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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

沖縄の復帰45年の日、在京紙朝刊の記録―読売はコラムのみ

 今年5月15日は、1972年に沖縄が日本に復帰してから45年の日でした。沖縄の基地集中の問題は現在、宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設を巡って、新基地を県内の名護市辺野古に建設して移転させようとする日本政府と、県外移設を求める翁長雄志知事の沖縄県とが全面的に対立しています。法廷闘争に進んで、いったんは和解したものの、日本政府には沖縄県との対話の意思は見られず、新基地建設工事を力ずくで進めていくようです。
 基地問題は沖縄という個別の地方の固有の問題ではなく、安全保障という日本全国の問題であることは、このブログであらためて指摘するまでのこともありません。沖縄の人たちばかりでなく、日本本土に住むすべての日本人が、沖縄の基地集中の問題を今後どうすればよいのか、考えるのにいいタイミングの一つだと思います。
 特に普天間飛行場の県外移設を公約に掲げた現知事の翁長氏は就任後、機会あるごとに沖縄の戦後史を踏まえて基地の問題を語ってきました。敗戦後、日本から切り離された沖縄では、米統治下で「銃剣とブルドーザー」と呼ばれる強権的な方法で土地が基地に変えられていったこと、米統治のトップだった高等弁務官は「沖縄住民による自治は神話に過ぎない」と言い放っていたこと、今まで沖縄は一度も自ら基地を提供したことはないことなどです。そうした歴史を踏まえて、その沖縄で今、進んでいる普天間飛行場辺野古移設を見るならば、米軍だけでなく、日本もそこに加わって沖縄に新基地の提供を強要しているに等しいと映るでしょうし、わたしもそう思います。
 1972年の沖縄の日本復帰とは、平和憲法への復帰のはずだったと、かつて労働組合活動の中で何度も沖縄を訪ねる中で教えられ、実感してきました。「5月15日」とは、日本本土に住む日本人こそが、日本国の主権者の一人として、沖縄の歩んだ現代史を学び、今後を考える日だろうと思います。
 そうした観点から、15日付けの東京発行新聞各紙の朝刊(東京本社発行の最終版)が、この「沖縄復帰45年」をどのように報じたか、主な記事の見出しを記録しておきます。
 驚いたのは、経済専門紙の色彩が強い日経新聞はともかくとして、読売新聞に関連の記事がまったく見当たらなかったことです。わずかに1面のコラム「編集手帳」が、薩摩藩琉球支配を肯定的にとらえていた「蔡温」という政治家が琉球王国にいたとして「沖縄はきょう本土復帰45年を迎えた。この間、米軍基地問題という制約に苦悩してきた。他方、基地をなくすことはできないのも現実である。抑止力をにらみつつ、着実に負担減と振興を図るしかあるまい」などと書いているのみです(琉球王国時代の故事を、日本本土の側から現代の沖縄に説くかのようなこのコラムに、わたしは違和感を覚えました)。
 東京発行の読売新聞は15日夕刊と16日付け朝刊では記事を掲載するのですが、一方で朝日新聞毎日新聞は15日付け朝刊で、メインの記事(本記)を1面に載せた上、沖縄の現代史と今日の状況を1ページや2ページを割いた特集記事で詳しく紹介しています。東京新聞は本記が1面トップ。敗戦直後の1945年12月の帝国議会で、沖縄県選出の漢那憲和氏が、米軍占領下となった沖縄県の人々の選挙権が停止されようとしていたことに異議を唱えていたことを紹介して、沖縄の現代史をつづっています。
 東京発行各紙の論調は、特に第2次安倍政権発足後は2極化が進み、普天間移設に代表される沖縄の基地集中の問題も、安倍政権支持と安倍政権に批判的・懐疑的との2極化が進んでいるように感じています。その中で、「5月15日」をニュースとしてどう報じるか、取り上げ方や記事の書き方に各紙の間で差が出ることは当然でしょう。しかし、「5月15日」をその当日の朝刊で報じないとの読売新聞の判断は、私には少なからず驚きでした。


 各紙の主な記事と見出しは次の通りです(各紙とも東京本社発行の最終版より)。

朝日新聞
1面「沖縄復帰 きょう45年」写真・名護市で開かれた基地移設に反対する集会
8面(1ページ特集)「沸く観光 変わらぬ基地」沖縄復帰45年「876万人来県、年収は低いまま/子の貧困率 全国最悪」「動かぬ地位協定 やまぬ事件/日米政府 重なる思惑」「『豊か』の陰で別次元のひずみ/基地の街で暮らす作家・崎山多美さん」/図解・米軍関係の事件事故/グラフ・観光客数 県民総所得に占める割合(観光収入と軍関係収入)
社会面トップ「沖縄45年 広がる分断」「『辺野古』賛否で対立」「ネットのうそ 踊らされた」「衝突 暮らしも混乱」

毎日新聞
1面「本土復帰45年 溝深く」「根の故意説強行 沖縄反発」「問われる政府 姿勢」/「2200人が怒りの声」写真・名護市の県民大会の参加者のシュプレヒコール
14・15面(2ページ特集)「動かぬ基地 つづく苦世(にがゆ)」(見開き見出し)「復帰45年 沖縄の声届かず」「辺野古移設 突き進む政府」/「耐えがたい痛み」比屋根照夫・琉球大名誉教授/「同盟強化 示す政府」/「県民所得 全国最低」/表・普天間飛行場を巡る歴代首相・知事の発言/年表・基地を巡る日米・沖縄の動き
社会面トップ「『悲惨な事故 もう二度と』」「米軍訓練中止求め 読谷村で大会」/「基地引き取りへ連絡会」「東京など5都府県の団体」

▼読売新聞
※見当たらず 1面「編集手帳」に関連コラム

日経新聞
※見当たらず

産経新聞
2面「沖縄返還45年〝県民大会〟 実態は反基地集会」/「失われた『祖国復帰の純粋な思い』」写真・名護市の集会

東京新聞
1面トップ「沖縄 今なお遠い憲法」「安保優位 続く米軍特権/本土復帰45年」「漢那憲和氏の発言」写真・1972年の沖縄返還記念式典、年表・沖縄と憲法に関する主な出来事/「『基地が発展を阻害』翁長知事コメント」写真・平和行進
第2社会面「辺野古 埋め立てさせない/力結集、強権に抵抗の歴史/沖縄復帰きょう45年」


 読売新聞は15日夕刊と16日付け朝刊では以下のような記事を載せています。

▼読売新聞15日夕刊
第2社会面「沖縄 本土復帰45年」「米軍施設なお7割集中 進む跡地開発」写真・返還された西普天間住宅地区跡地=2016年1月、宜野湾市

▼読売新聞16日付け朝刊
2面・ニュースQ+「沖縄の米軍基地 現状は?/全国施設の7割が集中」グラフ・沖縄県の米軍専用施設の面積と全国比の推移
3面・スキャナー「沖縄45年 光と影と」「観光好調 進む『脱基地依存』」「低い所得 高い非正規所得率」/「辺野古移設と負担減 並行 政府」年表・本土復帰以降の沖縄県を巡る動き、グラフ・沖縄の復帰当時と現在の比較(人口、1人当たり県民所得、経済の基地依存度)