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組織ジャーナリズムに身を置き40年余

今夏五輪「反対」55% 「賛成」33%(朝日新聞調査)~開幕1週間前、菅内閣支持率は軒並み最低

 先週末に実施された世論調査の結果が報じられています。朝日新聞(7月17~18日実施)、共同通信(同)、毎日新聞・社会調査研究センター(17日実施)の各調査では、菅義偉内閣の支持率は30~35.9%に低下。「不支持」は49~62%に上っています。対面式で9~12日に実施された時事通信調査では、支持率は29.3%と3割を切りました。4件とも、支持率は菅内閣発足以降、最低です。
 東京五輪を政権浮揚につなげるのが菅首相の思惑であると再三、報じられていますが、23日の開幕まで1週間を切った時点での調査でも支持率は下がり続けています。

【内閣支持率】 ※カッコ内は前回比、Pはポイント
▼朝日新聞 17~18日実施
 「支持」31%(3P減) 「不支持」49%(7P増)
▼共同通信 17~18日実施
 「支持」35.9%(8.1P減) 「不支持」49.8%(7.6P増)
▼毎日新聞・社会調査研究センター 17日実施
 「支持」30%(4P減) 「不支持」62%(7P増)
▼時事通信 9~12日実施
 「支持」29.3%(3.8P減) 「不支持」49.8%(5.6P増)

 各調査の質問項目のうち東京五輪の関連では、朝日新聞調査がこの夏の開催について、賛成かどうかを尋ねています。回答は賛成が33%、反対が55%。反対が過半数の一方で賛成は3分の1にとどまっており、この辺の民意が内閣支持率にも反映しているのではないかと思います。
 共同通信や毎日新聞の調査は、無観客、有観客と中止や延期が選択肢の中で同列になっており、朝日新聞の調査のようにすっきりした形ではないのですが、共同通信の調査では「中止」が31.2%、毎日新聞調査では「延期か中止」が40%です。
 東京では新型コロナウイルスの感染者数が急増しており、緊急事態宣言下で大会が開催されます。共同通信調査では、五輪パラリンピックの開催によって感染が再び急拡大する不安を感じているとの回答が、「ある程度」も含めて87.0%に上っています。朝日新聞、毎日新聞の調査でも、「安全安心」な形の開催は「できない」がそれぞれ68%、65%に達しています。
 このまま開幕を迎えた後で、仮にコロナ対応などで想定外の事態が起きた場合、強固な支持を得られない政権がことに当たるのでは、社会不安は高まる一方でしょう。大会期間中であっても、速やかに中止できる準備も必要だと思います。

【東京五輪】
▼朝日新聞
・この夏に東京五輪・パラリンピックを開くことに賛成ですか。
  賛成 33%
  反対 55%
・東京五輪は、ほとんどの会場で観客を入れずに実施することになりました。無観客になったことはよかったと思いますか。
  よかった   76%
  よくなかった 17%
・今回の東京五輪・パラリンピックは、菅首相が繰り返し述べたように「安全・安心の大会」にできると思いますか。
  できる  21%
  できない 68%

▼共同通信
・23日に開幕する東京五輪は首都圏など、ほとんどの会場で無観客の開催が決まりました。あなたは、この方針についてどう思いますか。
  適切だ 43.6%
  少人数でも観客を入れて開催すべきだ
      23.6%
  五輪を中止するべきだ
      31.2%
・あなたは、東京五輪・パラリンピックが開催された場合に、新型コロナウイルスも感染が再び拡大する不安を感じていますか、感じていませんか。
  不安を感じている     50.9%
  ある程度不安を感じている 36.1%
  あまり不安を感じていない  9.0%
  不安を感じていない     3.8%

▼毎日新聞
・東京オリンピックはほとんどの競技が無観客で開催されます。これをどう思いますか。
  妥当だ 36%
  観客を入れて開催してほしかった
      20%
  延期か中止にしてほしかった
      40%
・東京オリンピック・パラリンピックで安全、安心な形で開催できると思いますか。
  できると思う    19%
  できるとは思わない 65%

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批判高まるバッハ会長~組織委のサポートはあるのか

 7月23日の東京五輪開幕まであと5日です。米紙ワシントンポストが早くも「失敗」と指摘している、との記事が目に止まりました。
 ※東京新聞(共同通信)「『東京五輪は完全な失敗』『国民の熱気は敵意に』」と米紙ワシントン・ポスト」=2021年7月18日
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/117569

 【ワシントン共同】米紙ワシントン・ポスト電子版は17日、開幕を23日に控えた東京五輪について、これまでのところ「完全な失敗に見える」と指摘し、1964年の東京五輪のように日本に誇りをもたらすことは期待できないと伝えた。新型コロナウイルス流行の影響で国民に懐疑論が広がり、当初の五輪への熱気は敵意にすら変わっていると報じた。

 コロナ禍の中で日本社会では人々が我慢を続けているのに、こと五輪に関連することに限っては特別扱いなのか、との疑問と不満が高まっていることは、わたしは実感としても理解できます。東京では、感染拡大抑制のために緊急事態宣言などの措置を取りながら、五輪関連のスケジュールに合わせるように、中途半端な状態で解除し、短期間でまた宣言発令に追い込まれていました。背景の要因としては、そうしたことも大きいのだと思います。
 そして、ここにきて顕著になってきたのが、IOC(国際オリンピック委員会)とバッハ会長に対する批判の高まりだと感じています。日本の新聞各紙の社説、論説でこの数日、バッハ氏に言及したものがいくつか目に付きました。

【7月18日付】
▼西日本新聞「五輪の感染対策 選手包む『バブル』に懸念」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/772048/

 開会が近づいても五輪の感染対策は問題点が尽きない。関係者の多くが認識しているはずだが、そうでもない人がいる。国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長である。
 先日、小池百合子東京都知事との会談で「日本の皆さんのリスクはゼロ」と語った。菅義偉首相には、感染状況が改善した場合は観客を入れるように検討を求めたという。新型コロナの現状に対して、あまりに無自覚な発言ではなかろうか。
 東京や全国の事前合宿地で感染防止に尽力している人たちがいる。一方で、主催組織のトップがこうした発言をするようでは五輪への不信を招くだけだ。

【7月17日付】
▼産経新聞「五輪の感染対策 ルール順守を徹底させよ」
 https://www.sankei.com/article/20210717-M5FQDFXG4JPZLPC7YKKABBBFD4/

 日本人へのリスクについて、国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「ゼロ」と明言したが、不用意に過ぎる。ワクチン接種の遅れに加え、多くの外国人が来日することを不安視する国民は多い。自身の発言が五輪への賛同を妨げていることを、そろそろ自覚してはどうか。

 ※産経新聞社は大会の公式スポンサーです。

▼信濃毎日新聞「感染再拡大 不信感が覆うままでは」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021071700073

 期間中であっても中止する際の基準を明示すべき局面なのに、国際オリンピック委員会のバッハ会長は、菅首相との会談で「感染状況が改善したら観客入りを検討してほしい」と口にしている。
 首相は、大会に関わる5者協議で対応を検討するとだけ説明したとされる。この期に及んでも最悪の事態を想定しない。認識の甘さと無責任さが際立つ。

【7月16日付】
▼中国新聞「バッハ氏の広島訪問 核廃絶誓う気あるのか」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=773414&comment_sub_id=0&category_id=142

