ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

観客数制限して開催「評価しない」57%(読売新聞調査)~東京都民 今夏の五輪開催支持は限定的

 7月4日の東京都議選の投開票を前に、在京のマスメディアが実施した東京都民の投票動向調査がいくつか報じられました。朝日新聞、毎日新聞・TBSテレビなど、読売新聞、共同通信・日経新聞などの4件の調査結果をみると、都議選に関しては自民党が復調で、改選前の第一党の都民ファーストは議席減となりそうとの傾向がおおむね共通しています。ただし、複数回行っている調査では、都民ファーストは支持が上がってきているようです。
 開幕まで1カ月を切っている東京五輪に対しては、問いの建て方が各社の調査でまちまちなのですが、今夏の開催、観客を入れての開催への支持はよくても30%台後半といったところです。開催地東京でも、民意の支持は限定的なものにとどまっています。

 一方、小池百合子知事への支持は、4件の調査のうち3件が50%台の後半です。安定した支持を得ているようです。
 以下に4件の調査結果のうち、五輪関連の回答状況を書きとめておきます。読売新聞と共同通信・日経新聞の調査では、質問の文章は不明です。

【朝日新聞】
26、27日実施 固定電話 有効回答804人
▼東京五輪・パラリンピックをどのようにするのがよいと思いますか。
 今年の夏に開催する 38%
 再び延期する    27%
 中止する      33%
▼東京五輪・パラリンピックをこの夏に開く場合、観客なしで行うべきだと思いますか。観客数を制限して行うべきだと思いますか。
 観客なしで行うべきだ    64%
 観客数を制限して行うべきだ 30%

小池百合子知事 支持する 57% 支持しない 27%

【毎日新聞】
26日実施 TBSテレビ、社会調査研究センターと共同でインターネット調査 有効回答2万1000人
▼東京オリンピック・パラリンピックをこのまま開催することに賛成ですか、反対ですか
 賛成     30%
 反対     58%
 答えたくない 11%

小池百合子知事の都政運営
    支持する 47% 支持しない 33% 答えたくない 19%

【読売新聞】
25~27日実施 電話調査 回答963人
▼東京五輪を観客数を制限して開催する方針について
 評価する  35%
 評価しない 57%

小池百合子知事 支持する 59% 支持しない 34%

【共同通信】
25~27日実施 日経新聞などと合同で固定電話調査 有効回答1043人
▼東京五輪・観客数上限の決定について
 無観客で開催  41.7%
 中止または延期 29.2%
 適切      26.8%

小池百合子知事 支持する 57.5% 支持しない 34.9%

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 各調査とも、調査対象を東京都民に絞るために固定電話を使っているのが目立ちます。全国調査ではしばらく前から携帯電話も対象にしていますので、固定電話に限定した場合はその分、携帯電話しか使っていない若い世代の比率が少なくなるなどのバイアスがかかっていることを考慮して、調査結果を見る必要があるようです。
 「おや」と思ったのは毎日新聞・TBSテレビなどの調査です。「NTTドコモの携帯ユーザーを中心とするプレミアパネル(dポイントクラブ)の東京都内在住者から無作為に抽出した対象者にメールで協力を依頼」したとのことです。
 プレミアパネルとは、NTTドコモが提供している「ドコモの会員組織『dポイントクラブ』の会員に、アンケート形式で『プロモーション』や『リサーチ』を行うサービス」です。
 

プレミアパネル | サービス・ソリューション | 法人のお客さま | NTTドコモ


 他紙の調査と異なり、毎日新聞は「世論調査」とは呼ばす、「インターネット調査」と称しています。集めたサンプル2万1000人分は他紙の調査を圧倒する規模ですが、母集団がNTTドコモの携帯電話ユーザーに限られることなどに留意が必要と思われます。

 

※追記 2021年6月29日22時45分

 東京新聞と東京MXテレビ、JX通信社の合同調査の結果です。東京五輪の開催で新型コロナウイルスの感染が拡大する不安を感じるとの回答が79.8%です。

【東京新聞】
26、27日実施 東京MXテレビ、JX通信社と合同で固定電話調査 回答1007人
固定電話を持たない若い世代の回答が少なく、10代~30代の回答は計5.8%
カッコ内は前回5月調査
▼あなたは東京オリンピック・パラリンピックの開催について、どう考えますか。
  観客を制限して開催するべきだ 23.8%(17.3)
  無観客で開催するべきだ    25.3%(11.0)
  中止するべきだ        42.4%(60.2)
▼五輪・パラリンピックについて菅義偉首相は「国民の命や健康を守り、安全安心の大会を実現することは可能」と説明しています。この説明に納得できますか。
  納得できる  15.5%(13.2)
  納得できない 65.2%(67.2)
▼政府や大会組織委員会は観客を会場定員の50%以内、上限1万人で開催するとしています。あなたは五輪開催で新型コロナウイルスの感染が拡大する不安を感じますか。
  不安を感じる  79.8%
  不安を感じない 12.2%
▼政府や大会組織委員会は、国際オリンピック委員会やスポンサー企業の関係者は観客上限1万人の別枠として会場に入れると言っています。あなたはこの決定に納得できますか。
  納得できる  15.9%
  納得できない 69.9%

小池百合子知事
  大いに評価する  13.4%(11.4)
  ある程度評価する 40.7%(41.4)
  あまり評価しない 22.3%(22.5)
  全く評価しない  19.6%(20.7) 

宮内庁長官「拝察」報道の記録

 宮内庁の西村泰彦長官が6月24日の記者会見で、「天皇陛下は現下の新型コロナウイルス感染症の感染状況を大変心配されている。国民に不安の声がある中で、開催が感染拡大につながらないか、懸念されていると拝察している」(共同通信)と述べ、万全の対策を取るよう求めたことが報じられています。そうした発言を直接耳にしたわけではなく、あくまでも西村長官の受け止めとのことですが、会見では「陛下はそういうふうにお考えではないかと、本当に私は思っている」と強調しました。
 日本国憲法の規定に基づき、政治的な言動は避けるのが戦後の象徴天皇制の原理原則です。東京五輪は、日本社会の民意の大勢は今夏開催に反対であるにもかかわらず、菅義偉首相がG7首脳会議で各国首脳に支持を求めるなど、政治色を強く帯びています。菅首相は五輪開催を自らの政権浮揚に結び付けようとしていると報じられており、五輪が政治利用されている状況です。そのさなかの発言です。仮に長官の口を借りて、五輪開催の可否にコメントしたということになれば、政治的な意味合いが問題になります。長官が「拝察」を強調したのは、そうしたことを意識してのことだと思います。ただし、自然災害などに対しては、先代天皇はしばしば発言し、被災地も繰り返し訪問しています。コロナの感染拡大への危惧自体は、「日本国民統合の象徴」(憲法1条)の立場として、ごく自然なことだろうと思います。

 東京発行の新聞各紙では、翌25日付朝刊に記事が掲載されました。1面の掲載はなし。大勢は社会面や総合面で、記者会見での西村長官の発言を淡々とコンパクトに伝える報じ方でした。
 各紙の中では、朝日新聞が有識者の談話を2本掲載しているのが目を引きました。1本は、実質的に天皇の姿勢を国民に示したものだ、とする内容。強いて言えば肯定的な評価だと感じました、もう1本は、政治問題に言及するものであり国民主権の原則を侵害する、とする内容です。否定的な評価です。有識者の見方を紹介するのは、ひとつの方法です。肯定的な評価の有識者については、共同通信も同趣旨の談話記事を配信しています。

 東京五輪の開催強行は、日本社会の民意の大勢に反しているのは明らかだとわたしは受け止めています。それをやろうとしているのは私人の立場である国際オリンピック委員会(IOC)や大会組織委員会だけでなく、民主的な手続きで合法的に成立している日本国政府もです。菅首相はG7首脳会議では「主催国」という言葉を用い(「開催国」ではありません)、主催者然として振る舞いました。民意に反することを政府が強行するという、日本の民主主義の深刻な機能不全が起きているように感じます。
 仮に「天皇の意向」が示されることで事態に変化が生じ、民意に沿う方向に改まるとしても、そのことを肯定的に評価することには躊躇を覚えます。原理的には、逆のことも起きかねないからです。
 民主主義の機能不全の是正は民主主義の手続きに即して行われるべきです。具体的には、まず主権者が選挙で個々の意思を明確にすることだろうと思います。

 以下に25日付の東京発行各紙の扱いと主な見出しを書きとめておきます。
 26日付では読売新聞だけが続報を掲載しました。有識者のコメントも織り交ぜながら、宮内庁長官がこのような発言をするのは越権行為で問題だとのトーンを強く感じさせます。

【25日付朝刊】
▼朝日新聞 第2社会面 5段
「『開催で感染拡大 ご懸念されていると拝察』/陛下の様子 宮内庁長官が説明」/会見 主なやり取り
「憲法に配慮して国民に姿勢示す」名古屋大の河西秀哉准教授(歴史学)/「政治問題に言及 国民主権を侵害」一橋大の渡辺治名誉教授(政治学)

▼毎日新聞 社会面 2段
「『陛下、五輪で感染拡大を懸念』/宮内庁長官『拝察』」

▼読売新聞 2面 3段
「『五輪で感染拡大 陛下懸念』/記者会見 宮内庁長官が胸中言及」/「『長官の考え方述べたと承知』官房長官」

▼日経新聞 社会面 3段
「陛下、五輪で感染増懸念/宮内庁長官が『拝察』」/「『宮内庁長官の自身の考え方』加藤官房長官」

▼産経新聞 第2社会面4段
「『五輪開催で感染拡大 陛下がご心配と拝察』/宮内庁長官会見」/「加藤氏『長官自身の考え』」

▼東京新聞 2面 2段 ※ワッペン・「五輪リスク」
「『天皇陛下 開催で感染拡大懸念』/宮内庁長官が受け止め表明/加藤氏『長官自身の考え』」

【26日付朝刊】
▼読売新聞 4面(政治)5段(見出し3段)
「宮内庁長官発言が波紋/陛下、五輪懸念 政治利用の恐れ」/「『私の拝察』『肌感覚』一問一答」

東京五輪 直前2カ月間の社説、論説の記録② 6月23日付~7月22日付 ※随時更新

 東京五輪開幕2カ月前の2021年5月23日以降、新聞各紙が掲載した東京五輪関連の社説、論説の記録です。記事量が増えてきたので、6月23日付から別記事にしました。5月23日付から6月22日付までは以下の記事にまとめています。

news-worker.hatenablog.com

 原則として、各紙のネット上のサイトで読めるものです。随時、更新します。

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【7月22日付】
▼毎日新聞「かすんだ『復興五輪』 被災地の思いを忘れずに」
 https://mainichi.jp/articles/20210722/ddm/005/070/100000c

 当初、五輪を招致する大義名分は明確でなかった。「復興」は2011年の震災後、日本を世界にアピールする手段として前面に打ち出された。政治利用された側面は否めない。
 開催都市を決める13年の国際オリンピック委員会(IOC)総会で、当時の安倍晋三首相は福島第1原発事故後の状況を「アンダーコントロール(制御下)」と演説し、安全性を強調した。だが、現実と異なる説明が批判を浴びた。
 五輪がむしろ、復興の足かせとなった面もある。建設業者が五輪に向けた工事を優先したため、人手不足や建築資材の高騰を招いたからだ。

▼東奥日報「開催の意義を問い直そう/かすむ復興五輪」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/600797

 「復興五輪」の目的は、大震災当時の各国の支援に感謝の気持ちを込めて、壊滅的な被害をここまで克服した力を訴え、同時に原発事故の過酷さを伝えていくことではないか。3.11を語り継ぐ営みは、開催国の大切な役割でもある。
 被災地でのプレーボールやキックオフの意味をかみしめ、「復興」というひとくくりの言葉で片付けられない、光と影、明と暗を見つめ直すきっかけとしたい。単なる競技を実施するだけで終わらせては、五輪招致の名目に被災地を利用した、とのそしりは免れないだろう。

▼福島民友新聞「東京五輪・復興の理念/感謝と『今』世界に伝えよう」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210722-639350.php

 地震と津波、原子力災害で甚大な被害を受けた本県は、10年間で農林水産業の再生、ロボットなどの新たな産業の創出など、着実に復興を前に進めてきた。除染などにより避難指示が解除された区域は徐々に増えた。しかし、多くの県民がいまだ県内外で避難生活を送る。原発事故の廃炉作業はこれから数十年間にわたる。
 海外には、10年前の水素爆発の映像が脳裏に刻まれたままの人も少なくないだろう。世界中の人に感謝の気持ちを表し、本県の歩みや現状を正確に伝えることが、今大会の大きな目的の一つだ。政府や組織委員会、県などは、大会理念を踏まえ、世界中に本県の姿を発信してもらいたい。

▼山陰中央新報「かすむ復興五輪 『影』も見つめ直したい」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/66579

▼宮崎日日新聞「小山田氏辞任◆組織委の鈍い人権感覚露呈◆」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54998.html

▼南日本新聞「[東京五輪開幕] 記憶に残る安心安全を」/大義はどこにある/テレビ通し声援を
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=140687

 中止を求める国民の声が消えない中、政府や組織委員会などは開催に踏み切った。組織委は、入国した選手らの行動範囲を選手村や会場に限定する「バブル方式」を中心に感染を防ぐ方針だ。だが、選手らの感染も増えており、無事に競技が実施できるか不安が募る。
 感染拡大を起こさず「安心安全な大会」として世界の人々の記憶に残せるか。政府や組織委の実効性のある対応が問われている。

【7月21日付】
▼朝日新聞「小山田氏辞任 五輪理念ますます遠く」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14982607.html

 事態を統御できず、説明責任を果たさない組織委のもと、きょうから一部の競技が始まる。
 混迷と不信と不安と。まさかこんな悲惨な状況で迎えるとは予想もしなかった「平和の祭典」の幕開けである。

▼毎日新聞「五輪楽曲担当者が辞任 組織委の人権意識を疑う」
 https://mainichi.jp/articles/20210721/ddm/005/070/137000c

 コロナ下の五輪開催を疑問視する意見は根強い。組織委が、人権への配慮を欠く体質を根本的に改めなければ、五輪と国民の距離は広がるばかりだ。

▼読売新聞「五輪外交 ともに困難を乗り越えたい」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210720-OYT1T50242/

 韓国の文在寅大統領は、土壇場になって来日見送りを決めた。日韓関係改善に向けた対話の機会が失われたのは残念である。
 韓国政府は、首脳会談で成果が見込めないためだと説明している。だが、関係改善には「元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)」や元慰安婦をめぐる問題で、韓国側が解決策を示すことが先決だ。
 韓国側は、選手村の食事について、福島県産品を食べないよう指導したという。選手村居住棟のベランダには一時、反日的ともとれる内容の横断幕が掲げられた。
 日韓関係を悪化させかねない行動だ。政治的な主張を五輪に持ち込まないよう配慮を求めたい。

▼日経新聞「五輪の辞任劇が問う人権感覚」

▼北海道新聞「五輪作曲者辞任 組織委の人権感覚疑う」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/569413?rct=c_editorial

 コロナ禍の東京五輪は、多くの国民が疑問を抱いたまま、開幕を迎えようとしている。
 小山田氏の辞任は混迷をさらに深める形となった。

▼河北新報「被災地で五輪競技開始/『復興』の理念 諦めず発信を」
 https://kahoku.news/articles/20210721khn000005.html

 復興を伝える機会は極めて限られることになった。それでも、諦めずに、発信に力を尽くすべきだろう。
 例えば、組織委などが各国の報道陣が集まる東京のメインプレスセンターに設置した「東京2020復興ブース」はその一つ。震災直後の状況などの画像をスライドショーで紹介する。被災地とつないだオンラインのプレスブリーフィングもあった。
 ブースの開設に際して、組織委の橋本聖子会長は「大会は震災からの復興が源流。復興しつつある姿を、支援への感謝とともに発信していく」とコメントした。
 これ以外にも、無観客でも復興を発信できる方法はまだあるはずだ。政府や組織委の取り組みはもちろん、被災地からもアイデアを積極的に出して、組織委に働き掛けていくことも必要だろう。

▼秋田魁新報「選手村で陽性者 五輪発の感染拡大防げ」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210721AK0026/

 羽田空港の水際対策などを先月末に視察した菅義偉首相は、選手らの入国本格化に備え「さらに徹底して対策を行うよう指示した」と述べていた。事前合宿の来日者を除く大会関連の1日以降の陽性者数は、20日夕現在で計67人。菅首相の言葉とは裏腹の結果ではないか。
 水際対策はもはや万全からは程遠い。選手村でクラスター(感染者集団)が生じたり、選手村から外に感染が広がったりする懸念も払拭(ふっしょく)できない。

