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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「共謀罪」報道、朝日、毎日、読売各紙の記事量に開き

 前回の記事の続きになります。
 かつての「共謀罪」と本質的には変わりがない「テロ等準備罪」(政府呼称)を新設する組織犯罪処罰法改正違反法案について、東京発行の新聞各紙では反対ないし批判的な論調の朝日新聞毎日新聞東京新聞と、賛成・支持の読売新聞、産経新聞とに大きく2極化しています。この2極化の傾向は、第2次安倍晋三政権が発足して以降、特定秘密保護法でも安全保障関連法でも、あるいは米軍普天間飛行場名護市辺野古への移設問題をはじめとした沖縄の基地集中の問題でも共通しているようです。その中で、どうやら政権の方策に反対、ないしは批判的な新聞の方が、政権を支持する新聞よりも記事本数が多い、すなわち情報量が多いのではないかと感じていました。
 そこで試しに「共謀罪」法案の報道について、記事本数を数えてみました。
 期間は法案の実質審理が衆院法務委員会で始まった4月19日の当日付け朝刊から、5月21日(日)付けの朝刊まで。条件をそろえるために、在京紙6紙のうち経済専門紙の色彩が強い日経新聞、夕刊を発行していない産経新聞ブロック紙東京新聞は除外し、朝日新聞毎日新聞、読売新聞の3紙で比べてみることにしました。
 結果は朝日93本、毎日63本、読売29本となりました。ほかに国会審議を質問と答弁の1問1答式にまとめた質疑の詳報や参考人の陳述要旨が朝日5回、毎日2回、読売1回、社説が朝日3本、毎日4本、読売2本でした。
 記事のレイアウトや見出し次第では別の数え方もあるかもしれませんが、記事の本数としては大まかに朝日と読売では3倍、毎日と読売でも2倍の違いがあると言っていいと思います。記事1本あたりの情報量ももちろん均一ではありませんが、朝日と読売の間には情報量に相当の差があるのは間違いがありません。
 別の観点からの比較では、朝刊であれ夕刊であれ、その日の紙面に「共謀罪」法案関連の記事が見当たらなかった日数を数えると、朝日5日、毎日8日、読売13日でした。
 これほどの差が出る主な要因は、識者や当事者らの意見や考え方を紹介するか否かです。朝日新聞毎日新聞も「問う『共謀罪』」(朝日)や「『共謀罪』私はこう思う」(毎日)といった欄を社会面に設け、不定期ながら各界の人たちの意見を紹介しており、その中には法案に賛成だったり、「共謀罪」を必要とする意見も含めています。しかし読売新聞にはそういった多様な意見を紹介するような記事はほとんど見当たらず、「共謀罪」への反対意見としては国会での野党主張ぐらいでした。
 この「共謀罪」法案のように賛否が割れる報道テーマでは、国会審議などの生の動きを伝えるほかに、多様な意見やものの見方、考え方を読者に提供していくことも、本来はマスメディアの役割の一つだと思います。その観点からは、ある程度は感じていたこととはいえ、賛否の論調が異なる新聞の間で、ここまで情報量に開きがあることには驚きました。