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沖縄の訴え受け止め、基地をわがことととらえ始めた一群の地方紙~沖縄県知事選を巡って③地方紙・ブロック紙の社説

 9月30日の沖縄県知事選で、名護市辺野古への新基地建設に明確に反対を掲げた前衆院議員の玉城デニー氏が、安倍晋三政権と与党の全面的支援を受けた前宜野湾市長の佐喜真淳氏を大差で破ったことに対しては、沖縄県外(日本本土)の多くのブロック紙・地方紙も社説、論説で取り上げました。ネットで読める範囲に限ってですが、各紙の論調を読み比べてみました。
 沖縄の基地集中に対するブロック紙・地方紙のこれまでの論調は、沖縄県の翁長雄志知事(当時)と話し合うよう、安倍政権に求める内容が大半でした。今回の知事選の結果に対しても、これまでの安倍政権の強硬姿勢に批判的な社説、論説が目立ちます。その中で特徴的だと感じるのは、さらに一歩踏み込んで、基地の問題を沖縄だけではなく日本全体の問題として、わが身に関わることとして考える、との問題意識を明示した社説、論説がいくつも目に止まったことです。以前との定量的な比較は難しく、わたしの印象論にすぎないのですが、翁長前知事が唱え続け、玉城知事が継承した沖縄の訴えを正面から受け止めようとする論調が、ようやく本土マスメディアの中にも潮流としてはっきりと目に見えるようになってきたように感じます。その代表的な社説、論説をいくつか、一部を引用して書きとめておきます。

▼高知新聞「【沖縄知事選】政権は立ち止まり対話を」=10月2日 

 安倍首相らは政権側が敗れた前回知事選後、翁長氏との面会をしばらく拒否した。沖縄の声を無視するような横暴で、子どもじみた対応は許されない。
 沖縄が願うのは対立ではない。対話だ。沖縄以外への県外移設はできないのか。アジアの安全保障環境が変わる中、新たな基地がなお必要なのか。そうした説明が尽くされていないことが不信の根にある。
 安倍政権は立ち止まり、沖縄との対話の場を再設定することから仕切り直すべきだ。
 安全保障は国の専権事項だとしても、負担や分断を強いられるのは常に地域だ。沖縄では米軍機の事故や軍人らの凶悪事件も後を絶たない。民主主義下の国との関係の中で、地域の「主権」や安寧をどう守っていくか。沖縄県民の審判は国民全てにその問いを投げ掛けている。

▼西日本新聞「沖縄知事選 この民意を無視できるか」/既成事実化に抗して/基地負担の再検討を/本土住民も考えたい=10月2日 

 知事選で政権支援の候補が敗れたことは、「沖縄に寄り添う」と口では言いながら、実際には補助金や経済振興策をちらつかせ、「アメとムチ」で地方を従わせようとする安倍政権の政治姿勢に対する不信の表れだといえる。
 これは自民党総裁選の地方票で石破茂氏が健闘したことにも通じる。森友・加計問題での批判を受け「丁寧」「謙虚」などの言葉を連発しつつ、異論に耳を貸さない強引な政治手法を続ける安倍政権に対し、地方から異議申し立ての声が上がり始めたのではないか。
 重ねて考えておきたいのは、本土の住民である私たちの関わり方だ。国内の米軍専用施設の約7割が沖縄に集中する現状に、どう向き合うか。無関心は結果的に「沖縄への基地押し付け」を容認し、民意を無視することにもなる。
 国内の米軍基地の規模は現状で適正なのか。本土が負担の一部を引き受ける方策はあるのか。「沖縄が反対している」と遠くから眺めるのではなく「じゃあ私たちはどうする」と踏み込み考えることが、沖縄と本土の溝を埋め、基地問題解決を促す力となるはずだ。

