会」
・3面
 「経済対話 同床異夢/車・金融 駆け引き/日本、FTA会費探る」
 「為替、会見でさや当て」/「会談、大統領の側近ずらり」
・6面(国際面)
 「海外メディアも高い関心/中国 経済で米に譲歩/韓国 対北朝鮮を評価/ドイツ 批判しない日本」

産経新聞
・1面
 「日米ナンバー2 経済対話/『同盟に投資』防衛力強化/首脳会談 トランプ氏 年内訪日へ」
 「安保は『満額』経済と切り分け/ディール外交の疑念残る」
・2面
 「米、金融緩和お墨付き」「『2国間の枠組み』で中国牽制へ」
 「円安、貿易赤字…日本たたきなし/米産業界は不満、規制要求」
 「握手もがっちり」
・3面
 「経済対話 当日に即決」「ペンス氏『経験ないが光栄』/首相が枠組みオファー」
 「貿易・防衛協力の秘策 兵器開発/アジア政策 日本が軸」
 「中韓の実態 ゴルフ場で伝わるか」阿比留瑠比の極言御免
 「『核の傘』明記/共同声明を読み解く」
・30面(第2社会面)
 「日米首脳、拉致解決の重要性確認/家族ら期待『一刻も早い成果を』」

東京新聞
・1面
 「経済対話で新枠組み/米大統領『公正な貿易を』首相『米雇用に貢献』/同盟強化へ共同声明/辺野古推進も確認」
 「『米国第一』追随にならぬよう」金井辰樹・政治部長
 「為替・安保でも閣僚級協議」
・2面
 核心「貿易、通貨安先送り/経済 車・農業で摩擦再燃も/為替 円安不満の本音のぞく」
 「フロリダでゴルフ外交」
・3面
 「同盟 過大な役割も/安保 尖閣 条約適用を明記/駐留費負担増 言及なし」
 「『入国禁止』に口つぐむ首相」
 「抱擁、長い握手 歓待ムード演出」
・29面(社会面)
 「『辺野古手土産許せぬ』/沖縄、新基地確認に反発」」/「『工事阻止 粘り強く』」


世論調査
共同通信 2月12、13日実施
 https://this.kiji.is/203812732762801659?c=39546741839462401
安倍晋三首相とトランプ大統領による初めての首脳会談
 「よかった」70・2% 「よくなかった」19・5%
イスラム圏7カ国からの米入国を制限するトランプ氏の大統領令
 「理解できない」75・5% 「理解できる」16・9%
内閣支持率
 「支持」61・7%(2・1ポイント増) 「不支持」27・2%

▼NHK 2月11、12日実施
 http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170213/k10010874891000.html?utm_int=detail_contents_news-related-auto_001
内閣支持率
 「支持」58%(3ポイント増) 「不支持」23%(6ポイント減)
・日米首脳会談で、日米同盟と両国の経済関係を一層強化していくことで合意したことについて、会談を全体として評価するか
 「大いに評価する」13% 「ある程度評価する」55% 「あまり評価しない」21% 「まったく評価しない」6%
・日米首脳会談のあとに発表された共同声明に、沖縄県尖閣諸島はアメリカによる防衛義務を定めた日米安全保障条約の適用範囲であると明記されたことについて
 「大いに評価する」31% 「ある程度評価する」40% 「あまり評価しない」16% 「まったく評価しない」5%
・日米で経済対話を発足させ、財政・金融政策や2国間の貿易に関する枠組みなどを議論していくことになったことで、日本経済によい影響があると思うか
 「良い影響がある」23% 「悪い影響がある」6% 「どちらとも言えない」60%
・トランプ大統領が中東やアフリカの7カ国の人の入国を一時的に禁止することなどを命じる大統領令を出した対応を評価するか
 「大いに評価する」1% 「ある程度評価する」12% 「あまり評価しない」33% 「まったく評価しない」46%