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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

「国の専権事項」批判(朝日、毎日社説) 「民主主義はき違え」(産経『主張』) 「基地負担減の実感必要」(日経社説) ~沖縄県民投票・辺野古「反対」圧倒 在京紙の報道の記録 ※追記あり

 沖縄県宜野湾市の米軍普天間飛行場移設の移転計画に伴い、同じ沖縄県内の名護市辺野古で進む海面埋め立てへの賛否を問う県民投票は2月24日、投開票されました。結果は以下の通りです。
 ・埋め立て「反対」の得票は有効投票総数の72・15%に上る43万4273票
 ・埋め立て「賛成」は11万4933票で19・10%、「どちらでもない」は5万2682票で8・75%
 ・投票率は52・48%、有効投票総数は60万1888票
 ・県民投票条例では、いずれかの選択肢が全投票資格者数(有権者数)の4分の1を超えれば、首相と米国大統領への通知を義務付けている。「反対」はこの4分の1を大きく上回る37・65%
 ・投票率は昨年9月の県知事選の63・24%を下回った一方、「反対」票は知事選で玉城デニー知事が得票した39万6632票を上回った

 ほかにも様々に意義付けができるようですが、一票を行使した人たちが示した民意は、辺野古の埋め立てに「反対」が圧倒したと、わたしは受け止めています。このブログでは県民投票の告示後にアップした記事で、「『地域のことは自分たちで決めたい』との自己決定権を沖縄の人たちが求めていることが、日本政府だけでなく、その日本政府を成り立たせている日本本土の住民に伝わることに意義がある」と書きました。埋め立てへの反対は、普天間飛行場の沖縄県内移設への反対と読み替えてもいいように思います。.県内移設が撤回されて、沖縄の人たちの自己決定権の行使が実現するよう、わたしを含めて日本本土の住民が沖縄の人たちの意思表示に向き合う番です。

news-worker.hatenablog.com

 東京発行の新聞各紙がこの住民投票の結果をどう報じたかを、備忘を兼ねて書きとめておきます。2月25日付の各紙朝刊1面を比べてみれば分かるように、埋め立てを強行する安倍晋三政権に対する論調の違いが、そのまま紙面での扱いの大きさ、情報量の違いに表れています。
 1面トップで扱ったのは朝日新聞、毎日新聞、東京新聞の3紙。辺野古への新基地建設では、従来から安倍政権に批判的です。この日の紙面でも1面や2面に解説記事や編集委員や那覇支局長らによる署名記事も掲載。それぞれ見出しに「移設計画 惰性任せの政権」「本土に住む人が考える番だ」(朝日)、「次は本土が考える番」(毎日)、「新基地断念こそ唯一の道」(東京)です。それぞれ総合面、社会面にも記事を展開し、識者の見方や、沖縄の人たちの声も伝えています。
 これに対して、従来から安倍政権の方針を支持している読売新聞、産経新聞は抑制的な扱いです。読売新聞は1面の本記(事実関係を中心に報じる基本の記事)は見出しが1本。それも紙面を二つ折りにすると、3段の見出しの上部1段分しか見えないレイアウトで、扱いの小ささが突出しています。読売、産経とも社会面の記事はありません。
 社説・論説は読売以外の5紙が掲載。朝日と毎日は「外交・安全保障は国の専権事項」との主張を批判し、東京新聞(中日新聞と同一)も「国策なら何でも地方は受忍せざるを得ないのか」と疑問を投げ掛け、ともに民意を尊重するよう安倍政権に求めています。
 これに対して、産経新聞(「主張」)は「投票結果について、いろいろな分析が行われるだろうが、今回の県民投票はその内容にかかわらず、民主主義をはき違えたものであるというほかない」と断じました。「移設は県民の問題であるのと同時に、県民を含む国民全体の問題だ。県民の『直接の民意』だけで左右することはできない」「政府・与党は辺野古移設を着実に進めるとともに、日本の安全にとって移設が重要であることを、県民に粘り強く説く責任がある」と主張しています。
 日経新聞は辺野古への移設は今さら動かしようがないとしつつ「基地負担が減っていくという実感を沖縄県民に与える努力」が必要であると指摘し「例えば、国が『日本の安全は全国が等しく担うべき課題だ』と声明してはどうだろうか」と提案しています。

