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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

尋ね方で賛否変わる「共謀罪」・政府呼称「テロ等準備罪」―一般の理解は深まっていない

 安倍晋三政権が「テロ等準備罪」と呼ぶ組織犯罪処罰法改正案を巡って、朝日新聞社が4月15、16日に実施した世論調査の結果が報じられています。その内容が興味深いので、少し時間がたっていますが書きとめておきます。
 調査では「テロ等準備罪」の呼称を使わず、「『共謀罪』の趣旨を盛り込んだ組織犯罪処罰法改正案」の表現で賛否を尋ねたところ、賛成35%、反対33%と拮抗しました。同じ法案について2月の世論調査では「テロ等準備罪」の表記を用いて賛否を尋ねており、このときは賛成44%、反対25%と、賛成が反対を相当程度、上回っていたとのことです。
 備忘を兼ねて、「共謀罪」関連の質問文と回答を引用して書きとめておきます(単位は%)。

◆政府は、犯罪を実行しなくても、計画の段階で処罰する「共謀罪」の趣旨を盛り込んだ、組織的犯罪処罰法の改正案の成立を目指しています。この法案に賛成ですか。
 賛成35▽反対33
組織的犯罪処罰法の改正案について、安倍首相は、東京オリンピックパラリンピックに向けてテロ対策のために必要だと説明しています。こうした説明に納得できますか。
 納得できる46▽納得できない36
組織的犯罪処罰法が改正されると、犯罪を実行していない段階から警察などの捜査の対象になり、一般の人への監視が強まるという意見があります。この改正で、一般の人への監視が強まる不安を、どの程度感じますか。(択一)
 大いに感じる12▽ある程度感じる47▽あまり感じない28▽まったく感じない8

 「『共謀罪』の趣旨」の説明が付いた問いには賛否が拮抗している一方で、「東京オリンピックパラリンピックに向けてテロ対策のために必要だ」との安倍首相の説明に対しては、「納得できる」が「納得できない」を10ポイント上回っており、さらには「一般の人への監視が強まる不安」については、「大いに」と「ある程度」を合わせて59%もの人が「感じる」と答えています。これらの回答状況から、この法案を巡って、どういうところに危険性を感じて否定的評価につながっているのか、あるいは、どういうところを積極的に評価して肯定的にとらえているのか、といった意味での、筋道だった受け止め方を見出すのは困難なように感じます。ひと言で言えば、世論の受け止めのまとまりのなさです。
 同じ4月15、16日に産経新聞社とFNNが合同で実施した世論調査の結果も報じられており、それによると、この法案への賛否は賛成57・2%、反対32・9%と、賛成が過半数でした。こちらは質問の全文は分からないのですが、産経新聞の紙面の「主な質問と回答」を引用すると、以下の通りです。「共謀罪の構成要件を厳格化するなどした」との説明には、「いい方向に改善した」との響きが感じられるように思います。

【問】政府は従来の共謀罪の構成要件を厳格化するなどした「テロ等準備罪」を設ける法案を今国会に提出した。この法案について
賛成57・2 反対32・9 他9・9 

 朝日新聞産経新聞・FNNの二つの調査結果は、同じ法案に対する同じ時期の調査でありながら、異なった回答状況になっています。朝日新聞の2月調査と今回の調査結果の差異、さらには朝日新聞の今回の調査結果のまとまりのなさも併せて考えるなら、「共謀罪」の用語を使うか、政府呼称の「テロ等準備罪」を使うか、さらには前振りにどんな説明をつけるかで、回答状況は大きく変わる状況にあると考えた方が良いように思います。つまり、この法案への一般の理解は深まっていないと言うべきでしょう。個人的な見方を言えば、安倍政権がどんなふうに呼称を変えようとも、過去3度廃案になった「共謀罪」と本質的な危険は変わっていません。そのこともまた一般に十分に理解されているとは言い難いことが、世論調査の結果からは読み取れるように思えます。
 一般への理解が深まらないまま、国会で自民、公明の与党が数をたのんで採決を強行するようなことはあってはなりません。マスメディアの課題もそこにあって、この法案を是とするか否とするか、新聞はそれぞれに社論が分かれているとしても、国会での論戦や、識者らの多様な意見や見方、考え方を努めて紹介していくべきです。


 「共謀罪」のほかの調査結果も、いくつか書きとめておきます。
朝日新聞

◆戦前や戦中の時代、教育の基本方針とされた「教育勅語」について、安倍内閣は、憲法教育基本法に反しない形で、教材として使うことを認める答弁書閣議決定しました。教育勅語をめぐる安倍内閣の姿勢は妥当だと思いますか。
 妥当だ31▽妥当ではない43
◆沖縄の基地問題についてうかがいます。沖縄県にあるアメリカ軍の普天間飛行場を、沖縄県名護市辺野古に移設することに賛成ですか。
 賛成36▽反対34
アメリカ軍基地が集中する沖縄の負担軽減について、安倍内閣が沖縄の意見をどの程度聞いていると思いますか。(択一)
 十分聞いている5▽ある程度聞いている36▽あまり聞いていない40▽まったく聞いていない13
北朝鮮のミサイル発射や核開発に、脅威をどの程度感じますか。(択一)
 強く感じる56▽ある程度感じる34▽あまり感じない7▽まったく感じない2
◆アメリカのトランプ政権は、朝鮮半島近くに空母を派遣するなど、北朝鮮に軍事的な圧力をかけています。このアメリカの姿勢を支持しますか。
 支持する59▽支持しない25


産経新聞・FNN

【問】北朝鮮核兵器や弾道ミサイルの開発に脅威を感じるか
 感じる91・3 感じない8・0 他0・7
【問】自民党北朝鮮が実際に日本に向けて弾道ミサイルを発射した場合、2発目以降の弾道ミサイル発射させないように敵基地反撃能力の保有を検討するよう政府に提言した。考えに近いものは
 北朝鮮が実際に弾道ミサイルを日本に向けて発射したあとに限るべきだ45・0
 北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射していなくても、発射する具体的な構えを見せた段階で北朝鮮の基地を攻撃すべきだ30・7
 北朝鮮が実際に弾道ミサイルを発射しても、日本は北朝鮮の基地に反撃すべきではない19・2
 他5・1
【問】北朝鮮核兵器や弾道ミサイルの開発を阻止する役割を中国に期待できると思うか
 思う19・9 思わない76・8 他3・3
【問】今の憲法を改正することに賛成か
 賛成52・9 反対39・5 他7・6
【前問で「賛成」の人に質問】憲法9条を改正することに賛成か
 賛成56・3 反対38・4 他5・3

 産経新聞・FNNの調査で、憲法改正に賛成の人のうち、9条改正に賛成は56・3%、反対派38・4%だったことに対して、産経新聞の記事は「9条改正のハードルは高いようだ」との分析を示しています。