 バッハ氏の広島訪問中止を求める市民のネット署名も広がっている。反対の声を押し切ってまで来るなら、核が人類にもたらした悲惨から目をそらしてはならない。今後は、核保有国では五輪を実施しないと、被爆地で明言するくらいの覚悟があってもいいはずだ。巨大ビジネスと化した五輪を、真に「平和の祭典」に変えることを、被爆地で誓ってほしい。
 核兵器廃絶について踏み込んだ発言をできるのか、被爆地訪問を今後の五輪運営にどう生かすのか。被爆地の内外で、核なき世界を求める人々が、厳しい視線を注いでいることを、忘れてはならない。

 バッハ氏の広島訪問は、わたしも疑問を持っています。被爆者の最大の願いは「核の廃絶」です。広島で核兵器廃絶について踏み込んだ発言を避けたことは、被爆地と被爆者の国際的な知名度を、五輪の「平和の祭典」のイメージに利用しただけであると受け止められても仕方がないように思います。

 18日夜には、東京・迎賓館でバッハ氏の歓迎会も開かれました。菅義偉首相や橋本聖子・大会組織委会長のほか、森喜朗・前組織委会長まで参加したと報じられています。東京は緊急事態宣言下にあり、都民には会合の自粛が呼びかけられているさなかです。飲食を伴わない形であれ、到底、理解を得られるものではないように思います。
※毎日新聞「バッハ会長ら40人招待 迎賓館で歓迎会 菅首相、森喜朗氏ら参加」=2021年7月18日
 https://mainichi.jp/articles/20210718/k00/00m/040/171000c

 バッハ会長は「われわれはゲストでしかない」と述べ、橋本会長は「延期前から決まっていたこと」「十分な対策は取っている」と述べたとも報じられています。日本社会の民意との乖離は驚くばかりです。

 バッハ氏が批判の対象になっていることに対しては、バッハ氏だけの責任でもないのかもしれません。本人は、批判されていること自体を認識できておらず、いわば善意で、自らの仕事をただ熱心に進めようとしているだけなのかもしれません。いずれにしても、大会組織委員会やJOC(日本オリンピック委員会)のサポートが不可欠のはずです。ただでさえこの時期の開催強行に厳しい見方が多数を占めている日本社会の世論を踏まえて、少なくとも反発を増大させるような言動は避けるよう、バッハ氏に具体的に助言をするべきだろうと思います。迎賓館での歓迎会などは、組織委やJOCの判断で中止を決めることがあっても良かったのではないでしょうか。そういう意味でも、組織委はその負っている責任を果たしているのか、果たせる状況にあるのか、はなはだ疑問に感じています。

 これは想像するしかないのですが、橋本会長やJOCの山下泰裕会長では、バッハ氏に直言などとてもできない、ということなのでしょうか。辞任した森前会長なら、バッハ氏とも対等に話すことができたのでしょうか。そう考えると、組織委関係者の間で森前会長の評判が良かったという理由が分かるような気がします。

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 ※7月16日~18日付の新聞各紙の社説、論説は以下の記事に追記しました。

news-worker.hatenablog.com

「安全安心」と実態の乖離~東京五輪開幕1週間前の報道の記録

 7月23日の東京五輪開幕まで1週間を切りました。ちょうど1週間前、7月16日付の東京発行新聞6紙の紙面の記録を書きとめておきます。総じて熱気や高揚感とは程遠い紙面です。6紙のうち朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、日経新聞、産経新聞の5紙は、発行元の新聞社が大会公式スポンサーに名を連ねています。

■「バブルの穴」
 新型コロナウイルス禍で東京は緊急事態宣言下にあります。その中での開催強行ですので、気になるのはやはり「安全安心」のことです。日本政府も大会組織委員会も、大会関係者全体をバブルで包み込むようにして外部と遮断するので大丈夫、と繰り返し強調してきました。しかし、実態はまるで異なるようです。
 毎日新聞の総合面、クローズアップ「選手団『バブル』穴だらけ」の記事は、「選手団の来日が本格化するにつれて『バブルの穴』が次々と報告されるようになった」「政府関係者らは口々に『空港が大変なことになっている』と語る」として、選手団が押し寄せる空港では、数時間に及ぶこともある検査の結果待ちに疲れた選手らが自由に動き回ったり、マスクを外して談笑したりしている光景が見られると紹介しています。ルールブックで行動を厳格に規制しても、それが守られるかどうかは別問題であって、「机上の空論」との危惧が現実のものになっています。
 産経新聞も1面の記事「五輪水際対策 正念場」の記事で、宿泊先と勤務先以外に外出できないはずの関係者が外出している様子が報道されたことに触れ、監視策を取っても「最後は各自の規範意識に委ねられる部分も大きい」ことを指摘しています。
 朝日新聞は社説「バブルの穴 尽きぬ懸念」で取り上げ、事前の説明と実態のあまりの乖離に「まさか、その場しのぎの弁明だったというわけではあるまい」として、確実な履行を求めています。
 この「バブルの穴」は1日遅れですが、読売新聞も17日付の朝刊総合面・スキャナー「五輪『バブル方式に穴』/外出申告なし・空港一般客と接近」で具体的な事例を詳しく伝えています。大会関係者が宿泊するホテルに組織委員会が派遣した警備員は、取材に「英語が話せないので行き先を聞けない」「誰が関係者かも知らされていないので、誰を監視すればよいかさえ分からない」と話しています。
 朝日新聞も18日付の1面トップで「五輪来日ピーク 危ういバブル/関係者 ホテル近くで外飲み/隔離中『15分以内の外出可』」の記事を掲載しています。

 毎日新聞の総合面の記事と朝日新聞の社説がともに取り上げているのが、IOCのバッハ会長が7月14日に菅義偉首相と訪問した際のひとコマです。会談後に記者団の取材に短時間応じたバッハ会長は、記者団から「関係者が定められたルールを守っていない」と指摘されると、「日本の国民のリスクとなるような違反があったという報告は届いていない」(朝日新聞社説)と話したとのことです。ルール違反の実態を認めて開き直っているとも受け取れますし、空港やホテルなどの現場の実情がトップに届いていないとも受け取れます。
 いずれにしても「安全」を実感できる状況ではなく、したがって「安心」も生まれない。この建前と実態の乖離は、1週間では埋めようがないのではないかと感じます。

 16日はバッハ会長が広島へ、コーツ副会長が長崎へ、それぞれ赴く日でした。五輪に合わせた休戦期間の初日で、五輪が平和の祭典であることを被爆地からアピールする狙いだったようです。東京新聞は特報面で、被爆者らから反対や疑問の声が挙がっていることを紹介しています。
 結局、バッハ会長は広島で「平和」は口にしたようですが、「核廃絶」には触れなかったようです。被爆者がもっとも願っているのがその「核廃絶」なのに、それに触れずして、広島訪問にいったい何の意味があるのかと、わたしも疑問を持っています。