▼山形新聞「いじめ巡り小山田氏辞任 組織委の責任は重大だ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20210721.inc

 より重大な問題はそうした事実が明るみに出た後も小山田氏を擁護し、続投させようとした大会組織委員会の人権感覚と判断力の欠如だろう。これを個人の問題として終わらせてはならない。

▼福島民報「【東京五輪 福島市で開始】まずは競技の成功を」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021072188624

 大会に向け、県内の九市町村が「ホストタウン」、十一市町村が「復興『ありがとう』ホストタウン」に認証され、それぞれ相手国との交流に知恵を絞ってきた。多くの市町村が事前合宿や交流事業の中止を余儀なくされたが、相手国との間に新たなつながりや絆が生まれるなど、これまでの取り組みは決して無駄ではない。アフターコロナを見据え、国際交流や復興の発信を諦めないでほしい。

▼新潟日報「小山田氏辞任 五輪理念に背く言動また」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210721629706.html

 一連の問題で浮かび上がるのは危機管理の甘さだろう。感染禍の五輪という異例の大会では通常にも増して緊張感が求められる。組織委は猛省し、十分な備えを講じなければならない。

▼中日新聞・東京新聞「開会直前の五輪 迷走生んだ無責任体質」
 https://www.chunichi.co.jp/article/294849?rct=editorial

 組織委は小山田氏が自ら辞任することで幕引きを図ったが、解任に値する事案だ。対応の遅れは、ただでさえ開催への反対論が強い東京五輪・パラリンピックの正当性を一層傷つけたことになる。武藤、丸川両氏を含む責任者の進退が問われて当然だ。
 五輪・パラリンピックの開催に当たっては、参加選手やボランティアを含めた関係者が奮闘している。こうした努力は見守りたい。
 その一方、選手たちに最高の活躍の場を用意するはずの組織委などの運営者側が迷走を続けては、不安が募るばかりである。
 今大会を、統治能力に疑問符がつく組織委や、適切に対応しているとは言い難い五輪担当相に任せ続けていいのだろうか。

▼京都新聞「小山田氏の辞任 人権意識が欠けている」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/602772

 政府は、東京五輪・パラリンピックに向けて、駅などの拠点を中心にしたバリアフリー化や、飲食店や職場などを原則禁煙とする法改正を進めてきた。
 そうした環境整備の一方で、今回の問題は五輪が目指す多様性や共生社会の理念の浸透に、課題があることを浮き彫りにした。
 差別や偏見を乗り越える使命を担っていることを、大会関係者は改めて肝に銘じてほしい。

▼中国新聞「開会式の作曲担当辞任 五輪理念、なぜ分からぬ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=774995&comment_sub_id=0&category_id=142

 主役のアスリートのあずかり知らぬところで、東京五輪のイメージはおとしめられている。選手が気の毒でならない。
 小山田氏の音楽は使わず、パラリンピックの担当も外すという。当然だ。とはいえ2日後に迫る開会式。新たな楽曲づくりや演出の変更などを間に合わせるのは大変だろう。
 スタッフやボランティアの多くは、開会式や大会をよりよくしようと努力している。肝心の組織委はどうか。五輪の精神を理解できているとは思えない。今の組織委で五輪を開催できるかどうか、甚だ疑問だ。

▼山陰中央新報「小山田氏辞任 個人の問題で終わるな」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/65981

▼宮崎日日新聞「コロナ拡大と五輪◆国民の安全守る使命果たせ◆」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54969.html

 菅首相が優先しなくてはならないのは、五輪を予定通り終わらせることではない。国民の命を守るためコロナ感染を一日も早く収束に向かわせることだ。憲法に基づく野党の臨時国会召集要求に応え、コロナ対策を充実させる論議にも臨むべきだ。

▼佐賀新聞「小山田氏辞任 個人の問題で終わらせるな」※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/710076

 一連の不祥事で浮かび上がるのは、この国で重要な意思決定に関わる集団に共通する共感力のなさだ。差別でも盗用でも、自分や家族が被害に遭ったらどんな気持ちになるのか。そんな想像力を持たない人々が、仲間内で仕事を回し合い、異論を封じ込めようとする。
 スポーツや教育、社会活動を通じて、他者への共感をどうやって培うか。ずっと前から向き合うべきだった課題に、今度こそ目を向けたい。

▼南日本新聞「[小山田氏辞任] 五輪組織委また後手に」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=140619

 大会が掲げる「多様性と調和」に背く問題が続いているのは情けない。組織委はこうした五輪の原点を改めて自覚しなければならない。

▼沖縄タイムス「[小山田氏辞任]五輪精神を踏みにじる」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/790013

 コロナ禍で、感染拡大の不安が高まる中、原則無観客で実施される大会で、より一層、重要なのは何のために開催するのか、というビジョンの共有である。
 日々、練習に励む選手たちのためにも、組織委は、人種や性別、障がいの有無などあらゆる面での違いを肯定し、互いに認め合う社会の実現という東京五輪のビジョンを改めて胸に刻む必要がある。

【7月20日付】
▼朝日新聞「コロナ第5波 命を救う準備を急げ」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14981065.html

 五輪の選手や関係者が続々と来日している。国籍を問わず、感染者が必要な手当てや治療を受けられない事態は回避しなければならない。開催を強行する国が負う当然の責務だ。

▼毎日新聞「五輪『バブル方式』に穴 主催者の危機意識足りぬ」
 https://mainichi.jp/articles/20210720/ddm/005/070/154000c

 対策のほころびが次々と明らかになる中、主催者からは危機意識を欠いた言動が続いている。
 (中略)IOCや組織委は感染状況や国民感情に配慮し、丁寧な大会運営を心がけなければならない。今の姿勢では、不安が増すばかりだ。

▼産経新聞「五輪観客問題 選手の声に耳を傾けたい」
 https://www.sankei.com/article/20210720-6DGSKRIXR5PJJPSXTXIZPK7C5Y/?theme=tokyo2020

 日本の観客だけでは外国選手に不公平だとする声もある。これはあまりにスポーツの現場を知らない。日本のファンが対戦相手にも声援を惜しまぬ姿は2002年、19年のサッカー、ラグビーのワールドカップでも驚きとともに世界に称賛された。子供たちの真剣なまなざしは、必ず遠来の選手たちにも力を与えるはずだ。

▼徳島新聞「バッハ氏への非難 責任は首相に問うべきだ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/561234

 開催国政府の意向を無視してIOCが強行したのなら非難も致し方ない。しかし菅首相は一度も中止や延期を提案していない。五輪開催はIOCの使命であり自主的な中止や延期を求めるのはお門違いである。
 IOCが絶対権力者であるような流れを作ったのは、首相自身だ。国会論戦では「私自身は主催者ではない」と、IOCを前面に押し出して、追及をかわし続けた。
 (中略)
 政治家の皮算用に乗せられてはならない。注目は、史上初の無観客五輪がどこまで盛り上がるか、感染防止が成功するかどうか、である。アスリートの熱戦を楽しむ一方で、為政者たちの振る舞いを注視していきたい。

▼高知新聞「【迫る五輪開幕】感染対策の『穴』が目立つ」
 https://www.kochinews.co.jp/article/472597/

 五輪開催に突き進んできた菅義偉首相は「安全安心」「国民の命と健康を守る」と言い続けてきた。しかし、共同通信が17、18日に行った世論調査では、東京五輪・パラリンピックによる感染拡大に不安を感じる人は87%にも上っている。
 国民は不安を解消できないまま開幕を迎えることになる。政府、組織委などは対策を徹底し、「安全安心」への責任を果たすべきだ。

▼南日本新聞「[コロナ下の五輪] 安全守る対策 総点検を」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=140560

 菅義偉首相はコロナ下で開催する東京五輪の意義について「世界が一つになり、難局を乗り越えていけることを発信したい」と繰り返す。
 だが、今の状況で国民の「安全」を守れるのか、はなはだ心もとない。政府は危機感を強く持って対策を総点検しなければならない。

▼沖縄タイムス「[五輪と内閣支持率]早くも危機的な状況に」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/789340

 緊急事態宣言下の五輪が、支持率急落の政権によって担われる。それこそ「政治の危機」と言うべきだろう。
 危機的な様相が、さまざまな所で表面化し、日本の社会に深い亀裂と分断を生んでいる。
 菅首相はその現実を直視しなければならない。
 (中略)
 スポンサーは「無観客」に不満を漏らし、五輪開催に否定的な市民は有観客方針によって感染拡大が進むことを懸念する。
 行政の混乱と自治体間の亀裂、市民の間で表面化した分断。海外メディアからは、日本滞在中の行動規制に対し、強い不満が寄せられている。
 現時点で早くも明らかになりつつあるのは、東京五輪に誰もが納得できるような「成功」はない、という点だ。
 菅首相は結果責任を負わなければならない。

【7月18日付】
▼神戸新聞「五輪の兵庫勢/選手が全力尽くせる場に」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014511785.shtml

 東京では五輪開催中に病床使用率がステージ4(爆発的感染拡大)になるとの予測もあり、コロナへの最大限の警戒が必要だ。主催者には選手の命と健康を守る万全の対策を求めたい。
 大会環境はベストにはほど遠いが、兵庫ゆかりの46人とともに、世界のアスリートが全力を尽くせる場となることを願う。

▼西日本新聞「五輪の感染対策 選手包む『バブル』に懸念」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/772048/

 開会が近づいても五輪の感染対策は問題点が尽きない。関係者の多くが認識しているはずだが、そうでもない人がいる。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長である。
 先日、小池百合子東京都知事との会談で「日本の皆さんのリスクはゼロ」と語った。菅義偉首相には、感染状況が改善した場合は観客を入れるように検討を求めたという。新型コロナの現状に対して、あまりに無自覚な発言ではなかろうか。
 東京や全国の事前合宿地で感染防止に尽力している人たちがいる。一方で、主催組織のトップがこうした発言をするようでは五輪への不信を招くだけだ。

【7月17日付】
▼産経新聞「五輪の感染対策 ルール順守を徹底させよ」
 https://www.sankei.com/article/20210717-M5FQDFXG4JPZLPC7YKKABBBFD4/

 日本人へのリスクについて、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「ゼロ」と明言したが、不用意に過ぎる。ワクチン接種の遅れに加え、多くの外国人が来日することを不安視する国民は多い。自身の発言が五輪への賛同を妨げていることを、そろそろ自覚してはどうか。

▼東奥日報「国民の『安全』守れるか/コロナ拡大と五輪」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/594226

▼信濃毎日新聞「感染再拡大 不信感が覆うままでは」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021071700073

 期間中であっても中止する際の基準を明示すべき局面なのに、国際オリンピック委員会のバッハ会長は、菅首相との会談で「感染状況が改善したら観客入りを検討してほしい」と口にしている。
 首相は、大会に関わる5者協議で対応を検討するとだけ説明したとされる。この期に及んでも最悪の事態を想定しない。認識の甘さと無責任さが際立つ。

▼新潟日報「東京感染者急増 地方は波及を警戒せねば」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210717628950.html

 政府が感染抑止の切り札と位置付けるワクチン接種は供給が追いつかず、接種予約の停止や延期を余儀なくされる自治体が全国で相次ぐ。
 23日開幕の東京五輪は原則無観客になったとはいえ、お盆休みや夏休みシーズンを控え、人の流れは今後、確実に増える。地方は感染拡大の波及を警戒しなければならない。

▼京都新聞「迫る東京五輪 課題と懸念がなお残る」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/600508

 感染の状況次第では、開催途中であっても大会を継続させられるかどうかの判断を迫られる局面もでてこよう。そうなった時のシナリオは用意されているだろうか。
 課題と懸念は、なお山積している。あらゆる事態を想定して準備に臨むよう、主催者に改めて求めたい。

▼山陰中央新報「コロナ拡大と五輪 国民の『安全』守れるか」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/64059

▼佐賀新聞「コロナ拡大と五輪 国民は『安全』なのか」 ※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/707944

 バブルに穴がないか常時点検するとともに、五輪を発生源としたクラスター(感染者集団)を認知した場合、大会を続行するかどうかを検討しておく必要がある。
 菅首相はコロナ禍で行われる東京五輪の開催意義を巡って「世界が一つになり、難局を乗り越えていけることを発信したい」と繰り返している。さすがに「コロナに打ち勝った証し」との言い回しは封印したようだ。だが、生活や事業がコロナ前に戻るのはいつかという国民が一番知りたいことに答えていないのに、無責任な意義付けだと指摘せざるを得ない。

 【7月16日付】
▼朝日新聞「五輪まで1週間 バブルの穴 尽きぬ懸念」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14975993.html

 選手・関係者が続々と来日するなか、想定の甘さや準備不足に起因する様々なほころびや混乱が相次ぐ。なにより問題なのは、そうした状態を事実上放置したままにしている主催者および政府の姿勢である。責任感の欠如は、大会への不信と反感を増幅させるばかりだ。

▼福島民友新聞「東京五輪・開幕まで1週間/閉塞感打ち破る活躍期待を」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210716-637271.php

 多くの競技が無観客での開催となった東京五輪は開幕まで1週間となった。ただ、大会ムードはまだ低調だ。県勢をはじめとする日本選手団には、新型コロナウイルスの感染拡大による閉塞(へいそく)感を打ち破る活躍を期待したい。

▼中国新聞「バッハ氏の広島訪問 核廃絶誓う気あるのか」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=773414&comment_sub_id=0&category_id=142

 バッハ氏の広島訪問中止を求める市民のネット署名も広がっている。反対の声を押し切ってまで来るなら、核が人類にもたらした悲惨から目をそらしてはならない。今後は、核保有国では五輪を実施しないと、被爆地で明言するくらいの覚悟があってもいいはずだ。巨大ビジネスと化した五輪を、真に「平和の祭典」に変えることを、被爆地で誓ってほしい。
 核兵器廃絶について踏み込んだ発言をできるのか、被爆地訪問を今後の五輪運営にどう生かすのか。被爆地の内外で、核なき世界を求める人々が、厳しい視線を注いでいることを、忘れてはならない。

【7月15日付】
▼日経新聞「感染封じ五輪の安全な運営を」
 https://www.nikkei.com/article/DGXZQODK1473I0U1A710C2000000/

 東京五輪の開幕が23日に迫った。選手団が続々と入国し、東京都内の選手村への入村も始まった。一部の競技会場を除き無観客での開催が決まって、不安視されていた新型コロナウイルスの感染への対策は、選手や大会関係者らへ向けたものが中心となる。
 東京都では14日、新規感染者が約2カ月ぶりに1000人を超えた。大会組織委員会や国、都などは、すでに実施している手法やルールに穴がないか、改めて検証するとともに、順守されているかどうかチェックする必要がある。

【7月13日付】
▼産経新聞「福島の五輪無観客 『同調圧力』に屈したのか」
 https://www.sankei.com/article/20210713-D2RPGAVTVVIDTFYKUH4VDO5R6A/

 なぜ五輪だけが無観客を強いられるのか、理解に苦しむ。コロナ禍の初期に横行した「自粛警察」の新たな標的として五輪が悪者に仕立て上げられたような、嫌な空気感に支配されているようだ。
 世界に目を転じれば、英国やブラジルでサッカーの大陸選手権決勝が有観客で行われ、国を挙げての悲喜劇に大騒ぎとなっている。東京の無観客五輪が奇異の目で見られても仕方あるまい。

▼宮崎日日新聞「無観客五輪 開催意義感じられるか注目」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54737.html

 しかし、安倍晋三前首相が大会の1年延期を決定したときに語った「完全な形での開催」は実現しなかった。菅義偉首相が何度となく強調してきた「ウイルスに打ち勝った証し」としての五輪の実現も難しくなった。それでも開催の意義を感じられる大会になるかどうか。事前の環境整備も含め問われている。

【7月11日付】
▼産経新聞「無観客五輪 中高生観覧の拡大検討を」
 https://www.sankei.com/article/20210711-F53GSTX52NMMRF3KVOHOD2BYV4/

 茨城県はカシマスタジアムで行うサッカーについて、昼間の試合のみ、県内の学校連携チケットによる観戦を可とした。大いに参考にすべき決断である。
 この方式であれば、県外移動を伴わず、引率教員による直行直帰の徹底も図ることができる。一般観客の入場がなくなった広いスタンドでは、十分に人と人との間隔を取ることもできる。

▼福島民友新聞「五輪の無観客開催/失った信頼の回復に努めよ」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210711-635496.php

