国会議員票と地方票の乖離~安倍自民党総裁3選の報道の記録

 自民党の総裁選で9月20日、安倍晋三首相の3選が決まりました。
 国会議員票405票、地方票405票のうち、安倍首相は議員票329、地方票224の計553票を獲得。もう一人立候補していた石破茂氏は議員票73、地方票181の計254票でした。単純に言えば安倍首相の得票率は68%に上り「圧勝」なのでしょうが、地方票に限れば得票率は安倍首相55%に対し、石破氏は44%余に上りました。報道によると、安倍首相支持の国会議員はそれぞれの地元組織にも締め付けを図っていたことがうかがわれますので、一般の党員がそうした締め付けから自由に投票していたとすれば、石破氏の地方票はもっと増えていたのではないかと感じます。
 この投開票の結果を見れば、自民党国会議員と、一方の地方議員や地方組織、一般党員との間に乖離があるのは歴然としています。
 安倍首相を巡っては、7月の段階の世論調査で、森友学園と加計学園をめぐる安倍首相や政府のこれまでの説明に「納得していない」と答えた人は75%、森友・加計問題で安倍首相に「責任はある」は61%との結果が報じられています。内閣支持率も政権運営に支障はないとはいえ、8月の各調査では40%台が大半で、不支持が支持を上回っている調査結果も複数ありました。地方票で安倍首相の得票が半分ちょっとにとどまったのは、社会一般の中にある安倍首相へのこうした厳しい見方と通じるところがあり、納得感があります。
 そして、地方議員や一般党員と国会議員との間にある乖離は、地方組織や一般党員の感覚から国会議員は遊離していることを示しているようにも思えます。それはそのまま社会一般の民意からの遊離につながるかもしれません。ひたすら最高権力者への忖度に汲々としている自民党の多数派国会議員像がわたしの脳裏には浮かびます。政権党にあっては総裁に、政府にあっては首相とその周辺に権限が集中している中でのこの状況は、民主主義のありようとしては、決していい状況ではないと思います。

 この総裁選の結果について、東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)がどのように報じたか、21日付朝刊紙面の主な記事の見出しを最後に書きとめておきます。
 安倍政権を巡ってはしばらく前から、批判的な朝日、毎日、東京と、好意的な読売、産経とに論調が2極化しています。今回の総裁選の結果に対しても、事実関係を記述した「本記」を見ただけでも、明確に違いが見て取れます。読売、産経は石破氏の得票は数字を紹介しただけで評価にかかわる記述はありません。一方で朝日は「全体の7割に迫った首相の大勝に見えるが、石破氏が獲得した254票は予想を大きく上回り、石破氏の善戦との見方が党内で広がっている」と書き、毎日も石破氏の善戦を挙げた上で「首相は今後、党内からの批判に配慮した政権運営を迫られる」と指摘しています。東京も「首相への批判票を石破氏が一定程度取り込んだ」と評しました。
 しかし安倍首相と政権に好意的な読売新聞も、社説では「国会議員票は8割を得て圧勝したが、党員票は6割に届かなかった。『安倍1強』への不満があることを十分に認識し、首相は党内融和に努めることが大切だ」「首相は森友、加計両学園を巡る問題で、国民の不信感を招いた。記者会見では『今後も謙虚に、丁寧に、慎重に政権運営にあたっていく』と述べた。その言葉通り、説明責任を果たし、信頼回復を図ることが肝要だ」「長期政権の驕おごりや緩みが指摘されている。国民には『飽き』も生じている。短期的な成果にこだわり、誤った方向に国を導いては元も子もない。首相は地道に政策の実現を図る必要がある」などと指摘しています。産経新聞も「憲法改正を含め、安倍首相が政権運営をする上で忘れてはならないことがある。それは『国民の信頼』の確保だ。今年前半、内閣支持率の下落があった。財務省の文書改竄などへの対応で混乱し、不誠実、説明不足と見なされたのである。その後、内閣支持率は回復したが、このときの反省を忘れてはいけない」「勝敗が見えていたため党員の投票率が伸び悩んだ面はある。それでも一定数の党員が厳しい目を注いだ点を安倍首相や支持した議員は肝に銘じ、謙虚で丁寧な姿勢で政権運営に当たる必要がある」などと書き込んでいます。