■疑問だらけの組織委
 毎日新聞だけが報じていますが、開会式、閉会式の音楽を担当する一員である小山田圭吾さんが少年期、障害者の同級生へのいじめに加担し、25年前、その加害行為をインタビューにとくとくと答えている様子が雑誌に掲載されていたことに、ネット上で激しい批判が巻き起こりました。小山田さんは16日夜になって謝罪文を公表。組織委は「反省している」として、音楽担当を継続させることを表明しました。そのことに対して18日現在もSNS上などでは批判が止みません。
 小山田さんが音楽担当を続けるかどうかを決めるのは一義的には本人ではなく、組織委のはずです。日本社会では、相模原市のやまゆり園の入所者が殺傷された事件で明らかになったように、今も障害者差別が厳然とあります。なぜ犠牲者は今に至るも匿名なのか、その一事だけでも問題の根深さ、深刻さは明らかです。五輪、パラリンピックを巡って起きた小山田さんの一件も、対応の仕方によっては、例えばそこに組織委員会がどんなメッセージを発するかによっては、障害者差別にどう向き合っていけばいいのか、多くの人が気付き、考える端緒になりうるのではないかと、わたしは考えていました。しかし組織委の見解は、あまりに他人事に過ぎました。無残です。

 18日にバッハ会長の“歓迎会”を、菅首相や組織委の橋本聖子会長、辞任した森喜朗前会長らが出席して迎賓館で開催する、との報道も17日に流れました。新型コロナウイルスの感染拡大防止のために、外出の自粛を要請している中で、最悪のメッセージになりそうです。歓迎会はIOCの要求なのか、日本政府や組織委員会のIOCへの忖度なのか。なぜ、だれも止めようとしないのか。
 このような状況でまもなく五輪東京大会は開幕を迎えます。いったい何が起こるのか。大会組織委員会は負っている責任を果たせるのか。その機能を維持できているのか。疑問だらけで心もとない限りです。

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【写真】東京・国立競技場周辺=7月17日午後

 以下に、東京発行6紙の16日付朝刊のうち、五輪関連の主な記事と見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
 ・1面・東京・国立競技場近くの五輪マークの夕景写真:「五輪 あと1週間」の見出し
 ・2面「『開催だけが目的』漂う無力感」「実務担う組織委 目指した『変わる五輪』阻まれ」「選手らは 予選・事前合宿中止■実戦不足に不安」
 ・4面「五輪の行動制限『不正 厳格に処分』/丸川担当相、組織委に対応要請」
 ・第2社会面「五輪 サイバー攻撃警戒/『ハッカーにとって祭り』手法試す舞台」「政府内に情報共有の不備も」
 ・都内版「『都民の安全』強調/IOCバッハ会長、知事と会談」
 ・社説「五輪まで1週間 バブルの穴 尽きぬ懸念」

▼毎日新聞
 ・1面準トップ「被災ルート 組織委認めず/聖火・福島ン 非難指示理由に」
 ・3面クローズアップ「選手団『バブル』穴だらけ」「専門家 感染拡大懸念」「開催 もろ刃の剣/政権浮揚狙う菅首相」
 ・社会面トップ「震災爪痕 見せたかった/廃屋や更地、『2時46分』の時計/福島・双葉 聖火リレー幻のルート/『これで良かったのか』」
 ・第2社会面
 「『ママアスリート』当たり前に/娘のため 違和感ある肩書き背負う/陸上100メートル障害 寺田明日香」
 「五輪中止求める45万人署名提出」/「いじめ告白『炎上』/開会式楽曲担当 小山田さん/90年代の記事」/「IOC会長が都知事と会談」

▼読売新聞
 ・1面
 トップ「濃厚接触の選手 出場可/東京五輪 6時間前『陰性』で/政府・組織委」
 「なでしこ 決戦の地へ/21日カナダ戦/開幕まで1週間」/「聖火台 観覧自粛」
 ・社会面
 トップ「五輪ハッカー警戒/競技場 照明ダウン?/測定システム 不能?/対策担当リスト流出」/「平昌では発券トラブル」
 「聖火 東京の島々回る」/「『日本の皆さん リスクはゼロ』/バッハ氏、都知事と会談」

▼日経新聞
 ・1面「五輪開幕まで1週間」
 ・3面「五輪交通規制が拡大/会場周辺は進入禁止 宅配便に遅れも」
 ・社会面
  トップ「観客『直行直帰』悩む宮城/プラカード誘導、10キロ先の駅へ送迎/地元、歓迎と不安交錯」/「開会式の都心飛行経路公表 ブルーインパルス」
 「五輪、競技参加認めず/規則集違反で『農耕接触』選手/組織委調整」/「バブル方式、実効性焦点/選手・関係者、続々と入国」

▼産経新聞
 ・1面「五輪水際対策 正念場/選手ら5万人 入国本格化/開幕まで1週間 首相、成田空港視察」/「臨海部の聖火台 観覧自粛を要請」
 ・社会面トップ「おもてなし コロナ禍でも/対面中止 選手と新たな交流/展示中心で日本文化PR 浅草などバスツアー計画」/「バッハ会長 有観客要望/感染改善なら、首相に」

▼東京新聞
 ・1面「『中止決断を』45万筆/IOCと都に署名を提出」ワッペン・五輪リスク
 ・2面
 核心「日本と英米 観戦風景に差/五輪無観客の一方…ノーマスク満員/背景にワクチン摂取率、医療システム」
 「バッハ氏『観戦改善なら観客入れて』首相と会談時要望」/「『公益情報公表を』/来日選手感染 詳細明かされず」/「感染防止策の徹底 IOCに協力要請/小池氏、バッハ氏と会談」/「相次ぐ規則集違反 厳格な処分求める/五輪相、組織委側に」
 ・特報面「被爆者ら疑問『賛成できない』/口先だけ『平和』を利用するな/バッハIOC会長 きょう広島へ/76年前 人類初核実験の日」「広島・長崎 五輪共催希望には難色/コロナ禍最中 人権・命ないがしろ/核禁条約や『黒い雨』救済 国も冷淡」
 ・社会面
 トップ「夢に挑む道 格差なくして/パラ選考大会 途上国選手参加できず/『頑張った人 報われるように』」/「ラオスの草の根 日本から育てる」
 「福島第一原発作業 大会中は一部停止」/「ブルーインパルスが五輪・パラ開会日飛行/都内、密回避へ時間は当日発表」

それでも五輪「中止」30~40%~菅内閣支持率も低迷

 先週末の7月9~11日に実施されたNHKと読売新聞の2件の世論調査の結果が報じられています。
 東京五輪を巡っては、7月8日に東京、千葉、埼玉、神奈川の4都県での競技は無観客とすることが決まったばかりでした。この決定をどう思うかを尋ねたNHKの調査では、「適切だ」が39%だった一方で、「大会は中止すべきだ」が30%でした。
 読売新聞の調査では、大会をどうするのがよかったと思うかを尋ねており、「無観客で行う」40%と「中止する」41%が拮抗しました。興味深いことに、読売新聞は東京都に限定した調査結果も報じており、それによると「中止」が50%に上っています。調査方法の詳細が不明ですので、調査の精度には一定の留保が必要だとは思いますが、7月23日の開幕まで2週間を切った時点で、30~40%が「中止」を求め、メイン開催地の東京に限ればそれが半数に上っています。NHKの調査では、五輪開催の意義や感染対策について、政府や組織委員会の説明に「納得していない」との回答が「あまり」「まったく」を合わせて65%に上っています。控え目に言っても、五輪が日本社会で歓迎されているとは言い難いように思います。
 菅義偉内閣の支持率も低迷が続いており、読売新聞の調査では「支持」は前月と同じ37%、東京都民に限定すれば9ポイントも低い28%となっています。どうやら、五輪開催の強行は政権浮揚には結びついていないようです。