 県民投票の結果に対しては、地方紙も社説・論説で取り上げています。後日、まとめて紹介しようと思います。  

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 朝日、毎日、読売、日経、産経、東京各紙の東京本社発行最終版の主な記事と見出しを書きとめておきます。社説・論説は一部を引用します。ネットで読めるもの(25日朝の時点)はリンクも載せました。

【2月25日付朝刊】
▼朝日新聞
1面トップ「辺野古『反対』72%/玉城氏『工事中止を』/投票率52・48% 知事選の得票超す/沖縄県民投票」
1面・視点「移設計画 惰性任せの政権」佐藤武嗣・編集委員
2面・時時刻刻「辺野古移設 明確な『NO』」/「政権、結果『無視』の構え」
2面「本土に住む人が考える番だ」伊東聖・那覇総局長/識者談話3人
4面・出口調査の分析記事など
28面・写真特集
31面(社会面)「沖縄から重い意思/熟慮の反対『受け止めて』」
社説「沖縄県民投票 結果に真摯に向き合え」 

https://www.asahi.com/articles/DA3S13908412.html?iref=editorial_backnumber

 自分たちの行いを正当化するために持ちだすのが、「外交・安全保障は国の専権事項」という決まり文句だ。たしかに国の存在や判断抜きに外交・安保を語ることはできない。だからといって、ひとつの県に過重な負担を強い、異議申し立てを封殺していいはずがない。
 日本国憲法には、法の下の平等、基本的人権の尊重、地方自治の原則が明記されている。民主主義国家において民意と乖離(かいり)した外交・安保政策は成り立たず、また、住民の反発と敵意に囲まれるなかで基地の安定的な運用など望むべくもない。この当たり前の事実に、政府は目を向けるべきだ。
 政府だけではない。県民投票に向けて署名集めに取り組んできた人たちは、沖縄という地域を超え、全国で議論が深まることに期待を寄せる。
 自分たちのまちで、同じような問題が持ちあがり、政府が同じような振る舞いをしたら、自分はどうするか。そんな視点で辺野古問題を考えてみるのも、ひとつの方法だ。
 沖縄の声をどう受けとめ、向き合うか。問われているのは、国のありようそのものだ。

▼毎日新聞
1面トップ「辺野古反対7割超/知事、日米首脳に通知へ/43万 玉城氏得票超え/県民投票/投票率52・48%」
2~3面・クローズアップ「沖縄 民意の盾/国静観 なお溝」
2面・解説「次は本土が考える番」遠藤孝康・那覇支局長/出口調査分析
3面・ミニ論点(識者2人)
27面(社会面)「届け 沖縄の叫び/『辺野古ノー』今度こそ」
26面(第2社会面)「政府、黙殺の歴史」※過去の投票結果
社説「『辺野古』反対が多数 もはや埋め立てはやめよ」

https://mainichi.jp/articles/20190225/ddm/005/070/070000c

 外交・安全保障は国の専権事項だから地方は口を挟むなという議論は間違っている。確かに政府が全国的な見地から責任を負う分野ではあるが、基地の立地に自治体が異議を申し立てる権利まで否定するのは暴論だ。住民の反感に囲まれた基地が円滑に運用できるはずがない。
 安倍政権は2013年当時の仲井真弘多知事による埋め立て承認を移設正当化の根拠としてきた。だが、仲井真氏は知事選で県外移設を公約して当選し、その後に変節したのであって、埋め立て承認は民主的な正当性を獲得していない。
 住民投票が政策決定の手段として万能なわけではない。投票率は5割強にとどまった。しかし、民主主義が十分機能しないため、沖縄は繰り返し意思表示をせざるを得なくなったと考えるべきだろう。
 その過程では県民同士が異なる意見にも関心を持ち、ともに沖縄の将来を考えることが重要だ。その意味で政権与党の自民、公明両党が自主投票の立場をとり、県民と話し合う役割を放棄したことは残念だ。
 政府は投票結果にかかわらず工事を続ける方針を示している。だが、たび重なる民意無視は民主主義を軽んじることにほかならない。