 安倍首相と政権がもっとも肝に銘じなければいけないことは既に明らかだと言うべきですが、今までできていないことが、最後の3年でできるのか。はなはだ疑問に感じます。

 以下に6紙それぞれの21日付社説の見出しと書き出し部分を引用して書きとめておきます。それぞれ、安倍首相の自民党総裁3選に対して何をポイントにどういう風に見ているのか、各紙の評価の違いが端的に分かるのではないかと思います。

・朝日新聞「3選はしたものの 安倍1強の限界明らかだ」/「品格」なき締め付け/「権力」への自省欠く/国民に向き合う覚悟

 1強の弊害に真剣に向き合わず、異論を排除し、世論の分かれる政策も数の力で強引に押し通す。そんな安倍政治はすでに限界と言わざるを得ない。さらに3年の任期に臨むのであれば、真摯な反省と政治姿勢の抜本的な転換が不可欠である。
 自民党総裁選は7割近い得票を得た安倍首相が、石破茂・元幹事長の挑戦を退けて3選を決めた。しかし、国会議員票では8割を得ながら、党員・党友による地方票は55%にとどまった。石破氏に投じられた45%は、首相に対する批判票と受けとめるのが自然だろう。

・毎日新聞「安倍氏が自民総裁に3選 独善的な姿勢から決別を」/本質着いた「正直、公正」/9条改憲は緊急課題か

 自民党員の中にも批判や不満が根強いことを如実に示す結果だった。
 安倍晋三首相が自民党総裁に3選された。総裁任期は3年。これにより安倍政権は2021年秋まで続き、首相の在任期間は第1次内閣と合わせ、戦前・戦後通じて最長の約10年となる可能性が出てきた。確かにこの結果は大きな意味を持つ。
 しかし、首相は国会議員票では圧倒したものの、党員・党友の得票は、現職首相という有利な立場であるにもかかわらず55%にとどまった。
 党員票は国民全体の世論により近いと見られる。今回は世論と議員意識の間に大きな落差があることが明白になった結果とも言える。
 それでも首相は当選後の記者会見で「全体で7割近い票を得た」と胸を張り、勝ったのだから全てが理解されたといった口ぶりだった。本当にそう考えているとすれば、認識は甘いというほかない。

・読売新聞「安倍総裁3選 長期的課題で着実な成果を/信頼回復へ謙虚な姿勢で臨め」/歴代最長内閣が視野に/憲法改正の準備進めよ/次世代の人物育てたい

 安倍首相が自民党総裁選で連続3選を果たし、引き続き政権を担うことになった。惰性を排し、緊張感を持って内外の諸課題に取り組み、結果を出さなければならない。
 首相は記者会見で「新しい国造りに挑んでいく。選挙で約束したことを実行に移す」と述べた。
 首相は投票総数の7割近くを獲得した。この5年9か月で政治は安定し、経済は回復基調にある。外交・安全保障政策でも相応の実績を上げたことが評価された。
 国会議員票は8割を得て圧勝したが、党員票は6割に届かなかった。「安倍1強」への不満があることを十分に認識し、首相は党内融和に努めることが大切だ。

