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「共謀罪」か「テロ等準備罪」か、在京紙の見出しは二分

 かつての「共謀罪」の構成要件を変えた組織犯罪処罰法改正案の3月21日の閣議決定と国会提出は、マスメディアも大きく報じました。東京発行新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)の22日付け朝刊では、前日の21日夕刊で閣議決定の動きを伝えた後で、法案の意義や問題点などを巡って各紙それぞれに報じており、見出しを拾って見るだけでも各紙ごとのこの問題の捉え方の違いが分かるのではないかと思います。中心となる記事(新聞制作の現場では「本記」と呼びます)や、1面、総合面掲載の主な関連記事の扱いと見出しは以下の通りです。

朝日新聞
1面トップ・本記「『共謀罪』全面対決へ/与野党、会期末にらみ/法案閣議決定
1面・解説「内心の自由 踏み込む危険」
2面・時時刻刻「『テロ』強調 本質変わらず」「政府案文言なし 異例の追加」「277に減 目立つ暴力団対象」/「『西安出たら答弁…』法相に野党照準」
社説「『共謀罪』法案 疑問尽きない化粧直し」
※1面に「おことわり」:「政府が国会に提出した組織的犯罪処罰法改正案には、犯罪を計画段階で処罰する『共謀罪』の趣旨が盛り込まれており、朝日新聞はこれまでと同様、原則として『共謀罪』の表現を使います。『テロ等準備罪』という政府の呼称は、必要に応じて使用していきます。」


毎日新聞
1面トップ・本記「『共謀罪』法案 衆院提出/政府閣議決定 与野党論戦へ」
3面・クローズアップ2017「テロ対策か否か」「政府、悪印象払拭を狙う」「答弁不安『急所』は法相」
3面・質問なるほドリ「組織犯罪防止条約 利点は?/捜査共助 犯罪人引き渡し円滑に」
社説「『共謀罪』法案 説明の矛盾が多過ぎる」


【読売新聞】
1面・本記「テロ準備罪法案 国会提出/政府 成立要件を厳格化」
3面・スキャナー「『共謀罪と別』強調」「政府 対象・範囲絞る」「野党『基準あいまい』」/「『社長殴ろう』同僚計画→不適用」
社説「テロ準備罪法案 政府は堂々と意義を主張せよ」


日経新聞
3面・Q&A「『共謀罪』歯止め焦点/準備で処罰、冤罪懸念なお/277犯罪に絞り国会提出」
社説「十分な審議が必要な『共謀罪』」


産経新聞
1面トップ・本記「テロ準備罪法案 閣議決定/適用『犯罪集団』に厳格化/277罪対象 今国会成立目指す」
1面「一般市民は処罰されず/組織犯罪 水際で阻止へ」
3面・水平垂直「各国連携 犯罪捜査に利点」「容疑者人定・金融機関の口座照会…」「国際条約批准の条件」/「反対派 曲解と扇動」「民進など『話し合うだけで罪』」


東京新聞
1面トップ・本記「犯行前に処罰可能/『共謀罪』捜査 当局の裁量/政府が法案提出 論戦へ」
1面・解説「政府の看板に残る疑念―『テロ』文言 法の目的になし」
2面「首相説明に矛盾」「『東京五輪開けない』→開催条件に含まれず」「『共謀罪の呼称誤り』→話し合い・準備で罪に」(ファクト・チェック)
3面・核心「『テロ』現行法で対処可能」「国連主要条約 加入済み」
社説「『共謀罪閣議決定 刑法の原則が覆る怖さ」/当局の解釈次第では/現行法でも締結可能/行く末は監視社会か


※写真は各紙の1面の様子です。各紙とも東京本社発行の最終版です。

 各紙の違いですぐに目に付くのは、見出しに「共謀罪」を取るか「テロ等準備罪」を取るかです。
 朝日、毎日、日経、東京の4紙は社会面なども含めて、見出しは「共謀罪」です。政府がいくら「共謀罪とは別もの」と強調しても、かつて3回廃案になった「共謀罪」と本紙的には変わらないとの判断に基づくのだろうと思います。特に朝日新聞は1面に「おことわり」を載せ、呼び方についての基本的な考え方を読者に説明しているのが目を引きます。
 この4紙に対して、読売と産経は「テロ準備罪」を使っています。成立要件や適用を巡り「厳格化」とするなど、政府主張そのままに見出しを取っています。
 政府主張に疑問を示す新聞は「共謀罪」を見出しに使い、政府主張に理解を示す新聞は「テロ準備罪」を使うように、はっきりと分かれました。