▼中日新聞・東京新聞「沖縄県知事選 辺野古基地は白紙に」=10月1日付 

 自ら誘致したのでもない基地を巡り、国に恭順するか否かが毎回問われる知事選は沖縄以外にはない。振興予算の加減による政権側のアメとムチ政策が県民を分断する原因にもなっている。今回も、生活基盤整備が先と感じる佐喜真氏支持層と玉城氏支持層の間でしこりが残るかもしれない。
 そんな不幸な状況を解消し、沖縄の自治を保障するため政府がとるべき道は、沖縄のみに過剰な基地負担をかけない、必要な財政支援はする、との当たり前の政治に転換するだけのことだ。

▼中国新聞「沖縄新知事に玉城氏 政権は民意に寄り添え」=10月2日付 

 今こそ普天間飛行場の運用停止を辺野古移設と切り離し、進める道を模索したい。日米両政府の1996年の返還合意は、辺野古移設が前提ではなかった。米朝関係の改善など東アジア情勢の変化を踏まえ、再検証の余地があるのではないか。
 米軍基地を巡っては、沖縄だけではなく日本全体の問題として捉える機運が少しずつ生まれている。全国知事会は7月、日米地位協定の抜本的な見直しや基地の縮小・返還を求める提言書を全会一致で決議した。本土の私たちが傍観者にならず、沖縄とともに声を上げる姿勢が、政府のかたくなな態度を変える潮流になるはずだ。

▼福井新聞「沖縄県知事に玉城氏 国は民意に背を向けるな」=10月2日付 

 玉城氏が訴えた「アイデンティティー」は、在日米軍基地の7割の集中を強いられる沖縄が自己決定権を取り戻そうという翁長氏の理念である。どの地方自治体にとっても欠かせない理念であるからこそ、無関心ではいられないはずだ。沖縄を注視していかねばならない理由がそこにある。

▼山形新聞「沖縄知事に玉城氏 国はまず対話すべきだ」=10月4日付 

 玉城氏は「翁長氏の遺志を継ぐ」と、沖縄県が8月に決めた辺野古沿岸部の埋め立て承認撤回を維持する方針だ。さらに県議会に条例案が提出されている辺野古移設の賛否を問う県民投票も実施し、県民の意思を政府に示していく考えだろう。沖縄県外に住む私たちはもちろん投票の主体ではない。だからといって、基地問題が自分たちとは無関係な別世界の話と考えてはなるまい。

 中国新聞が触れた全国知事会の提言書については、京都新聞(10月1日付)や徳島新聞(2日付)も言及しています。また、山陰中央新報(2日付)や宮崎日日新聞(2日付)、佐賀新聞(2日付)は、かつて米軍基地が地域の反対運動に遭って本土から沖縄に移され、現在は在日米軍専用施設の約70%が沖縄に集中することを挙げて、日米同盟を維持するのなら全国で基地を負担し、その縮小を目指すべきではないか、と問い掛けています。

 一方、北國新聞の社説は、米軍普天間飛行場の辺野古移設は動かしがたい、とする内容でした。一部を引用します。
▼北國新聞「普天間移設問題 司法判断仰ぐほかないか」=10月2日 

  米軍普天間飛行場を名護市辺野古へ移設する計画を推進する政府・与党は、沖縄県知事選の敗北でこれまで以上に厳しい立場に追い込まれた。安倍晋三首相の言う通り、選挙結果を真摯に受け止め、沖縄の振興、基地負担の軽減に全力で取り組まなければならない。といって、辺野古移設という日米両政府の合意をここで覆すこともできない。
(中略)
 ただ、地政学的に米軍基地が沖縄に多い理由も理解したい。日本に対する北朝鮮の核・ミサイルの脅威がなくなる道筋は見えず、中国の軍事的膨張も続いている状況にあって、米軍の抑止力は欠かせない。沖縄駐留の米海兵隊がグアムなどに全面移転すれば、普天間飛行場も代替施設も必要性を失うが、現実には困難であり、辺野古移設が頓挫すれば、危険な普天間飛行場の継続使用という最悪の状況になりかねない。
 玉城氏は元来、自衛隊と日米安保に理解を示す保守中道派と目され、知事選では当初、独自色にこだわっていた。故翁長雄志知事の遺志を継ぐ立場を前面に出す戦術に切り替え勝利したが、基地問題より経済振興を願う県民も少なくなく、知事選で訴えた自立型経済の具体策を示す必要がある。政府はその点で玉城氏を温かく支援する度量も求められよう。

