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海兵隊が県外、国外移転なら辺野古の基地は必要ない(朝日社説)~名護市長選、在京紙の報道の記録

 前回の記事  (「新市長の公約に『米海兵隊の県外、国外移転』~沖縄・名護市長選の結果は『辺野古移設容認』に直結していない」)の 続きです。2月4日の沖縄県名護市長選の開票結果を、東京発行の新聞各紙は5日付夕刊で大きく報じました(4日は新聞休刊日で5日付の朝刊の発行はありませんでした)。6日付朝刊でも続報を掲載し、そろって社説でも取り上げました。
 当選した渡具知武豊氏が公明党沖縄県本部と交わした政策協定の中に「米海兵隊の県外、国外移転」が盛り込まれていることは朝日新聞の社説が触れており、「海兵隊が使う辺野古の基地は必要なくなるはずである。今後、この公約を果たすべくどう行動していくか。渡具知氏とともに公明党も問われる」と指摘しています。東京新聞は、政策協定に「日米地位協定の改定」も盛り込まれていることにも触れています。社説では「渡具知氏は政策協定を重く受け止め、移設問題に取り組むべきだろう」としています。「米海兵隊の県外、国外移転」と「日米地位協定の改定」が事実上、渡具知氏の公約になっていたことは、本土でも広く報じられるべきだと思います。
 以下に、5日付夕刊については朝日、毎日、読売の3紙、6日付朝刊は日経、産経、東京の3紙を加えた6紙について、主な記事の見出しを備忘を兼ねて書きとめておきます。

【5日付夕刊】
▼朝日新聞
1面トップ「名護市長に辺野古『容認』新顔/『反対』現職破る 移設工事加速へ」/「『争点外し残念』翁長知事」
1面「与党、秋の知事選へ攻勢」
社会面トップ「振興選択 揺れた名護」/「渡具知氏『基地、法律に従う』」/「稲嶺氏『経済優先に敗れた』」
社会面「停滞雰囲気変えて■国からお金を■基地反対続ける/有権者は」
社会面「移設反対『諦めない』/辺野古 続く座り込み」

▼毎日新聞
1面トップ「名護市長に自公系/渡具知氏 移設反対派破る」
1面「政権、次は知事選照準」
社会面「『辺野古はぐらかされた』/稲嶺氏 落選第一声 声振り絞り」

▼読売新聞
1面トップ「名護市長に自公系新人/辺野古反対の現職破る/首相、移設工事『進めていく』」
1面「再編交付金の再開検討 政府」
3面「辺野古移設の進展期待/政府・与党 知事選へ弾み」


【6日付朝刊】
▼朝日新聞
1面「辺野古移設へ政府加速/名護市に交付金再開へ/『容認』新顔当選」
2面・時時刻刻「『辺野古反対』苦境に」/「今秋には沖縄知事選/大敗 翁長氏、迫られる戦略見直し」/「移設 自信深める政権/首相『市民の理解 得ながら進める』」
2面・出口調査分析「渡具知氏 公明票が決め手/稲嶺氏『反対』まとめきれず」
2面・解説「『あきらめ』広がる沖縄」
第2社会面「悩んだ名護 まず暮らし」/「『子どものために』『理想論だけでは』/市長選一夜明け 市民は」/「『複雑な意見 承知』渡具知氏」
社説「名護市長選 民意は一様ではない」

▼毎日新聞
1面「政府、辺野古移設加速へ/名護市長に自公系 翁長氏は、けん制」
2面「翁長氏側に打撃/知事選へ『地元民意』失う」/「再編交付金を検討 政府」/「渡具知氏に投票 3割『移設反対』」
2面「県民投票実施を」名護市辺野古で15年近く聞き取り調査を続ける明星大の熊本博之准教授(地域社会学)/「地方自治に禍根」沖縄大の佐藤学教授(政治学)
3面・なるほドリ「辺野古移設とは? 海を埋め立て 米軍普天間飛行場を移転」
社説「名護市長選で自公系勝利 対立をどうやわらげるか」

▼読売新聞
1面「埋め立て 6月にも着手/名護市長に自公系新人/辺野古」
3面・スキャナー「辺野古移設 加速へ」/「政府・与党『知事奪還』に照準」/「翁長氏 戦略見直し」
4面「公明協力 組織固め奏功/期日前投票 最多の4割超/『自民票の方が多い』けん制も」結果分析
社説「名護市長選 『普天間』の危険性除去を急げ」

