悪法は民主主義の基本を否定して誕生〜「共謀罪」法成立、在京紙の報道の記録

 かつての共謀罪と本質的に変わりがない「テロ等準備罪」(政府呼称)を新設する組織犯罪処罰法改正案は6月15日朝、参院法務委での採決を飛ばしたまま、本会議で採決が強行され可決、成立しました。安倍晋三政権がどう説明しようとも、改正法の実態をみれば、かつて3度も廃案になった共謀罪が、若干の装いと名前を変えてとうとう現代の日本社会に生まれ落ちたに等しいと思います。
 14日から15日朝にかけての国会の様子は、永く記録にとどめ、語り継いでいかなければならないと思います。「共謀罪」法案は参議院での審議は20時間にも達していませんでした。委員会での採決を飛ばして、いきなり本会議に進む「中間報告」は過去にも例はあるようですが、委員会の委員長が野党のときなどに限られており、今回は異例というより「異常」というほかないのではないかと感じます。与党が議論を一方的に打ち切り、そこへ進めば議席数の差で可決が明らかな採決へとゴリ押ししたのは、何のため、何が目的だったのでしょうか。加計学園の大学獣医学部開設を巡る問題で、安倍首相がこれ以上国会で追及されるのを防ぐために、国会会期を延長させないためだった、との指摘をよく目にします。もしそうなら「安倍1強」への巨大な忖度が働いた、と言うべきでしょう。議会制民主主義の自殺行為です。だれも止められないまま、ここまで来てしまいました。これが「安倍政治」の到達点です。
 「共謀罪」が、民主主義の基本的なルールである「話し合う」ことを否定しながら生まれたことは、そのこと自体が「共謀罪」の危険性を示してもいるのだと感じます。話し合いを否定して、数をたのんで強硬策を強引に進めでもしなければ、可決成立はおぼつかない法案だったということです。皮肉交じりで言えば、悪法にふさわしい誕生の仕方だったのかもしれません。戦前の治安維持法もそうですが、悪法は小さく生まれて大きく育ちます。これで終わりではない、始まりだと考えています。「共謀罪」の乱用をだれが見張るのか、止めるのか。そして、どうやって「表現の自由」を守るのか。いずれもマスメディアのジャーナリズムの課題です。もちろん、テロ対策は否定しませんが、それは別の話です。

 この悪法の誕生をマスメディアはどう報じたか。東京発行の新聞各紙の15日付朝刊と15日夕刊の報道を記録しておきます。各紙とも、東京本社発行の最終版です。

 写真:東京発行新聞各紙の15日付朝刊。経済専門紙の色彩が強い日経新聞は別として、「共謀罪」か「テロ準備罪」か、主見出しのタテ・ヨコ、白抜きかどうかなどの点で、朝日、毎日、東京の3紙と読売、産経2紙の2極化が顕著に読み取れます。日経もどちらかと言えば前者に近いように感じます。
※15日付朝刊の主な記事と見出しは以下の通りです(2017年7月3日追記)。

▼朝日新聞=記事14本、社説
・1面トップ「『共謀罪』法案 きょう成立 自公、参院委審議打ち切る 本会議で採決強行へ」/「疑惑封じ 異例手続き」視点:石松恒・国会担当キャップ
※総合面見開き(2、3面)見出し「疑問残したまま 『共謀罪』自公突進」
・2面:時時刻刻 「会期内ありき 奇策を強行 『加計国会』に幕引き図る」/「中間報告 与党委員長では異例 党議拘束ない法案など前例」
・3面「変遷『周辺者』も処罰 目的『対テロ』外れる」
・4面「2閣僚の問責決議案 否決 加計問題・『共謀罪』法案で野党提出」※賛成、反対意見
・社会面(35面)「不安置き去り 乱暴すぎる 国会で街で 抗議 深夜まで 共謀罪法案」「『熟議ほしかった』」/「仕事帰り、街頭へ」
・第2社会面(34面)問う「共謀罪」※6人「加計問題に『ふた』」ジャーナリスト田原総一朗さん(83)/「国会死にかけてる」宇宙物理学者 池内了さん(72)/「プライバシー危機」弁護士 亀石倫子さん(42)/「中身詰めきれず」評論家 荻上チキさん(35)/「尋常じゃない進め方」ジャーナリスト 青木理さん(50)/「数の力による暴挙」作家 落合恵子(72)
・社説「国会最終盤 極まる政権の強権姿勢」