 新型コロナ対応は人命に関わるだけに、五輪の無観客を含めた縮小は致し方ない面がある。批判されるべきは、その対応を決める際の政府や組織委の混迷ぶりだ。
 内堀知事によると、5者協議前から組織委の橋本聖子会長と頻繁に連絡をとり、無観客が最初に決まった1都3県を除く会場については、一体的な判断を求める考えを伝えていたという。それでも大会まで2週間の時点での決定事項が変更となってしまうのは、政府と、前五輪担当相が会長を務める組織委の調整がうまくできていないと言わざるを得ない。
 五輪を巡る判断のぶれは、国民や国際社会の日本政府に対する信用を失墜させた。信用回復を図りながら、異例の大会をどう運営していくのかが問われる。

【7月10日付】
▼朝日新聞「無観客五輪 専門知、軽視の果てに」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14968681.html

 今後、感染状況がさらに悪化して医療が逼迫(ひっぱく)し、人の命が脅かされるようなことになれば、聖火がともった後でも中断や中止に踏み切る。それだけの覚悟を固めておく必要がある。

▼読売新聞「東京五輪無観客 テレビ観戦でエールを送ろう」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210709-OYT1T50298/

 昨年、五輪を延期した際、当時の安倍首相は「完全な形で実現する」と述べた。しかし、その後はワクチン接種の遅れなど、政府の不手際が目立ち、国民の不安を払拭することができなかった。
 会場での観戦を心待ちにしていた国民も多かったはずだ。選手も落胆しているだろう。政府は、開幕直前になって方針変更を迫られることになった見通しの甘さを謙虚に反省してもらいたい。

▼日経新聞「無観客に油断せず感染対策の徹底を」

 開幕を23日に控えた東京五輪は東京都と神奈川、埼玉、千葉の各県の競技会場で観客を入れずに開催することになった。大会組織委員会、都、国際オリンピック委員会(IOC)などによる5者協議に加え、3県との調整を経て最終的に決定した。
 都内で新型コロナウイルスの感染者が急増し、政府が4度目の緊急事態宣言を出したことを踏まえたものだ。

▼北海道新聞「道内まん延解除 五輪の無観客は当然だ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/565442?rct=c_editorial

 菅義偉首相が言う安全安心の大会を目指すなら、道民の命と健康を最優先に無観客で開催するのは論をまたないはずだ。結論に至るまでに道と組織委の調整が迷走したことは理解できない。
 今後、円滑で安全な大会運営を進めるために両者の緊密な連携が欠かせない。今回の混乱劇に不安を覚えた道民は少なくないのではないか。道は組織委との協議の経緯について詳細に説明すべきだ。

▼東奥日報「開催意義を実感させよ/五輪 首都圏無観客」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/584748

 バッハIOC会長が言う「誰もが犠牲を強いられる大会」になるのは明らかだ。観客と喜びを共にしたいと望んでいた選手、会場で観戦できるはずだった市民はさぞかし残念だろう。
 それでも開催に懐疑的な人、開催を持ちわびている人が共に意義深く感じる大会にしなくてはならない。菅首相らにはその責務がある。

▼秋田魁新報「五輪4都県無観客 厳しい安全対策が必要」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210710AK0018/

 緊急事態宣言下での大会開催が、本来は必要な個々人の感染対策に緩みをもたらす不安も拭えない。特定の場所に集まって大声で応援するなどして感染を広げる可能性もあるからだ。
 そうした事態を引き起こさないため、政府は厳しい安全対策を講じる必要がある。それができなければ、五輪を通じて全国、世界に感染が再拡大する状況も発生し得る。五輪開催の政治責任は、かつてないほど重いと言わなければならない。

▼山形新聞「五輪首都圏で無観客 開催意義を実感させよ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20210710.inc

▼新潟日報「緊急事態と五輪 感染防止に全力を尽くせ」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210710627642.html

 改めて疑問を覚えるのが首相の姿勢だ。五輪を次期衆院選に向けた政権浮揚策と位置付け、有観客に固執していたという。反対が根強かった国民意識とあまりに距離がある。
 首相は宣言決定後の会見で五輪開催の意義について「難局を乗り越えていけることを東京から発信したい」と訴えたが、どれだけ国民の胸に響いたか。
 何度も宣言が発令される現状は、首相の中途半端な姿勢が原因とさえ見える。
 国民に負担を強いる中での五輪開催に、批判や不満の声が強まっている。
 ワクチン接種を巡っては、供給の見通しが立たず、本県などの自治体で予約を一時停止するなど混乱が広がっている。
 首相は感染抑止へ、もっと覚悟を持って取り組むべきだ。

▼中日新聞・東京新聞「五輪無観客に 混乱招いた遅い決断」
 https://www.chunichi.co.jp/article/288135?rct=editorial

 大会の一年延期を決めた後、政府は「コロナに打ち勝った証し」「完全な形で開催する」などと楽観論を振りまいてきた。四月の予定だった観客数の上限決定を六月に先送りするなど、多くの観客を入場させて大会の「見栄え」を良くするために、無理を重ねてきたのではないか。
 その間、専門家の警鐘は軽視されてきた。厚生労働省に助言する専門家組織は今月二十三日の開会式前後に四回目の宣言が必要になると試算していた。政府のコロナ対策分科会の尾身茂会長らも「無観客」を提言していた。
 命を守るために、首相らはもっと早く決断すべきだった。

▼福井新聞「緊急事態宣言下の五輪 開催の大義はどこにある」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1354633

 五輪憲章は、人間の尊厳に重きを置く平和な社会を推進させるためにスポーツを役立てることをオリンピズムの目的に定める。五輪という競技会は単なるスポーツイベントでない。友情、連帯、フェアプレーの精神、そして相互理解の理念を世界が一緒になって体現していく場なのだ。
 内実は伴っているか。開催の大義は失われていないか。開幕までのわずかな時間で突き詰めねばならない。

▼京都新聞「無観客の五輪 重大なリスク残ったままだ」/持てる最後のカード/専門家の警告聞かず/最悪の事態に備えを
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/595824

 大会期間中、国内の感染拡大を確実に抑え込めるかどうかは未知数だ。人の動きの増加によって感染爆発など最悪の局面が生じた場合、五輪を続行するのかどうかの判断基準を国民に示しておく必要もあるだろう。
 あらゆる事態に備え、感染リスクを最小化することが政府の責務である。

▼神戸新聞「宣言下の五輪/無観客でも安心できない」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014487635.shtml

 開幕2週間前まで二転三転した判断に、チケット購入者やボランティアら多くの人が翻弄された。有観客での開催にこだわり迷走を重ねた菅義偉首相の責任は極めて重い。
 東京五輪は緊急事態宣言下で開かれる異例の大会となる。国民の不安は大きいと言わざるを得ない。
 感染抑止のために国民に我慢を強いる一方で、世界最大級のイベントである五輪を開く。それ自体が矛盾をはらむ。首相は会見で「全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていける」と述べたが、不安の解消につながる具体策は示せなかった。感染状況がさらに悪化する事態に陥れば、期間中でも大会の縮小や中止をためらってはならない。

▼山陽新聞「無観客の五輪 感染広げぬ対策を尽くせ」
 https://www.sanyonews.jp/article/1150412?rct=shasetsu

 無観客でも大会関係者を通じた感染拡大への心配は残る。五輪には選手・役員らを含めて約5万人の来日が見込まれる。新型コロナ対策の規則集などに基づき、一般国民と接触がないように行動制限し、違反した場合は参加資格の剥奪など厳しい対応を取るという。水際対策も含め、感染対策の徹底に全力を挙げてもらいたい。

▼中国新聞「『無観客』五輪 開催意義、正面から語れ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=771609&comment_sub_id=0&category_id=142

 開幕まで2週間を切る中、大会運営は大幅な見直しを強いられ、さらなる混乱も懸念される。無観客で感染リスクは低減できるだろうが、不安材料は尽きない。国際オリンピック委員会(IOC)や政府は、感染状況が悪化すれば、大会の縮小や競技の打ち切りなども想定しておくべきだ。

▼山陰中央新報「無観客五輪 開催意義を実感させよ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/60525

▼徳島新聞「コロナ下の五輪 完全無観客にすべきだ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/556463

 解せないのは、無観客が5都道県にとどまり、他の4県の会場は観客を入れるほか、IOCや競技関係者らは「別枠」として観戦が認められることだ。
 これでは人流を止めることはできないし、国民の納得も得られまい。各地の会場で感染が再拡大する可能性もある。全会場を完全無観客にすべきである。
 宣言の発令により、水際対策や参加者の感染予防策などをまとめたプレーブック(規則集)なども変更を余儀なくされる。残された時間も少なく、現場の負担は増す一方だが、混乱を来さないよう早急に修正し、実行に移してもらいたい。

▼西日本新聞「1都3県無観客 『安心な五輪』には程遠い」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/768127/

 緊急事態宣言を含む感染対策は国民に負担や痛みを強いて、イベントや地域行事の中止も迫った。その不満は、最後まで開催の是非を検討することのなかった五輪にも向けられている。
 今聞きたいのは「無観客」にしてまでも五輪を開催する意義と、不安をなくすための具体策である。菅首相や橋本聖子組織委会長から国民に語り掛けるメッセージが伝わってこないのは残念でならない。

▼佐賀新聞「無観客五輪 開催意義を実感させよ」
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/704218

▼沖縄タイムス「[五輪と首相判断] 国会で説明責任果たせ」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/783946

 異例で異様な状況だ。
 約2週間後に迫った東京五輪が緊急事態宣言下での開催を余儀なくされる。五輪競技のうち1都3県での開催分は無観客で行われる。前代未聞の決定だ。
 なぜそうなったのか。菅義偉首相は開催国のトップとして国内外にその理由を説明する責任がある。

【7月9日付】
▼朝日新聞「4度目の宣言 矛盾する『発信』に懸念」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14967238.html

 「東京五輪は無観客が望ましい」とした先日の専門家らによる提言は、観客を入れることが「感染対策を緩めてもいい」という「矛盾したメッセージ」になるリスクを指摘した。観客の有無にかかわらず、五輪の開催自体がその矛盾をはらんでいるとみるべきだろう。

▼毎日新聞「宣言下で五輪開催へ 感染爆発防ぐ対策見えぬ」/遅れる経済・生活支援/全面無観客が大前提だ
 https://mainichi.jp/articles/20210709/ddm/005/070/128000c

 今後、感染の急拡大で医療体制が崩壊するような最悪の事態も起こりうる。主催者は状況に応じ、大会の中止や競技の打ち切りといった選択肢も想定しておく必要がある。

▼読売新聞「緊急事態宣言 規制強化は丁寧な説明が要る」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210708-OYT1T50269/

 菅首相は記者会見で、「東京を起点とする感染拡大は絶対に避けなければならない」と述べた。東京五輪・パラリンピックについても、無観客を含め、安全な開催に万全を尽くすことが重要だ。

▼日経新聞「緊急事態宣言は最大限の効果引き出せ」

 東京に4度目の緊急事態宣言が出る。感染者が増え続ける一方、頼みの綱のワクチンの接種率はまだ低い。東京五輪を間近に控え人の動きが増える前に、政府が対策を強化するのはやむを得ない。

▼産経新聞「コロナ緊急事態 五輪『無観客』は大失態だ 宣言は4回目を最後とせよ」/「公約の破棄」に等しい/ワクチン接種の徹底を
 https://www.sankei.com/article/20210709-E5VQOQMLWZIYFBJG7SKVUIYXSM/

 東京五輪は8年前、大会の成功を約束して招致に成功した。昨年3月に安倍晋三前首相が大会の1年延期をIOCに提案した時点で、政府はコロナとの戦いに打ち勝った証しとしての五輪開催に責任を負ったはずである。

 世界も、日本のコロナ対応と開催準備能力を信じ、期待して、1年の延期を了承した。

 「無観客開催」は公約の破棄に等しく、ホスト国として恥ずかしい大失態である。 

▼北海道新聞「緊急事態宣言下の五輪 『安心安全』の状況にない」/判断の誤り直視せよ/火に油となりかねぬ/接種体制の再構築を

 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/564998?rct=c_editorial

 首都圏1都3県の会場は無観客で開催する方針が固まった。当然だが、それで菅義偉首相の言う「安心安全」が保証される状況にはならないだろう。
 首相はきのうの記者会見でも、安心安全の根拠を示せなかった。
 政府がコロナ対策の切り札と頼むワクチン接種も供給が見通せなくなり、混乱が生じている。
 迷走を繰り返す首相の責任は極めて大きい。

▼河北新報「都に4度目『緊急事態』/名ばかりにしてはならない」
 https://kahoku.news/articles/20210709khn000002.html

 インドで確認された感染力が強い変異株「デルタ株」は、五輪が開幕するころには感染の7割程度を占めると国立感染症研究所は推計する。
 祝祭ムードをまとう五輪が人の流れを誘発し拡散させるのは間違いない。宣言を名ばかりにしないためには、五輪を例外扱いしてはならない。
 国と都のメッセージが空回りしている。若者を中心に切迫感を持って受け止めてもらうよう、心に響くための方策を練り直さなければ、宣言の効力は期待できまい。

▼東奥日報「政府の状況認識甘かった/東京に4度目緊急事態」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/583119

 東京五輪は、感染拡大の「第5波」が現実味を帯びた中で迎える。政府が今、全力を尽くすべきは、各国からの五輪選手団・関係者らに限らず、スタジアムの外で日々の暮らしを送り、間もなく夏休み、盆休みを迎えようとしている大多数の国民の命と健康を守ることだ。

▼秋田魁新報「東京に4度目宣言 全国への波及、阻止せよ」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210709AK0014/

 専門家は感染力の強いデルタ株の脅威、宣言解除による気の緩みによる感染再拡大などを再三にわたって警告。警鐘を鳴らすシミュレーションも示していた。
 政府はこうした専門家の警告を結果的に軽視してきた。専門家の声を政策に反映する姿勢を欠いた政府の責任は極めて重いと言わざるを得ない。

▼山形新聞「東京4度目の緊急事態 政府の認識が甘かった」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20210709.inc

▼信濃毎日新聞「宣言下の五輪 無観客でも『安心』はない」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070900163

 菅首相はきのうの会見で、世界中の人々の心を一つにし、パラリンピックを通じて「心のバリアフリー」を発信できると、両大会の意義を強調した。
 健康と暮らしに重圧がかかる現実の中、情緒的な言葉は国民に響くだろうか。安全安心な大会を目指す策として首相が示したのは、テレワークや交通規制といった従来の対策にすぎない。
 ワクチンが行き渡るまで感染抑制に集中すべき局面にある。国民の理解と協力を得られる発信力と具体策がない。無観客でも開催してはならない。

▼中日新聞・東京新聞「4度目の宣言 対策の迷走が目に余る」
 https://www.chunichi.co.jp/article/287434?rct=editorial

 感染は再拡大の局面にある。都内は人出増が続く=写真。七日の厚生労働省の専門家会議によると感染者増だけでなく、入院者数、重症者数ともに増加に転じている。宣言発令はやむを得ない。
 宣言で対策徹底を図ろうという意図は分かるが、この間の政府対応の迷走ぶりは目に余る。

▼福井新聞「東京に4度目緊急事態宣言 政府の状況認識甘すぎた」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1353861

 宣言解除後の感染再拡大を予測した専門家の意見を軽視し、変異株の拡大や人流の増加に対処できなかった政府。直前まで重点措置の延長で乗り切ろうとしていたが、それでは対応しきれない事態に至った。状況認識が甘すぎたと言わざるを得ない。

▼京都新聞「またも緊急事態 甘かった政府の見通し」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/595180

 東京五輪開催に向け、首都圏4都県で取り組んできた感染防止対策が奏功せず、心配されたリバウンド(再拡大)を招いたためだ。政府の見通しは甘かったと言わざるを得ない。
 感染力が強いデルタ株の拡大が懸念されている。東京から全国に感染を広げないよう、実効性ある対策の強化が改めて求められる。

▼神戸新聞「東京に緊急宣言/国民が理解できる説明を」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014484573.shtml

 東京五輪は緊急事態宣言下での異例の開催となる。1都3県は無観客とする方針に転じたが、開催することによる感染拡大のリスクをどう防ぐか。首相は、国民の理解を得られる説明を尽くさなければならない。

▼山陰中央新報「『東京に4度目宣言』 状況認識が甘かった」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/59958

▼高知新聞「【東京五輪】緊急事態なら中止が筋だ」
 https://www.kochinews.co.jp/article/470161/

 五輪の規模はほかのスポーツイベントと異なる。無観客でも関係者らの入国で人の流れは増え、感染リスクの増大は避けられない。国民の命や健康への影響が懸念される状況では五輪を中止するのが筋である。

