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障がい者と沖縄戦~「埋もれた声に思い寄せ」慰霊の日・沖縄タイムスの社説

 第2次大戦末期の1945年6月23日に、沖縄では日本軍の組織的戦闘が終結したとされます。この日は沖縄では「慰霊の日」です。沖縄タイムス、琉球新報の2紙も23日付の社説は慰霊の日がテーマです。
 74年前の沖縄戦は、日本本土に米軍を迎え撃つ「本土決戦」に備えた時間稼ぎであり、沖縄は「捨て石」でした。戦後の米統治を経て1972年に沖縄は日本に復帰しましたが、今も在日米軍の専用施設の約70%が集中し、沖縄県の反対にもかかわらず、名護市辺野古では米軍普天間飛行場の代替施設となる基地の建設が進んでいます。琉球新報の社説「沖縄戦の教訓継承したい」は、辺野古には直接触れていないものの「在沖米軍基地の機能は強化され続けている」と指摘し、「『軍隊は住民を守らない』という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない」と結んでいます。
 一方の沖縄タイムスの社説「埋もれた声に思い寄せ」は、沖縄戦と障がい者に焦点を当てています。優生思想や障がい者差別の問題は今日的な課題でもあるのですが、差別を戦争という側面から検証していくことは、その両者の本質を考える上でも重要な切り口なのだと、あらためて考えさせられました。
 以下に、両紙の社説の一部を引用して書きとめておきます。リンク先で全文が読めます。

▼琉球新報「慰霊の日 沖縄戦の教訓継承したい」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-941509.html

 沖縄の防衛に当たる第32軍と大本営は沖縄戦を本土決戦準備のための時間稼ぎに使った。県出身の軍人・軍属には、兵力を補うために防衛隊などとして集められた17―45歳の男性住民が含まれる。沖縄戦ではこうして住民を根こそぎ動員した。
 さらにスパイ容疑や壕追い立てなど、日本軍によって多数の県民が殺害されたのも沖縄戦の特徴だ。
 住民は日本軍による組織的な戦闘が終わった後も、戦場となった島を逃げ回り、戦火の犠牲になった。久米島の人々に投降を呼び掛け、日本兵にスパイと見なされて惨殺された仲村渠明勇さんの事件は敗戦後の8月18日に起きた。
 戦後、沖縄は27年も米施政権下に置かれ、日本国憲法も適用されず、基本的人権すら保障されなかった。沖縄が日本に復帰した後も米軍基地は残り、東西冷戦終結という歴史的変革の後も、また米朝会談などにみられる東アジアの平和構築の動きの中でも在沖米軍基地の機能は強化され続けている。
 74年前、沖縄に上陸した米軍は以来、居座ったままだ。米軍による事件事故は住民の安全を脅かし、広大な基地は県民の経済活動の阻害要因となっている。沖縄の戦後はまだ終わっていない。
 「軍隊は住民を守らない」という沖縄戦の教訓を、無念の死を遂げた沖縄戦の犠牲者への誓いとして、私たちはしっかり継承していかねばならない。

▼沖縄タイムス「[きょう慰霊の日]埋もれた声に思い寄せ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/436323

 「十・十空襲」の後、北部への避難を決めた家族に向かって、視覚障がいの女性が「自分を置いて早く逃げて」と言った、その言葉が心に刺さったという。周りに迷惑をかけたくないとの思いが痛いくらい分かったからだ。
 「僕だったらどうしただろう」
 南風原町に住む上間祥之介さん(23)は、障がいのある当事者として障がい者の沖縄戦について調査を続けている。
 発刊されたばかりの『沖縄戦を知る事典』(吉川弘文館)では「障がい者」の項を担当。母親が障がいのある子を「毒殺する光景を目の当たりにした」という証言や、自身と同じ肢体不自由者が「戦場に放置されて亡くなった」ことなどを伝える。
 国家への献身奉公が強調され、障がい者が「ごくつぶし」とさげすまれた時代。これまでの聞き取りで浮き上がってきたのは、家族や周囲の手助けが生死を大きく分けたという事実である。
 「戦争では皆、自分が逃げるのに精いっぱい。真っ先に犠牲になるのは障がい者や子どもやお年寄り」
 沖縄戦における障がい者の犠牲は、はっきりしていない。当時の資料も証言も少ない。話すこと、書くことが難しかったという事情はあっただろうが、沈黙を強いているのはその体験の過酷さである。
 優生思想は決して過去のものではない。もし今、自分の住む町が戦場になったら…。上間さんは戦争と差別という二重の暴力の中で「語られなかった体験」の意味を考え続けている。


