「共謀罪」と伝える新聞、「テロ等準備罪」と伝える新聞〜衆院審議入りの在京各紙の報道

 安倍晋三政権が「テロ等準備罪」と呼ぶ組織犯罪処罰法改正案が4月6日、衆議院で審議入りしました。安倍政権はかつて3度、国会に提出されながらいずれも廃案になった「共謀罪」とは別ものだと強調しますが、実際に実行された犯罪行為やその未遂行為にとどまらず、犯罪の計画段階で、その計画合意に加わった者を処罰するという点では、かつての「共謀罪」と趣旨は同じです。
 この法案の審議入りのニュースの扱いは、東京発行の翌4月7日付けの新聞朝刊(朝日新聞毎日新聞、読売新聞、日経新聞産経新聞東京新聞の6紙)では、各紙ごとに共通点もあれば差異もありました。共通点にしても差異にしても、各紙それぞれの論調が、この法案を是としているか否としているかに関わっているようにも思います。
 これまでの報道や社説などから、法案に対する是非の論調については、大まかに言えば明確に反対ないしは懐疑的なのは朝日、毎日、東京の3紙、明確に賛成ないし推進は読売、産経の2紙と言ってよいと思います。日経はここのところ、スタンスを明確にした社説は見当たらないようなのですが、2月6日に「『共謀罪』は十分な説明なしには進まない」との社説を掲載しており、慎重姿勢というところでしょうか。いくつか、感じたことを書きとめておきます。各紙の主な記事と見出しは後掲の通りです。写真は7日付朝刊各紙の1面です(いずれも東京本社発行の最終版)。

 まず、事実関係を伝える中心の記事(本記)で、この改正案をどのように表現しているのか、書き出しの最初の文章を書き出してみました。以下の通りです。地方紙に掲載されることが多い共同通信の出稿も書きとめました。

朝日新聞
共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織的犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りした。
毎日新聞
組織犯罪を計画段階で処罰可能とする「共謀罪」の成立要件を絞った「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で趣旨説明と質疑が行われ、審議入りした。
【読売新聞】
後半国会最大の焦点である組織犯罪処罰法改正案(テロ準備罪法案)は6日、衆院本会議で審議入りし、与野党の論戦が始まった。
日経新聞
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の構成要件を改め「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りした。
産経新聞
共謀罪の構成要件を厳格化した「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案が6日、衆院本会議で審議入りし、安倍晋三首相も出席して趣旨説明と質疑が行われた。
東京新聞
犯罪に合意したことを処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案は六日、衆院本会議で審議入りした。
共同通信
犯罪を計画段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ「テロ等準備罪」を新設する組織犯罪処罰法改正案は6日、衆院本会議で審議入りした。

 一見して特徴的なのは、朝日新聞東京新聞は政府の呼称の「テロ等準備罪」を用いていないことです。逆に、読売新聞は「共謀罪」を使っていません。共同通信を含めてほかの4者は「共謀罪」と「テロ等準備罪」の両方を盛り込んでいますが、日経新聞共同通信は「『共謀罪』の構成要件を改め『テロ等準備罪』を」、「『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ『テロ等準備罪』」と、呼称の変容を客観的な表現で伝えているのに対し、毎日新聞産経新聞は「『共謀罪』の成立要件を絞った『テロ等準備罪』」、「共謀罪の構成要件を厳格化した『テロ等準備罪』」の表現です。「成立要件を絞った」「構成要件を厳格化した」と、一定の評価を伴っています。
 朝日新聞東京新聞については、法案の本質はかつての「共謀罪」と何ら変わりがないとの見解をこういう表記で表したのだと思います。読売新聞は逆に、「テロ等準備罪」は「共謀罪」とは全く異なるとの政府主張に即した表記のように思えますし、産経新聞の「構成要件を厳格化」も政府主張に沿った表記でしょう。それぞれ新聞の法案に対する是非の姿勢が反映されているように感じます。毎日新聞は法案に反対ないし懐疑的ですが、かつての「共謀罪」との比較では、成立要件を絞ったこと自体は、政府主張に理解を示しているのかもしれません。
 各紙ごとの法案への是非の別が表れていると感じるもう一つの点は見出しです。朝日、毎日、日経、東京の4紙は、この国会で審議されるのは「共謀罪」であるとの見出しの取り方をしています。対して読売、産経の見出しは「テロ等準備罪」が審議されるとの文脈です。
 総じて言えば、反対ないし懐疑的、慎重姿勢な4紙は「共謀罪」の表記を重視し、賛成、推進の2紙は政府と同じように「テロ等準備罪」を使っています。