▼西日本新聞「東京に緊急事態 地方への波及食い止めよ」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/767509/

 政府は新たに、時短営業や酒類提供の停止で苦境に立つ事業者へ協力金を前払いする施策を打ち出した。かねて必要性が叫ばれていた措置である。東京ではこの半年、緊急事態と重点措置が交互に繰り返され、「もはや我慢も限界」という声が聞こえる。さらなる支援策の拡充も検討すべきだろう。
 専門家は「首都圏での感染拡大が数週間後に地方に波及する事態が再び懸念される」とも指摘する。重点措置が解除される地域は、ここで気を緩めることなく、感染対策をいま一度、入念に点検してほしい。

▼佐賀新聞「東京に4度目緊急事態宣言 政府の状況認識甘く」※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/703547

▼南日本新聞「[五輪無観客開催] 甘い感染対策の結果だ」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=140024

 政府はまん延防止等重点措置の継続で乗り切り、観客を入れて開催する方針だった。だが、都内の新規感染者が想定を超えて急増、このままでは医療提供体制が逼迫(ひっぱく)する恐れも出てきた。
 宣言の発令に踏み切り、無観客開催に急きょ転換するしかなかったと言えるだろう。後手に回ったとはいえ当然の判断だ。これまで専門家の提言を軽視してきた菅政権の責任は重い。

【7月8日付】
▼宮崎日日新聞「東京都議選 政権不信任との意思表示だ」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54620.html

 都議選結果について菅首相は「謙虚に受け止めさせていただく」とした一方、観客上限数はあくまでも政府や大会組織委員会などの5者協議で決定する考えを強調。ルール上はそうであっても、選挙で示された民意への配慮がうかがえない発言には疑問を持たざるを得ない。

▼琉球新報「緊急事態発令・延長 臨時国会を召集すべきだ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1351182.html

 これまで政府は緊急事態宣言の発令と解除を繰り返した。1月の発令が遅れたのは、政府が「GoToキャンペーン」にこだわったからとも言われる。3月の全面解除は「早過ぎる」との声を聞き入れようとせず第4波を招いた。3度目の緊急事態宣言もデルタ株の影響が懸念される中で解除し、今回の再宣言となった。専門家の意見を重く受け止めない政権の姿勢が、事態の鎮静化を遅らせている。

 果たして23日に開会式を迎える東京五輪は感染拡大に影響しないのか。政府は国民に説明する責任がある。

【7月7日付】
▼北海道新聞「迫る東京五輪 無観客を目指すべきだ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/564175?rct=c_editorial

 そもそも五輪に対しては中止や延期を求める世論がなお根強い。
 このまま菅義偉首相の言う安全安心な開催が可能か、多くの国民が疑問に感じているだろう。
 それでも開催するなら、無観客とするのがもはや最低限の条件ではないか。

▼河北新報「五輪5者協議再開催へ/全て無観客が現実的対応だ」
 https://kahoku.news/articles/20210707khn000005.html

 感染対策などを考えても、全面的な無観客が現実的な対応だ。ただ、一部会場ではまだ、有観客開催での可能性もあるという。開幕まで2週間余りの時点で、スキームが固まっていないこと自体が、大会に関わる関係者の混乱や、多数の国民の不信感を招いていることは言うまでもない。
 (中略)
 「5者協議」という民主的なようで責任が曖昧な形での決定が、混乱や不信を拡大させてきたのではないか。今回も、その繰り返しにしてはいけない。

▼東奥日報「国政への不信感の表れ/都議選 自公過半数届かず」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/579811

 23日開幕の五輪では、観客の上限数が揺らいでいる。6月に決めたばかりの「定員の50%以内で最大1万人」はコロナ再拡大で実現困難との見方が強い。外国選手団らの水際対策の不備もあり、「万全の準備」「安全、安心な大会」の言葉が有権者には空虚に響いただろう。

▼新潟日報「都議選自民苦戦 政権への不信感が表れた」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210707627017.html

 政権が「五輪開催ありき」で突き進む中、開催都市の選挙で論戦から逃げるような態度を取る。党利党略的な動きへの反発も要因ではないか。

▼神戸新聞「東京都議選/政権への不信受け止めよ」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014478590.shtml

 五輪の在り方について、自公は争点化を回避した。これに対し、大会中止や再延期、無観客開催などを支持する政権批判票が、都民ファなどに集まったことがうかがえる。

▼山陰中央新報「東京都議選 政権不信と受け止めよ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/58893

 だが、都議選結果について菅首相は「謙虚に受け止めさせていただく」と述べる一方、観客上限数はあくまでも政府や大会組織委員会などの5者協議で決定する考えを強調した。ルール上はそうであっても、選挙で示された民意への配慮がうかがえない発言には、疑問を持たざるを得ない。

【7月6日付】

 以下の記事にまとめています。

news-worker.hatenablog.com

【7月5日付】
▼読売新聞「東京都議選 政治への不安と不満が表れた」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210705-OYT1T50088/

 小池百合子都知事が創設した地域政党「都民ファーストの会」は議席を減らしたが、多くの選挙区で自民党などと激しく競り合った。東京五輪・パラリンピックの無観客開催を掲げたことで、無党派層を取り込んだと言える。
 五輪の「中止」を訴えた共産党も堅調に得票を重ねた。
 選挙戦では五輪の賛否以外に各党の政策の相違点が見えにくく、論争は盛り上がらなかった。

▼福島民報「【東京五輪 文化プログラム】県の代替策に期待」
 https://www.minpo.jp/news/moredetail/2021070588128

 文化イベントの中止などを受け、県は震災から十年間に寄せられた支援への感謝の思い、復興の決意などとともに本県の文化を発信する代替事業を検討するという。このような取り組みの積み重ねが五輪開催地のレガシー(遺産)となり県勢を進展させるはずだ。ただ、イベントだけが手段ではない。野球とソフトボール競技に合わせ、約二十の国・地域の駐日大使らが来県する。これを将来的な文化交流につなげられないか知恵を絞りたい。

【7月3日付】
▼毎日新聞「五輪・パラの学校観戦 子供の安全優先し中止を」
 https://mainichi.jp/articles/20210703/ddm/005/070/142000c

 コロナ下で開かれる大会の感染リスクを最小限にするには、会場に観客を入れるべきではない。
 まして子どもを、リスクの高い場所に集団で連れていくことは望ましくない。子どもが大人の意向に背いて自らの行動を決めることは難しい。大人には安全を守る責任がある。
 現状では、参加の判断は自治体や学校任せとなっている。しかし、感染リスクを適切に評価できるだけの材料を持ち合わせていない場合が多い。
 政府と組織委はこうした状況を踏まえ、責任をもって早急にプログラムを中止すべきである。

▼信濃毎日新聞「コロナ禍の五輪 安全安心は遠のくばかり」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070300127

 感染抑止を優先するほど、選手や観客、報道関係者らにとり、不公平で矛盾した面をはらむ大会運営にならざるを得ない。
 (中略)
 観客を入れての開催にこだわる菅義偉政権や大会組織委員会の意向が、開幕まで3週間になっても方針が定まらない事態を招いている。相反するケースを想定して準備を急ぐ現場の労苦に、少しは思いを巡らしてはどうか。
 「無観客が最も望ましい」と提言した専門家有志が、再拡大の兆候が表れれば迷わず強い対策を取るよう強調したのを、政府と組織委は忘れてはならない。

▼高知新聞「【東京五輪】無観客で感染を抑えよ」
 https://www.kochinews.co.jp/article/468759/

 観客の応援を受けて選手たちが最大限のパフォーマンスを繰り広げる。そんな光景をもちろん期待したい。しかし、人との接触を減らすことがリスク軽減の基本と考えれば、無観客をためらってはならない。
 各国選手団の入国も本格化してきた。選手らの行動は厳格に管理されるという。ほころびが生じないように徹底したい。そして、コロナの状況次第では、中止という選択肢があることを排除してはならない。

【7月2日付】
▼毎日新聞「感染再拡大と五輪 速やかに無観客の決定を」
 https://mainichi.jp/articles/20210702/ddm/005/070/094000c

 高齢者へのワクチン接種は進んでいる。だが、ワクチンの効果で今後は重症者数がそれほど増えないと過信し、他の対策が後手に回ることがあってはならない。
 五輪をめぐり、科学的知見を軽視する政府の姿勢が目立つ。事態をこれ以上悪化させないため、専門家の意見を最大限に尊重して対策を講じていくべきだ。

▼信濃毎日新聞「東京リバウンド 封じる戦略が見えない」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070200134

 菅義偉首相は「高い警戒感を持って対策を徹底する。状況をよく見て、必要な対策を機動的に講じる」と述べた。加藤勝信官房長官は「医療逼迫(ひっぱく)の兆しが見られた場合には、対策強化も含め機動的に対処したい」とする。
 どんな状況になったら、どんな措置を取るのか不明だ。当たり前のことしか話さず、重大さも伝わらない。誰もが分かる明確な基準と対応をあらかじめ示し、現状を評価して説明するべきだ。
 (中略)
 この国の感染対策は本当に大丈夫か。「安全安心」ばかりを口にしながら、このままずるずると五輪に国民を引き込むことはやめてもらいたい。

▼京都新聞「東京の感染拡大 急激な増加を抑えねば」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/591398

 気になるのは、五輪の観客問題だ。先月21日に開かれた政府や大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)などの5者協議で決めた「定員の50%以内で最大1万人」の原則は、重点措置の解除が前提だ。
 五輪開幕まであと3週間となった。重点措置が継続されれば、入場者数は見直さざるを得ない。
 5者協議では、感染状況が悪化した場合は、無観客を含めて対応を取ることで一致している。
 菅義偉首相は「命を守ることが最優先」と繰り返している。
 感染状況を見極め、国民生活の安全安心を踏まえた現実的で責任ある決断が求められる。

▼山陰中央新報「五輪コロナ対策 水際の『穴』をふさげ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/56572

▼西日本新聞「職域接種の迷走 思惑先行、見通し甘過ぎる」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/763963/

 菅政権による一連のコロナ施策で目立つのは、中長期的な視点を欠いた場当たり的な対応である。今回の事態も、東京五輪の有観客開催やその成果を次期総選挙でアピールする狙いから接種ルートの拡大に走り、つまずいた印象が拭えない。
 ワクチン接種が急がれるのは言うまでもなく五輪のためではない。あくまでも国民の命を守り、安心安全な日常を早く取り戻すためだ。政治的な思惑の先行などあってはならない。

▼宮崎日日新聞「五輪コロナ対策 想定外前提に現実的対応を」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54488.html

 大会参加選手は約1万1千人。1日には入国ラッシュが始まった。このタイミングで、大阪府泉佐野市で合宿するため来日したウガンダ選手団の2人が新型コロナウイルスの陽性者と確認された。事前には想定できなかった形での大会関係者の感染が、今後も起こりうることを示した事例だ。
 選手団の入国直後の陽性判定と濃厚接触者の確認作業をどのように進めるか、大きな課題となった。それこそが感染防止体制の「穴」をふさぐ上の鍵を握る。政府や自治体はより実効性の高い態勢を構築するため、知恵を絞らなければならない。

【7月1日付】
▼福井新聞「五輪コロナ水際対策 バブルの『穴』急ぎふさげ」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1348470

 バブル方式は理論上は効果があるのは間違いないだろう。ただ、選手団の入国直後の陽性判定と濃厚接触者の確認作業をどう進めるのか、それこそが感染防止体制の穴であり、急ぎふさぐことが鍵になると今回、鮮明になったといえる。他にも穴がないか想像力を働かせ、丁寧な作業を積み重ねる以外にない。

▼南日本新聞「[五輪とコロナ] 実効性ある水際対策を」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=139549

 政府や大会組織委員会は、選手らが外部との接触を断つ「バブル」方式を採用している。多くの国際競技大会でも実践される感染防止の考え方だ。
 しかし、感染者が選手村など「バブル」の中に入ってしまえば一転してクラスター(感染者集団)化するリスクが高くなる。合宿地やバブル内での感染拡大で、五輪の盛り上がりは一気にしぼみかねない。関係機関には一層の緊張感を持った感染対策を望みたい。

【6月30日付】
▼山形新聞「東京五輪のコロナ対策 入国直後の『穴』ふさげ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/?par1=20210630.inc

 同じ便で長い飛行時間を共にしていながら、空港で濃厚接触者の判定対象とならないシステムは合理性を欠く。受け入れ先の保健所がそれを判定するとの現行ルールは至急、見直しが必要だ。
 (中略)
 水際対策として、空港での検疫と、選手団を受け入れる自治体の保健所が2重の関門を担う現行の枠組みは、有効な代替案を見いだせない中では維持するのが賢明だろう。それでも、それぞれの活動内容については、より現実に即した、効果的な対応を模索すべきだ。

▼福島民友新聞「五輪の観戦/あらゆる事態へ備え万全に」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210630-631362.php

 ソフトボールと野球が行われる福島市のあづま球場の観客数は7千人程度になる見通しだ。3万人の収容人員を大幅に下回るとはいえ、観客の検温やチケット、手荷物の確認など、会場内外で大会関係者、警備員やボランティアなど大勢の人が活動する。当初想定されていた世界各国からの観戦者はいないものの、あらゆる事態に備えておくことが欠かせない。

▼新潟日報「五輪の水際対策 政府の危機感十分なのか」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210630625627.html

 感染拡大の不安に対し、首相はこれまでしっかり感染対策を講じることができるとし、選手らを泡の中に閉じ込めるようにして外部との接触を絶つ「バブル方式」を根拠に挙げてきた。
 だが、選手村などの「バブル」に感染者が入れば、クラスター(感染者集団)が発生するリスクが高くなる。
 感染禍という未経験の状況下での大会運営で、楽観は禁物だ。国民、選手の安心を確保するためにも、対策に漏れはないか、リスクの想定は十分かなどチェックを怠らず、安全対策に反映させなければならない。

▼中日新聞・東京新聞「五輪の水際対策 『安全安心』に募る不安」
 https://www.chunichi.co.jp/article/281739?rct=editorial

 政府は、出国前検査の厳格化や入国時に濃厚接触者の疑いのある人の移動方法などの対応策を検討中だという。それでも感染拡大の懸念は残る。選手団を受け入れる自治体によっては、医療態勢が十分でない地域もある。自治体任せにすべきではない。
 最も重要な対策は一定期間の隔離徹底だ。今年二月のテニス全豪オープンでは、陽性者が出た航空機に同乗していた選手らを二週間の外出禁止にした。こうした実効性ある対策を取らずに、国内外から多くの人を集める大規模なイベントを開催していいのだろうか。

【6月29日付】
▼読売新聞「五輪の感染対策 これで安全に開催できるのか」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210628-OYT1T50229/

 国内では、変異ウイルスの感染が拡大し、東京では感染者数が再び増加する兆しがある。多くの国民が五輪開催による感染拡大を心配している。今回のような事態が続けば不信感は増すばかりだ。
 五輪の開催は、安全安心の確保が大前提である。それが実現できるかどうかの瀬戸際にいることを政府は自覚する必要がある。
 観客を入れることにこだわるあまり、万一、会場で集団感染が発生したら取り返しがつかない。感染防止を最優先に、無観客を含めた対応も検討すべきである。

▼京都新聞「五輪水際対策 『すり抜け』に不安募る」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/589539

 濃厚接触者の調査には、飛行機の座席状況などをチェックする必要があり、自治体には荷が重い。
 しかし政府は、自治体向けの指針を月内にも改定し、相手国などに事前に確認しておく事項を具体的に記載するという。
 入国者の増加に伴い、保健所業務が逼迫(ひっぱく)することも考えられる。政府は対応を過度に自治体任せにせず、情報共有を進めて遅れのない対応をとることが必要だ。

▼高知新聞「【五輪水際対策】事前にリスク最小化を」
 https://www.kochinews.co.jp/article/467509/

 大会は、選手らと外部の接触を断つ「バブル方式」を採用し、大会組織委員会や政府は「安全安心」を強調してきたが、最初の水際で感染者の入国を防げなかった事実は重い。選手団の入国ラッシュはこれからだ。事態をしっかり検証し、早急に対策を練り直す必要がある。

【6月28日付】
▼沖縄タイムス「[五輪水際対策に「穴」]空港での態勢強化せよ」
https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/777158

