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18日間秘匿されたオスプレイ横田配備~自国民より米国の意向優先

 4月3日の火曜日、在日米軍が突然の発表を行いました。米空軍の垂直離着陸機CV22オスプレイ5機が週後半に東京・横田基地に到着するとの内容。オスプレイは到着後に訓練を行い、そのまま横田基地を拠点に運用を開始するとのことでした。正式配備は夏ごろとされています。CV22の横田基地配備計画については、米国防総省が昨年3月、当初予定の17年後半より最長で3年遅れ、19年10月~20年9月になると発表していました。
 共同通信が初報を速報したのは午後零時半ごろ。いきなりの配備前倒しに驚きましたが、さらに驚いたのは、その日の夕方にオスプレイ5機を積んだ輸送船が横浜港の米軍専用埠頭ノースドッグに到着し、機体が陸揚げされたことです。つまり、在日米軍の発表が行われたころには、輸送船はもう横浜入港まであと5~6時間という近海に到達していたことになります。輸送船の出航地は米国フロリダとの報道(5日付東京新聞朝刊)もありますが、何日間もの航海の末に日本に到着する、そのギリギリの直前まで、日本国民には配備前倒しも5機の輸送も、何も知らされていなかったことになります。
 気になったのは、では日本政府が知ったのはいつか、ということでした。報道でこの点に触れたのは、東京発行の新聞各紙では朝日新聞の5日付朝刊が最初です。社会面トップの「突然オスプレイ なぜ」の記事の中で短く、以下のように触れています。

 政府関係者によると、米側から連絡があったのは3月16日。ただ「こちらから連絡するまで、日本国内の公表は控えてほしい」と要請があったという。

 3月16日から4月3日の発表まで半月余り、18日間、日本政府は米国の意向を優先して自国民に何も知らせずにいました。沖縄で墜落を含めてトラブルが相次いでいるオスプレイが、タイプは異なるとはいえ首都圏の空を飛び回ることになる危険性と住民の不安もさることながら、今回のオスプレイ横田配備でいちばんの問題はここにあると、わたしは考えています。
 米軍は今後数年間で計10機と運用の要員ら約450人を順次配備する予定で、中国や北朝鮮への抑止力を高める狙いがあるとみられています。菅義偉官房長官も4日の記者会見で「日本の防衛、アジア太平洋地域の安定に資する。地元への影響を最小限にするよう日米で協力する」と述べたと報じられています。日本社会にもそれだけの大きな意味のある配備であるなら、事前に配備情報を公表して然るべきです。当然に反対の声が巻き起こり、機体の横浜到着当日は横浜港周辺でも反対運動が展開されたでしょう。しかし、そうした反対の声も含めて、横田配備前倒しが広く社会に報じられ、そうする中で社会的な議論が行われるべきでした。市街地上空を飛行中に何かトラブルがあれば大きな被害も予想される、そういう問題もありますし、国土の一部を米国の主権下にある軍事基地に提供しているそのありように根本的にかかわる問題というとらえ方もできるかと思います。この「オスプレイ横田配備」は、日本で広く社会的な議論があって然るべきテーマです。
 しかし、政府が18日間にわたって情報を伏せた結果はどうだったでしょうか。突然の発表でマスメディアも浮足立ち気味の中、輸送船が粛々と横浜に入港し、粛々と機体が陸揚げされる、その様子が粛々と報じられる―。わたしにはそのように感じられました。仮に、事前に情報が公表されていたなら、「あす到着」「きょう陸揚げ」といった事前報道もあったでしょうし、時間をかけて専門家に取材した記事なども準備できたはずです。その違いは歴然だと思います。反対の声に包まれることなく粛々と機体が日本到着を果たしたことで、「配備は既定の方針」「反対しても無駄だ」といったムードが日本社会に醸し出されるのだとすれば、日本政府が情報を出さなかったことの意味合いが分かります。そうした「反対の声の封じ込め」が目的だったと断定はできませんが、仮説として留意しておきたいと思います。
 軍事情報を国民に伏せることは、さかのぼれば太平洋戦争中の「大本営発表」報道に行き着くと思います。最後は戦果をねつ造し虚偽の事実を発表するところまで行ったのが、かつての日本でした。今回は戦闘、つまり兵士の人命にかかわる作戦行動でもありません。米国の意向だからといって秘匿がまかり通っていってしまえば、今後一切、米軍に関わる情報は事前には公表されない、ということになることを危惧します。今、こうしている間にも米軍が日本を巻き込んで何事か進めていることがあるのに、日本政府が秘匿していて国民、住民には何も分からない、というようなことが常態化していいわけがありません。
 18日間にわたる日本政府の情報秘匿は、マスメディアとしても焦点に絞り込んで検証すべきテーマだと思いますが、6日までの在京紙各紙の報道では、ようやく6日付の東京新聞朝刊が取り上げた程度です。同じような情報秘匿が今後、繰り返されることを危惧します。