▼日経新聞
3面「政府、辺野古移設に弾み/知事選の構図に影響/再編交付金の再開検討」
3面「沖縄の民意 経済を重視」
社説「普天間移設で理解得る努力を」

▼産経新聞
1面「名護市長に自公系新人/現職破る 辺野古移設へ前進」
2面「名護に『交付金』再開検討」/「首相『沖縄の発展 全力支援』」/「与党『知事選弾み』野党に危機感」
社説(「主張」)「名護市長選 辺野古移設を前進させよ」

▼東京新聞
2面・核心「『辺野古』争点化避け/海兵隊県外移転 公明と協定/首相『基地建設進める』」
2面「渡具知氏に投票 3割が建設反対 出口調査」/「市へ交付金再開検討 政府」
26面(特報面)「白黒つけたのは…パンダ?/争点ずれた名護市長選/『ネット批判されやすい招致話』」
社説「名護市長選 移設容認、即断できぬ」

 以下に各紙の社説の一部を引用します。

・朝日新聞「名護市長選 民意は一様ではない」 

 選挙結果は辺野古容認の民意と思いますか。当選した渡具知(とぐち)武豊氏はそう問われると、「思わない」と答え、「市民の複雑な意見は承知している」「国とも一定の距離は置かないといけない」と続けた。
 今回、組織選挙で同氏を支えた公明党県本部は「辺野古移設反対」を掲げる。渡具知氏との政策協定では「米海兵隊の県外・国外移転」をうたった。ならば、海兵隊が使う辺野古の基地は必要なくなるはずである。
 今後、この公約を果たすべくどう行動していくか。渡具知氏とともに公明党も問われる。 

・毎日新聞「名護市長選で自公系勝利 対立をどうやわらげるか」 

 この20年、有権者5万人弱の市で繰り返し移設の賛否を問われる住民に嫌気が広がり「辺野古疲れ」が生まれたとしても不思議ではない。
 しかも今回は辺野古の護岸工事が始まって初の選挙だった。移設に反対でも「工事を止められないのでは」と考える有権者もいただろう。
 政府は3年前から辺野古周辺地区に特別な補助金を出してきた。容認派を増やすための力ずくの手法が分断を助長したことも否定できない。
 「移設容認の民意が示されたとは思っていない。私の支持者にも反対の人がいて複雑な民意だ」。渡具知氏はこう語った。
 正直な心情ではないか。選挙中、移設の賛否を明言しなかった渡具知氏の当選が、直ちに移設容認とはならないはずだ。
 新市長がまず取り組むべきは、長年、市民を切り裂いてきた分断を修復する作業だ。市民の対立をどうやわらげるかに心を砕いてほしい。 

・読売新聞「名護市長選 『普天間』の危険性除去を急げ」 

 渡具知氏は選挙戦で、移設受け入れの是非に言及せず、地域活性化を前面に打ち出した。稲嶺市政は米軍再編交付金の受け取りを拒むなどしたため、地域経済は停滞している。渡具知氏は現状打開を望む民意の受け皿となった。
 名護市長選は1998年以降、移設容認派が3連勝した。2009年に誕生した民主党の鳩山政権が無責任に「県外移設」を掲げたため、保守層内の対立を招き、翌年の稲嶺氏当選につながった。
 移設問題を巡る混乱に終止符を打つきっかけとしたい。
 政府は、埋め立て区域を囲む護岸工事を本格化している。今夏にも土砂の投入に着手する方針だ。22年度以降の完成を目指す。
 関係自治体や住民に対し、移設の意義や作業の手順などを丁寧に説明するとともに、騒音・環境対策にも万全を期すべきだ。 

・日経新聞「普天間移設で理解得る努力を」 

 普天間移設をめぐる政府と沖縄県の調整は20年を超えた。市街地にあり「世界一危険」といわれる飛行場の閉鎖は先送りできない課題だ。日米両政府は「辺野古移設が唯一の解決策だ」と強調してきた。日本周辺の厳しい安全保障の現状を直視すれば、望ましい選択肢であるのは事実だろう。
 一方で政府は「国土面積のわずか0.6%の沖縄になぜ日本にある米軍専用施設の約7割が集中しているのか」という地元の声に長く向き合ってこなかった。これが政府と沖縄の相互不信がここまで高まる原因となっている。
 沖縄県では米軍関係者による暴行事件が後を絶たず、米軍機の墜落事故なども相次いだ。辺野古への移設で市街地での事故の危険性や騒音被害は確かに大きく減る。だが沖縄が担っている重い基地負担を全国でどう分かち合うかという議論は進んでいない。
 今年11月には沖縄県知事選が予定される。名護市長選で与党が推す候補が勝ったからといって、工事をごり押しするような姿勢は次のあつれきを生むだけだ。「県民の気持ちに寄り添う」という首相の言葉を実行し、着実に移設につなげていく必要がある。 