【内閣支持率】 カッコ内は前月比、Pはポイント
▼NHK 「支持」33%(4P減) 「不支持」46%(1P増)
▼読売新聞 「支持」37%(±ゼロ) 「不支持」53%(3P増)
 ※東京都 「支持」28% 「不支持」63%

 以下に五輪関係の主な質問項目と回答状況を書きとめておきます。
▼NHK
・東京オリンピックでは、東京など首都圏の1都3県の会場を無観客にすることになりました。この決定をどう思うか。
 「適切だ」39%
 「観客を制限して入れるべきだ」22%
 「観客を制限せずに入れるべきだ」4%
 「大会は中止すべきだ」30%
・東京大会を開催する意義や感染対策についての政府や組織委員会などの説明にどの程度納得しているか。
 「大いに納得している」3%
 「ある程度納得している」28%
 「あまり納得していない」42%
 「まったく納得していない」23%
▼読売新聞
・東京オリンピックは東京都などほとんどの会場での無観客の開催が決まりました。あなたは、どうするのがよかったと思いますか。次の3つの中から、1つ選んで下さい。
 「少しでも観客を入れる」17%
 「無観客で行う」    40%
 「中止する」      41%

「緊急事態なら中止が筋」(高知新聞)、「期間中でも縮小や中止ためらうな」(神戸新聞)~五輪「中止」「打ち切り」の社説、論説

 東京五輪を巡る波乱と混乱が続いています。
 東京、千葉、埼玉、神奈川の1都3県で行われる競技は無観客とすることが7月8日に決まったのに続き、北海道、福島県での競技も10日までに有観客から無観客に変更となりました。残る有観客での実施は宮城、静岡両県と、学校連携の児童生徒らのみの茨城県です。そんな中で東京都は12日、新型コロナウイルス感染拡大の防止のために、4回目の緊急事態宣言に入りました。8月8日までの五輪会期中はまるまる宣言下です。
 コロナ禍と五輪を扱った7月9日付、10日付の新聞各紙の社説の中には、「緊急事態なら中止が筋だ」(高知新聞)、「無観客でも開催してはならない」(信濃毎日新聞)との主張や、「期間中でも大会の縮小や中止をためらってはならない」(神戸新聞)との主張があります。「中止」や「打ち切り」の選択肢を残すべきだとの指摘には、わたしも同感です。

 以下に、目に付いた社説の見出しと本文の一部を書きとめておきます。

【7月9日付】
▼毎日新聞「宣言下で五輪開催へ 感染爆発防ぐ対策見えぬ」/遅れる経済・生活支援/全面無観客が大前提だ
https://mainichi.jp/articles/20210709/ddm/005/070/128000c

 今後、感染の急拡大で医療体制が崩壊するような最悪の事態も起こりうる。主催者は状況に応じ、大会の中止や競技の打ち切りといった選択肢も想定しておく必要がある。

▼信濃毎日新聞「宣言下の五輪 無観客でも『安心』はない」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070900163

 菅首相はきのうの会見で、世界中の人々の心を一つにし、パラリンピックを通じて「心のバリアフリー」を発信できると、両大会の意義を強調した。
 健康と暮らしに重圧がかかる現実の中、情緒的な言葉は国民に響くだろうか。安全安心な大会を目指す策として首相が示したのは、テレワークや交通規制といった従来の対策にすぎない。
 ワクチンが行き渡るまで感染抑制に集中すべき局面にある。国民の理解と協力を得られる発信力と具体策がない。無観客でも開催してはならない。

▼高知新聞「【東京五輪】緊急事態なら中止が筋だ」
 https://www.kochinews.co.jp/article/470161/

 五輪の規模はほかのスポーツイベントと異なる。無観客でも関係者らの入国で人の流れは増え、感染リスクの増大は避けられない。国民の命や健康への影響が懸念される状況では五輪を中止するのが筋である。

【7月10日付】
▼朝日新聞「無観客五輪 専門知、軽視の果てに」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14968681.html

 今後、感染状況がさらに悪化して医療が逼迫(ひっぱく)し、人の命が脅かされるようなことになれば、聖火がともった後でも中断や中止に踏み切る。それだけの覚悟を固めておく必要がある。

▼福井新聞「緊急事態宣言下の五輪 開催の大義はどこにある」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1354633

 五輪憲章は、人間の尊厳に重きを置く平和な社会を推進させるためにスポーツを役立てることをオリンピズムの目的に定める。五輪という競技会は単なるスポーツイベントでない。友情、連帯、フェアプレーの精神、そして相互理解の理念を世界が一緒になって体現していく場なのだ。
 内実は伴っているか。開催の大義は失われていないか。開幕までのわずかな時間で突き詰めねばならない。

▼京都新聞「無観客の五輪 重大なリスク残ったままだ」/持てる最後のカード/専門家の警告聞かず/最悪の事態に備えを
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/595824

 大会期間中、国内の感染拡大を確実に抑え込めるかどうかは未知数だ。人の動きの増加によって感染爆発など最悪の局面が生じた場合、五輪を続行するのかどうかの判断基準を国民に示しておく必要もあるだろう。
 あらゆる事態に備え、感染リスクを最小化することが政府の責務である。

▼神戸新聞「宣言下の五輪/無観客でも安心できない」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202107/0014487635.shtml

 開幕2週間前まで二転三転した判断に、チケット購入者やボランティアら多くの人が翻弄された。有観客での開催にこだわり迷走を重ねた菅義偉首相の責任は極めて重い。
 東京五輪は緊急事態宣言下で開かれる異例の大会となる。国民の不安は大きいと言わざるを得ない。
 感染抑止のために国民に我慢を強いる一方で、世界最大級のイベントである五輪を開く。それ自体が矛盾をはらむ。首相は会見で「全人類の努力と英知によって難局を乗り越えていける」と述べたが、不安の解消につながる具体策は示せなかった。感染状況がさらに悪化する事態に陥れば、期間中でも大会の縮小や中止をためらってはならない。

▼中国新聞「『無観客』五輪 開催意義、正面から語れ」
 https://www.chugoku-np.co.jp/column/article/article.php?comment_id=771609&comment_sub_id=0&category_id=142

 開幕まで2週間を切る中、大会運営は大幅な見直しを強いられ、さらなる混乱も懸念される。無観客で感染リスクは低減できるだろうが、不安材料は尽きない。国際オリンピック委員会(IOC)や政府は、感染状況が悪化すれば、大会の縮小や競技の打ち切りなども想定しておくべきだ。

▼西日本新聞「1都3県無観客 『安心な五輪』には程遠い」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/768127/

 緊急事態宣言を含む感染対策は国民に負担や痛みを強いて、イベントや地域行事の中止も迫った。その不満は、最後まで開催の是非を検討することのなかった五輪にも向けられている。
 今聞きたいのは「無観客」にしてまでも五輪を開催する意義と、不安をなくすための具体策である。菅首相や橋本聖子組織委会長から国民に語り掛けるメッセージが伝わってこないのは残念でならない。

  ここで紹介した以外のものも含めて、7月9日付~11日付の五輪関連社説を以下の記事に追記しました。
 

news-worker.hatenablog.com

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「中止」の選択肢なお必要~東京五輪、1都3県「無観客」の報道の記録

