東京高検検事長の定年延長問題に関連して、興味深い資料が人事院のサイトにあることを先日、このブログに書きました。ほかにも何かあるかもと見ていたら、検事長の定年延長とは直接関係はないのですが、やはり興味深い調査結果の報道発表資料がありました。ひとことで言えば、国家公務員の職務上の倫理感が悪くなっていると感じている国民が、安倍晋三政権下で増えている、というデータです。順を追って紹介します。
国家公務員法及び国家公務員倫理法に基づいて、人事院に設置されている国家公務員倫理審査会という機関があります。「国家公務員倫理審査会の活動」という資料によると、「公務に対する国民の信頼確保という倫理法の目的の下、国家公務員の職務に係る倫理の保持に関する事務を所掌しています」と説明しています。
※「国家公務員倫理審査会の活動」
https://www.jinji.go.jp/rinri/siryou/katsudo.pdf
その国家公務員倫理審査会が2019年度に実施した「公務員倫理に関するアンケート」の結果の概要が、報道発表資料として人事院のサイトにアップされています。国民(市民)1000人を対象にした19年10月のWEB調査と、一般職の国家公務員5000人を対象に19年6~7月に行った郵送調査の二つからなっています。
※報道発表資料はPDFファイルでダウンロードできます
https://www.jinji.go.jp/kisya/2002/pointr1.pdf
市民と公務員に共通の質問として「一般職の国家公務員の倫理感について、現在、どのような印象をお持ちですか」と尋ねています。回答の選択肢は「倫理感が高い」「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」「どちらとも言えない」「倫理感が低い」「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」「分からない」の六つです。報道発表資料では、「倫理観が高い」と「全体として倫理感が高いが、一部に低い者もいる」を合わせて「肯定的な回答」と位置付け、「倫理感が低い」と「全体として倫理感が低いが、一部に高い者もいる」を合わせて「否定的な回答」としています。
市民と国家公務員の回答状況は以下の通りです。
・市民 肯定的回答 51.0% 否定的回答 20.3%
・国家公務員 肯定的回答 85.4% 否定的回答 2.8%
母数や調査方法の違いもあって、単純には比較できないとは思いますが、それにしても市民と国家公務員の受け止め方の乖離には少なからず驚きました。
アンケートは毎年実施され、この質問も毎回盛り込まれています。そこで2013年度以降の回答状況の推移をまとめてみました。
※過去のアンケート結果の資料は以下のページの「公表資料」からたどりました
https://www.jinji.go.jp/rinri/new/new_main.html
2013 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | ||
公務員 | 肯定 | 77.6 | 85.4 | 85.9 | 86.7 | 85 | 84.5 | 85.4 |
否定 | 4.3 | 3.1 | 2.5 | 2.4 | 2.4 | 3.3 | 2.8 | |
市 民 | 肯定 | 45.8 | 54.1 | 46.9 | 54.4 | 49.3 | 50.7 | 51 |
否定 | 23.6 | 17.3 | 22.6 | 18.7 | 20.3 | 21.5 | 20.3 |
数値に変動はあるのですが、おおむね国家公務員は肯定的回答が85%前後に上り、否定的回答はわずか3%前後なのに対し、市民の肯定的回答は50%前後にとどまり、否定的回答は20%前後に達している状況が続いています。
さらに興味深いことがあります。2019年度の市民アンケートでは、「近年の一般職の国家公務員の職務に係る倫理の保持の状況をどのように思いますか」との質問がありました。国家公務員の倫理感の現在の状況ではなく、近年、国家公務員の倫理保持状況がどのように変わってきていると受け止めているかを、職員全体についてと、幹部職員についての二つに分けて尋ねています。回答は「良くなっている」「少し良くなっている」「変わらない」「少し悪くなっている」「悪くなっている」「分からない」の六つ。「良くなっている」「少し良くなっている」を合わせた「肯定的回答」と、「悪くなっている」「少し悪くなっている」を合わせた「否定的回答」は以下の通りです。
・職員全体に対して 肯定的回答 10.6% 否定的回答 34.3%
・幹部職員に対して 肯定的回答 6.0% 否定的回答 46.2%
この質問が盛り込まれたのは2013年度のアンケート以来とのことです。13年度の質問は「過去1年ほどの一般職の国家公務員の職務に係る倫理の保持の状況をどのように思いますか」となっていて、19年度と完全に同じではないのですが、13年度と19年度の回答状況を比較してみると、以下の通りです。
2013 | 2019 | ||
全体 | 肯定 | 13.7 | 10.6 |
否定 | 19 | 34.3 | |
幹部 | 肯定 | 7 | 6 |
否定 | 27.8 | 46.2 |
毎年のアンケートでは、国家公務員の倫理感に対する受け止めの水準にさほど大きな変動はない(肯定的回答で50%から±5ポイント、否定的回答では20%から±4ポイントの範囲内)にもかかわらず、「近年」「過去1年ほど」の変化という観点からは、否定的な回答が15~20ポイント近くも増えています。第2次安倍内閣の発足は2012年12月なので、この調査の13年度から19年度までという期間は、おおむね安倍政権の期間と重なっています。国家公務員の倫理感が悪化していると感じる国民が安倍政権を経て増え、とりわけ幹部職員には厳しい見方がされている、と言っていいように思います。
要因として思い当たるのは、森友学園の国有地払い下げや加計学園の獣医学部新設の問題にみられた、公文書を軽視し偽証もいとわなくなってしまった政府・官僚機構の体質でしょう。女性記者へのセクハラが問われた元財務次官の福田淳一氏も訓戒になっただけで懲戒処分はありませんでした。これも倫理意識の低下を示す実例でした。
今も「桜を見る会」を巡って、安倍首相の公私混同が指摘され、東京高検検事長の定年延長では、安倍政権に近い検事総長を誕生させるために、法務省や人事院が無理に無理を重ねるような国会答弁を繰り返しています。市民の視線はますます厳しさを増しているのではないでしょうか。何より、人事院によるアンケート調査でありながら、安倍政権はこの結果を真摯に受け止めているのかどうか、疑問に感じます。
【参考】人事院のサイトにある資料について書いた過去記事です