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杉田水脈議員の差別主張を容認する自民党を批判~新聞各紙の社説 ※追記あり

 自民党の杉田水脈衆院議員が7月18日発売の月刊誌「新潮45」に「『LGBT』支援の度が過ぎる」とのタイトルで、性的少数者(LGBT)に対する差別的な論考を寄稿しました。「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるのか。彼ら彼女らは子どもをつくらない、つまり『生産性』がない」「なぜ男と女、二つの性だけではいけないのか」などとする主張は批判を受けて当然だろうと思います。ただ杉田議員は「同性婚を認めれば、兄弟婚や親子婚、ペット婚や機械と結婚させろという声も出てくるかもしれない」とまで書いており、とてもまともな神経とは思えないのですが、国会議員の主張である以上は軽視できません。それ以上に見過ごすことができないのは、自民党が党として杉田議員に何の措置も取ろうとしないことです。
 自民党の二階俊博幹事長は7月24日の記者会見で「党は右から左まで各方面の人が集まって成り立っている。人それぞれ、政治的立場はもとより人生観もいろいろある」と述べ、静観する方針を表明しています。その後、自民党の国会議員らからも杉田議員を批判する発言が挙がってはいますが、党として杉田議員を注意したりするような動きはないようです。党総裁の安倍晋三首相のコメントも今のところ(7月29日夜の時点)はありません。
 杉田議員の経歴を見ると、2012年衆院選で日本維新の会から立候補し、比例近畿ブロックで復活し初当選しました。その後、次世代の党に移り14年衆院選で落選。17年衆院選で自民党の比例中国ブロックから出馬し当選しています。自民党にはこのような国会議員を生み出した責任があります。党として、杉田議員に主張の誤りを指摘し、非を認めさせるべきでしょう。杉田議員の主張自体、大きな問題ですが、それ以上に一番の問題点は、公党であり巨大与党である自民党が杉田議員の主張を容認し、放置していることだと感じます。

 目に止まった限りですが、この問題を取り上げた新聞の社説を書きとめておきます。やはり、杉田議員に何も措置を取ろうとしない自民党への疑問と批判が目立ちます。

【7月25日付】
・朝日新聞「LGBT 自民の認識が問われる」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S13604333.html?ref=editorial_backnumber 

 同じ自民党内の若手議員から「劣情をあおるのは政治ではなくて単なるヘイト」といった批判があがったのも当然だ。
 ただ、こうした認識は党内で共有されていないようだ。
 驚いたのは、きのうの二階俊博幹事長の記者会見である。
 「人それぞれ政治的立場、いろんな人生観がある」「右から左まで各方面の人が集まって自民党は成り立っている」
 杉田氏の見解を全く問題視しない考えを示したのだ。
 自民党はもともと伝統的な家族観を重んじる議員が多い。しかし、国内外の潮流に押される形で、昨秋の衆院選の公約に「性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進を目的とした議員立法の制定を目指す」と明記、「多様性を受け入れていく社会の実現を図る」と掲げた。杉田氏の主張は、この党の方針に明らかに反する。
 杉田氏はSNSで自身への批判が広がった後、ツイッターで「大臣クラス」の先輩議員らから「間違ったこと言ってないんだから、胸張ってればいいよ」などと声をかけられたとつぶやいた。こちらが自民党の地金ではないかと疑う。
 少数者も受け入れ、多様な社会を実現する気が本当にあるのか。問われているのは、一所属議員だけでなく、自民党全体の認識である。 

・毎日新聞「杉田水脈議員の差別思考 国民の代表とは呼べない」
 https://mainichi.jp/articles/20180725/ddm/005/070/036000c 

