ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「変革はついに1人から始まる」~追悼座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」(「放送レポート」271号)

 メディア総合研究所が編集している雑誌「放送レポート」271号(3月1日発行、大月書店刊)に、昨年11月30日に92歳で死去されたジャーナリスト原寿雄さんを追悼する座談会「ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~」が掲載されています。上智大学名誉教授の石川旺さん、元朝日新聞編集委員で専修大学教授の藤森研さんに、わたしも加えていただきました。石川さんと藤森さんは、原さんが共同通信社を離れた後に、原さんの自宅にメディア研究者や記者らが集まって開いていた勉強会「原塾」のメンバー。わたしは、通信社勤務という点のほか、原さんがかつて副委員長を務められた新聞労連でも、後輩に当たります。藤森さんも元新聞労連委員長で、わたしに取っては直接的にアドバイスや激励をいただいていた大先輩です。座談会の司会は「放送レポート」編集長の岩崎貞明さんでした。 

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 原塾ではマスメディアの報道を巡る様々な課題を具体的に論じていたというだけあって、石川さん、藤森さんのお話はいずれも興味深いものでした。例えば、沖縄の琉球新報が、沖縄防衛局長の「犯す前にこれから犯すと言うか」という発言を、オフレコを返上して書いたことを巡って、この発言を書かなかった沖縄タイムスの編集幹部が悩み「原塾に聞くしかない」とわざわざ足を運び、塾の皆さんで議論したこともあったとのことです。原さんの意見は、基本的には書くべきだ、他社にも「うちは書くぞ」と言い、発言した当局側にも「これはあまりにも重要だから書きます」と通告した上で書くべきだ、ということだったと、藤森さんと石川さんが紹介しています。
 わたしが話したのは、昨年12月にこのブログにアップした追悼文に書いた内容が大半です。 

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 座談会では「ペンとパン=ジャーナリスト個人の強さ」の問題や、国籍を超えたャーナリズム、憲法9条を持つ国ならでの「9条ジャーナリズム」など、原さんが一貫して主張していたジャーナリズムとジャーナリストのありようについて、3人それぞれに語りました。その中で、ここでは原さんの二つの言葉を紹介します。
 一つは「変革は一人から始まる」。藤森さんが、原さんのもっとも印象に残る言葉として挙げました。「原さんは芯は温かい人だから、多くの人が寄ってくる。しかし『衆を頼まない』=自立ということをご自分にも課していた。それが、変革はついに一人から始まるという、一種の『覚悟』でもあったのだと思います。そして、自律し、自立したジャーナリストたちが、いい連帯をする。その考え方は、あるべき市民社会への形へもつながっていく考え方だったと思います」と藤森さんは話しています。
 もう一つは「ジャーナリズムはマンネリズムにどう対抗していくか」。課題として原さんが常々指摘していたと、石川さんが紹介しました。マンネリズムは政治の中にある手法で、例えば「安保法制反対」「共謀罪」反対と言っていても、時間がたつと問題点は忘れられていきます。「時間の経過による定着が、政治手法として用いられている。その間に『違うことに目を向けさせる』という機能をジャーナリズムが持ってしまっている。他の問題を取り上げて報道を過熱させることにより、まだ続いている問題への関心が薄れる、というような問題にどう向かい合うのか。原さんはそれを『マンネリズムへの対抗』とスパッと要約されたと、石川さんは紹介しました。
 わたしからは、組織論になりますが「全員がモノを言え」との原さんの言葉を紹介しました。「全員が自分の考えを発言していれば、ジャーナリズム組織はそうおかしなことにはならないはずだ」ということです。ブログの追悼文でも紹介しています。わたしがかつて身を置いた労働組合にも「意見の食い違いを恐れない。意見が出ないことを恐れる」との合い言葉がありました。原さんの薫陶は、そうした形でも残っているのだと思っています。
 これまでわたしたちの世代は、組織ジャーナリズムのありようについて、原さんから様々に教えを受けてきました。それらのことを、これからは時代に合わせて、ジャーナリズムを巡る環境に合わせて、わたしたちが実践し、後続の世代に受け継いでいかなければなりません。何よりも、ジャーナリズムとは国益に奉仕するものではない。市民、社会の人々の知る権利に奉仕し、戦争を防ぐためにあらねばなりません。絶望せず、悲観せず、しかし着実に。そのことをあらためて胸に刻んだ座談会でした。
 「放送レポート」は現在、部数は少ないようですがアマゾンでも扱っているようです。 

放送レポート 3月号(no.271)

放送レポート 3月号(no.271)

 

 

【お知らせ】

 3月10日に原さんをしのんで、公開シンポジウムが開かれます。

お知らせ:3月10日に東京で追悼の公開シンポジウム「原寿雄さんと現代のジャーナリズムを語る会」 - ニュース・ワーカー2

 

【追記】2018年2月25日20時10分

 改題しました。当初の「追悼座談会『ジャーナリズムを生き抜いて~原寿雄さんが遺したもの~』(『放送レポート』271号)」はそのまま副題としました。