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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

西城秀樹さんと「がきデカ」~同時代に残した存在感の大きさ

 5月16日に63歳で死去した西城秀樹さんの葬儀・告別式が26日に執り行われました。新聞各紙の記事を読みながら、同時代を過ごした世代の1人として、西城さんが同時代に残した足跡の大きさを改めて思いました。告別式では西城さんを含めて「新御三家」と呼ばれた野口五郎さん、郷ひろみさんが弔辞を読みました。3人それぞれに持ち味があって、それぞれにファンはいたのだと思いますが、それでも、3人の中でも西城さんはとりわけ時代を代表する存在だったのだとわたしは感じています。

 西城さんと同じ時期に大ヒットした「がきデカ」というギャグマンガがあります。作者は山上たつひこさん。西城さんのデビューは1972年。がきデカは1974年に少年チャンピオンで連載が始まりました。主人公は日本初の少年警察官、東京都練馬区在住の小学生とおぼしき「こまわりくん」。それだけでも荒唐無稽なのですが、脇を固めた常連の登場人物たちが個性的で、印象的でした。そしてそれぞれの名前と風貌に、当時の時代が色濃く反映されていました。その中で最も重要な、いわばこまわり君の相方役として設定された同級生の少年が「西城くん」でした。
 記憶をたどりながら、ウイキペディア「がきデカ」を参照してみました。それによるとフルネームは「西城ヨシオ」。「ハンサムで学業もスポーツも万能な優等生の少年。本作の主要ツッコミ役だが、時にはかなりのボケをやることも」と紹介されています。言うまでもなくモデルは西城秀樹さんでした。「野口くん」でも「郷くん」でもなく「西城くん」。こまわり君の対極キャラとして、基本は何よりも「かっこよさ」だったのでしょう。そのかっこいい西城くんが時にこまわり君にペースを乱され、らしからぬ振る舞いに及んでしまうところにも笑いがありました。
 同級生の中には双子の姉妹がいて姉は「木の内モモ子」、妹は「木の内ジュン」。それぞれ山口百恵さんと風吹ジュンさんがモデルとされるようです。モモちゃんは西城くんのガールフレンドで優等生ですが、ジュンちゃんは時にこまわり君とシンクロするなど、風変わりな子でした。勝手な推測ですが、「木の内」は1974年にデビューしたアイドル歌手、木之内みどりさん由来かもしれません。担任の若い女性教師「あべ先生」のフルネームは「あべ美智子」。名前も容貌も歌手のあべ静江さんそのものでした。ほかに主要キャラクターには人格を備えた「栃の嵐」という犬もいて、わたしのお気に入りでした。
 ウイキペディアには「過激な下ネタや描写、単語が頻発しており、連載当時は全国のPTAから槍玉にあがった」との記述があります。確かに下品でしたが、圧倒的な人気がありました。 
  ※ウイキペディア「がきデカ」
 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%81%8C%E3%81%8D%E3%83%87%E3%82%AB

 山上たつひこさんは「がきデカ」の前に「喜劇新思想体系」というギャグマンガを青年向け漫画誌に連載していました。高校生の時に文庫本化されたのをすべてそろえ、一通り読みました。がきデカの原形のようなものはここにすべて表れています。下品さはがきデカ以上でしょう。一方で自衛隊や旧軍、警察、政治家、医師などを徹底的に茶化す場面もふんだんにあって、ある種の抵抗精神が色濃くありました。山上たつひこさんはさらにその前には「光る風」というシリアスな作品も書いています。ギャグ要素が一切ない、純粋に社会派の作品で、そこでは日本は再軍備されていて、ベトナムに派兵します。主人公は反戦運動にかかわる少年。兄はエリート軍人ですが、四肢を失ってベトナムから帰還します。兄の身に何が起きたのか…。「喜劇新思想体系」も「光る風」も、いつの間にか手元からなくなっていました。残しておきたかったと思います。

 一世を風靡した山上たつひこさんが、がきデカの中で同時代を象徴するアイコンとして選んだのが西城秀樹さんだったのだと思います。「西城秀樹」の社会的な位置付けがそんなところにも見出せる、と言ったら大げさでしょうか。西城さんの死去が報じられて、マスメディアでも幾多の報道がありましたが、わたしが目にした範囲では「がきデカ」や「西城くん」に触れた報道はありません。どのようなニュースでも、世代や過ごしてきた環境などによって関心の持ちようが異なるのは当然ですが、わたしなりに同時代の記録としてここに残しておこうと思います。

 それにしても早すぎる死でした。謹んで哀悼の意を表します。 

がきデカ 16 (少年チャンピオン・コミックス)

がきデカ 16 (少年チャンピオン・コミックス)

 

 ※追記 2018年5月27日17時05分

 副題を「同時代に残した足跡の大きさ」から差し替えました。