 紙面を比べて目立つのは、法案への反対の動きの扱いです。社会面で関連記事を載せたのは朝日、毎日、産経、東京の4紙。朝日、毎日、東京はいずれも、廃案を求めて東京・日比谷野外音楽堂で開かれた集会などを紹介していますが、産経は法案に賛成の立場の識者の大型の談話のみで、反対の動きの記事はありません。廃案を求める集会のことは、総合面の「野党、曲解主張で世論あおる」の見出しの記事で触れていますが、市民団体と共闘する野党の取り組みに疑問を提示するトーンです。集会が「共謀罪の廃案を求める」としていることに対しては「政府は共謀罪法案は提出していない」としています。一方で毎日新聞は社会面では、反対意見の識者だけではなく、賛成の識者の意見も取り上げています。
 朝日、毎日、東京の3紙と読売、産経の2紙は、関連記事のボリュームで比べれば差は歴然としており、それはそのまま情報量の差です。政府方針に反対ないしは懐疑的な新聞ほど、関連の情報量が多いというのは、特定秘密保護法や安全保障法の成立までの報道でも同じ傾向がありました。人は自分と異なる意見やものの考え方に触れた時、それまで知らなかったことを知った時に、考え方や意見が変わることがあります。だからこそ、民主主義社会では少数意見は尊重されなければなりませんし、世論の賛否が割れるようなテーマでは、多様な意見やものの考え方が社会に流通することが重要になってきます。

 7日付朝刊の各紙の記事で興味深く読んだものの一つは、毎日新聞3面の「首相のメンツ優先」の記事です。なぜこの時期に、かつて3度も廃案になった「共謀罪」と本質においては変わりがない法改正を急ごうとするのか―。この記事によると、5月にイタリアで開かれる主要7カ国(G7)首脳会議(サミット)をにらんでいるからとのことです。そして政府関係者の話として「昨年の伊勢志摩サミットでは、議長国の日本が国際組織犯罪防止条約を締結していなくて、首相は恥ずかしい思いをした。メンツの問題だ」と明かしたことを紹介しています。法改正が国際組織犯罪防止条約の締結のために必要と政府が主張していることは繰り返し報じられ、またそのことに野党や日弁連から疑義が呈されていることも報じられています。
 もう一つ、興味深く読んだのは東京新聞特報面の治安維持法の特集記事です。戦前戦中の日本社会で治安維持法が、言論弾圧、思想弾圧にどのように使われたか、高齢の体験者への取材も交え、具体的な事件に即して紹介しています。以前の共謀罪反対運動の中で耳にしたことがある「悪法は小さく生まれて大きく育つ」との物言いを思い出しました。


 以下は4月7日付の東京発行新聞各紙の主な記事の見出しです。

朝日新聞
・本記:1面トップ「『共謀罪』攻防」「政権 会期内成立狙う」「4野党『廃案を』訴え」「衆院審議入り」
・1面「『共謀罪NO』つきつける」写真:東京・日比谷野外音楽堂の集会
・2面(総合面)時時刻刻「『共謀罪』早くも激論」「首相『テロ』前面 野党『内心を処罰』」/「市民は対象?何をすれば罪?」「判断基準も対立」
・4面(総合面)「『共謀罪』審議入り」「野党『なぜ必要』『違憲では』」/「首相『五輪開催国の責務』」/「維新『取り調べ可視化を』」※国会でのやり取り
・社会面トップ「問う『共謀罪』」・「監視・内心の自由 地方懸念」「長野 戦前 弾圧の歴史 福島 原発 国に物申してきたが」「36の県市町村議会 意見書」
・社会面「会見で 集会で 危機感」
・社説「『共謀罪』審議 政権の体質が見える」