 杉田氏はこれまでも、保育所増設や夫婦別姓、LGBT支援などを求める動きに対し「日本の家族を崩壊させようとコミンテルン(共産主義政党の国際組織)が仕掛けた」などと荒唐無稽(むけい)の批判をしてきた。
 「安倍1強」の長期政権下、社会で通用しない発言が自民党議員の中から後を絶たない。「育児はママがいいに決まっている」「がん患者は働かなくていい」など、その無軌道ぶりは共通している。
 杉田氏は2012年衆院選に日本維新の会から出馬して初当選し、14年は落選したが、昨年、自民党が比例中国ブロックで擁立した。安倍晋三首相の出身派閥である細田派に所属している。杉田氏の言動を放置してきた自民党の責任は重い。
 同時に、杉田氏の寄稿を掲載した出版社の対応にも問題があるのではないか。ネット上のヘイトスピーチに対しては、サイト管理者の社会的責任を問う議論が行われている。

【7月26日付】
・沖縄タイムス「[LGBT差別寄稿]許しがたい排除の論理」
 http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/289055 

 この寄稿に関して自民党の二階俊博幹事長は「人それぞれ、政治的立場はもとより人生観もいろいろある」と述べ、静観の姿勢を示した。
 昨年の衆院選の党公約で「性的指向・性自認に関する広く正しい理解の増進」を掲げたことを忘れたわけではあるまい。
 政治的立場がどうあれ、差別を助長するような発言は許されない。多様な生き方の尊重は世界的な流れであり、そのための解決策提示が政治の仕事である。
 党として処分を科さないというのなら、暴論に同調したと受け止めるだけだ。 

【7月27日付】
・北海道新聞「LGBT差別 自民の姿勢が疑われる」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/212663?rct=c_editorial 

 一方的な尺度を振りかざして特定の集団を差別するのは、優生思想と変わらない。
 独身者や子を持たない夫婦なども侮辱する暴論で、福祉行政の否定にも等しい。党内からも批判が出たのは当然だ。
 ところが、二階俊博幹事長は、党の立場は違うとしながらも「人それぞれ、政治的立場はもとより人生観もいろいろ」と述べた。
 その「人それぞれ」を否定しているのが杉田氏ではないか。
 自民党は一昨年の参院選からLGBT理解を増進する議員立法の制定を公約に掲げている。
 杉田氏は昨春出版した著書でも同様の偏見を示した。こんな人物を、その後の衆院選の比例代表で当選させた党の責任は重大だ。 

・高知新聞「【LGBT差別】自民公約の真意を疑う」
 https://www.kochinews.co.jp/article/202512/ 

 野党などの批判も受け付けない様子の杉田氏は議員や党人の資質、資格が問われるところだが、同党の二階幹事長は「人生観もいろいろある」と静観する。杉田氏の主張を容認したとも受け止められ、党公約の真意がただされよう。
 自民党内には伝統的な家族観へのこだわりが根強く残る。二階氏も含め時代錯誤的な発言で反発を招くケースが多い。保守層の支持を狙って意図的に発しているのではないかとの指摘もある。
 「1強」の安倍政権下で暴言や失言が止まらない。どういう混乱を起こし、どれほど人を傷つけるのかへの想像力を欠く。「数の力」のおごり、緩みが透ける。 

・琉球新報「LGBTへの差別 自民党は容認するのか」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-769491.html 

 国連はLGBTへの差別や暴力の解消を求めている。日本社会でも積極的な取り組みが始まっているのに、政権与党の国会議員が逆に差別を助長する見解を示した。国際的にも批判されるだろう。
 しかし、自民党では認識が違うようだ。二階幹事長は杉田氏の寄稿について「党は右から左まで各方面の人が集まって成り立っている。人それぞれ、政治的立場はもとより人生観もいろいろある」と、静観する姿勢を示した。自民党はLGBTへの差別を事実上、容認しているように映る。
 自民党内には伝統的家族観が根強く、二階氏自身、6月に「子どもを産まない方が幸せじゃないかと勝手なことを考える人がいる」と述べ、世論の反発を招いた。
 杉田氏も自身のツィッターに「先輩議員から『間違ったことを言っていないから、胸を張っていれば良い』と声を掛けられた」「自民党の懐の深さを感じます」と書き込み、党内の意見を紹介している。
 自民党は2016年に「性的指向、性自認の多様な在り方を受け止め合う社会を目指す」との基本方針を公表したが、形骸化していると言わざるを得ない。
 少数者の人権を尊重し、異なる価値観の人々を受け入れる多様性ある社会を目指すのが国会の役割だ。一議員の問題で済まされない。 