 東京五輪の開幕まで15日となった7月8日、東京都と首都圏3県で実施される競技は無観客となることが決まりました。政府はこの日、新型コロナウイルスの感染者の拡大が続いている東京都に対し、現在のまん延防止重点措置を12日に緊急事態宣言に切り替えることを決定。かねて菅義偉首相は、宣言となれば無観客も辞さないと表明しており、8日夜の政府、大会組織委員会、東京都、国際オリンピック委員会(IOC)などの5者協議で、4都県の無観客が決まりました。9日付の東京発行新聞各紙の朝刊(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)はそろって1面トップの扱い。総合面や社会面でも関連記事を大きく掲載し、社説でも取り上げました。
 報道を見ていると、今回の「無観客」の決定で東京五輪を巡る主要な課題の検討は終わり、後は感染予防対策をしっかり実施しながら開幕を待つばかり、という雰囲気が濃厚です。しかし本当にそうなのでしょうか。今からでも「中止」を検討する余地を残しておく必要があるように思います。

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 いつごろからか、東京五輪を巡っては「開催か中止か」の選択もあるはずなのに、もっぱら「有観客か無観客か」が焦点であるかのようになっていました。大きな転機は6月のG7首脳会議の報道だったように思います。菅義偉首相が東京五輪の開催について「全首脳から力強い支持をいただいた」と記者会見で誇らしげに語ったことが報じられ、また首脳声明にも大会開催を支持することが盛り込まれたと、盛んに喧伝されました。この点についてわたしは以前の記事で「実態よりもその意味合いが誇張されて伝わっているのではないか」「“水増し感”がある」と書きました。
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/17/004931 

news-worker.hatenablog.com

 しかし、この「国際公約」の主張をマスメディアが疑うこともなく報じたことも一因になって、日本社会は「もはや『中止』は選択肢にない」というムードに一気に覆い尽くされたように思います。その中には「いくら中止を求めても、もう無理なのかもしれない」とのあきらめの感覚も少なからずあったはずです。
 例えば、政府の対策分科会の尾身茂会長ら感染症の専門家の有志グループが6月18日に政府と組織委員会に提出した提言です。「無観客開催が望ましい」とし、観客を入れる場合でも制限を厳しくし、感染拡大などの兆候があれば躊躇なく無観客にするよう求める内容でした。尾身会長は会見で、当初は「五輪開催の有無も含めて検討してほしい」の文言があったのに、菅首相が国際的な場で開催を表明し、専門家で開催の是非を検討することは実際的にはほとんど意味がなくなった、と話していました。
 一方で、マスメディア各社の世論調査では、五輪開催によってコロナ感染が拡大するのではとの不安を感じるとの回答が8割超に上っています。政府や大会組織委は「安全安心」を強調しますが、対策には穴や漏れがあることが指摘されています。感染拡大阻止の切り札とされるワクチンにしても、スピード感を演出するためでしょうか。思い付きのように自衛隊による大規模接種や職域接種を進めた結果、ワクチン不足に陥り、計画性のなさが露呈しています。何の憂いもなく安心して23日の大会の開幕を待つ、という状況では到底ありません。
 なおも「中止」の選択肢は手放すべきではないのではないか。そういう観点からの記事が必要だと思うのですが、9日付の各紙の報道では、極めてわずかでした。目に止まったのは、毎日新聞の社説の一節と、東京新聞の特報面の記事(「コロナに『勝てなかった』証しでは/有効な感染対策は『中止』しかない」)ぐらいです(※ほかの記事を見落としている可能性はあります)。
 毎日新聞の社説は「今後、感染の急拡大で医療体制が崩壊するような最悪の事態も起こりうる。主催者は状況に応じ、大会の中止や競技の打ち切りといった選択肢も想定しておく必要がある」としています。
 このまま平穏無事に開幕を迎えられるのか。マスメディアの報道をも含めて注視しています。

 以下に9日付の在京紙各紙の主な記事の見出しを書きとめておきます。
▼朝日新聞
 1面トップ「4都県 五輪無観客/会場規模・昼夜問わず一律/宮城・福島など4県は有観客」
 1面「東京 4度目緊急事態/政府決定 違反の店『厳しく対応』/来月22日まで 沖縄は延長」/「都、酒提供全面認めず」
 2面・時時刻刻「首相裏目 宣言下の五輪/『ワクチンで抑制』崩れたシナリオ」「移動多い夏『強い対策』考慮」
 3面「観客数 迷走の果て/昨秋 世界から観客/4月『無観客覚悟』/6月 上限1万人/7月 無観客」
 社会面トップ「五輪は、やるのに/また酒に制限『予想してたけど、矛盾』」「無観客『日本で試合する意味は』」
 社説「4度目の宣言 矛盾する『発信』に懸念」

▼毎日新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/5者協議で決定/感染急拡大受け一転/IOC会長来日」
 1面「東京4回目『緊急事態』/来月22日まで 酒類提供禁止」/「首相、発令を陳謝/1回目接種 月内 国民4割目標」
 2面「感染抑止どこまで/人出減少など不透明」「都、百貨店休業求めず」/「政府 ワクチン頼み/首相会見 供給減り自治体混乱」
 3面・クローズアップ「IOC無責任露呈/開催可否論じぬまま/世論意識し政府転換」「チケット対応二転三転/組織委に未練」
 社会面トップ「緊急事態下 矛盾の五輪/『酒制限』『無観客』に怒り」/「『水際対策に人員を』/都医師会長が訴え」
 社説「宣言下で五輪開催へ 感染爆発防ぐ対策見えぬ」/遅れる経済・生活支援/全面無観客が大前提だ

▼読売新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/東京に緊急事態 決定/宮城・福島・静岡は上限設定/5者会談」
 1面「飲食店へ協力金先渡し」/「酒提供 休業要請 都」
 2面「IOC、観客数こだわらず/開催で放送権料確保」/「無観客なら感染200人減/来月上旬・都内 1日あたり 筑波大推計」
 3面・スキャナー「有観客 最後まで模索/『人流増加』懸念 世論に配慮」
 社会面トップ「無観客『悲しい』/チケット保有者『望み消えた』」/「医師歓迎『当然だ』」/「都知事『断腸の思い』■茨城知事『小中高生のみ』」/「海外メディア『大会に打撃』」
 第2社会面「飲食業界 光見えず/氷屋3代目『存続の危機』」
 社説「緊急事態宣言 規制強化は丁寧な説明が要る」

▼日経新聞
 1面トップ「五輪、4都県は無観客/福島など4県、有観客」
 1面「都に4度目緊急事態/『まん延防止』4府県延長/来月22日まで」
 3面「酒提供禁止 徹底に限界」/「五輪会場の8割 無観客に/大会運営計画 見直し」
 第2社会面「『残念だが全力尽くす』/選手ら冷静、案ずる関係者」/「『無事成功を』『やむを得ない』…/会場もつ知事ら、思い複雑」
 社説「緊急事態宣言は最大限の効果引き出せ」