▼毎日新聞=記事28本、社説
・1面トップ「『共謀罪』法案 成立へ 委員会省略し強行 会期延長なしで調整」/「立法府の劣化深刻」平田崇浩・政治部編集委員
※総合面見開き(2、3面)見出し「疑問点山積のまま 『加計隠し』で奇策」
・2面「『会期内に』官邸意向 都議選控え かじ切る」/「公明 渡りに船」/「中間報告って? 国会法根拠に委員会省略 与野党対決下では10年ぶり」質問なるほドリ
・3面:クローズアップ「『一般人』定義できず 法相答弁ぐらぐら」/「適用 捜査機関任せ」
・5面「『中間報告』で国会紛糾 『究極の強行採決』」/「民進 戦術裏目に」/「疑問点解消されず」政治アナリストの伊藤惇夫さん/「審議無視の禁じ手」武蔵勝宏・同志社大政策学部教授/共謀罪対象となる277犯罪※一覧
・11面:論点 「共謀罪」で社会は:「監視型捜査で市民活動萎縮」白取祐司・金川大法務研究科教授/「犯罪情報 各国共有に不可欠」岡本行夫・外交評論家/「裁判所のチェックには限界」門野博・弁護士、元裁判官
・12面「『共謀罪』テロ等準備罪新設へ」論点整理Q&A「刑事法 大きく変容」/「計画段階で処罰」/「対象犯罪は277」/「『通信傍受』を懸念」
※社会面見開き(26、27面)見出し「市民『だまし討ち』 権力の乱用に懸念」
・社会面(27面)「列島に渦巻く怒り 国会前」/「野党『数の横暴』批判 参院」/「不安しかない/民主主義が危うい/バカげた審議」札幌・名古屋・大阪・広島・博多・鹿児島/「『物言わぬ国民作る法律』消費者団体など相次ぐ反対の声」
・第2社会面(26面)「『白を黒にする力ある』」「『オウム』防げたのか 適切な情報利用必須」被害者・家族の会代表 永岡弘行さん/「政府に異論唱えにくく」佐々木光明・神戸学院大教授(刑事法)/「恣意的捜査にお墨付き」ジャーナリストの溝口敦さん/「国際条約締結に不可欠」萱野稔人・津田塾大教授(哲学)/「共謀罪」私はこう思う・反対「正当な目的 存在しない」首都大学東京教授・木村草太氏(36)/「『監視強化歯止めなし』 別府隠しカメラ 被告の労組危惧」
・社説「強引決着の『共謀罪』法案 参院の役割放棄に等しい」

▼読売新聞=記事7本
・1面トップ「テロ準備罪 きょう採決 委員会省略 与野党 徹夜の攻防 内閣不信任案 提出」/「中間報告」※用語説明
・2面「テロ準備罪 処罰対象は? 市民団体や企業 適用されず」ニュースQ+/ドキュメント テロ準備罪法案
・3面:スキャナー「テロ準備罪 与党『奇策』 自民、公明に配慮 参院『中間報告』」/「野党『戦術ミス』の声も 問責・不信任」
・第2社会面(34面)「緊迫審議 未明も テロ準備罪 与野党応酬 議場騒然」

▼日経新聞=記事5本
・1面トップ「『共謀罪』法案成立へ 与党、参院委採決省く 野党、内閣不信任案で抵抗」
・2面「加計問題 与党幕引き狙う 都議選に波及懸念 野党反発『極めて乱暴』 『共謀罪』巡り攻防」/「過去3度廃案、権限乱用恐れも ▼組織犯罪処罰法改正案」※用語説明
・3面「『中間報告』による国会採決 委員会採決を省略」きょうのことば
・4面「国会会期末 なぜドタバタ? 不信任案で対決色 野党『共謀罪』審議遅れ狙う」Q&A

▼産経新聞=記事5本
・1面トップ「テロ準備罪きょう成立 与党、国会会期延長せず」
・2面「与党、水面下の奇襲 テロ準備罪 委員会採決を省略」/「野党恨み節 時間稼ぎに躍起」
・5面「野党『女の壁』…良識の府? テロ準備罪めぐり 参院委大荒れ」
・27面(社会面)「賛成『テロ防ぐ必要がある』 反対『議論尽くされてない』 テロ準備罪 国会周辺騒然」

▼東京新聞=記事14本、社説
・1面トップ「『共謀罪』成立へ強行 自公 委員会採決を省略 参院本会議 早朝にも可決 野党が内閣不信任案」/「多くの論点 残したまま」/「民主主義ないがしろ」金井辰樹・政治部長
※総合面見開き(2、3面)見出し「『共謀罪』不安尽きず 『加計隠し』野党批判」
・2面:核心「自民、都議選影響を回避」/「与党委員長なのに…異例 与野党対決法案 安倍政権10年前も」/「『共謀罪』、秘密法・安保法の延長線上 改憲へ突き進む安倍政権」
・3面「一般人対象・心の中処罰 テロ対策 根拠曖昧」/ドキュメント「野党『採決ありき』 自民『平和のため』」
・特報面(24、25面)「地方 届かぬ声に怒り 県市町村議会 意見書40以上 国会議員 読んでない?」「反対や危惧『なぜ強引に推し進めるのか』 沖縄では『抗議活動 標的に』」
※社会面見開き(26、27面)見出し「自由が奪われる 国会 死にかけている」
・社会面(27面)「市民ら結集・参院騒然 国会周辺 国会内」/「政権めちゃくちゃすぎる 若者ら怒り」
・第2社会面(26面)「ゴリ押し手法 頂点に 大石芳野さん」※世界平和アピール七人委員会/七人委員会 アピール全文
・28面「数々の問題 置き去り 『共謀罪』9つの論点 国会論戦と取材班の目」※大型表
・社説「『共謀罪』法案 成立強行は疑惑隠しか」


