ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

安倍政権の辺野古埋め立て強行を主権者として是とするのか非とするのか~付記 新聞各紙の社説、論説の記録

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場の移設―同県名護市辺野古への新基地建設問題が、大きく動き出しています。岩屋毅防衛相が12月3日、辺野古の新基地予定地の海域に、14日にも土砂を投入すると発表しました。新基地建設反対を掲げて知事選に臨み、安倍晋三政権が推す候補に圧勝した玉城デニー沖縄県知事が、10月12日、11月28日の2回、安倍首相と会ったばかり。協議は平行線で終わったとは言え、間を置かずしての土砂投入の表明は、首相と知事の協議の結果がどうであれ、当初から安倍政権が土砂投入強行の方針だったことをうかがわせます。
 防衛相の表明と同時に沖縄防衛局は3日、名護市の民間企業「琉球セメント」の桟橋から土砂を船に積み込む作業を始めました。桟橋設置の工事完了の届け出がないことなどを沖縄県が指摘したことから、積み込みは4日にいったん中止されましたが、5日になって、桟橋工事の完了を届け出たとして再開しました。沖縄県は琉球セメントに対して立ち入り検査する意向であり、そうであるなら県の判断を待って作業を再開するのが法治国家での常識のように思いますが、それを待たずに作業を再開したことは、自治体の権限などは無視するも同然の安倍政権の強硬ぶりを如実に示しているように感じます。
 沖縄の地元紙の沖縄タイムス、琉球新報は4日付以降、この問題を連日社説で取り上げ、安倍政権を厳しく批判しています。無理を押して事を急ぐ政権の狙いを、来年2月24日に埋め立ての賛否を問う県民投票が行われることから、その前に、既成事実を積み重ねるためと指摘しています。
【12月4日付】
・沖縄タイムス「[辺野古14日土砂投入]『宝の海』を奪う愚行だ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/354202
・琉球新報「14日辺野古土砂投入 法治国家の破壊許されぬ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-843427.html
【12月5日付】
・沖縄タイムス「[辺野古土砂搬出中断]法無視は無理筋の証し」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/354730
・琉球新報「『違法』な桟橋利用 国策なら何でもありか」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-844043.html
【12月6日付】
・沖縄タイムス「[土砂搬出 作業再開]度を越す 強行一点張り」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/355271

 沖縄県知事選で玉城デニー氏が圧勝したことで、辺野古の新基地建設に反対という沖縄の民意は明白になりました。沖縄の基地集中は沖縄だけの問題ではなく、沖縄に原因がある問題でもありません。仮に日米同盟を是とするなら、沖縄に米軍が駐留することによる利益は日本全体が享受しているはずです。今度は、沖縄県外の日本本土に住む日本人、日本国の主権者である国民が、この沖縄の民意にどう向き合うかが問われると、わたしは知事選の結果を見て考えていました。
 今、安倍政権はその沖縄の民意を一顧だにせず、新基地建設を強行する姿勢をいよいよ露わにしました。本土の主権者は、それを是とするのか非とするのか。主権者としての自らの問題として、為政者への態度を考えるべき問題であることがいよいよ明白になってきたと思います。

 沖縄県外でも、12月4日付以降、いくつもの新聞がこの問題を社説、論説で取り上げています。おおむね、沖縄2紙と同じように、安倍政権への批判が目立ちます。それぞれ一部を引用して書きとめておきます。

■12月4日付
・朝日新聞「辺野古に土砂 政権の暴挙認められぬ」

 結局、集中協議も首相と玉城デニー知事との2度の会談も、話し合いをした形をつくるために開いただけではないか。4年前、当選した翁長雄志前知事との面会を拒み続けて批判を浴びた政権だが、やっていることは何ら変わらない。
 沖縄では来年2月24日に、埋め立ての賛否を問う県民投票が行われる。政府が工事を急ぐ背景には、その前に既成事実を積み上げ、反対派の勢いをそごうという意図が見え隠れする。政治の堕落というほかない。