 河北新報の社説は翁長前知事の国との法廷闘争を振り返りながら、辺野古移設案を日本政府が放棄することはないことを前提として、辺野古移設に反対なら実現可能な具体案をある程度は提示するのが知事の責任だと論じました。地方紙ではほかに例を見た記憶がない主張で、少なからず驚きました。

▼河北新報「沖縄知事に玉城氏/対立構図脱する道はあるか」 

 翁長雄志前知事は2015年に辺野古の埋め立て承認を取り消し、以後、国との間で法廷闘争を続けた。客観的に見れば、県側にほぼ勝訴の可能性がない訴訟合戦は、結果として、いたずらに時間を浪費しただけだった。
 移設問題はもう一度、原点に立ち返って考えるべきだろう。普天間飛行場を取り囲んで住宅地が広がり、小学校があり、大学がある。移設の最大の目的は、世界で最も危険とされるこの飛行場の危険性除去だったはずである。
 日米が普天間基地返還で合意してから既に22年が過ぎている。この間、迷走を重ねた移設問題を巡って、今後も県と政府の対立が長く続くとすれば、不幸なのは周辺住民である。危険に瀕(ひん)する状況が固定化される恐れさえある。
 翁長氏の知事在任時は、この原点が置き去りとなった印象が拭えない。辺野古移設に反対なら反対として、実現可能な具体的な対案をある程度は提示するのは知事に求められた責任ではなかったか。
 むろん、代替案は国が考えるべきだという県側の主張には理がある。しかし、さまざまな行政手続きを重ね地元の意向も取り入れてまとめた移設案を政府が容易に放棄することはあり得まい。 

 本文の一部を引用したこれらの社説以外のものについて、見出しを以下に列記しておきます。サイト上で見ることができたのは見出しだけで、本文は読めないものもありました。

【10月1日付】
・北海道新聞「沖縄知事選 新基地拒否で県政継続」
・北日本新聞「民意は『辺野古ノー』/政府は強硬姿勢改めよ」 ※見出しのみ
・京都新聞「沖縄に新知事  『基地』に新たな視点を」

【10月2日付】
・デーリー東北「沖縄県知事選 民意は明確に示された」
・秋田魁新報「沖縄知事選 真摯に民意受け止めよ」
・山梨日日新聞「[沖縄知事に翁長氏後継]重い魂の飢餓、辺野古再考を」 ※見出しのみ
・信濃毎日新聞「沖縄県知事選 政府が方針を改めねば」
・新潟日報「玉城氏勝利 政権は強硬姿勢を改めよ」
・神戸新聞「沖縄知事選/辺野古への民意は明白だ」
・山陽新聞「沖縄県知事選 政府は対話を再開させよ」
・山陰中央新報「沖縄県知事選/まずは対話を求めたい」
・愛媛新聞「沖縄知事選 辺野古移設反対を貫く民意重い」 ※見出しのみ
・徳島新聞「沖縄知事に玉城氏 辺野古反対の民意は重い」
・宮崎日日新聞「沖縄知事に玉城氏 8万票の重み 政権認識せよ」/基地負担の軽減図れ/「アメとムチ」に不信
・佐賀新聞「沖縄県知事選 辺野古移設の再検討を」
・南日本新聞「[沖縄知事選] 辺野古反対の民意重く」

【10月3日付】
・東奥日報「『辺野古移設』まず対話を/沖縄県知事選」

【10月4日付】
・神奈川新聞「沖縄県知事に玉城氏 『辺野古ノー』に応えよ」 ※見出しのみ