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「沖縄のこころ」と平和の詩「生きる」~73年目の「慰霊の日」

 前回の記事の続きです。沖縄の慰霊の日の6月23日、沖縄県糸満市摩文仁の平和祈念公園で正午から沖縄全戦没者追悼式が開かれました。
 沖縄県の翁長雄志知事の平和宣言では、冒頭で第2次大戦末期の沖縄戦の体験について「戦争の愚かさ、命の尊さという教訓を学び、平和を希求する『沖縄のこころ』を大事に今日を生きています」と「沖縄のこころ」という言葉を使いました。そして、米軍普天間飛行場の移転先として、日本政府が名護市辺野古に新基地建設を、沖縄県の反対を押し切って進めていることに対し「平和を求める大きな流れの中にあっても、20年以上も前に合意した辺野古への移設が普天間飛行場問題の唯一の解決策と言えるのでしょうか。日米両政府は現行計画を見直すべきではないでしょうか」と疑問を投げ掛け「沖縄の基地負担軽減に逆行しているばかりではなく、アジアの緊張緩和の流れにも逆行していると言わざるを得ず、全く容認できるものではありません。『辺野古に新基地を造らせない』という私の決意は県民とともにあり、これからもみじんも揺らぐことはありません」と表明しました。「沖縄の米軍基地問題は、日本全体の安全保障の問題であり、国民全体で負担すべきものであります。国民の皆様には、沖縄の基地の現状や日米安全保障体制のあり方について、真摯に考えていただきたいと願っています」との一節は、特に心に留めたいと思います。がんで闘病中の翁長知事の眼光と気迫が印象に残ります。
 ※翁長知事の平和宣言全文は琉球新報のサイトで読めます。
  https://ryukyushimpo.jp/news/entry-744820.html

 一方、安倍晋三首相はあいさつに立ち、沖縄の基地集中の問題については「沖縄の方々には、永きにわたり、米軍基地の集中による大きな負担を担っていただいております。この現状は、何としても変えていかなければなりません。政府として、基地負担を減らすため、一つ一つ、確実に、結果を出していく決意であります」と述べました。
 違和感を覚えたのは「今、沖縄は、美しい自然、東アジアの中心に位置する地理的特性をいかし、飛躍的な発展を遂げています。昨年、沖縄県を訪れた観光客の数はハワイを上回りました」「アジアと日本をつなぐゲートウェイとして、沖縄が日本の発展を牽引する、そのことが現実のものとなってきたと実感しています。この流れを更に加速させるため、私が先頭に立って、沖縄の振興を前に進めてまいります」などと述べたことです。観光を基軸にした沖縄の経済発展やアジアとの交流は日本政府の、安倍政権の功績なのでしょうか。
 安倍首相は終了後の記者団の取材には「今後、普天間基地の一日も早い全面返還を実現するために、最高裁の判決に従って、そして関係法令に則って移設を進めていく考えであります」と述べています。辺野古の工事中止の沖縄県の要請を受け入れるつもりはまったくないことを言明しています。
 ※首相官邸
  「平成30年沖縄全戦没者追悼式における内閣総理大臣挨拶」
   https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/statement/2018/0623okinawa.html
  「平成30年沖縄全戦没者追悼式」
   https://www.kantei.go.jp/jp/98_abe/actions/201806/23okinawa.html

 マスメディアの報道でも指摘しているように、翁長知事の沖縄県と安倍晋三政権の間で、辺野古の新基地建設を中心に対立が激化する構図が浮き彫りになったように思います。
 追悼式では、浦添市立港川中3年の相良倫子さんが平和の詩「生きる」を朗読しました。一語一語が心に沁み渡る思いがします。
 ※「生きる」は東京新聞のサイトで全文が読めます。
  http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/list/201806/CK2018062302000252.html

 特に次の一節には心を揺さぶられる思いがしました。戦争の最大の教訓がここにあるのだと感じます。その教訓を生かすことが、おびただしい犠牲を生んだ悲惨な歴史を無にしないことに通じるのだと思います。

あなたも、感じるだろう。
この島の美しさを。
あなたも、知っているだろう。
この島の悲しみを。
そして、あなたも、
私と同じこの瞬間(とき)を
一緒に生きているのだ。
今を一緒に、生きているのだ。
だから、きっとわかるはずなんだ。
戦争の無意味さを。本当の平和を。
頭じゃなくて、その心で。
戦力という愚かな力を持つことで、
得られる平和など、本当は無いことを。
平和とは、あたり前に生きること。
その命を精一杯輝かせて生きることだということを。

 沖縄タイムスと琉球新報の2紙は24日付の社説で追悼式典を取り上げています。
▼沖縄タイムス「[全戦没者追悼式]この訴え 届け全国に」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/272060
▼琉球新報「『沖縄のこころ』 基地なき島の実現誓おう」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-745141.html

 東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)もそれぞれ24日付朝刊で「慰霊の日」を報じました。1面に入れたのは朝日、毎日、産経、東京です。読売は第2社会面、日経は社会面でした。

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 相良倫子さんの平和の詩「生きる」は東京新聞が全文掲載。朝日、毎日はネット上のサイトに全文掲載とのことです。読売新聞は相良さんの写真とともに詩を紹介する記事は掲載していますが、全文は紙面、サイトともないようです。産経新聞は紙面では相良さんの詩には触れていません。安倍晋三首相のあいさつ要旨は掲載しましたが、翁長知事の平和宣言の要旨はありません。

 以下は朝日、読売、毎日3紙の23日付夕刊の1面です。

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