・北海道新聞「辺野古土砂投入 強行方針 撤回すべきだ」

 沖縄県は先月末、沿岸部の埋め立て承認撤回について、石井啓一国土交通相が効力を停止したのは違法だとして、総務省の第三者機関である国地方係争処理委員会に審査を申し出た。
 さらに県は辺野古移設の賛否を問う県民投票を、来年2月24日投開票の日程で実施する方針だ。
 係争処理委の審査後に法廷闘争となったり、県民投票で移設反対の民意が示されたりする前に、移設を既成事実化させたい。来春の統一地方選への影響も避けたい。
 土砂投入には政権のそんな思惑が透ける。自らの都合で政策を一方的に押し付けてはならない。

・信濃毎日新聞「辺野古移設 許されない既成事実化」

 政府は工事を止めて県民投票の結果や係争処理委の判断を見守るべきだ。9月の知事選で玉城氏は政権が支援した候補に8万票の差をつけ、過去最多の得票で当選した。移設を既成事実化しようと埋め立てを急ぐのは、民意を踏みにじる行為である。
 市街地にある普天間の危険除去は一日も早く実現しなければならない。だからといって辺野古に新基地を造るのでは、沖縄の負担軽減にならない。
 「県民には不自由、不平等、不公正の不満が鬱積(うっせき)している」。玉城氏は首相官邸で、そう述べていた。政府がなすべきは、沖縄の訴えを受け止め、県民が心から納得できる解決策を見いだすために米国と協議することである。

・中日新聞・東京新聞「辺野古埋め立て 対立を深める暴挙だ」

 さらに県は、県民有志が直接請求した辺野古新基地の是非を問う県民投票を来年二月二十四日に行うと決めた。埋め立てに賛成か反対か二択で答えてもらう。極めて明確に民意を測る機会となる。
 翁長前県政時代の埋め立て承認取り消しを巡る法廷での争いは最高裁で県側敗訴が確定したが、民意の在りかについては判断がなされなかった。県民投票の結果自体に法的拘束力はないとはいえ、新たな裁判では焦点になり得よう。
 「辺野古が唯一」の政府方針があらためて問われる局面が続く。
 こうした状況を無視して土砂投入を強行するのは、県民の反政府感情を高めるだけだ。辺野古は元の「美(ちゅ)ら海」に戻らないと諦めさせるのが目的としたら、思い通りにはなるまい。埋め立て開始の決定こそ撤回する必要がある。

・京都新聞「辺野古に土砂  工事ありきは許されぬ」

 外交・防衛は国の専権事項であるとはいえ、沖縄の意向を無視する姿勢が露骨になっている。
 政府にいま求められるのは、県との協議を再開し、解決の糸口を探る努力を続けることではないか。このまま工事を進めて既成事実をつくり、あきらめムードを醸し出そうとするなら、政治の役割を放棄するに等しい。
 工事再開を急ぐのは来年の参院選への影響を最小化する狙いもあるとみられるが、強圧的な姿勢は政権批判を招くだけである。

・佐賀新聞「辺野古土砂投入へ 民意踏みにじる強行だ」

 そもそも政府は市街地にある普天間飛行場の危険性除去のために2019年2月までの運用停止を約束していた。県側の協力が得られないために約束は困難になったとするが、危険性除去と言うならば、辺野古移設完成を待つ前に、早期の普天間運用の停止を米側と協議すべきではないか。

■12月5日付
・新潟日報「辺野古土砂投入 対立深める強行はやめよ」

 なぜ政府は奇策を用いてまでも土砂投入を急ぐのか。
 県は辺野古移設の賛否を問う県民投票を来年2月24日に実施する予定だ。民意を確認し国に突き付けたいとする。
 県民投票や来年夏の参院選が迫る中、県民の審判への影響を最小限に抑えようと、埋め立ての「既成事実化」を急ぎたい政権の思惑が透ける。
 土砂投入は埋め立て工事の本格化を意味し、辺野古移設を大きく前進させる。審判前にできるだけ早く投入を始め、反対する県民のあきらめを誘うのが狙いだろう。
 県は徹底抗戦の構えだが、有効な対抗策に乏しく手詰まり感が募る。県民投票に反対する自治体もあり、対応に苦慮する。
 とはいえ県民の理解を得られないまま、政府が一方的に移設を進めることは決して問題の解決にはつながらない。強圧的なやり方はかえって反発を強めるのではないか。
 地方自治への介入は厳に慎むべきだ。政府は理解を得る努力を怠ってはならない。