・日経新聞「将来世代への責任果たす3年に」/社会保障の改革を急げ/政策の優先順位考えよ

 自民党の安倍晋三総裁が20日の総裁選挙で対立候補の石破茂氏を破り3選を果たした。任期は2021年9月までの3年間。6年前に経済再生を訴えて総裁になり首相に就いた安倍氏は、残り3年間でその仕上げと同時に、社会保障・財政健全化など将来世代にも責任をもつ政治を進めてほしい。
 安倍首相は総裁選後の記者会見で、有効求人倍率など数字を並べて、経済政策の実績を自賛した。
 首相が主張するように安倍政権下で雇用や企業収益は改善し、景気拡大も緩やかながら戦後最長をうかがうところまできている。ただ、石破氏が言うように景気回復の実感を得られない地方や中小企業があるのも事実だろう。

・産経新聞(「主張」)「安倍総裁の3選 憲法改正の先頭に立て 謙虚な政権運営を心がけよ」/日米同盟の活用を図れ/デフレから完全脱却を

 安倍晋三首相が、自民党総裁選で石破茂元幹事長を破り、連続3選を果たした。
 任期は3年間で、戦前戦後を通じ、首相として歴代最長の在任が視野に入る。3年などあっという間だ。国民のために必要な政策を展開し、「安倍政治」の総仕上げを図っていかねばならない。
 安倍首相は当選後、「いよいよ憲法改正に取り組む。国民のために一致協力して新しい国を造ろう」と、党所属国会議員らに呼びかけた。
 憲法改正を実現し、日本の未来を切り拓(ひら)くことは、首相と自民党に課せられた重い責務である。総裁選で首相が約束した通り、憲法に自衛隊を明記する党の憲法改正案を秋の臨時国会に提出してほしい。安全保障環境が激変する中、国民投票で「自衛隊」が憲法に書き込まれる意義は大きい。
 自民党は憲法改正の国民運動も始めるべきだ。党総裁として首相は先頭に立ってほしい。

・東京新聞(中日新聞)「安倍政権に注文する 自民総裁に連続3選 国民の声を畏れよ」/真摯な反省感じられず/同じ轍踏ませてならぬ

 安倍晋三首相を見る国民の目の厳しさを、党員票が代弁していた。これから最長三年間、政権を担う安倍氏に注文したい。「国民の声を畏れよ」と。
 石破茂元幹事長が予想以上に善戦したのではないか。安倍、石破両氏の一騎打ちだった自民党総裁選。現職総裁の安倍氏が連続三選を果たしたものの、報道機関の電話調査などで三分の二程度は得るとみられていた党員票(党員・党友の票)は55%にとどまった。
 安倍陣営は、石破氏が六年前に得た党員票が55%だったため、当初の目標通りと平静を装うが、その心中は穏やかではあるまい。

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 以下は21日付朝刊紙面の主な記事の見出しです。各紙とも東京本社発行の最終版紙面です。
▼朝日新聞
1面トップ「安倍首相 自民総裁3選/石破善戦 地方票の45%」
1面「麻生・菅・二階氏続投へ/『圧勝』できず政権運営に影/来月1日改造」
1面「『1強』のおごりの芽をつめ」栗原健太郎・政治部長
2面・時時刻刻「首相 崩れた『圧勝』/目標下回る地方票『反乱だ』」「石破氏254票次へ存在感」「憲法改正 さらに視界不良」
3面「『選挙、戦いやすい』野党攻勢へ/連携強化が焦点」/安倍首相の記者会見(要旨)
15面(オピニオン)かくも長き安倍時代/「強い官邸 戦力を総合判断」竹中治堅・政策研究大学院大学教授/「国民信じ『不都合』監視を」丹羽宇一郎・元中国大使、元伊藤忠商事会長/「不可解な“禅譲”非民主的」小島毅
社会面トップ「党員の声 政界とズレ/政治姿勢に不満■地方軽視感じる」
社会面「話法・透明性…安倍氏に注文」/「『永田町を叱った』石破氏地元」