・産経新聞「名護市長選 辺野古移設を前進させよ」 

 移設の進捗(しんちょく)を妨げてきた環境が、大きく改善されることが期待される。政府は適正な手続きの下で、移設工事を着実に進めるべきだ。
 辺野古移設は曲折をたどってきたが、沖縄を含む日本とアジア太平洋地域の平和を保ち、普天間飛行場周辺に暮らす住民の安全を図る方策である。
 中国は、沖縄の島である尖閣諸島を狙っている。原子力潜水艦を尖閣沖の接続水域で潜航させて挑発するなど油断ならない。核・弾道ミサイルを振りかざす北朝鮮は現実の脅威である。
 日米同盟に基づき沖縄に存在する米軍が、軍事的にも政治的にも強力な抑止力となっていることを忘れてはならない。住宅密集地に囲まれた、普天間飛行場の危険性を除くことも急務である。
 昨年12月には、普天間飛行場に隣接する小学校の校庭に米海兵隊のヘリコプターが窓を落とす事故があった。その後も、基地外への米軍ヘリの不時着が相次ぎ、政府が再発防止の徹底を求める事態となっている。
 米軍が運用の改善を図るのは当然として、早期の辺野古移設が必要なのは明らかである。 

・東京新聞「名護市長選 移設容認、即断できぬ」 

 とはいえ、渡具知氏の当選から辺野古移設容認の民意を読み取ることは難しい。政権の全面支援を得たとはいえ、渡具知氏が辺野古移設の容認を明言して選挙戦を展開したわけではないからだ。
 むしろ、移設の是非が争点化することを避け、地域経済の活性化を前面に掲げたことが市民の心をとらえたのではないか。
 渡具知氏を推薦した公明党県本部は辺野古移設に反対の立場で、推薦に当たっての政策協定書には「海兵隊の県外・国外への移転を求める」と明記されている。
 渡具知氏は政策協定を重く受け止め、移設問題に取り組むべきだろう。政権側も、市長選結果を理由に移設工事をこれ以上、強行することがあってはならない。
 首相は二日、沖縄で米軍基地負担の軽減が進まない背景について「移設先となる本土の理解が得られない」と答弁した。本土の理解が得られないことを、沖縄県民に負担を押し付けていい理由にしてはなるまい。翁長氏が「県民をないがしろにする理不尽なものだ」と反発するのは当然だ。
 普天間返還が進まない原因は、沖縄の民意に寄り添おうとしない政権の側にあるのではないか。
 地域振興は名護に限らず、過疎化や高齢化に悩む全国の自治体にとって重い課題だ。地域振興策との引き換えで米軍基地受け入れを迫るような強権的な手法を、政権は改めるべきである。 

 東京新聞の社説(中日新聞も同じ)が指摘している安倍首相の2月2日の「移設先となる本土の理解が得られない」発言は、基地が沖縄でなければならない合理的な理由はないことを問わず語りに語ったものとして、沖縄では反発を呼んでいます。
※琉球新報:社説「『本土理解困難』発言 いつまでも捨て石なのか」2018年2月4日
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-658830.html 

 安倍晋三首相が衆院予算委員会で、沖縄の基地の県外移設が実現しない理由について「移設先となる本土の理解が得られない」と述べた。裏を返せば沖縄県民の理解を得ることは全く念頭にないことを意味する。これが本音だろう。同じ国民に対する二重基準を放置することはできない。
 沖縄の基地負担軽減策のほとんどが県内移設だ。政府は米軍普天間飛行場の移設に伴い、名護市辺野古への新基地建設を進めている。琉球新報が昨年9月に実施した世論調査では80・2%が普天間飛行場の県内移設に反対した。沖縄の理解など得られていない。それにもかかわらず安倍政権は基地建設を強行している。
 国土面積の0・6%しかない沖縄に在日米軍専用基地の70%が置かれている。沖縄への基地集中は米統治下の1950~60年代に日本各地の基地が移転したためだ。
 56年に岐阜、山梨両県から海兵隊第3海兵師団が移転し、69年には安倍首相の地元・山口県岩国基地から第36海兵航空群が普天間飛行場に移転した。本土住民の反対運動に追いやられる形で、沖縄に基地が移転したのだ。
 しかし防衛省は冊子「在沖米軍・海兵隊の意義および役割」の中で「沖縄は(中略)朝鮮半島や台湾海峡といった潜在的紛争地域に近い(近すぎない)位置にある」と記し、沖縄の基地集中は地理的な理由だと主張していた。今回の安倍首相の見解で、それが欺瞞(ぎまん)であることが一層明白になった。