・秋田魁新報「辺野古土砂投入へ 民意踏みにじる暴挙だ」

 あまりに沖縄を軽視してはいないか。なぜもっと基地が置かれる地域の声に耳を傾けないのか。防衛・安全保障政策は国の専管事項とは言え、政府の強圧的な姿勢は目に余る。
 そもそも政府は宜野湾市の市街地にある普天間飛行場の危険除去のために、2019年2月までの運用停止を約束していた。県側の協力が得られないために、履行できないとしているが、辺野古移設とは別に、早期の普天間運用停止を米国側と協議すべきである。

・神戸新聞「辺野古土砂投入/民意を軽んじていないか」

 政府は、辺野古の基地建設を普天間移設の「唯一の解決策」と繰り返してきた。辺野古への反発が移設を阻んでいると、沖縄に責任を押しつけた形だ。
 それが本土と沖縄の、そして沖縄県内の対立を招いている。
 環境破壊への懸念や、当初計画と異なる恒久施設化への疑問などにも地元の反発が募る。正面から答えず計画を推し進めるのは、地方は国に従属せよと言っているに等しい。
 投入が強行されれば、対等であるべき国と地方の関係にも禍根を残しかねない。国は沖縄の思いや疑問に向き合い、合意を得られるような基地負担軽減策を練り直さねばならない。

・中国新聞「辺野古、土砂投入へ 民意との乖離、極まった」

 玉城知事は集中協議の席上、辺野古の基地が運用できるまでに最低でも13年を要することや、県の試算によって埋め立てに関わる公費が当初計画の10倍の2兆5500億円に膨らむことなどを指摘した。沖縄防衛局の調査で工事区域の海底に軟弱な地盤が存在することが判明したためであり、ずさんな計画だと言われても仕方がない。
 13年も要していては、普天間閉鎖による危険性除去という目的は果たせまい。予算の膨張についても、納税者たる全国民が憤るべき現実ではないか。
 玉城知事にはあらゆる機会を捉えて、辺野古の計画の見直しに理があることを訴えてもらいたい。私たちも、わがこととして受け止めなければ、沖縄の米軍基地の問題は解決しない。

・高知新聞「【辺野古土砂投入】強引な既成事実化やめよ」

 普天間の危険性は除去されなければならない。ただ、辺野古に大規模で恒久的な軍事施設を造るのでは沖縄の負担軽減にはなるまい。
 民意との乖離(かいり)が明らかなままでは安定的な基地運用にも疑問が残る。
 米紙ニューヨーク・タイムズは、辺野古反対の民意が示された知事選後の社説で「日米両政府は妥協策を探る時だ」と主張した。安倍政権が向き合うべきは、米国を巻き込んで解決策を探る協議ではないか。
 民意を踏みにじる工事の強行は再考を求める。安倍首相は「沖縄の皆さんの心に寄り添う」と繰り返してきた。言行不一致は許されない。

・西日本新聞「辺野古土砂投入 『諦めさせる』のが政治か」

 安倍政権がなりふり構わずの土砂投入を急ぐ背景には、県民投票をにらんだ思惑がある。
 沖縄県は来年2月、辺野古移設の是非を問う県民投票を実施する予定だ。移設反対が過半数を占めれば「辺野古ノー」の民意は確定的になる。政府がその前に埋め立てを既成事実化し、県民に「いまさら反対しても無駄」という無力感を味わわせることで、県民投票への意欲をそごうと狙っているのは明白だ。
 国民の声に耳を傾け、その実現に努力するのが政治であるはずだ。安倍政権の政治目標が沖縄県民を「諦めさせる」ことにあるのなら、政治に対する考え方が根本的に誤っている。
 政府は原状回復が困難となる辺野古への土砂投入を見送り、2月の県民投票で示される民意を最大限に尊重すべきである。