▼読売新聞
1面「辺野古埋め立て『反対』71% 県民投票」
2面「沖縄米基地『役立つ』59%」※世論調査
3面・スキャナー「投票率52% 広がり欠く/『反対』最多 影響は限定的」

▼日経新聞
1面「辺野古移設 反対7割超/沖縄県民投票 知事、首相と会談へ」
2面「辺野古移設 解けぬ対立/反対 知事選獲得票超す」/識者談話2人/出口調査分析
社会面「沖縄に関心もって」
社説「辺野古打開へ国と沖縄は対話の糸口探れ」

 普天間の固定化を避ける緊急避難的な措置としての県内移設はやむを得まい。移設計画が浮上して20年以上がたった。白紙から検討し直すのは現実的ではない。
 その一方で必要なのが、基地負担が減っていくという実感を沖縄県民に与える努力だ。基地はつくればそれでおしまいではない。県民の協力がなければ、円滑な運用は望めない。県民投票の結果に法的拘束力はないが、全く無視ではますます関係は悪くなる。
 例えば、国が「日本の安全は全国が等しく担うべき課題だ」と声明してはどうだろうか。基地の偏在の解消に一生懸命、取り組む姿勢が伝われば、沖縄県民の心情も徐々に和らぎ、話し合いの機運も生まれるのではないか。
 東アジアの安全保障環境が厳しさを増すいまこそ、国防のための施設がもたらす負の側面にどう取り組むのかを、全ての国民が真剣に考えねばならない。

▼産経新聞
1面「辺野古 反対7割超/投票率52・48% 知事『重要な意義』/沖縄県民投票」
3面「のぞく政治的計算/衆院補選、参院選に波及/オール沖縄」
5面・与野党反応
社説(「主張」)「沖縄県民投票 国は移設を粘り強く説け」

https://www.sankei.com/column/news/190225/clm1902250001-n1.html

 投票結果について、いろいろな分析が行われるだろうが、今回の県民投票はその内容にかかわらず、民主主義をはき違えたものであるというほかない。
 国政選挙などの民主的な手続きでつくられた内閣(政府)にとって国の平和と国民の安全を守ることは最大の責務だ。外交・安全保障政策は政府の専管事項であり、米軍基地をどこに設けるかは、政府以外には決められない。
 移設は県民の問題であるのと同時に、県民を含む国民全体の問題だ。県民の「直接の民意」だけで左右することはできない。
 与党の自民、公明両党は県民投票への「自主投票」を決め、辺野古移設の大切さを十分に説かなかった。腰の引けた対応では移設の必要性が伝わらない。政府・与党は辺野古移設を着実に進めるとともに、日本の安全にとって移設が重要であることを、県民に粘り強く説く責任がある。

▼東京新聞
1面トップ「辺野古反対 7割超/知事、日米政府に通知へ/沖縄県民投票/資格者の4分の1超す」
1面・解説「新基地断念こそ唯一の道」
2面・核心「単一争点 政府に圧力/民意追い風 玉城知事、徹底抗戦へ」
3面「自民支持層も反対多数」※出口調査分析など
20~21面(特報面)若者の選択
23面(社会面)「『基地建設に歯止めを』」
社説「辺野古反対 沖縄の思い受け止めよ」