 組織委の幹部は27日のNHK番組で、濃厚接触が疑われる人は判定前でも隔離する必要があるとの考えを示した。選手団は日本までの長時間の移動を共にしており、当然のことだ。空港での態勢を強化してもらいたい。
 国は今回の事態を受け、ホストタウンの自治体向けの指針を改定する方針を固めた。陽性者が出た場合の自治体側の対応について手順などを明確化するという。
 役割分担を明確にすることは重要だが、自治体に負担がかかりすぎないよう国も積極的に支援すべきだ。

【6月27日付】
▼朝日新聞「五輪感染対策 『穴』次々 健康どう守る」
https://www.asahi.com/articles/DA3S14953081.html

 「検査と隔離」のあり方全般を急いで洗い直す必要がある。東京五輪の水際対策の不備が早くも目に見える形となってあらわれた。「安心安全」をただ唱えるだけでは意味がない。大事なのは実践だ。
 来日したウガンダ選手団から新型コロナの感染者が見つかった。全員ワクチンを接種し、所定の陰性結果証明書を提出していたが、ウイルスはこれを軽々と乗り越えて「入国」した。

▼毎日新聞「東京五輪の水際対策 『バブル方式』欠陥が露呈」
https://mainichi.jp/articles/20210627/ddm/005/070/010000c

 田村憲久厚生労働相は、選手らと自治体職員との接触について「本来あってはならないことだ」と述べた。だが、職員が出迎えや移動の補助などのため選手らと接触することは避けられない。
 これでは自治体に責任とリスクを押しつけていると批判されても仕方がない。
 地域のコロナ対策の最前線に立つ自治体は、ワクチン接種も進めなければならない。五輪選手団の受け入れに伴う濃厚接触者の調査はさらなる負担になる。

【6月26日付】
▼朝日新聞「都議選告示 くらし一変、重い一票」
https://www.asahi.com/articles/DA3S14951738.html

 五輪開催の是非や観客の有無をめぐって各党の主張は分かれるが、共通するのは「その後」に待ち受ける重荷だ。都が大会に向けて投じる費用は総額1兆4500億円と、「コンパクト五輪」をうたって招致したときの約2倍に膨らんだ。
 さらに、都内の飲食店12万軒への休業・時短要請に伴う協力金など、コロナ対策関連の支出が増え続けている。一方、企業の苦境で昨年度の税収は9年ぶりに落ち込み、1兆円近くあった都の「貯金」は今年度末には2割強にまで減ると予想される。傷んだ財政の立て直しに議員も知恵を絞らねばならない。

▼毎日新聞「東京都議選が告示 コロナと五輪が問われる」
https://mainichi.jp/articles/20210626/ddm/005/070/146000c

 五輪開催を巡ってはスタンスの違いが鮮明だ。
 小池氏は政府とともに観客を入れての開催を目指す。一方、第1党の地域政党「都民ファーストの会」は、開催する場合は「最低でも無観客」を要求している。
 小池氏は前回選では都民フの代表として同党躍進の原動力となった。現在も特別顧問を務める。これまで都政運営で連携してきただけに、主張の違いについて双方とも丁寧に説明すべきだ。

▼読売新聞「東京都議選告示 コロナと五輪以外でも論戦を」
https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210625-OYT1T50436/

 五輪は、各党の立場の違いが鮮明である。無観客を条件に掲げる都民ファーストに対し、開催を前提とする自公は公約に明記しなかった。共産党は中止、立憲民主党は延期か中止を訴えている。
 政府や都は、観客を入れた五輪開催を決めている。各候補は、都民の安全をどう確保するのか、具体策を示してほしい。

▼中日新聞・東京新聞「東京都議選告示 コロナ・五輪、政策競え」
https://www.chunichi.co.jp/article/279446?rct=editorial

 東京はこの一年半、コロナ禍と五輪・パラリンピックという大きな課題に直面してきた。しかし、都議会が建設的な役割をどれだけ果たしたのか、疑問が残る。
 (中略)
 五輪を巡り、小池知事は国と足並みをそろえてきたが、都議会では立場が分かれる。自民、公明は開催を容認し、都民ファは最低でも無観客と訴える。感染状況など条件付きで開催に賛成するのが日本維新の会。中止や延期を求めるのが共産、立憲民主、東京・生活者ネットワークだ。
 コロナ感染拡大が懸念される中、世論調査では無観客や中止を求める声が根強い。今回の選挙結果が、大会の在り方に影響を与える可能性もある。

【6月25日付】
▼北海道新聞「東京都議選告示 『小池政治』問う論戦を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/559498?rct=c_editorial

 喫緊の課題として大きな争点になるのは、小池百合子都知事が陣頭指揮を執る新型コロナウイルス対策と、目前に迫る東京五輪・パラリンピックへの対応だ。
 小池氏が創設した都議会第1党の都民ファーストの会は五輪について、国が開催を強行するなら最低でも無観客を求めている。
 一方、自民、公明両党は菅義偉政権の方針に沿い、感染対策を取った上での開催を支持する。
 立憲民主党は延期か中止すべきだとし、共産党は中止してコロナ対策に注力するよう主張する。
 東京はリバウンド(感染再拡大)の兆候が明らかだ。首都からの人の移動を通じて感染者が再び全国各地で急増すれば、多くの国民の生命と健康を脅かしかねない。
 各党は徹底論戦し、実効性のある対策に結びつけてもらいたい。

【6月23日付】
▼北海道新聞「五輪の観客上限 命と健康優先し再考を」
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/558614?rct=c_editorial

 科学的知見に基づく戒めを無視するのはなぜなのか。合理的な説明がなく、納得し難い。
 観客を入れて開催すれば人出が増え、接触機会は増し、新型コロナウイルス感染が再拡大するリスクが高まるのは当然だ。
 東京では新規感染者数が下げ止まり、感染力の強いインド由来株のクラスターも確認されている。
 菅義偉首相は「緊急事態宣言が必要になった場合、無観客も臨機応変に行う」と表明した。
 政府など関係機関は専門家の知見を十分考慮し、無観客開催を含め適切な対応を探るべきだ。

▼河北新報「五輪開幕まで1ヵ月/有観客対応 国民に発信を」
https://kahoku.news/articles/20210623khn000005.html

 さまざまな形での「自粛」や「我慢」を国民に強いる中で、観客を入れた会場が盛り上がれば「矛盾したメッセージ」になる、との警告も専門家からは出されている。政府などが、リスクを踏まえた上で、科学に基づいた対策の徹底や国民へのきちんとした呼び掛けを早急に発信することが求められる。

▼福島民友新聞「五輪まで1カ月/感染拡大への対応を明確に」
https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210623-628973.php

 特に明確にしておくべきなのは、感染状況が悪化した場合の対応だ。決定では、緊急事態宣言などが発令された場合には、無観客を含めた対応を取るとした。
 観客の上限を示した今回の経緯をみても、五輪に関する意思決定には時間がかかる。事前に関係5者が協議し、無観客に切り替える際の基準を明確にしておかなければならない。

▼信濃毎日新聞「東京五輪の観客 結論ありきで高まる疑念」
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021062300145

 菅義偉政権は「主催者でない」としらを切り、大会組織委員会は政府方針に準じると言う。国際オリンピック委員会(IOC)は決定を支持するだけで、責任の所在もはっきりしない。
 (中略)
 協議後の会見に、政府やIOC関係者の姿はなかった。機会あるごとに国民の疑念に応え、協力を得るための説明を尽くす。リスク管理の責任を果たさないなら、開催する資格はない。

▼新潟日報「五輪上限1万人 『無観客』の基準を明確に」
https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210623624300.html

 「有観客」の背景に目をやると、浮かび上がるのは「国民不在」である。菅義偉首相は「有観客」へのこだわりが際立つが、五輪を盛り上げることで、秋までにある衆院選に勝ちたい思惑があるとされる。
 組織委の方も、多額の協賛金を出すスポンサーから招待客の入場を強く迫られ、「有観客」とする必要があったという。
 何のための五輪か。改めてその思いを強くする。

▼福井新聞「五輪開幕まで1カ月 不信感増すだけの有観客」
https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1343154

 菅首相も組織委の橋本聖子会長も、今後の感染拡大によっては無観客も辞さないと明言した。当然だろう。ただ、その判断は誰が下すのか明確にしておかねばならない。判断に遅れがあってもいけない。むろん、拡大の状況によっては大会中止に踏み切る覚悟も求められる。

▼神戸新聞「五輪の観客/提言軽視の結論再考せよ」
https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202106/0014437921.shtml

 五輪開催と緊急事態宣言が重なるような事態こそ、政府の結果責任が厳しく問われることを忘れてはならない。政府や組織委、IOCなどは「有観客ありき」の結論を再考するよう、強く求める。

▼山陽新聞「『有観客』の五輪 主導した首相の責任重い」
https://www.sanyonews.jp/article/1144127?rct=shasetsu

 観客数に関し、政府の新型コロナ感染症対策分科会の尾身茂会長ら専門家有志は先週、無観客が望ましいとの提言を組織委と政府に提出していた。だが、菅義偉首相は提言提出の前日に国内観客を入れる意向を表明して、流れを主導したと言える。その責任は重い。
 無観客の余地を残すことで批判をかわし、大会成功を秋までに行われる衆院選の追い風にしたい思惑も透ける。感染が再拡大すれば、責任論にも直結しよう。

▼中国新聞「五輪まで1カ月 誇れる大会にできるか」
https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=766348&comment_sub_id=0&category_id=142

 それでも菅義偉首相は五輪開催を政権浮揚につなげたいらしい。だが盛り上がらない原因は五輪開催の是非やコロナ対策を問われても、はぐらかし、答えずにきた姿勢にある。
 アスリートが躍動し、感動を呼ぶ五輪へ、1カ月で問題点を払拭(ふっしょく)する必要がある。まずは国民に向け、首相が開催の意義や感染対策を語るべきだ。

▼徳島新聞「五輪まで1カ月 国民の不安に向き合え」
https://www.topics.or.jp/articles/-/547863

 そもそも上限1万人の根拠はどこにあるのか。ここでも科学的見地に基づく納得できる説明はなかった。
 当初掲げた「復興五輪」は色あせ、「コロナに打ち勝った証し」と言える状況にはない。コロナ禍にあえて五輪を開く意義も見えてこない。政府や組織委は説得力のあるメッセージを発する必要がある。

▼宮崎日日新聞「五輪の観客上限 綿密な感染封じ込め必要だ」
https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_54276.html

 菅義偉首相は緊急事態宣言を発令する事態となれば無観客も辞さないと述べたが、重点措置が7月11日で解かれなかった場合の対応については明言していない。感染を抑え込むことより、観客を入れて五輪を開催することを重視していると受け止める市民もいるのではないか。
 バッハIOC会長は無観客は五輪の理念と理想にそぐわないと言い続けているが、政府が国民の健康と守る責任をしっかりと果たさなくてはならない。

▼南日本新聞「[五輪観客上限] 国民の不安は置き去り」
https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=139086

新型コロナウイルス感染再拡大の懸念から中止や無観客を求めた国民や専門家を蚊帳の外に置いた決定に憤りを禁じ得ない。五輪開幕まで1カ月。再拡大の兆しがあれば、ためらわず無観客にすべきである。

 

沖縄戦から76年 犠牲者を悼み、歴史に学ぶ~「教訓を後世に」(琉球新報)、「記憶継承へ支援の輪を」(沖縄タイムス)

 6月23日は沖縄の「慰霊の日」です。第2次大戦末期の沖縄戦で、沖縄守備隊の第32軍・牛島満司令官と長勇参謀長が自決して指揮系統は消滅、日本軍の組織的戦闘が終結したとされる日です。76年前、沖縄は日本軍の本土決戦までの時間稼ぎの捨て石にされました。守備隊司令部の最後の命令は降伏を認めない内容であったことから、その後も戦闘は続き、犠牲者も増え続けました。
 沖縄戦は、住民の生活の場で地上戦が行われた戦いです。米軍が首里城の日本軍司令部壕に迫ると、日本軍は司令部を南部に移して戦闘を継続しました。南部では避難住民と軍が入り混じることになり、住民の犠牲が増えました。「軍隊は住民を守らない」が、沖縄戦の最大の教訓です。 
 沖縄戦に続く米国支配と日本復帰後の基地の過剰負担は、同時代の出来事です。沖縄の人たちが自らの意思で選び取ったものではありません。沖縄の民意の反対を押し切って続く辺野古の新基地建設など、今も続く基地の過剰負担は、日本本土の住民こそ当事者です。沖縄にそれを強いる日本政府は、民主主義の正当な手続きを経て成り立っているからです。日本国の主権者である以上は、菅義偉内閣や自民党を支持していない、と言ってみても、その当事者の立場を免れることはできません。
 今を生きる一人として、戦争の犠牲者を悼み、歴史に学び、歴史の改ざんには反対し、将来を考えていきたいと思います。

 沖縄では近年、沖縄戦の記憶と教訓の継承が課題になっているとのことです。琉球新報と沖縄タイムスの23日付の社説を紹介し、一部を書きとめておきます。

▼琉球新報「『慰霊の日』に誓う 沖縄戦の教訓を後世に」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1342597.html

 県民が「よく協力しました」という表現は実態と異なる。沖縄戦直前、日本軍は大規模な防衛召集を実施し約2万人の県民を動員した。師範学校や旧制中学校など14歳以上の男子学徒も防衛召集された。しかし法的な根拠ははっきりしない。女子学徒についても軍の看護婦として召集するような法的根拠はない。
 (中略)
 「日本軍はよく戦い」という表記も適切ではない。日本軍は兵士に生還を許さない陸、海、空の特攻を命じた。大本営が作成した沖縄戦の戦訓は「爆薬肉攻は威力大なり」と記述している。つまり「よく戦い」の実例として、爆薬を抱えた自殺攻撃を挙げている。これが実態である。
 「慰霊の日」は鎮魂と同時に沖縄戦の書き換えを許さないことを確認したい。そして世界の人々と共に、軍事力に頼らず人権侵害、難民、飢餓、貧困、抑圧のない「積極的平和」の実現を誓いたい。

▼沖縄タイムス「[コロナ下の慰霊の日]記憶継承へ支援の輪を」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/774549

 支援の動きはさまざまな形で表れ始めている。
 MONGOL800のキヨサクさんの呼び掛けに民謡歌手の古謝美佐子さん、Kiroroの玉城千春さんが応え、ひめゆりの塔前でミニライブが開かれた。
 慰霊の日にネットで有料配信し、寄付を募るという。
 「平和と呼ぶには遠く、歴史にするには早い」。キヨサクさんの歌のメッセージは、若者に届く言葉の大切さに気付かせてくれる。
 白梅学徒隊の体験を継承するために結成された「若梅会」(いのうえちず代表)の活動もユニークだ。
 学徒の足跡をたどれる地図作りやリモート講話など、インターネットを駆使した継承に取り組む。糸満市真栄里にある白梅之塔が老朽化しているため、修繕に必要な費用の支援も呼び掛けている。
 次世代継承の「新しい形」が、さまざまな場で生まれつつある。
 戦争の記憶を継承していくためには、継承する理由がはっきりしなければならない。 なぜ継承するのか。端的に言えば、過ちを繰り返さないためである。 

 

菅首相「『1万人』五輪相へ自ら提案」(産経)、「『無観客』盾に強行突破」(毎日)~会場の酒類販売は見送り

 東京五輪の観客は、収容定員の50%以内で上限1万人に決まりました。6月21日に大会組織委員会、日本政府、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)の5者協議が開かれ、終了後に橋本聖子・組織委会長が記者会見で発表しました。先週来、菅義偉首相が「有観客」に強い意欲を見せ、国内の大規模イベントの入場者数の上限にならうことが半ば既定の方針のように伝えられており、「ああ、やっぱり」という感想しかありません。
 政府の対策分科会の尾身茂会長ら感染症の専門家の有志グループは「無観客開催が望ましい」との提言を18日に組織委と政府に提出していました。しかし、ほとんど顧慮されなかったようです。22日付の東京発行の新聞各紙朝刊は、それぞれ総合面の大型サイド記事で内幕をリポートしています。読売新聞の「『観客あり』で決着/プロ野球・Jリーグ根拠」の記事には、次のような一節があります。 

 政府内で方向性が固まったのは今月15日だ。首相官邸で菅首相と丸川五輪相、萩生田文部科学相が観客規模について協議し、都内などの感染状況や感染対策の状況などを踏まえて「上限1万人」を基本線とすることで一致し、最終調整に入っていた。内閣官房の幹部は「宣言期間中に観客規模に言及すれば、猛反発を招き、大会中止論に拍車をかけていた」と語る。

 また産経新聞の「五輪に観客 首相強い意向/『1万人』五輪相へ自ら提案」の記事にも以下のようなくだりがあります。

 「最大1万人でどうだろうか」。菅義偉首相は15日午前、丸川珠代五輪相とスポーツ行政を所管する萩生田光一文部科学相を官邸に呼んだ際に、こう切り出した。組織委はあくまで「50%」を希望していたため、板挟みになった丸川氏は困惑の表情を浮かべた。丸川氏は会談後、周囲に「かなり厳しい」と漏らしたという。

 尾身会長らの提言の3日前には、大勢は決していたようです。
 もう一つ、興味深く読んだのは、毎日新聞3面のクローズアップ「『無観客』盾に強行突破」の記事です。

 大会組織委員会と政府、東京都は、IOC、国際パラリンピック委員会(IPC)との5者協議で、東京五輪の観客上限を会場定員の50%以内で最大1万人とすることを決めた。IOC関係者が「ボールは日本側にある」と話す通り、観客については日本側が提案し、IOCが承認した。チケット収入を得るのは組織委だ。IOCは放映権料さえ入れば利権が守られるため、観客の有無は気にしない。

 観客にこだわったのは日本側だ。
 (中略)
 ただし、今後の感染状況を懸念する世論への配慮から「無観客」論を装った。5者協議の冒頭、小池百合子知事は「感染・医療状況に急激な変化がある場合は、無観客を含めて対応を検討する必要がある」と述べた。その約1時間半前には菅首相も触れ、「無観客」の合唱が始まった。組織委関係者は「誰も本当に無観客にするつもりはない」と語る。無観客を盾にして突き進んだ。

 ここで「無観客」にしてしまえば、あと1カ月の間に新型コロナウイルスの感染が拡大した場合はもはや「中止」しか選択肢はありませんが、「有観客」「上限1万人」としたことで、「無観客」が最後のカードとして残りました。仮に感染拡大があったとしても、無観客ながらも大会自体は開催される、ということのようです。

 ほかに以下のようなニュースもありました。目を疑いました。新型コロナウイルスの感染防止対策の急所として「飲食」が指摘されています。競技場には直行直帰、帰りにどこかに立ち寄ることは避けるよう言われているのに、競技場での飲酒を容認とは、どう考えても整合性がありません。
 大会の公式スポンサーであるゴールドパートナーにはアサヒビールが名前を連ねています。
 ※共同通信「五輪会場での酒類販売を容認へ/組織委、時間帯など制限か」=2021年6月22日
 https://nordot.app/779737522590334976?