▼産経新聞
 1面トップ「五輪 1都3県無観客/宮城・福島・静岡は最大1万人維持/北海道検討中、茨城は学校連携のみ/5者協議」
 1面「迫る衆院選 政府、世論を考慮」※3面へ続く
 1面「首相『緊急事態 感染に着手』/東京4回目 酒提供、過料何度でも」
 2面「五輪前対策 最後の機会/ワクチン挽回 首相重責」/「警備・ボランティア 運営計画を大幅修正」
 3面「組織委・都 有観客こだわり/政府、感染爆発恐れ対応転々」※1面から/都、酒提供停止を要請へ/補正5118億円 協力金『先渡し』検討
 社会面トップ「宣言下で五輪 都に焦り/酒・ワクチン『いくつも急所』」/「飲食店『せっかく仕入れたのに』」
 社説(「主張」)「コロナ緊急事態 五輪『無観客』は大失態だ/宣言は4回目を最後とせよ」/「公約の破棄」に等しい/ワクチン接種の徹底を

▼東京新聞
 1面トップ「五輪1都3県無観客/開催期間 東京に緊急事態/5者協議、茨城・静岡では観客/4度目、来月22日まで」/「酒提供は原則禁止」/「首相、五輪リスク・責任答えず」
 2面・核心「安全安心 矛盾の五輪/緊急事態宣言下 感染拡大の懸念/人出増加、ワクチン供給に急ブレーキ」
 2面「小池知事『断腸の思い』/五輪無観客 首相と協議し『流れ』」/「橋下組織委会長 チケット購入者に謝罪」/「無観客でも大会関係者は観覧可能/参院厚労委で政府方針」
 3面「卸業者に取引停止要請/『酒提供なし』協力金一部先払い/政府 酒提供飲食店対策」
 特報面「コロナに『勝てなかった』証しでは/有効な感染対策は『中止』しかない/安倍政権楽観 ・早期に国産ワクチン・今夏に接種ほぼ完了・アビガンが特効薬に/菅政権 後手 ・穴だらけバブル方式・拡大する変異株脅威・ワクチン供給減急減速」
 社会面トップ「『またか』都民、宣言疲れ/自粛の繰り返し 不満噴出/迫る五輪『絶対に無観客』『楽しめない』」/「『残念』『翻弄された』チケット保有者落胆」/「『どんな対策でも安全開催へ支持』バッハ会長が来日」
 第2社会面「都、酒提供停止求める/都内全域、感染防止策発表」/「東京から感染拡大警戒/神奈川・千葉・埼玉 まん延防止継続」
 社説「4度目の宣言 対策の迷走が目に余る」※中日新聞と共通

菅首相のガッツポーズと橋本聖子会長「厳かに」の埋めようがない落差

 ものごとの受け止め方、感じ方は人それぞれであることを踏まえつつ、あまりにも違和感が大きいために、これは記録に残しておきたいと考え、書きとめておきます。
 7月7日の夜、職場で19時からのNHKニュースを見ていたら、東京五輪の日本選手団結団式と壮行会の中継が始まりました。当日の朝刊のテレビ番組欄には予告が入っていたので、当初からNHKニュース内での中継を前提にスケジュールが組まれていたのかもしれません。
 新型コロナウイルス対策として、会場にはごく少数の選手、関係者がいるだけで、代表選手の多くはリモート参加のようでした。結団式に続く壮行会で、菅義偉首相のビデオメッセージが流れました。その様子をスポーツ報知は以下のように伝えています。

 菅首相は64年東京五輪の記憶をひもとき「特に鮮明に覚えてるのは、東洋の魔女と呼ばれた女子バレーボールチーム。回転レシーブでボールを繋ぎ、見事に金メダルを獲得しました。日本人がメダルを取るたびに日本は世界と戦えるんだ、ということを強く感じた」と懐かしそうに振り返った。
 世論の逆風がやまぬ中の開催となる。「世界が新型コロナという大きな困難に直面する今だからこそ、私達が団結してこの困難を乗り越えられることを世界に発信する大会としたい。日本で開催されるオリンピックへ出場する喜びをかみしめながら、世界中のアスリートを相手に自分の力を思う存分発揮し、最高のパフォーマンスを見せてください。頑張れ!ニッポン!」と、ガッツポーズで締めくくった。

 ※スポーツ報知「菅首相が『頑張れ!ニッポン!』とガッツポーズ…五輪壮行会にメッセージ」=2021年7月6日
 https://hochi.news/articles/20210706-OHT1T51172.html

 どうにも違和感を覚えたのは、メッセージに一貫していた歓喜のトーンと、最後のガッツポーズでした。
 折しも静岡県熱海市では、7月3日に発生した土石流災害の捜索活動がこの日も続いていました。壮行会の中継のさなかに、わたしの職場では「新たに2人が死亡」の速報がもたらされました。菅首相のうっすらと笑みを浮かべたガッツポーズと、必死の捜索が続く災害現場の情景とのあまりの落差に、いたたまれない気持ちになり、息苦しさを覚えました。
 この東京大会は「復興五輪」のはずでしたが、菅首相は一言も触れませんでした。

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※写真は日本オリンピック委員会(JOC)のユーチューブチャンネル「JapanOlympicTeam」の動画から
 https://www.youtube.com/watch?v=XZocCAL3Wc0&t=339s

www.youtube.com

※菅首相のガッツポーズは10分35秒のあたりです 

 壮行会は選手を激励する場です。災害発生時であれ、ガッツポーズも別に問題はないのかもしれません。しかし、わたしにはどうしても引っかかることがありました。それは、大会組織委員会の橋本聖子会長が、読売新聞のインタビューで「厳かに」という言葉を口にしていたことです。
 インタビューは7月3日付の朝刊11面(解説面)に「託された開催 日本の信頼に/コロナ禍 五輪の意義」の見出しで掲載されました。この中で橋本会長は以下のように話しています。

 「以前なら、人々にどれだけ大きな感動と歓喜を味わっていただけるかが仕事だった。しかし今、人流増への懸念で、どう祝祭感を抑えるかという、難しい課題に直面している。大会のイメージは、開会式で例えれば、『厳かに』という言葉になるのかと。人々には心の中で、自分自身の思いを握りしめていただく。開催できたことへの、世界の選手たちの感謝とともに」

 また、次のようにも話しています。

 「私たちは、オリンピック・パラリンピックは特別なものと感じ、感動や歓喜の中で過ぎていくのに任せてきた部分があった。今回意義や価値を問われたことは良かったと思う」

 感動と歓喜を凝縮したかのような菅首相のガッツポーズと、橋本会長の「厳かに」との言葉との間にあるこの落差は埋めようがないように思います。

自民にひときわ厳しい読売新聞、産経新聞~都議選の各紙社説

 7月4日の東京都議選について、新聞各紙が6日付の社説で取り上げています。東京発行紙では朝日、毎日、読売、産経、東京の各紙が掲載しました。共通しているのは、自民党と菅政権に対して「事実上の敗北」(朝日)ととらえていることです。
 その中でも、読売新聞と産経新聞の厳しさが目立ちます。読売新聞は「政治とカネをめぐる不祥事や、公文書改ざん問題などに適切に対処しなかったことが、底流にあろう。『自民1強』の驕りに、有権者が強い不満を抱いていることを真摯に反省すべきだ」と、安倍晋三前首相当時にまでさかのぼって、反省を求めているとも読めそうな一文が目を引きました。
 産経新聞は、中国共産党の創建100年に自民党が二階俊博幹事長名で祝賀のメッセージを送ったことを挙げて「こうした姿勢に保守層が反発を強めたことも、過去2番目に低い42・39%という投票率に表れたのではないか」と、低投票率の責任をも自民党の対中姿勢に求めています。
 以下に東京発行の5紙のほか、地方紙の関連する社説の見出しと、本文の一部を書きとめておきます。