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2019022502000137.html

 民主主義国家としていま、政府がとるべきは、工事を棚上げし一票一票に託された県民の声に耳を傾けることだ。現計画にこだわるのなら納得してもらうまで必要性を説く。できなければ白紙に戻し、米側との議論をやり直す。
 今回、「賛成」「どちらでもない」に集まった票には普天間の危険性除去に対する思いがあろう。無論、「反対」を選んだ県民もその願いは同じはず。普天間返還はこの際、辺野古の問題と切り離して解決すべきだ。
 国策なら何でも地方は受忍せざるを得ないのか。選挙による民意表明が機能しない場合、住民は何ができるのか。混迷の末に行われた沖縄県民投票は、国民にも重い問いを突きつけた。私たちは政府対応を注視し、民意尊重の声を示してゆきたい。

 

■追記 2019年2月26日22時05分
 読売新聞は26日付の社説で取り上げました。米軍施設の移設先について「県民投票で是非を問うのはなじまない」と意義を認めず、「代替案もなく、辺野古移設反対を唱え続ける知事の姿勢は、無責任と言わざるを得ない」と玉城デニー知事をも批判しています。
 ▼読売新聞:社説「沖縄県民投票 着実な負担軽減へ混乱回避を」=2019年2月26日
  https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20190225-OYT1T50357/

 米軍施設の移設先は、日本を取り巻く安全保障環境や米軍の運用実態、沖縄の基地負担軽減を総合的に勘案して決めざるを得ない。国は、時間をかけてでも実現させる責務を負う。県民投票で是非を問うのはなじまない。
 英国が欧州連合(EU)離脱の是非を国民投票にはかった結果、大混乱に陥っている。
 複雑に利害が絡む国政の課題は、有権者に直接問うのではなく、国政選挙で選ばれた国会議員に委ねるべきである。
 玉城氏が、法的拘束力を持たない県民投票の結果を盾に政府と向き合えば、妥協の余地はなくなり、対立を深めるだけだ。
 事故の危険性や騒音被害の軽減を優先したい、という県民の思いは顧みられない。基地問題の前進も困難となろう。
 代替案もなく、辺野古移設反対を唱え続ける知事の姿勢は、無責任と言わざるを得ない。
 大切なのは、国土の面積の0・6%しかない沖縄に、7割の米軍施設が集中している現状を踏まえ、着実に基地の返還や縮小を実現することだ。知事は政治的な思惑を排し、現実的な負担軽減策を目指すべきではないか。

 朝日新聞は26日付でも前日から2日連続で社説で取り上げました。沖縄の人たちの民意が明らかになってもなお、埋め立て工事を止めようとしない安倍政権を厳しい言葉で批判しています。
 ▼朝日新聞:社説「政権と沖縄 これが民主主義の国か」=2019年2月26日
  https://www.asahi.com/articles/DA3S13909547.html?iref=editorial_backnumber

 なんと無残な光景か。はっきりと示された民意を無視し、青い海に土砂が投入されていく。
 沖縄県の米軍普天間飛行場の辺野古移設計画をめぐる県民投票は、反対票が72%を超え、43万4273票に達した。玉城デニー氏が昨秋の知事選で得た過去最多得票を上回った。
 しかし、安倍政権は「予告」通り投票結果を一顧だにせず、工事を続行した。
 安倍首相はきのう、記者団に「投票の結果を真摯(しんし)に受け止め、基地負担軽減に全力で取り組む」と述べたが、「真摯に」という言葉が空々しく響く。
 (中略)
 亡くなる直前に埋め立て承認撤回を表明した故翁長雄志(おながたけし)前知事は、2016年の沖縄慰霊の日の平和宣言でこう訴えた。
 「沖縄県民に、日本国憲法が国民に保障する自由、平等、人権、そして民主主義が等しく保障されているのでしょうか」
 こんな言葉を県知事に言わせる政権とは、何なのか。日米合意や安全保障上の必要性を強調し、明白な民意を無視し続ける姿勢は、日本の民主主義を危機に陥れている。