【7月28日付】
・神戸新聞「杉田議員の暴論/なぜ自民は不問に付すか」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201807/0011487456.shtml  

 問題提起のつもりなのだろう。しかし暴論としか言いようがない。偏見に苦しむ人たちに思いを寄せる感性がうかがえない。子どもを産まなければ支援は不要との考えは、LGBTだけでなく多くの人を傷つける。
 自民の二階俊博党幹事長が「いろんな人生観、政治的立場がある」と、不問に付す姿勢であることも理解に苦しむ。
 杉田氏は2012年に、兵庫6区で日本維新の会から立候補して比例で復活当選した。前回衆院選は自民党の中国ブロックの比例単独で当選した。政党票のみで議席を得た以上、誤った言動は党がチェックし、厳正に対処するべきではないか。
 寄稿の中で杉田氏は、LGBTのうち性同一性障害には医療行為の充実などの必要性にも言及する。他方で、同性愛などの性的嗜好(しこう)まで認めると「歯止めが利かなくなる」とした。
 欧米では同性婚を合法化する国が増えている。安倍政権の「1億総活躍プラン」もLGBTへの理解を促し、多様性を受け入れる環境整備が明記された。携帯電話各社が家族割引を同性パートナーにも認めるなど、企業の動きも進み始めた。
 「常識を見失っていく社会は秩序がなくなる」とした杉田氏の意見は個人の尊厳を踏みにじり、世界の潮流にも逆行する。 

 

※追記 2018年7月29日22時5分
 沖縄タイムスも7月26日付の社説で取り上げていることをフェイスブック上の知人の方にお知らせいただきましたので、挿入しました。

※追記2 2018年7月31日21時35分
 さらにチェック漏れの新潟日報のほか、7月30日付、31日付の社説もありました。見出しを追記します。

・新潟日報「自民党 『多様な性』に理解足りぬ」(7月26日付)
・中国新聞「LGBT寄稿 なぜ自民はとがめない」(7月30日付)
・信濃毎日新聞「LGBT寄稿 自民は差別容認なのか」(7月31日付)
・東奥日報「国レベルの支援拡充を/LGBT差別」(7月31日付)
・茨城新聞「LGBT差別 国レベルの支援拡充を」(7月31日付)
・北日本新聞「LGBT支援批判/国会議員の資質を疑う」(7月31日付)

※追記3 2018年8月1日22時10分
 8月1日付で愛媛新聞と徳島新聞も社説を掲載しました。
・愛媛新聞「LGBT差別 排除の論理 断じて容認できない」(8月1日付)
・徳島新聞「LGBT差別 政治家の資質を問いたい」(8月1日付)

※追記4 2018年8月1日22時30分
 漏れがありました。
・山陰中央新報「LGBT差別/国レベルの支援拡充を」(7月31日付)

※追記5 2018年8月2日21時25分
 もう2紙掲載しているのを確認しました。
・佐賀新聞「LGBT支援 国レベルの支援拡充を」(7月31日付)
・熊本日日新聞「LGBT寄稿 看過できぬ差別助長発言だ」(8月2日付)

 これで8月2日現在、社説や論説で扱っているのを確認できた新聞は以下の通りです。
 朝日新聞、毎日新聞、北海道新聞、東奥日報、茨城新聞、信濃毎日新聞、新潟日報、北日本新聞、神戸新聞、中国新聞、山陰中央新報、愛媛新聞、徳島新聞、高知新聞、佐賀新聞、熊本日日新聞、沖縄タイムス、琉球新報=計18紙