▼朝日新聞「東京都議選 菅政権への厳しい審判」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S14963210.html

 感染が再拡大している新型コロナ対策や目前に迫る東京五輪への対応など、菅首相の政権運営に対する都民の厳しい審判とみるべきだ。
 (中略)
 東京五輪についても、「開催ありき」で突き進む政権と都民の意識の乖離(かいり)は大きかった。
 朝日新聞が告示後に都民を対象に行った世論調査では、延期・中止が6割、開催する場合も無観客が6割超を占めた。首相が繰り返す「安全安心な五輪」に、足元の都民が信を置いていないことは明らかだ。「無観客」での開催を公約に掲げた都民ファが自民に迫る第2党となり、「中止」を強く訴えた共産党が議席を積み増したことを重く受け止めねばならない。

▼毎日新聞「都議選で自民振るわず 政権不信の民意示された」
 https://mainichi.jp/articles/20210706/ddm/005/070/048000c

 菅義偉政権の新型コロナウイルス対策の迷走と、東京オリンピック・パラリンピック開催ありきの姿勢に、東京都民の不満と不信が示された形だ。
 (中略)
 自公は世論の反発が強い五輪問題を公約に盛り込まず、争点化を避けた。首相はワクチン接種を迅速に進めるとアピールし、観客を入れての開催に固執してきた。
 しかし「安全・安心な大会を実現する」と繰り返すだけで、国民の不安に応えようとしない態度に厳しい民意が突きつけられた。ワクチン供給を巡る混乱も響いた。
 感染が再拡大する中、公明党の山口那津男代表でさえ選挙戦終盤には、無観客も視野に入れるべきだと主張したほどだった。

▼読売新聞「勝者なき都議選 有権者の批判どう受け止める」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210705-OYT1T50323/

 どの政党も有権者からの積極的な支持を得られず、勝者のいない選挙だったと言えよう。与野党ともに、強い危機感を持つ必要がある。
 (中略)
 選挙戦の序盤では、自民党が優勢という見方も出ていた。だが、新型コロナウイルスの新規感染者数が増加に転じる中でワクチン供給が遅れ、東京五輪・パラリンピック開催にも不安が広がった。これらが逆風となった形だ。
 政治とカネをめぐる不祥事や、公文書改ざん問題などに適切に対処しなかったことが、底流にあろう。「自民1強」の 驕りに、有権者が強い不満を抱いていることを 真摯に反省すべきだ。

▼産経新聞「自民の『敗北』 為すべきことの徹底図れ」
 https://www.sankei.com/article/20210706-6WFREXHL5NKJ7CGE5LLUWFXTVY/

 衆院選の前哨戦として注目された東京都議選で自民党は33議席を得て第一党を奪還した。ただし、分水嶺(ぶんすいれい)とされた自民と公明党を合わせて過半数に達する目標は大きく下回った。公明は候補者全員が当選を果たしたのだから、実質的には自民の「敗北」である。
 (中略)
 自公両党は公約で五輪開催の是非には触れず、選挙戦では感染対策を徹底した上で開催すべきだと主張してきた。
 この分かりにくさが、五輪への嫌悪感を助長したと反省すべきである。政府・与党が五輪の魅力を十分に発信することができていれば、結果は違ったはずだ。
 新疆ウイグル自治区や香港などでの深刻な人権侵害問題を抱える中国共産党の創建100年に自民は二階俊博幹事長名で祝賀のメッセージを送った。
 こうした姿勢に保守層が反発を強めたことも、過去2番目に低い42・39%という投票率に表れたのではないか。
 政府・与党が出直すために為(な)すべきことは何か。ワクチン接種を進め、五輪・パラリンピックを成功させ、自身の立ち位置を再確認し、徹底することである。

▼東京新聞・中日新聞「東京都議選 政権不信と向き合え」
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/114863?rct=editorial

 自治体の議員選挙とはいえ、国政と無縁ではない。新型コロナウイルス感染症や東京五輪・パラリンピックの対応に対する有権者の政権不信の表れだと受け止めるべきである。
 (中略)
 自公両党は選挙戦でワクチン接種の着実な推進を訴えたが、職場接種の新規受け付け中断などワクチン安定供給への懸念が生じたことも選挙戦で不利に働いた。
 東京は五輪の開催都市であり、小池氏はその責任者だ。五輪への不満は都民ファにも向けられて当然だが、それでも第二党にとどまったのは無観客開催を求めるなど都民の不安を代弁し、中止や延期を主張した共産、立民とともに政権批判票を取り込んだためだ。
 菅政権は都議選結果に表れた有権者の不安や不満に、真摯(しんし)に向き合わねばならない。

▼北海道新聞「都議選自民不振 政権は批判受け止めよ」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/563752?rct=c_editorial

 東京で感染が再拡大する中、菅義偉政権はワクチン接種の供給不足に陥るなど迷走した。五輪も観客入りで開催する方針を示してきたが「安全・安心」の根拠を十分に説明していない。
 選挙戦で自民党は五輪開催方針を支持しつつも公約に盛り込まず、積極的に論じなかった。
 こうした姿勢に不満が高まり、政権批判が結果に表れた。首相は「期間を置いてしっかり分析して次に備えたい」と語ったが、危機感が乏しいと言わざるを得ない。

▼河北新報「東京都議選と各政党/民意と捉えて衆院選に臨め」
 https://kahoku.news/articles/20210706khn000002.html

 東京五輪で菅首相は観客を入れての開催にこだわり、前のめりとも言える姿勢を見せてきた。だが、感染の「第5波」の到来が現実味を帯びる中、菅首相が言う「安全、安心な大会」の根拠が揺らいでいることへの不安は大きい。
 自公が選挙戦で五輪の問題を避けた一方で、「無観客」を掲げた都民ファーストの会が議席減を一定程度に食い止めたほか、「中止」を主張した共産党、「中止か延期」を公約にした立憲民主党は議席を増やした。五輪に対する有権者の微妙な心理が投票行動に影響を与えたとみることはできよう。

▼信濃毎日新聞「都議選自民苦戦 感染対策と五輪の批判だ」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070600133

 新型コロナウイルス対策と東京五輪に対する有権者の批判が表れたといえる。
 (中略)都内では新型コロナの新規感染者数が増加傾向で、「第5波」への懸念が強まっている。それなのに政府の対策は、ちぐはぐだ。
 ワクチン接種を「切り札」と訴えながら、職場接種の新規受け付けを停止した。再拡大の懸念があるのに東京五輪の開催方針を見直さず、無観客の必要性を訴える専門家の警告を無視した形で「上限1万人」を決めた。海外選手が入国時に新型コロナ陽性となった場合の対応も混乱した。

▼京都新聞「都議選の民意 コロナと五輪 不安映す」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/593265

 新型コロナウイルスへの対応と東京五輪・パラリンピック開催を巡り、政権与党への根強い不満が突き付けられたといえよう。
 (中略)当初は楽観論もあった「自公で過半数」が失速したのは、コロナと五輪開催に対する都民の不安を映している。感染の再拡大傾向が表れ、頼みのワクチン接種が供給不足で滞ったことが政権与党への逆風となったとみられる。
 (中略)菅首相は、目標議席を下回る結果を「謙虚に受け止める」とした。五輪を成功させ、その余勢を駆って解散総選挙に臨む意向とされるが、五輪に対する民意の厳しさをしっかりと認識すべきだ。