 そのほか、ネット上で目にした本土紙の社説・論説のタイトルを書きとめておきます。一部は内容も引用しました。地方紙に、沖縄の基地問題の現状を他人事ではないととらえる視点があることは重要だと感じます。全国紙で関連の社説・論説を23日付で掲載しているのは産経新聞だけでした。「追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい」との主張です。
 一定期間、サイト上で読める新聞の社説・論説はURLも紹介します。

▼北海道新聞「沖縄慰霊の日 苦難を顧みぬ国の横暴」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/318069?rct=c_editorial

▼茨城新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」
▼山梨日日新聞「[あす『沖縄慰霊の日』]広がる『住民不在』 終止符を」=22日付

▼神戸新聞「沖縄慰霊の日/問われる平和と民主主義」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/201906/0012452247.shtml

 県民の4分の1が犠牲になった沖縄では、世代を超えて戦禍の記憶が語り継がれている。「戦争が起これば標的となり、再び捨て石にされる」との不安や疑念の声が漏れる。
 秋田では地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の配備計画を巡る調査ミスが発覚した。批判を受けて防衛省は再調査する考えを示したが、「結論ありき」で国策を押し通すような政府の姿勢は、辺野古や宮古島とも通じる。
 沖縄の問題は、日本の平和と民主主義が直面する危うさを示している。地方の意思を考慮しない政権の姿勢にも厳しい視線を向け続ける必要がある。

▼山陰中央新報「沖縄慰霊の日/『捨て石』の構図が今も」

▼西日本新聞「沖縄慰霊の日 戦争の悲惨風化させるな」

 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/520982/

▼大分合同新聞「沖縄慰霊の日 『捨て石』の構図いつまで」

▼佐賀新聞「沖縄慰霊の日 2019 『捨て石』の構図いつまで」(共同通信)=22日付
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/390783

▼熊本日日新聞「沖縄慰霊の日 『戦後』は終わっていない」
 https://kumanichi.com/column/syasetsu/1089184/

▼南日本新聞「[沖縄慰霊の日] 『痛み』忘れてはならぬ」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=107030

 昨年の慰霊の日、病を押して式典に出席した故翁長雄志前知事が、やせ細った風貌とは裏腹に毅然(きぜん)と「辺野古に新基地を造らせないという決意は揺るがない」と述べた姿が忘れられない。
 翁長氏の死去に伴う県知事選や県民投票で「反対」の民意が何度も示されているのに、政府は辺野古の工事を強行している。翁長氏の遺志を継ぐ玉城デニー知事は「沖縄では為政者による抑圧が今も続いている。その最たるものが辺野古の現状だ」と訴える。
 楽観は許されないものの、北朝鮮が朝鮮半島の非核化を表明し、日中関係も改善の動きが見えるなど、日本の安全保障環境は変化している。いつまでも沖縄に基地負担を押しつけるのではなく、本土を含めた新たな安保戦略を検討する必要があるだろう。
 奄美大島に初めて陸上自衛隊が部隊配備され、南西諸島の防衛力強化が進んでいる。米軍空母艦載機の陸上離着陸訓練(FCLP)の移転候補地に挙がる西之表市馬毛島を巡る動きなど、鹿児島もよそ事ではない。
 安全保障政策は国の専管事項とは言っても、地元の意向を抑えつけて推し進めていいはずはない。沖縄戦から今に続く課題をわが事として考えたい。

▼産経新聞「【主張】沖縄戦終結74年 静かな環境で追悼したい」
 https://www.sankei.com/column/news/190623/clm1906230002-n1.html

 心静かに戦没者を悼む日にしたい。追悼の場に政治的な問題を持ち込み、意見を異にする立場の非を鳴らす行為は厳に慎みたい。
 ところが、昨年まで知事だった翁長雄志氏は、毎年追悼式で読み上げる「平和宣言」の中で、米軍普天間基地の辺野古移設を批判してきた。
 戦没者への追悼の言葉を述べる安倍首相に対し、辺野古移設反対派と思われる参列者から、「帰れ」などの心ないやじが毎年のように飛んでいる。
 極めて悲しい出来事だ。追悼式を知事が政治的発信の場としたり、参列者のやじにより厳粛さを損なわせたりしていいわけがない。翁長氏の後継として当選した玉城知事だが、平和宣言の政治利用は踏襲しないでもらいたい。

 【追記】

 朝日新聞は22日付で関連の社説を掲載しています。
 ▼朝日新聞「沖縄慰霊の日 日本のあり方考える鏡」=22日付
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14065503.html?iref=editorial_backnumber