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 以下に、東京発行の新聞各紙が6月22日付朝刊で、観客問題をどのように報じたか、主な記事の見出しを書きとめておきます。

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【朝日新聞】
 ・1面トップ「五輪有観客なら上限1万人/感染状況次第で無観客視野/組織委『関係者は枠外』/5者協議合意」
 ・3面「『有観客』判断 開幕前に先延ばし」「『首相のこだわり』反映か」「チケットの扱い 混乱含み」
 ・社説「五輪の観客 科学置き去りの独善だ」

【毎日新聞】
 ・1面トップ「五輪観客上限1万人決定/5者協議 一部チケット再抽選/首相『無観客辞さず』」
 ・1面「専門家提言 直視を」田原和宏・東京五輪取材班キャップ
 ・3面・クローズアップ「『無観客』盾に強行突破」「五輪開催へ予防線」「最大1万人懸念強く」「規則集 残る課題/『変異株考慮せず』『抽象論だけ』」
 ・社会面トップ「有観客、理解できない/都医師会長『五輪で医療圧迫』」/「保健所対策立てられず」
 ・社説「五輪の『有観客』方針 安全軽視の無責任な判断」

【読売新聞】
 ・1面トップ「五輪上限1万人 合意/チケット 一部は再抽選/5者会談/パラ 来月16日までに決定」/「首相『緊急事態なら無観客も』」
 ・3面・スキャナー「『観客あり』で決着/プロ野球・Jリーグ根拠」「競技場外の行動 重要/時差来場や直行直帰」
 ・社会面トップ「観客制限 まだ課題/再抽選90万枚削減/同時に競技 人出増」
 ・社説「五輪1万人収容 観客の直行直帰を徹底したい」

【日経新聞】
 ・1面準トップ「五輪観客1万人まで/5者協議決定 定員の50%以内/チケット、一部再抽選」
 ・3面「五輪人流 1日最大20万人/観客の直行直帰 課題/県境またぎ観戦に・会場周辺に滞留も」/「首相『無観客辞さず』/期間中、緊急事態宣言なら…」/「90万枚 再抽選で落選/一部チケット、当選者絞り込み」
 ・社説「五輪開催に向けて万全の感染対策を」

【産経新聞】
 ・1面「五輪観客 最大1万人決定/5者協議 緊急事態なら無観客も」
 ・3面「五輪に観客 首相強い意向/『1万人』五輪相へ自ら提案」/「感染拡大の懸念 なお残る」
 ・社説(「主張」)「東京五輪に観客 政府は国民に理解求めよ」

【東京新聞】
 ・1面トップ「五輪『観客1万人開催』/大会関係者らは別枠/5者協議 宣言発令で無観客も」「専門家提言 反映せず」
 ・1面「説明なき決定 増す疑問」高山晶一・政治部長
 ・3面「政権固執 責任重く/五輪観客 上限1万人/感染拡大の懸念に耳傾けず」
 ・第2社会面「『予防の気持ち緩む』『期待してない』/感染心配、ホテルは諦めの声」/「合理性無視の政治判断」医療ガバナンス研究所の上昌弘理事長
 ・社説「五輪観客上限 なし崩しの拡大許せぬ」

 

※追記 2021年6月23日8時20分

 競技会場での酒の販売について、大会組織委は一転して見送る方針を固めたとのことです。共同通信の記事は「新型コロナウイルス感染症対策の観点から難しいとの判断に転じた」「世論の厳しい反応も考慮したとみられる」と伝えています。あまりにも社会常識を欠き、世論から遊離していることがよく分かるひとコマでした。
 ※共同通信「五輪会場、酒類販売を見送りへ/提供検討から一転、コロナ対策で」=2021年6月22日 

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※追記2 2021年6月23日8時30分

「『観客 最大1万人』が決まった舞台裏」から改題しました。

日本社会を覆う感染拡大の不安~五輪開催強行は内閣支持に結び付いていない

 先週末に実施された電話世論調査の結果がいくつか報じられています。そのうち朝日新聞(6月19、20日実施)、共同通信(同)、毎日新聞・社会調査研究センター(6月19日実施)の3件について、東京五輪・パラリンピックに関連する質問と回答の状況を中心に比較、分析してみました。

  • 東京五輪の今夏開催を容認する意見はこの1カ月で相当増えてはいる。しかし「再延期」「中止」を大きく上回る状況ではない。
  • 今夏開催するとしても、「無観客」が「観客数を制限」を上回る。
  • 五輪開催によって新型コロナウイルスの感染が拡大する不安を感じている人が8割を超える。※朝日新聞調査、共同通信調査

 「不安を感じる」との回答の多さは、「今夏開催」を容認する意見が増えたといっても積極的な支持ばかりではないこと、この1カ月以上、菅義偉首相や大会組織員会、さらにはIOCから繰り返し、「何があっても開催する」「どうしても開催する」との強硬な姿勢を見せ続けられてきたことから、「反対してもやるんでしょ」との半ばあきらめの気持ちになった人が相当程度いることを表している可能性があるように思います。
 いずれにせよ、今夏の五輪開催への日本社会の民意の支持は広がりを欠き、極めて限定的であることを各調査結果は示しています。

 さらに、以下の各点も興味深いと感じます。

  • 菅政権の新型コロナウイルス対策への評価は、いまだ「評価しない」が多いとはいえ、「評価する」が前回調査に比べて増えている。
  • 菅政権のワクチン接種への取り組みの評価も上がっている。※朝日新聞調査
  • 菅内閣の支持率は横ばいないし微増にとどまる。

 パンデミックの下での五輪開催など普通はあり得ない、との感染症の専門家らの警告にもかかわらず、菅首相は今夏の五輪開催と「有観客」に強くこだわっています。それによって政権浮揚を図り、秋の衆院選、自民党総裁選を有利にしたい思惑がある、ということが繰り返し報じられています。しかし、五輪開催の方針が内閣支持率の上昇に結び付いている、とは言い難い状況です。
 ワクチン接種が進み始め、政府の新型コロナウイルス対策への評価も、以前の散々な状況よりは肯定的な評価が増えています。これは菅政権に有利な要因です。その反映か、内閣支持率をよく見ると、不支持率は各調査とも前回比で4~5ポイント減っています。しかしそれに見合うだけの支持率の上昇はありません。菅政権への消極評価は減っても、五輪開催への不安感の強さが、菅政権への積極評価を躊躇させている可能性があるのではないか。仮説ですが、わたしはそう考えています。
 このまま五輪開催を強行しても、本当に政権浮揚につながるのかは疑問です。大会が始まってしまえば、日本の代表選手の活躍に社会は熱狂し、菅政権の支持率もうなぎ上り、と目論んでいるのかもしれません。しかし、こんなにも強く五輪開催への不安感が社会を覆っている状況は、そう簡単には変わらないように思います。既に東京では感染者数がリバウンドの傾向を示しています。

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 以下は各調査の質問と回答状況です。

【五輪の開催】
 質問を2段階に分けている朝日新聞の結果が目を引きました。最初に、五輪・パラリンピックをどうするのがよいかを、「今夏開催」「再延期」「中止」の3択で尋ねています。結果は以下の通りです。前回(5月15、16日実施)でも同じ質問をしていますので、回答状況の変化が分かりやすいように、「5月調査の結果」「今回の結果」の順に並べました。

▼(朝日新聞)東京五輪・パラリンピックをどのようにするのがよいと思いますか。
  今年の夏に開催する 14%→34%
  再び延期する    40%→30%
  中止する      43%→32%

 次いで、今夏開催の場合の観客の有無を尋ねています。

▼(朝日新聞)東京五輪・パラリンピックをこの夏に開く場合、観客なしで行うべきだと思いますか。観客数を制限して行うべきだと思いますか。
  観客なしで行うべきだ    53%
  観客数を制限して行うべきだ 42%

 共同通信と毎日新聞の質問と回答は以下の通りです。前回5月の回答状況(共同通信5月15、16日、毎日新聞5月22日)も並べておきます。

▼(共同通信)あなたは、7月に開幕が予定されている東京五輪。パラリンピックをどのようにするべきだと思いますか。
  観客数を制限して開催するべきだ 12.6%→27.2%
  無観客で開催するべきだ     25.2%→40.3%
  中止するべきだ         59.7%→30.8%
▼(毎日新聞)東京オリンピック・パラリンピックについて、政府は国内の観客を入れて開催することを検討しています。これをどう思いますか。
  妥当だ                  20%→22%
  国内の観客も入れずに無観客で開催すべきだ 13%→31%
  再び延期すべきだ             23%→12%
  中止すべきだ               40%→30%

【五輪開催への不安】

▼(朝日新聞)東京五輪・パラリンピックをこの夏に開催することで、新型コロナウイルスの感染が拡大する不安を感じますか
  感じる  83%
  感じない 14%
▼(共同通信)あなたは、東京五輪・パラリンピックが開催された場合に、新型コロナウイルスの感染が再び拡大する不安を感じていますか、感じていませんか。
  不安を感じている     48.5%
  ある程度不安を感じている 38.2%
  あまり不安を感じていない  9.6%
  不安を感じていない     3.2%
▼(毎日新聞)東京オリンピック・パラリンピックを安全、安心な形で開催できると思いますか。
  できると思う   20%
  できると思わない 64%

【菅政権のコロナ対策への評価】

▼(朝日新聞)あなたは、新型コロナウイルスを巡るこれまでの政府の対応を評価しますか。評価しませんか。
  評価する  23%→32%
  評価しない 67%→55%
▼(朝日新聞)あなたは、新型コロナウイルスのワクチン接種に関する政府の取り組みを、どの程度評価しますか。
  大いに評価する 5%→6%
  ある程度評価する 42%→54%
  あまり評価しない 39%→30%
  まったく評価しない 13%→8%
▼(共同通信)あなたは、新型コロナウイルスを巡る、これまでの政府の対応を評価しますか、評価しませんか。
  評価する  25.2%→35.8%
  評価しない 71.5%→59.9%
▼(毎日新聞)菅政権の新型コロナウイルス対策を評価しますか。
  評価する  13%→21%
  評価しない 69%→60%

【内閣支持率】
 毎日新聞 支持34%(3P増)     不支持55%(4P減)
 朝日新聞 支持34%(1P増)     不支持42%(5P減)
 共同通信 支持44.0%(2.9P増) 不支持42.2%(5.1P減)

 

政治利用、危険だけでなくアンフェア、民意の支持少数~もはや止まらない東京五輪「観客入り開催」への疑問

 東京五輪・パラリンピックは今夏、観客を入れての予定日程通りの開催に大きく舵が切られました。
 菅義偉首相は6月17日、新型コロナウイルス対応として東京都や大阪府など10都道府県に出している緊急事態宣言を、沖縄県を残して20日で解除することを表明しました。同日夕の記者会見では、東京五輪・パラリンピックについて、G7首脳会議としての開催への支持が表明され、首脳宣言にも明記されたことを強調しながら「東日本大震災から復興を遂げた姿を世界に発信し、子どもたちに夢や感動を伝える機会になる」「人類が新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、世界が団結し、人々の努力と英知でこの難局を乗り越えていくことを、日本から世界に発信したい」(朝日新聞の「会見要旨」)などと語りました。また、質疑応答では、観客を入れた場合のリスクなどを問われたのに対し、観客数は国内大規模イベントなどに適用する人数制限などに基づいて決定されると語りました。まん延防止重点措置を解除後は、国内の大規模イベントの観客は上限を1万人にすることとしており、事実上、五輪の観客上限も1万人とすることが軸になりそうです。
 これに対し、政府の対策分科会の尾身茂会長ら感染症の専門家の有志グループは翌18日、「無観客開催が望ましい」とする提言を政府と大会組織委員会に提出しました。観客を入れる場合でも、現行の基準(上限1万人)よりも厳しく制限し、感染拡大や医療ひっ迫の兆候があれば、躊躇なく無観客にするよう求めています。
 毎日新聞の記事(19日付朝刊3面「有志提言に政治の影」)によると、尾身会長は18日の会見で、以下のように説明しました。

「当初の提言は『五輪開催の有無も含めて検討してほしい』との文言があった。しかし菅義偉首相が主要7カ国首脳会議(G7サミット)という国際的な場で開催を表明し、(専門家で)開催の是非を検討することは実際的にはほとんど意味がなくなった」。

 提言自体は開催を前提にした形式になっていますが、感染症の専門家が開催に問題はないと判断しているわけではないと、わたしは受け止めています。

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 以下、いくつか考えていることを書きとめておきます。
 ▼「俺は勝負したんだ」
 五輪開催の強行に民意の支持はあるのでしょうか。日本社会には予定通りの日程での開催を危ぶむ声は根強く、マスメディア各社の世論調査では、開催を容認する意見をどんなに大目に(半ば恣意的に)見積もったとしても、よくて「中止」と五分五分です。そんな民意の支持に疑問符がつくような五輪開催を、菅首相がG7首脳会議の場で言明してしまったことに、わたしは大きな疑問を感じます。しかも菅首相は「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と誇っていますが、このブログの以前の記事でも書いた通り、その実態は極めてあいまいです。
 首脳会議の成果をまとめた首脳声明でも、東京五輪については英文で25ページに上る文書の最後、「結語」の本当の最後にわずか2、3行、付け足しのように触れているだけです。25ページもの文書を最後の最後まで目を通さなければ、東京五輪は出てこないのです。日本語訳の骨子には、この部分は残っていますが、英文のサマリーにはありません。「東京五輪開催は国際公約」とは、日本政府がどう主張しようとも、日本語圏以外では必ずしも同じ受け止めではないのではないか。そう考える方が自然だと思うのですが、どうでしょうか。 

news-worker.hatenablog.com

 菅首相が五輪開催にこだわるのは、それによって政権の支持率上昇を図り、ひいては自民党総裁選で再選し長期政権につなげるため、ということが繰り返し報じられています。そのことに関連して、ここ数日の東京発行の新聞各紙の記事でいちばんインパクトがあると感じたのは、18日付の朝日新聞朝刊の時時刻刻「五輪ありき 宣言解除/ワクチン接種加速 首相『勝負した』」の記事です。「勝負した」のくだりは以下の通りです。