毎日新聞
・本記:1面準トップ「首相『テロ対策重要』」/野党、監視社会懸念/「共謀罪」審議入り
・3面(総合面)クローズアップ2017「『拙速』に危うさ」「根強い疑念 カギは法相答弁」/「首相のメンツ優先」
・3面 質問なるほドリ「何が論点になっているの?」「組織的犯罪集団の認定 対象多すぎる批判も」
・24面(総合・社会=第3社会面)「私はこう思う」/賛成「現行法制に限界」公益財団法人「公共政策調査会」研究センター長・板橋功氏(57歳)/反対「表現萎縮の恐れ」元東京地検公安部検事、弁護士・落合洋司氏(53歳)
・24面・衆院本会議での主な質疑
・24面「NOの波 日比谷」写真:東京・日比谷野外音楽堂の集会/「『民主的な社会崩しかねない』メディア有志」/「性犯罪厳罰化 審議後回しに 被害者ら落胆」

【読売新聞】
・本記:1面トップ「テロ防止『五輪へ責務』」「首相強調『準備罪』審議入り」「野党は廃案訴え」
・2面(総合面)ニュースQ+「テロ等準備罪とは?」「『共謀罪』より要件厳しく」
・3面(総合面)スキャナー「『犯罪』判断基準 焦点に」「『集団』『準備行為』めぐり論争」/「一変」の定義/条約締結/なお課題も
・3面「採決方針 都議選控え 自公に温度差」

日経新聞
・本記:2面(総合面)「『共謀罪』適用要件が焦点」「法案審議入り、与野党論戦」/テロ対策訴え/「内心」の問題/条約の条件?
・4面(政治面)「『共謀罪』必要性の議論真摯に」坂口祐一編集委員

産経新聞
・本記:3面(総合面)水平垂直「要件 共謀罪より厳格に」「テロ準備罪法案審議入り 首相『五輪開催国の責務』」「一般市民は対象外」/計画では適用せず/予備罪の空白カバー/国際連携への条件
・3面「野党、曲解主張で世論あおる」「市民団体と共闘 安保法と同様手法」/「与党 法相答弁に不安」写真:東京都千代田区の反対集会
・5面(総合面)「首相『内心を処罰することない』」「共産『自由な社会 押しつぶす』」「テロ準備罪法案 衆院質疑要旨」
・第2社会面「テロ等準備罪を考える」・「『乱用』批判派当たらない」弁護士・木村圭二郎氏
・社説(「主張」)「テロ準備罪の審議 国際社会の環に参加せよ」

東京新聞
・本記:1面トップ「『共謀罪』論戦」「野党 『市民も処罰の恐れ』『思想の自由を侵害』」「首相『テロ対策』前面」「審議入り」※表「『共謀罪』国会論戦チェック」/「9つの論点 4月6日衆院本会議でのやりとり」
・2面(総合面)核心「疑問消えぬ『テロ対策』」「『単独犯防げぬ』指摘→答えず」「不安・懸念 首相、根拠示さず否定」
・6面(総合面)※衆院本会議質疑の詳報
・24・25面(特報面)「治安維持法も『組織犯罪』対象だった」「歴史が示す重い教訓」/「拡大解釈で『一般人』弾圧」「教師 学生 俳句の会 詩人…」「『なぜ自分が』『何も知らない』」「逮捕、取り調べ 数十万人にも」
・社会面トップ「辺野古座り込みも対象に?」「『誘ったり誘われたりが犯罪なら怖い』」「法案審議入り 各地で懸念」
・社会面「『共謀罪』私たちの日常にも…」/「『趣味の小説 好きに書けなく…』」※日比谷野外音楽堂の集会、写真も/「『ジャーナリストの活動に影響』」※メディア関係有志33人が緊急アピール