 写真:東京発行新聞各紙の15日夕刊。朝刊と同じく朝日、毎日、東京の3紙と読売の違いが明らかです。見出しに「強行」の2文字がないのは読売だけです。その読売は1面の解説記事に「不安解消へ 更なる説明必要」の見出しを立て、本文では「国会審議で理解が深まることが期待されたが、与党による突然の『中間報告』により、審議が打ち切られた」「政府は捜査機関の権限乱用防止を徹底するとともに、引き続き改正法の内容を国民に説明し、不安解消に努めることが求められる」と書いています。さすがに、この採決のやり方は手放しでは支持できないのでしょうか。 ※東京地域では産経新聞は夕刊の発行はありません。

【15日夕刊】
▼朝日新聞
・1面トップ「『共謀罪』法 成立 採決強行 自公維賛成 参院本会議 懸念 消えぬまま」/「徹夜の反対 与党一蹴」
・2面「強引な国会運営『不安増幅』 野党『加計問題追及逃れだ』 『共謀罪』法成立」/「『問題だらけ』・『自由侵さぬ』」※討論要旨
・社会面(12、13面)見開き「『言論失った国会』 社会の萎縮 不安」/「投票時間制限 響く怒号 『共謀罪』法成立」/「『市民は見ている』『反対の声残す』 議場の外 夜通し抗議」/「安倍一強 やりたい放題」作家 室井佑月氏/「強行し幕引き 政権の焦り」国際政治学者 三浦瑠麗氏/「捜索受けたしこり いまも 作家・雨宮さん」/「監視対象拡大の恐れ 捜査関係者指摘」

▼毎日新聞
・1面トップ「『共謀罪』法 成立 早朝の審議 採決強行 計画段階で処罰可能 参院本会議」/「将来に禍根残す」元衆院議員・早川忠孝弁護士/「適切に運用する 安倍首相」
・10面「野党『稀代の悪法』 参院議場に怒号」「共謀罪」法 攻防ドキュメント/「外務省『懸案解消』」
・社会面(12、13面)見開き「徹夜の攻防 数頼み 監視社会 流れ加速」/「議長 投票打ち切る 野党『牛歩』時間切れ」/「政権のおごり 感じる」/「対象犯罪の選別不透明」フィリップ・オステン慶応大教授(国際刑事法)/「暴力団から市民守れる」田村正博京都産業大教授(社会安全政策)/「通信情報収集容易に」/「国民から声奪い 独裁の国に 検閲されるのは真っ平御免 タレントらツイート」

▼読売新聞
・1面トップ「テロ準備罪法 成立 277の組織犯罪処罰 参院委省略 徹夜国会 朝に採決 内閣不信任否決」/「不安解消へ さらなる説明必要」政治部・木村優里記者
・2面「『奇策』採決に野党反発 『適切な選択』与党は評価 テロ準備罪法 成立」/ドキュメント テロ準備罪法
・社会面(11面)「徹夜審議 大荒れ 『成立』拍手と怒号 テロ準備罪法」/「捜査当局 慎重に運用を」日弁連民暴委員長 木村圭二郎弁護士/「『五輪対策必要』元バレー代表 森田さん」

▼東京新聞
・1面トップ「強行『共謀罪』成立 市民処罰 恐れ残す 徹夜の攻防 参院採決」/「数の力で批判封殺」取材班の目:西田義洋・担当デスク
・2面「野党 決議連発し抵抗 審議打ち切りを批判 『共謀罪』成立」/「福島氏ら3氏の投票行動無効に 牛歩で時間切れ」/※賛成、反対討論要旨、民進(反対)、自民(賛成)、共産(反対)、維新(賛成)
・社会面(8、9面)見開き「国民も歴史も許さぬ」「『反対』叫び続ける」/国会周辺ドキュメント「緊急性どこに/参院 良識の府ではないのか」※1社全面/「徹夜講義の市民『あぜん』/「『黙ってたら変わらず』 治安維持法違反で逮捕」/「情報提供 拒否難しい」警察の活動に詳しい清水勉弁護士/「お任せ意識を捨てて」政治学者の姜尚中・東京理科大特命教授

▼日経新聞
・1面トップ「『共謀罪』法が成立 与党、採決を強行 反zない、準備段階で処罰 参院本会議 維新も賛成 自公『会期延長せず』」
・3面「民進代表『怒り込め抗議』 法相『安全安心に必要』 『共謀罪』法成立」/14、15日ドキュメント
・社会面トップ(13面)「徹夜国会 熟議置き去り 与党『牛歩なんて茶番』 野党『やり方荒っぽい』」/「慎重運用求める声 警察庁長官『対テロで意義』」