 首相ら政権幹部は、5月下旬に再延長を判断した際、五輪に向けた「反転攻勢」の青写真を描いた。五輪1カ月前まで対策を徹底して、感染状況を改善させる。ワクチン接種を加速させ、国民に安心感を広める。主要7カ国首脳会議(G7サミット)で首脳の「支持」をとりつけ、国内外にアピールする―。「俺は勝負したんだ」。ワクチン接種で陣頭指揮を執ってきた首相は最近、側近議員らに繰り返しそう語っている。

 人命を最優先にするなら、そんな「勝負」などという運任せのような判断は厳に慎むべきなのですが、なぜそうまで無理をするのか。やはり政権浮揚のため、と考えるほかないように思います。それは言葉を変えれば私利私欲ではないでしょうか。五輪は一人の政治家の私利私欲を達成するための道具になり、そのためにはG7首脳会議という国際舞台までも恣意的に使われている―。わたしには、そのように思えてなりません。あまりにもあからさまな五輪の政治利用です。
 日本国内の実態としては「五輪開催は国際公約になっている」との受け止めが定着したかのような感があります。しかし、例えばG7首脳会議や、各国首脳との個別会談の詳しいやり取りが明らかになったらどうでしょうか。東京五輪のことは、首脳声明を英文で25ページ、日本語訳で33ページも延々と読まなければ出てこないこと、英文のサマリーからは落ちていることが広く知られればどうでしょうか。随分と印象と受け止めは変わる可能性があるのではないでしょうか。そう考えると、これはマスメディアの報道の問題でもあることに気付かされます。首相がしゃべったことや、外務省のブリーフを報じておけば事足りるのであれば、現地にわざわざ記者を出さずとも、東京で記事は書けてしまいます。

 ▼不公平な五輪
 とはいえ、五輪開催はもう止まらないように思います。海外から選手の来日も始まっており、やめることもできない段階に入ったのかもしれません。ならばどうやってリスクを最小限に抑えるかが、現実的な課題であることは理解できます。そのためにはやはり「無観客」が望ましいでしょう。
 しかし「無観客」には、もう一つの意味があるように思います。日本の新聞や放送などのマスメディアはあまり触れていないように思うのですが、このまま開催される東京五輪は、コロナ禍で危険なだけでなく、不公平、アンフェアな五輪になる、との指摘があります。
 少し前のことになりますが、JOC理事の山口香さんがニューズウイーク・ジャパンのインタビューに答えて、以下のように指摘しています。

※山口香JOC理事「今回の五輪は危険でアンフェア(不公平)なものになる」=2021年6月8日
 https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2021/06/72350-jocjoc-ioc-iocioc-iocioc-ioc-iocjoc-joc.php

 さらには、「アンフェア(不公平)」を感じる人も出てくる。コロナ感染の問題とは別に、選手たちが本当に力を発揮できる状況なのかが問われる。
 オーストラリアの選手は早めに来日できたが、事前合宿をキャンセルされているチームもたくさんある。また、柔道ではスイスチームが筑波大学で事前合宿をすることになっているが、市や大学側は「来てください。しかし、学生と接触させられません」としている。つまり来日しても練習相手がいない。
 しかも今回は、練習パートナーを日本に連れてくることができない。ものすごいハンデです。それは柔道だけでなく、いろんな種目で起きていること。
 でも日本人選手は通常の練習や準備をしてから、本番を迎えられる。「ホスト国のアドバンテージ」となるかもしれないが、そういうアンフェアなことがあちこちに出てくる。
 アンフェアだけでなく、危険なこともある。本番直前に来日して時差の調整や、日本の夏の暑さに体が順応できないとなったら、屋外競技の陸上などでは危険な事故にもつながりかねない。
そうしたさまざまなことをシミュレーションできているかといえば、今はコロナ対策だけで大変で、手が回っていない。

 観客を入れるとなれば、対象者は日本社会の居住者に限られ、圧倒的に日本人になるでしょう。海外からの選手がただでさえ日本人選手と比べて圧倒的に不利な条件にあるのに、この上、競技場での観客が日本人ばかりで応援が日本人選手に集中するとなれば、不公平の要素がさらに増すことになりはしないか、と思います。大会組織委員会や東京都からは折に触れ「アスリートファースト」という掛け声が聞かれてきましたが、この「不公平」をどう考えるのでしょうか。
 菅首相は17日の会見で大会開催の意義を「子どもたちに夢や感動を伝える機会」と強調していますが、それは各国の選手がそれぞれベストのコンディションで競技場に立ち、持てる力のすべてを発揮して競い合うことが可能な場合のことでしょう。そのような状況とは程遠い大会になるのです。

 ▼「開催」わずか30%(時事通信調査)
 前述のように、マスメディア各社の世論調査では、開催を容認する意見をどう大目に見積もったとしても、よくて「中止」と五分五分です。その中で、時事通信社が6月11~14日に個別対面方式で実施した世論調査の結果が、非常に興味深い内容になっています。
 五輪・パラリンピックについてまず「開催」「再延期」「中止」の3択で聞いたところ、最多は「中止」の40.7%。次いで「開催」30.4%、「再延期」22.2%でした。仮に「中止」「再延期」を合わせて「今夏開催すべきではない」と考えている人たちとみなせば、その合計は62.9%。「開催」を圧倒しています。
 次に、開催する場合の観客受け入れを尋ねたところ、「無観客」が63.9%と圧倒多数でした。「観客数を制限して開催」は27.1%にとどまります。

www.jiji.com

 ほかの調査では、「中止」と「無観客開催」「観客数を制限して開催」を並べて3択で尋ね、結果については「無観客」「観客数制限」を合計して「開催」とし、「『中止』と『開催』が拮抗」などと見出しをたてる例もありました。
 電話か対面かの調査方式の違いを考慮しても、時事通信の尋ね方とでは、どちらが丁寧で、民意をより細やかに表しているかは自明だと思います。今夏の五輪開催を積極的に容認する民意は圧倒的に少数であり、どうしてもやるなら無観客で、と考えていることがうかがえます。このまま五輪大会開催が強行されても、果たして菅首相の思惑通りに内閣支持率が回復するかは疑わしいように思います。

 

 以下に、東京発行新聞各紙の18日付朝刊、19日付朝刊の五輪関係の主な記事の見出しを書きとめておきます。朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙は発行新聞社が大会の公式スポンサーに名を連ねています。
 朝日、毎日、産経の3紙が五輪関係を1面トップの本記や、総合面の大型のサイド、大型の社説で扱っていることと比べると、経済紙の日経はともかくとして、読売新聞は相対的に控え目な扱いになっているように感じます。
 例えば各紙とも売り物の一つである総合面の大型のサイド記事です。18日付朝刊では、朝日「時時刻刻」、毎日「クローズアップ」が「五輪ありき」の緊急事態宣言解除の内幕を詳述しているのに対し、読売新聞「スキャナー」は、宣言解除後の酒類提供がテーマで、五輪とは直接関係ありません。19日付朝刊も朝日・時時刻刻、毎日・クローズアップが尾身会長ら専門家有志の提言を取り上げているのに対し、読売・スキャナーは全く別の「骨太方針」がテーマでした。読売新聞は尾身会長らの提言は1面に掲載していますが、全文で23行と極めてコンパクトです。

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■6月18日付朝刊
【朝日新聞】
1面トップ「首相、観客入り開催に意欲/五輪 最大1万人で調整/無観客がリスク最小 尾身氏ら提言へ」
1面「緊急事態20日解除 決定/沖縄除く 7都道府県、重点措置へ」
2面・時時刻刻「五輪ありき 宣言解除/ワクチン接種加速 首相『勝負した』」「発言控える小池氏、受け身の吉村氏」「リバウンド 専門家も懸念」
社説「再拡大懸念下の解除 五輪リスク、首相は直視を」/対策はワクチン頼み/説得力欠く自粛要請/必要なら『再宣言』も

【毎日新聞】
1面トップ「種類提供7時まで容認/9都道府県 緊急事態解除決定」/「知事 制限判断に苦慮」
1面「感染拡大予兆で無観客/尾身氏ら五輪『見解』提出へ」
3面・クローズアップ「五輪ありきの解除/国民の自粛疲れも背景」「疑心暗鬼の準備続く」
社説「宣言解除と東京五輪 無観客での開催を求める」/感染再拡大の懸念強い/専門知を尊重すべきだ

【読売新聞】
1面トップ「酒『夜7時まで』条件付き/沖縄以外 緊急事態20日解除/10都道府県 まん延防止来月11日まで」/「酒提供 東京・大阪きょう判断」
1面「五輪観客 上限1万人/5者会談 21日にも合意」
3面・スキャナー「『酒類提供』都迷う/政府『容認』で対策再検討」/「沖縄、自粛徹底しきれず/緊急事態 唯一延長」
社説「緊急事態解除 感染再拡大の前例繰り返すな」

【日経新聞】
1面トップ「7都道府県、まん延防止に/緊急事態 20日解除を決定/来月11日まで/埼玉や愛知 酒類、夜7時まで」
1面「『医療逼迫なら酒停止』/首相 五輪開催、観客入りで」
3面「飲食店規制 迷走続く/国、自治体、責任押し付け合い/届かぬ協力金 窮地に」/「病床上積み16%どまり/3月下旬比 『第5波』へ備え不十分」
社説「『緊急事態』後の制限緩和は段階的に」

【産経新聞】
1面トップ「首相『希望者接種、迅速に』/7都道府県 蔓延防止へ/宣言20日解除」
1面「五輪観客『上限1万人』/橋本会長 21日にも5者協議」
3面「宣言解除『緩み』警戒/在宅勤務低調 7割遠く/じれる飲食 酒類提供も」/「沖縄 唯一の宣言延長」
社説(「主張」)「緊急宣言の解除 五輪開催に協力を求めよ/ワクチン迅速化がカギを握る」/観客数は政治が判断を/聖火のともる日は近い

【東京新聞】
1面トップ「観客入れて五輪 首相が表明/緊急事態解除 まん延防止へ/21日から 酒類提供 夜7時まで容認/東京など7都道府県」/「感染拡大リスク 答えず/上限1万人 想定」
2面・核心「五輪開催 突き進む政権/重点措置 大会目前までの3週間/『ありき』の日程 前回超す感染でも宣言解除」
社説「緊急宣言を解除 感染再拡大は防がねば」

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■6月19日付朝刊
【朝日新聞】
1面トップ「尾身氏ら『無観客望ましい』/五輪 有観客なら『基準厳しく』/政府に提言」/提言の骨子(7項目)
1面「『観客、直行直帰を』/組織委が指針素案」
2面・時時刻刻「五輪リスク『説明を』」「政府の認識・軽減策問う」「専門家の動き 政権は警戒」「有観客前提の首相に難題」

【毎日新聞】
1面「五輪無観客 望ましい/尾身氏ら、国・組織委に提言」
3面・クローズアップ「有志提言に政治の影/五輪税の言及『封印』」「開催前提にかじ切る」「隔たりにも平成装う政府」「観客議論なし 組織委面従腹背」

【読売新聞】
1面「『五輪無観客望ましい』/医療逼迫予兆なら 機敏な対策求める/尾身氏提言」/「リスク払拭探る/橋下組織委会長」
2面「大会関係者来日5.3万人/組織委試算 当初の1/3に削減/五輪・パラ」/「『五輪5者協議で尾身提言を議論』官房長官」

【日経新聞】
3面「五輪観戦 直行直帰を/組織委、神流抑制へ指針案」/「尾身氏は提言『無観客望ましい』」/「五輪中に再発例も/20日再宣言解除で人出増なら/試算相次ぐ」

【産経新聞】
1面トップ「五輪『無観客望ましい』/尾身氏ら提言①1万人基準より厳しく②競技開催地の住人限定③医療逼迫予兆なら対策/橋本会長『政府上限に則る』」
3面「政府と溝 攻防いつまで/五輪 最終形は見通せず/『接触機会増 リスクある』」/「時差来場・直行直帰求める/観客向けガイドライン素案」/「五輪関係者ら接種スタート」

【東京新聞】
1面トップ「無観客 望ましい/尾身氏ら提言/政府は観客固執/首相 対応語らず 21日上限決定」/提言の骨子(7項目)
2面・核心「政治が先手 遅れた提言/開催是非 盛り込めず」「専門家の助言 首相使い分け/『GoTo』では軽視 苦境になると尊重」
2面「『五輪無観客も覚悟』/橋本会長、専門家提言に配慮」/「海外大会関係者5万3000人に圧縮 五輪組織委」
7面・提言要旨
社説「五輪への提言 尊重して対策に生かせ」

「人権侵害の懸念消えず」(沖縄タイムス) 「欠陥法は認められない」(琉球新報)~土地規正法成立、在京各紙はスタンスに違い

 自衛隊や米軍基地など安全保障上の「重要施設」周辺や国境に近い離島などの土地利用を規制する法律が16日未明、参院本会議で可決、成立しました。マスメディアの報道では「土地規制法」との呼び方が主流のようです。自民党、公明党に加え日本維新の会、国民民主党が賛成。反対したのは立憲民主党と共産党でした。
 立法事実=必要性の根拠が乏しい上に、あいまいな規定で恣意的な運用が危惧されています。しかし、新型コロナウイルスへの対応と東京五輪開催の可否の陰に隠れるようにして、短時間の審理で採決が行われました。この間の報道の量も相対的に少なく、一般にはあまり知られていないのではないかと思います。

 この新法の問題点は、基地が集中する沖縄の新聞2紙、沖縄タイムスと琉球新報がそれぞれ16日付で掲載した社説に、簡潔にまとめられています。

 ※沖縄タイムス社説:16日付「[土地規制法成立へ]人権侵害の懸念消えず」
  https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/770796

 最大の懸念材料は、法案に盛り込むべき重要な項目が盛り込まれず、肝心な部分が、政府の作成する基本方針や政令などに委ねられていることだ。

 国会は、人権侵害が懸念されるにもかかわらず、チェック機能を十分に果たすことができなかった。条文の恣意(しい)的な解釈が行われるのを拭い去ることはできない。
 法案審議の過程で、個人の思想信条を調べることも、条文上は排除されていないことが明らかにされた。
 米軍基地が集中し、離島での自衛隊基地建設が進んでいる沖縄県は、国境離島を数多く抱える地域でもある。
 基地建設や機能強化に反対する市民の行動にこの法律が適用され、プライバシー権が侵害される懸念がある。

 ※琉球新報社説:16日付「土地規制法成立 欠陥法は認められない」
  https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1338948.html

 対象施設を明らかにしないだけでなく、施設の「機能を阻害する行為」も国会で例示しなかった。閣議で決める基本方針に盛り込むという。国会のチェックが働かず政府に「白紙委任」したことを意味し立法府の責任放棄である。
 沖縄の場合、名護市辺野古の新基地建設に反対する市民運動などが「阻害する行為」とされかねない。米軍の環境破壊を告発したチョウ類研究者の自宅を家宅捜索した県警の動きは、土地規制法の先取りとの警戒感が広がる。
 「注視区域」の調査は、内閣府に新設する部局が公安調査庁など関係省庁と連携して行い、情報を一元的に管理する。調査する内容は国会に示さず、後に政令で決める。情報機関が肥大化し国会のチェックが働かない。
 看過できないのは、個人の思想信条の調査について政府が「条文上、排除されていない」との認識を示したことだ。住民監視活動を法的に認めたのに等しい。法律が成立したことで監視対象が次々と広がる可能性がある。
 政府は過去に重要施設への機能阻害行為が確認されていないことを認めている。立法を必要とする根拠がないことをあらためて強調したい。

 かつて防衛庁が情報公開請求した人のリストを作成していたり、自衛隊の情報保全隊が自衛隊のイラク派遣に反対する運動を監視していたり、あるいは沖縄で大阪府警の機動隊員が基地反対運動のメンバーを「土人」呼ばわりしたり、といったことがありました。そういう事例を思い起こせば、この新法に対する危惧は理由がないことではありません。今後の動向を注視する必要があります。

 この新法の成立を17日付の東京発行の新聞各紙はどう報じたか、扱いを書きとめておきます。
 社説を含めて、批判や懸念を紹介した記事を掲載したのは朝日新聞、日経新聞、東京新聞でした。新聞によってスタンスに違いがあることがうかがえます。