▼毎日新聞
1面トップ「安倍首相 総裁3選/石破氏善戦 党員票45%/議員票も20上積み」
1面「次の国会に改憲案」
1面「1強への不満直視を」佐藤千矢子・政治部長
2面「改憲前進 思惑外れ/与党内も冷ややか」「看板政策 険しい道」
3面・クローズアップ2018「圧勝逃す 首相誤算/選挙の顔に不安 再燃」「人事 融和か論功か」
11面「政策論争なく活力低下」自民党総裁選 識者座談会/中西寛・京都大教授/片山善博・早稲田大教授/谷口尚子・慶応大教授
社会面トップ「地方の批判 耳傾けて/現状に危機意識持って/臭い物にふたしている」

▼読売新聞
1面トップ「安倍首相 連続3選/得票69% 石破氏破る/憲法改正、改めて意欲」
1面「麻生・菅・二階氏留任へ/内閣改造・党人事 来月初旬に」
1面「敵は惰性、おごり、飽き」伊藤俊行・政治部長
2面「国内外 数々の難問/消費税 来年引き上げ」/「改憲案 臨時国会提示へ」/「広島 安倍氏が圧勝/党員投票 島根は石破氏」
3面・スキャナー「首相、課題残す『圧勝』/党員票55% 地方取りこぼしも」「石破氏健闘『次』狙う/党内基盤 もろさ露呈」
11面・安倍首相へ注文(論点スペシャル)「苦言受け入れる政権に」数学者、藤原正彦氏/「政策実行 長期的視野で」京大教授、待鳥聡史氏/「成長持続へデジタル化」経済同友会代表幹事、小林喜光氏/首相会見の要旨

▼日経新聞
1面トップ「首相、自民総裁3選/任期3年『改憲に挑戦』/553票獲得、石破氏は254票」
1面「麻生・菅氏は留任/内閣改造 来月1日にも」
1面「日本の針路決まる3年」丸谷浩史・政治部長
2面「石破氏 目標超す地方票/44・7%獲得 ポスト安倍に芽残す/政権批判の受け皿に」
3面「求心力維持 首相に試練/残り任期3年、内外に難題/来夏参院選が正念場」
3面「経済政策に3つの注文/社会保障 給付抑制 聖域なく/消費増税 先送りは許されず/成長戦略 雇用の流動化 急務」
社説「将来世代への責任果たす3年に」社会保障の改革を急げ/政策の優先順位考えよ

▼産経新聞
1面トップ「自民総裁 安倍首相3選/麻生・菅・二階氏 留任へ/1日改造 河野・茂木・世耕氏も/『骨格は変えない』」/「臨時国会で改憲発議『簡単でない』」
1面「残り3年 何をやるつもりなのか」石橋文登・編集局次長兼政治部長
2面・阿比留瑠比の極限御免「首相 挑戦者の本質変わらず」少しずつ地固め/「独裁者」にあらず=論説委員兼政治部編集委員
3面「安倍政治 問われる成果/拉致や領土問題 正念場/消費増税へ 参院選関門」「石破氏『ポスト安倍』望み/254票『これ以上ない力に』」

▼東京新聞
1面トップ「安倍氏3選 改憲加速/秋国会へ公明と協議/石破氏 地方票は肉薄」
1面「国民の不信 残したまま」清水孝幸・政治部長
2面・核心「改憲 先走る首相/参院選までの国民投票視野/党内慎重論『この地方票では』」「『自民は一色じゃない』石破氏/『異論抑えない党に』進次郎氏」
3面「差し迫る課題山積/日米会談・中国訪問/北方領土・沖縄知事選」「続く金融緩和・伸びない所得」
24~25面(特報面)「冷や飯?厚遇?/勝者安倍氏は 敗者石破氏側にどう接する/人事処遇に小選挙区制も影響」「オトナの器 試される/勝敗超えた抱擁・『ノーサイド』/再挑戦できる社会に」
社会面トップ「『安倍一強』弱者を見て/セクハラ 許さない姿勢をはっきりと/LGBT 制度あれば人の意識変わる/派遣労働 雇止め どう生きていけば」