東京高検検事長は定年延長しても検事総長になれない~人事院の研究会資料に「他の官職に異動させることができない」と明記

  東京高検検事長の定年延長問題に関連して、人事院のサイトに興味深い資料がありました。
 2007(平成19)年9月から09年7月にかけて「公務員の高齢期の雇用問題に関する研究会」という諮問機関が設けられていました。人事院が学識研究者9人に委嘱しています。その第1回会合で配布された資料に「国家公務員の定年制度等の概要」というものがあって、そこに今、焦点になっている「勤務延長」(定年延長)の解説が載っています。

 勤務延長を行うことができる例として挙げられているのは「名人芸的技能を要する職務」「離島その他へき地官署等に勤務」「大型研究プロジェクトチームの主要な構成員」です。東京高検検事長はどれにも当たらないのは自明です。

 さらに留意点として「『当該職務に従事させるため引き続いて勤務させる』制度であり、勤務延長後、当該職員を原則として他の官職に異動させることができない」と明記しています。渦中の黒川弘務氏は東京高検検事長の職務は続けることができても、検事総長にはなれない、ということです。このブログの以前の記事で触れましたが、国家公務員法の定年延長の規定は「その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる」とあります。黒川氏は勤務延長の期間中は東京高検検事長の職務にしか従事できないと解釈するほかないのではと思っていましたが、少なくとも2007年9月の段階では人事院もその解釈だったということがはっきりしました。

 2月26日の衆院予算委員会で立憲民主党の枝野幸男代表が同趣旨の資料を読み上げていますが、この資料ではないかと思います。残念なことに政府側の答弁はありませんでした。法務省と人事院、安倍政権はどう説明するのか。仮に黒川氏がこのまま東京高検検事長職を続けたとしても、「当該職員を原則として他の官職に異動させることができない」との解釈が有効である限りは、黒川氏は検事総長にはなれません。常識で考えればそのはずです。マスメディアがあらためて取材し、法務省や人事院の見解を追及してもいいのではないかと思います。「つい間違えた資料を出していた」では済まないはずです。

  以下、この資料の引用です。

2 勤務延長(国公法第81条の3、人事院規則11-8第6条~第10条)

⑴ 定年退職予定者が従事している職務に関し、職務の特殊性又は職務遂行上の特別の事情が認められる場合に、定年退職の特例として定年退職日以降も一定期間、当該職務に引き続き従事させる制度

⑵ 勤務延長を行うことができるのは例えば次のような場合

例 定年退職予定者がいわゆる名人芸的技能等を要する職務に従事しているため、その者の後継者が直ちに得られない場合

例 定年退職予定者が離島その他のへき地官署等に勤務しているため、その者の退職による欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な支障が生ずる場合

例 定年退職予定者が大型研究プロジェクトチームの主要な構成員であるため、その者の退職により当該研究の完成が著しく遅延するなどの重大な障害が生ずる場合

 ⑶ 勤務延長の期限は1年以内。人事院の承認を得て1年以内で期限の延長可。(最長3年間)

(注) 留意点
① 勤務延長の要件が、その職員の「退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるとき」と限定されており、活用できる場合が限定的
② 「当該職務に従事させるため引き続いて勤務させる」制度であり、勤務延長後、当該職員を原則として他の官職に異動させることができない。
③ 最長でも3年間と期限が限定

  研究会の概要は以下のページに

 https://www.jinji.go.jp/kenkyukai/koureikikenkyukai/koureikikenkyukai_top.html

 当該資料はこのページの「資料8」です。
 https://www.jinji.go.jp/kenkyukai/koureikikenkyukai/h19_01/h19_01_mokuji.html

 

※追記:2020年2月28日8時50分
 研究会の資料が解説している国公法と人事院規則の規定について、条文も書きとめておきます。

【国公法第81条の3】

(定年による退職の特例)
第八十一条の三 任命権者は、定年に達した職員が前条第一項の規定により退職すべきこととなる場合において、その職員の職務の特殊性又はその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分な理由があるときは、同項の規定にかかわらず、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して一年を超えない範囲内で期限を定め、その職員を当該職務に従事させるため引き続いて勤務させることができる。
○2 任命権者は、前項の期限又はこの項の規定により延長された期限が到来する場合において、前項の事由が引き続き存すると認められる十分な理由があるときは、人事院の承認を得て、一年を超えない範囲内で期限を延長することができる。ただし、その期限は、その職員に係る定年退職日の翌日から起算して三年を超えることができない。

【人事院規則11-8、第6条~第10条】

人事院規則一一―八(職員の定年)
人事院は、国家公務員法(昭和二十二年法律第百二十号)に基づき、職員の定年に関し次の人事院規則を制定する。

(勤務延長)
第六条 法第八十一条の三に規定する任命権者には、併任に係る官職の任命権者は含まれないものとする。
第七条 勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の一に該当するときに行うことができる。
一 職務が高度の専門的な知識、熟達した技能又は豊富な経験を必要とするものであるため、後任を容易に得ることができないとき。
二 勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき。
三 業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき。
第八条 任命権者は、勤務延長を行う場合及び勤務延長の期限を延長する場合には、あらかじめ職員の同意を得なければならない。
第九条 任命権者は、勤務延長の期限の到来前に当該勤務延長の事由が消滅した場合は、職員の同意を得て、その期限を繰り上げることができる。
第十条 任命権者は、勤務延長を行う場合、勤務延長の期限を延長する場合及び勤務延長の期限を繰り上げる場合において、職員が任命権者を異にする官職に併任されているときは、当該併任に係る官職の任命権者にその旨を通知しなければならない。