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 オスプレイ配備の発表の前日4月2日には、防衛省がいったんは昨年「存在しない」としていたイラク派遣陸上自衛隊部隊の業務日報が見つかったと、小野寺五典防衛相が明らかにしていました。3日以降、その関連記事が連日、大きく報じられています。防衛省担当記者を始め防衛や安全保障の専門知識を持つ記者は、そちらの取材、報道にも大きな労力を割かざるを得ず、結果的、相対的にオスプレイ横田配備の扱いが小さくなっているようにも思えます。
 東京発行の新聞各紙をみると、初報段階の4日付朝刊で、オスプレイ横田配備を1面で扱ったのは毎日新聞と東京新聞だけでした。両紙は社会面にも関連記事を展開していますが、朝日新聞、産経新聞は第2社会面に本記のみ、写真もなしで、小さな扱いが目立ちました。
 備忘を兼ねて、各紙の4日付朝刊の関連記事の扱いを書きとめておきます。毎日、日経、産経、東京の4紙は、いずれも本記は共同通信の配信記事です。

【4月4日付朝刊】
・朝日新聞
本記:第2社会面「オスプレイ5機 横田に今夏配備/在日米軍 沖縄以外で初」見出し2段、写真なし
・毎日新聞
本記:1面準トップ「オスプレイ今夏横田配備/週内5機到着 沖縄以外で初」見出し3段、写真(CV22オスプレイの資料写真)、地図
社会面「オスプレイ『なぜ今』/突然の前倒し 住民、怒りと不安」写真(横浜ノースドッグに入るオスプレイを積載したとみられる輸送船)
社会面「首都圏 低空飛行か」
・読売新聞
本記:2面「オスプレイ前倒し配備/米空軍5機、横田に今夏」見出し2段、写真(CV22オスプレイの資料写真)
・日経新聞
本記:4面(政治)「オスプレイ 横田配備へ/今週後半にも5機到着」見出し3段、写真(CV22オスプレイの資料写真)
・産経新聞
本記:第2社会面「オスプレイ 週内に横田着/今夏正式配備、沖縄以外で初」見出し2段、写真なし
・東京新聞
本記:1面準トップ「オスプレイ5機 横田配備/今週 延期一転、前倒し」見出し3段、写真(横浜ノースドッグに入る米空軍の輸送機CV22オスプレイを積んだとみられる輸送船)、地図(日本国内のオスプレイ関係地)、「CV22オスプレイ」(とはもの)
社会面トップ:「突然の通告『ひどい』」「首都圏の空…『なぜ今』『安全性は』」「夜間、低空飛行の懸念も/CV22 過酷条件での運用想定」写真(CV22オスプレイの資料写真)、地図(横田配備のオスプレイCV22の移動イメージ)

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 以下は、5日付以降の各紙紙面で目に付いた記事です。朝日新聞は5日付で社会面の半分以上を割く大きな扱いでした。

【4月5日付朝刊】
・朝日新聞
社会面トップ「突然オスプレイ なぜ/横田配備前倒し」「米の安保戦略 協議対象外」「市民団体『国民軽視だ』」「事故・騒音絶えぬ沖縄『我慢の限界』」
・東京新聞
社会面準トップ「『いつ飛行』米軍情報乏しく/防衛省困惑」
24、25面(特報)「首都上空で わがもの顔/日本の空は誰のもの?/事故、騒音…住民に広がる不安」「航空法及ばない米軍/沖縄では低空飛行相次ぐ/『日米地位協定 正すべき』」
社説「オスプレイ配備 住民の懸念伝えたのか」

【4月6日付朝刊】
・東京新聞
1面トップ「横田にオスプレイ18日間未公表に怒り/住民『国は信用できない』」
社会面トップ「『いつも米のいいなり』/『守られない合意』嘆く地元/配備・訓練 政府否めず」
社会面準トップ「『情報独占おかしい』識者ら/陸自日報問題・オスプレイ配備」