▼朝日新聞
1面準トップ「土地規制法が成立/基地や原発周辺 対象/国会閉会」表
3面(総合)「『住民を広く規制』消えぬ懸念/条文規定あいまいなまま」図解

▼毎日新聞
1面「重要土地法が成立/コロナ対応の中、国会閉会」

▼読売新聞
2面「秋の衆院選へ準備加速/安保土地規制法が成立/国会閉会」
4面(政治)「立・共 未明まで抗戦/安保土地法成立 解任決議案 連発」

▼日経新聞
5面(経済・政策)「土地取引規制 安保に直結/新法成立、基地や原発周辺対象/中国念頭 不正利用防ぐ/過度な私権制限 残る懸念」表・図解

▼産経新聞
3面(総合)「国会閉会/土地規制法 未明に成立」
社説(「主張」)「人権決議の見送り 時が止まった国会なのか/中国におもねる姿勢改めよ」/深刻な問題を露呈した/土地法案は成立したが 

https://www.sankei.com/article/20210617-ELVJJXWZX5LN3EEGEASSP4FA6Q/

 安全保障上重要な土地の利用を政府が調査、規制できるようにする土地利用規制法が16日未明、与党と維新、国民の賛成多数で成立した。自衛隊や海上保安庁の施設、原子力発電所など重要インフラや国境離島を守るのに必要な法律の制定は歓迎すべきことだ。

 問題は、野党第一党の立民と共産党が成立を妨げようと徹底抗戦したことだ。安全保障上、極めて無責任な姿勢といえる。法律にのっとった土地の売買や利用は少しも制限されない。困るのは、スパイ行為や妨害・破壊工作の意図がある敵性国や勢力だけだ。立民が足を引っ張るようでは、建設的な安全保障論議は難しい。

 ▼東京新聞
7面(総合)「政府の恣意的運用 懸念/土地利用規制法 未明の成立/対象区域の指定 着手へ」
社説「土地規制法成立 白紙委任はできない」

https://www.tokyo-np.co.jp/article/111032?rct=editorial

 参院内閣委員会の十四日の参考人質疑では、与野党それぞれが推薦した三人の参考人全員が条文のあいまいさを指摘した。政府は法案審議を通じ、恣意(しい)的運用に対する懸念に何も答えてはいない。
 そればかりか、付則にある五年後の見直し規定に関し、約三キロ圏への指定区域拡大や土地の強制収用など規制強化に言及することすらあった。とても看過できない。
 政府は二〇二二年度の法運用開始を目指し、区域指定や機能阻害行為の例示に取り組むというが、自治体や対象地域住民の意見を丁寧に聞き、検討状況をその都度、国会に報告すべきだ。
 国民の暮らしに大きな影響を与えかねない法律だ。政府は白紙委任されたわけではないことを、肝に銘じるべきである。

 ※追記 2021年6月19日9時15分

 副題を「土地規正法成立、在京紙の報道の記録」から改題しました。

G7声明の英文サマリーに「東京五輪」は見当たらない~「全首脳から力強い支持」の“水増し感”

 これは一体、どれほどのニュース・バリューなのでしょうか。先日のG7首脳会議に出席した菅義偉首相が、東京五輪の開催に対して「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と成果を誇り、首脳声明(宣言)にも開催への支持が盛り込まれた、と大きく報じられたことです。首脳声明の原文、サマリーや、菅首相の各国首相との個別会談の内容を見てみると、どうも実態よりもその意味合いが誇張されて伝わっているのではないか、と感じます。言葉は悪いのですが、わたしには“水増し感”があります。

 ▼声明の「結語」に2、3行
 首脳声明は外務省のサイトで見ることができます。英語の原文、その日本語訳、日本語の骨子、英語のサマリーの4種が用意されています。
 ※G7コーンウォール・サミット(概要)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page1_000989.html

 骨子を見ると声明の構成が分かりやすいのですが、「前文」に続いて「保健」「経済回復及び雇用」「自由で公正な貿易」「将来的な先端領域」「気候変動・環境」「ジェンダー平等」「グローバルな責任及び国際的な行動」の各テーマが並び、最後に「結語」があります。「気候変動・環境」と「グローバルな責任及び国際的な行動」はさらに小テーマに分かれています。さて、東京五輪開催への支持はどのテーマで扱われているのか。どこにもありません。答えは「結語」です。以下は日本語訳です。

結語
70.コーンウォールにおいて、我々は、G7のパートナーシップを再活性化した。グローバルな行動のための我々の共通のアジェンダは、我々が本年そして将来の議長国の下で引き続き協調していく上で我々が共有するビジョン及び目標を示すものである。我々は、そうする中で、より良い回復を確実なものにするため特にG20サミット、COP26、CBD15及び国連総会において他の国々と合流するのを楽しみにし、また、新型コロナウイルスに打ち勝つ世界の団結の象徴として、安全・安心な形で2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を開催することに対する我々の支持を改めて表明する。
 ※「70.」は段落の通し番号です。

 英語の原文は25ページ、日本語訳は33ページ。東京五輪はその最後の最後に2、3行だけ記載されています。わたしはこうした外交文書の体裁に詳しくはないのですが、首脳会議のテーマの一つとして話し合われ、その成果が盛り込まれた、という扱いとは異なるように思います。まさにここに書かれているように、G20サミット、COP26、CBD15や国連総会で、他の国々と合流するのを楽しみにしているということと同程度の、いわば儀礼的な賛意であって、それ以上でも以下でもないように感じるのですが、どうでしょうか。ちなみに、日本語の骨子には東京五輪のくだりはありますが、英語のサマリーにはありません。そのことだけで、日本とG7の他国との間に、東京五輪に対して温度差があることが分かるように思います。

※【骨子】G7コーンウォール・サミット成果文書
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200458.pdf
※Summary of Carbis Bay G7 Summit Communique(サマリー)
 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100200010.pdf

 ▼日独会談では話題にならず
 討議を終えた後、菅首相が記者団に話した内容について、例えばNHKは以下のように報じています。
 ※NHK「G7 菅首相 議論を宣言に反映と評価 五輪開催『全首脳が支持』」=2021年6月13日
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210613/k10013083301000.html

 また、東京オリンピック・パラリンピックについて「感染対策の徹底と安全安心の大会について、私から説明をさせていただき、全首脳から大変力強い支持をいただいた。私自身、改めて主催国の総理大臣として、こうした支持を心強く思うとともに、東京大会を何としても成功させなければならないという思いで、しっかりと開会し、成功させなければならないという決意を新たにした」と述べました。

 首脳声明に開催への支持が盛り込まれたことも含めて、読売新聞は15日付の社説で、以下のように評価しています。

・読売新聞「G7首脳宣言 民主主義諸国の結束を示した」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210614-OYT1T50281/

 東京五輪・パラリンピックについて、宣言は「新型コロナに打ち勝つ世界の団結の象徴」と位置づけ、開催支持を表明した。
 日本に対する大きな期待が示されたと言える。政府は、大会の成功に万全を尽くし、責任を果たさなければならない。

 地方紙のいくつかの社説、論説でも、菅首相が各国首脳の支持を取り付けた、との意義付けは共通しています。
news-worker.hatenablog.com

 NHKによると菅首相は記者団に「私から説明をさせていただき、全首脳から大変力強い支持をいただいた」と話したとのことです。参加した英国、米国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダ、オーストラリアの各首脳との個別会談でそれぞれ話題にし、その場で支持の言葉を取り付けたのか、とも思ったのですが、そうではないようです。
 菅首相と各国首脳の個別会談は外務省のサイトに概要が掲載されています。
https://www.mofa.go.jp/mofaj/ecm/ec/page4_005342.html

 そもそもイタリアのドラギ首相とは個別会談がなく、またドイツのメルケル首相との間では、東京五輪は話題に上らなかったようです。ただ、首脳声明に盛り込まれたのは事実なので、「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と話しても、ウソではないでしょう。また、以下のような報道もあります。

 ※日経新聞「首相、五輪開催へG7で決意 『強力な選手団派遣を』」=2021年6月12日
  https://www.nikkei.com/article/DGXZQODE11EZL0R10C21A6000000/

 各国首脳に「強力な選手団を派遣してほしい」と呼びかけた。「世界のトップ選手が最高の競技を繰り広げることを期待している」と言及した。日本政府によると、参加した首脳から「全員の賛意を代表して、大会の成功を確信している」との発言があった。

 「全首脳」の「大変力強い支持」とは、このことを指しているのかもしれません。「全員の賛意を代表して」とのことですので、やはりウソではありませんが、やはり誇張を感じます。

 ▼声明の「要旨」
 首脳声明の記載に戻ります。東京五輪の扱いについて、あらためて朝日、毎日、読売3紙の14~15日付の紙面を見てみましたが、「結語」の最後に短く触れられていることを明記した記事は見当たりませんでした。詳しく報じていたのは、夕刊紙の日刊ゲンダイです。

 ※日刊ゲンダイ「五輪開催『力強い支持』のマヤカシ G7首脳は塩対応だった」=2021年6月15日 

www.nikkan-gendai.com

 実は一般紙でも注意深く目を通せば、それと気づくことは可能かもしれません。それは「首脳声明の要旨」です。写真は東京新聞の紙面に掲載された共同通信配信の「要旨」です。最後の「結び」に東京五輪が出てきます。

f:id:news-worker:20210617002354j:plain

 しかし、一般の人がそんな紙面の隅にまで目を通すかは分かりません。やはり記事で明記した方がいいと思います。菅首相の誇らしげな発言と、宣言の中での扱いとを対比して、人それぞれに思うこと、感じることがあるのではないでしょうか。それだけの意味がある要素です。

これでは「あきらめの五輪」~政府、組織委の説明に納得せずが7割(NHK調査)

 NHKが6月11~13日に実施した世論調査の結果が報じられています。
 ※「菅内閣『支持』37% 『不支持』は45%で内閣発足以降最も高く」=2021年6月14日
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210614/k10013083971000.html

 東京五輪についての設問は二つ。どうするのがいいかは、「これまで通り」「観客数を制限」「無観客」「中止」の4択で尋ねています。結果は以下の通りです。5月の前回調査でも同じ尋ね方をしていますので、前回調査からどう変わったかが分かるように、前回調査の結果と今回の結果を並べました。

▼東京五輪・パラ 観客をどうすべきか(5月と6月)
これまで通り       2%→ 3%
観客の数を制限して行う 19%→32%
無観客で行う      23%→29%
中止する        49%→31%

 5月の前回調査と比べると、中止するは49%から31%に大幅に減り、かわって観客数を制限は19%から32%に、無観客も23%から29%に増えました。
 要因としては、新型コロナウイルス対策でワクチン接種が始まったことが挙げられますが、菅義偉首相も大会組織委もIOCも「どうしてもやる」「何があってもやる」との方針を崩さず、それが繰り返し報じられていることも大きいのではないかと感じます。「有観客」の方が「無観客」よりも増え方が大きいのは、最近になって菅首相が有観客に意欲を示していると、盛んに報じられていることと符合しているのでしょうか。

 なお、設問の文章がどのようなものか、必ずしも明らかではないのですが、NHKのサイトでは「東京オリンピック・パラリンピックの観客の数について、IOC=国際オリンピック委員会などは今月判断する方針です。どのような形で開催すべきだと思うか聞きました」となっています。観客の数が月内に決まることを前提に尋ねており、選択肢に「中止」を入れるのが適切なのかどうか、疑問に感じます。まず、「今夏の開催」か「中止」を尋ね、次いで「開催」と答えた人を対象に、今まで通りか、観客数の制限か、無観客かを聞く方が、調査としては丁寧なはずです。
 「中止」を入れるのなら「延期」も入れるべきだ、という考え方もあります。「本当は延期するのがいいと思うが、どうしても今年開催なら、無観客で(観客数を制限して)」という考えの人もいるはずです。
 NHKの記事では、各回答の比率だけが報じられていますが、他メディアで見かける評価として、「観客数制限」と「無観客」を合計して「開催」とみなす手法があります。しかし、上述のように尋ね方や選択肢のたてかた次第で回答状況は変わる可能性があります。

 NHKの調査のもう一つの設問は「東京大会を開催する意義や感染対策について、政府や組織委員会などの説明にどの程度納得しているか」です。「納得している」が「大いに」「ある程度」を合計して25%なのに対し、「あまり納得していない」42%、「まったく納得していない」27%の合計は69%と、「納得していない」が圧倒しています。

▼大会開催意義などの説明納得度(6月)
大いに納得している        2%
ある程度納得している      23%
あまり納得していない      42%
まったく納得していない     27%

 開催地の東京では、「あまり納得していない」が44%、「まったく納得していない」が30%で合わせて74%。4人のうち3人が「納得していない」とのことです。
 先述のように、「中止すべきだ」との意見はこの1カ月で18ポイントも減りました。設問の適否の問題はあるにしても、東京五輪の今夏開催を容認する人が増えたことは間違いがないでしょう。しかし、東京大会の意義や感染対策についての説明に納得しているかどうかは別のようです。首相も組織委も東京都もIOCも「どうしてもやる」「何があってもやる」ということのようだから仕方がない、との民意の「あきらめ」の境地が見て取れるように思います。

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 5月以降の東京五輪を巡る報道をいくつか振り返ってみます。

  • IOCのジョン・コーツ調整委員長(IOC副会長)が5月21日の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大で緊急事態宣言下にあっても大会を開催するかを問われ、「答えはイエスだ」と明言した、と報じられました。緊急事態宣言は、法に基づいて日本政府が発令しています。海外からの選手らの出入国の可否も日本政府が権限を持っています。コーツ発言は日本の国家主権にかかわるのですが、菅首相をはじめ日本政府は問題視しないようでした。
  • 信濃毎日新聞が5月24日付の社説で、日本の新聞では初めて東京五輪の中止を求める社説を掲載しました。その後、西日本新聞、沖縄タイムスが続き、26日付で朝日新聞が「中止の決断を首相に求める」との社説を掲載しました。発行元の朝日新聞社は大会のオフィシャルパートナー(公式スポンサー)です。
  • IOCの最古参委員、ディック・パウンド氏が、「週刊文春」のインタビューに対して「菅首相が中止を求めても、大会は開催される」などと述べたことが、5月26日に報じられました。コーツ発言以上に、直接的に日本の国家主権にかかわる発言ですが、やはり日本政府は傍観者でした。パウンド氏は英紙の取材に「アルマゲドン(世界の滅亡)にでも見舞われない限り、東京五輪は計画通りに開催される」と話したとも報じられています。菅首相は28日の会見で、本当に緊急事態宣言下でも開催されるのかを問われても、直接答えませんでした。
  • 6月に入ると、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長が国会で連日、コロナ禍での五輪開催の強行に対して、「今の状況で(五輪大会を)やるのは、普通はない」「何のために開催するのか、明確なストーリーとリスクの最小化をパッケージで話さないと、一般の人は協力しようと思わない」などと、感染拡大を招く危険性を訴え、万全の対策を取るよう訴えました。しかし、菅政権は危機感を共有してはいないようです。丸川珠代・五輪担当相は4日の記者会見で「全く別の地平から見てきた言葉をそのまま言ってもなかなか通じづらいと実感する」と話しました。科学的な見地からの言葉が通じない「全く別の地平」とは、独善ぶりがうかがえる非常に正直な表現だと思います。
  • 菅首相は7日の参院決算委員会で重ねて問われた末に「国民の命と健康を守るのは私の責任だ。守れなければ(五輪を)やらないのは当然のことだ」と述べました。渋々、「中止」に言及した形ですが、9日の党首討論では「安全・安心」が具体的に語られることはありませんでした。開催の意義をどんな言葉で説明するか、準備の時間は十分にあったはずですが、57年前の東京大会の感動をもう一度、と、ノスタルジックな個人の思いを長々と口にしただけ。「東洋の魔女」に「回転レシーブ」、「アベベ」に「ヘーシンク」。当時を知る年配者ならともかく、若い世代がどれだけ共感したでしょうか。

 1カ月以上もこうした状況を目にしていれば、「どれだけ反対があっても、何があっても五輪は開催されるのだな」と思うようになったとしても不思議はありません。開催に反対だったとしても、止められないのであれば、次善の選択として、無観客での開催や観客数を制限しての開催に意見が変わることは十分にあるだろうと思います。
 表面的には開催への支持が増えているように見えても、内実はあきらめの境地が相当程度を占めているのかもしれません。そんな「あきらめの五輪」でいいのでしょうか。JOC理事の山口香さんが共同通信のインタビューで話した言葉が思い起こされます。
 「応援したかった人が大勢いたにもかかわらず、あえて敵をつくるやり方をしてきたことが残念だ」

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【追記】2021年6月16日7時30分
 五輪開幕前2カ月の5月23日付以降、新聞各紙の社説、論説のうち五輪に触れた内容のものを随時更新で記録しています。 原則として、各紙のサイトで読めるものです。
 6月15日付では、G7首脳会議で五輪開催に各国首脳の支持を取り付けたとされていることに、読売新聞、産経新聞は日本は大会の成功へ大きな責任を負った、と位置付けています。

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