・南日本新聞「[辺野古土砂搬入] 強行策は再考すべきだ」

 民意を踏みにじる工事の強行は再考すべきだ。
 知事選以降、玉城氏と安倍晋三首相は2回会談し、政府と県は事務レベルで協議を重ねた。
 玉城氏は移設反対の理由として、北朝鮮の非核化方針など東アジアの安全保障環境の変化に加え、辺野古新基地は運用までに13年かかるとの見通しを示した。工事区域の海底に存在する軟弱な地盤への対策の必要性も指摘した。
 玉城氏が提起した問題は、国民の多くが疑問を持ち、時間をかけてでも取り組むべき課題だろう。だが、政府が真剣に検討したり、米側と協議したりした形跡は見られない。
 首相は「沖縄県民の気持ちに寄り添う」としながら、「辺野古移設が普天間返還の唯一の解決策」という方針は譲らなかった。

f:id:news-worker:20181207070749j:plain

12月4日付の東京発行各紙朝刊1面です。辺野古埋め立てを1面トップに置いたのは朝日、毎日2紙。対して読売、産経両紙はゴーン日産前会長逮捕の続報でした。産経、東京両紙は辺野古埋め立ても1面に入れていますが、読売、日経は1面にありません。

 なお、12月6日付で、直接辺野古の埋め立て問題をテーマとして論じているわけではありませんが、沖縄の基地集中の問題を巡って政府・政権側に理解を示した社説が産経新聞と北國新聞(本社金沢市)に掲載されたのが目に止まりました。それぞれ一部を引用して書きとめておきます。

■12月6日付
・産経新聞「宜野湾市会の反対 知事は『県民投票』再考を」

 県民投票条例によって投票事務は、市町村が担うことになっている。だが、市議会の意思が明らかになり、宜野湾市が県民投票に加わらない可能性が出てきた。
 県民投票の結果に法的拘束力はない。その上、普天間飛行場を市街地の真ん中に抱える宜野湾市が加わらなければ、政治的意味合いは大きく減じる。もはや何のために県民投票を行うのか、という話にならないか。
 そもそも、日米安全保障条約に基づく米軍基地の配置など外交・安全保障は政府の専権事項だ。そうでなければ国民を守り抜けない。県民投票や知事選によって是非を決めるものではない。
 玉城デニー知事と県政与党は再考し、県民投票の撤回に動くべきである。

・北國新聞「沖縄・辺野古訴訟 忘れ去られた和解の原点」

 埋め立て承認取り消しの訴訟は、16年末の最高裁判決で県側の対応が違法との司法判断が確定した。和解の趣旨に従うなら、この時点で県側は姿勢を改めるのが筋であったろうが、当時の翁長雄志知事は、別訴訟であれば和解条項に縛られないとして、新たに県漁業調整規則を盾に提訴した。しかし、これも一、二審とも県側の訴えは却下され、法廷闘争の不毛さを印象づけている。
 国と沖縄県は現在、辺野古沿岸部の埋め立て承認を撤回した県の措置をめぐって対立し、舞台は国の第三者機関「国地方係争処理委員会」に移っているが、訴訟の判決確定後には互いに協調するという和解条項を顧みる気配が沖縄県側にまったく感じられないのは遺憾と言わざるをえない。
 玉城デニー知事は先に安倍晋三首相と会談した際、辺野古を埋め立て、代替飛行場を運用するまで最低でも13年かかり、総工費は政府の当初見込み額の10倍強の2兆5500億円に上るとの試算を示し、移設断念を迫ったという。防衛省は14日に辺野古埋め立ての土砂を投入する方針であるが、沖縄県側の一方的な試算が独り歩きすることがないよう、国民への説明を尽くす必要がある。

 

※追記 2018年12月7日23時10分
 沖縄県外の新聞各紙の社説、論説の追加です。
■12月7日付
・毎日新聞「辺野古に土砂投入へ 民意排除の露骨な姿勢だ」

 民意をはねつけ、露骨に国家権力の都合をゴリ押しする姿勢は「沖縄に寄り添う」と繰り返してきた安倍晋三首相の言葉と相反する。
 埋め立て予定海域で軟弱地盤が見つかったことも政府の焦りを誘っているようだ。県側は工事完了まで13年かかると独自に試算する。そうだとすれば「一日も早く普天間返還を実現するため」という政府の大義名分が説得力を失いかねない。
 首相は玉城知事と会談した際、「米側との計画通り移設作業を進めていきたい」と述べた。
 日米政府間の合意は重いが、だからといって、地元の民意を無視してよいということにはならない。
 移設実現の見通しが立たないまま、工事を進めることが自己目的化しては意味がない。

・山梨日日新聞「[辺野古土砂投入]民意軽視の強行は理不尽だ」