▼徳島新聞「都議選自民苦戦 菅政権への不信表明だ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/554253

 原因は、政府が主導する新型コロナ感染防止対策や東京五輪開催問題での不信感だ。政権には、有権者の「なぜ」に向き合う姿勢と努力が欠けていた。
 五輪とパラリンピックが終われば、衆院選は目前となる。政権のカードは、ワクチン接種の進捗(しんちょく)と五輪の盛り上がりである。果たして、有権者の不信を拭い去る切り札になるのだろうか。解散時期を含め、厳しい政権運営を迫られる。

▼西日本新聞「東京都議選 自民党に政権不信の逆風」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/765845/

 第1党の座を奪い返したとはいえ、伸び悩みは歴然としており、勝利と呼ぶには程遠い。自民党は自らに吹く民意の逆風を重く受け止めるべきだ。
(中略)自民は4月の国政3選挙で不戦敗を含め全敗し、北九州市議選などの大型地方選挙でも敗北が続く。間もなく五輪を開こうという首都で、想像以上の逆風を浴びた痛手は大きい。菅義偉首相にとっては、場当たり的なコロナ対策を改め、ワクチン接種を順調に進めて国民の不安解消に努めるしかないだろう。

 

勝者はいなくても自民は大敗~都議選で示された民意に大きな変化の予感

 東京都議選が7月4日、投開票されました。主な党派別の結果は以下の通りです。

  •  改選前第1党の都民ファーストの会は45議席から31議席に減
  •  4年前の前回、歴史的大敗を喫した自民党は25議席から33議席になり第1党に
  •  公明党は現有議席数と同じ23人が立候補し全員当選
  •  共産党は改選前18議席に1議席上積みし堅調
  •  立憲民主党は改選前8議席をほぼ倍増させて15議席

 告示前は、都民ファーストの会が大幅に議席を減らし、自民党がその分、復調して、自公で過半数を押さえる―との観測が大勢を占めていました。しかし、終わってみれば自民党はさほど伸びない一方で、都民ファーストの会は後退戦ながら善戦したと言えそうです。選挙協力を試みた共産、立民は堅調ないし躍進ですが、議席数そのものは自公に水をあけられています。
 誰が勝ったと言えるのか、よく分からない結果になりました。東京発行の新聞各紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京の6紙)の5日付朝刊では、6紙とも主見出しは「自公過半数届かず」でそろいました。極めて異例のことだと感じます。ニュースとは本来「~であること」です。「自公が過半数を獲得した」ならニュースです。「~でないこと」は仮にニュースであっても副次的なのですが、それを主見出しに持ってくるしかないこと、しかも全紙そろって、というところに、この選挙結果の意味づけの難しさが表れているように思います。

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 ただし、誰が勝ったのかはともかくとして「誰が負けたのか」という視点で見れば、自民党が敗北、それも「大敗」と言っていいレベルであることは間違いがないとわたしは考えています。
 そもそも勝敗ラインと位置付けられていた「自公で過半数」に遠く及びません。
 第1党に返り咲いたと言っても「33」は、以下のように過去の獲得議席数に比べれば大敗と呼ぶしかない水準です。
 1997年=59、2001年=53、05年=48、09年=38、13年=59、17年=23
 東京都議選に近接する国政選挙では過去、都議選の結果と傾向が一致することが少なくありませんでした。自民党が都議選で38議席に落ち込んだ2009年には、衆院選で民主党が圧勝して自民党は下野し、政権交代が起きています。「33」はその時よりも少ないのです。

 ことし、衆議院は10月21日に任期満了を迎えます。秋に必ず行われる衆院選はどんな選挙になるのか。そのことを考える上で、都議選の結果は興味深い見方ができることに気付きました(SNS上で友人が指摘しているのが目に止まりました)。
 前回と今回で、都民ファーストの会、自民党、公明党の獲得議席の総計がどのように変わったかの比較です。
・前回2017年
 都民ファースト55、自民23、公明23=計101
  ※都ファは追加公認6を含む
・今回2021年
 都民ファースト31、自民33、公明23=計87

 都民ファーストの会は東京限定の地域政党です。都議選だけを見ていると、自民か都民ファーストか、という構図になるのですが、衆院選ではこの構図はありません。都民ファーストの会は、投票先としては国政では自民党と親和性が高いように思います。言葉を換えると、自民党と都民ファーストの会の間には、立憲民主党や共産党との間ほどの違いはないはありません。
 また、公明党は前回は都民ファーストの会とともに小池百合子知事を支援する勢力でした。そうしたことを考えると、自民党と都民ファーストの会、公明党の議席数の合計が前回から14も減ったことの意味は小さくはありません。コロナ対策やワクチン確保、五輪開催の是非等にとどまらず、もっと大きく、深いところで、有権者が自民党ないしは自民党的なもの、あるいは自公連立政権を見限り始めている可能性があると思います。
 都議選で共産党と立憲民主党の獲得議席数は計34にとどまりますが、衆院選を見据えると、自公、都民ファーストとの議席数差を超える大きな意味があるようにも思えます。衆院選では、野党が票の受け皿をしっかり用意できるかどうかが焦点になります。両党は共闘を模索しています。都議選で示された民意は、そうした動きを後押しするように思います。都議選の投票率は42.39%で前回より8.89ポイント下がり、過去2番目の低さでしたが、受け皿作りが進めば、有権者の関心も高まるでしょう。今後の展開次第で、衆院選で大きな変化が起こる可能性があることを、都議選の結果は示しているように思います。民主主義社会では、政権を担当することが可能な政党を育てるのも主権者の役割だと、あらためて感じます。

 以下に、東京発行の新聞各紙5日付朝刊のうち、都議選の本記の見出しと、総合面の関連記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
1面「自公、過半数届かず/都議選 衆院選へ打撃/自民33 都民ファ31」
2面・時時刻刻「自公、コロナ逆風」「楽観、ワクチン不足で一変」「小池氏、最終日に都民ファ激励」「野党共闘は健闘、不安も」

▼毎日新聞
1面トップ「都議選 自公過半数届かず/都民ファ 盛り返す/衆院選前 政権に打撃」
3面・クローズアップ「『不在』小池氏 終盤動く」「都民フ陣営 20カ所激励」「自民 想定外の失速」「立憲・共産 共闘手応え」

▼読売新聞
1面トップ「自公過半数届かず/衆院選に危機感/都議選/都民ファ第1党陥落」/「自民幹部『予想外の結果』」
3面・スキャナー「自民 コロナで逆風/五輪対応に批判も/首相 解散戦略に誤算」「小池知事 終盤で都民ファ応援」

▼日経新聞
1面「自公、過半数届かず/都議選 自民第1党、都民ファ拮抗/公明は23人全勝」
2面「自民、衆院選へ懸念/公明との協力 再構築」「立民、候補一本化へ調整/共産と共闘、一定の手応え」

▼産経新聞
1面トップ「自公 過半数届かず/都議選 自民・都民 第一党競る」
2面「自民、衆院選に不安/五輪・コロナ『綱渡り』」

▼東京新聞
1面トップ「コロナ禍 自公過半数届かず/五輪『中止・延期』立共伸ばす/自民第1党 都民ファ続く」「衆院選へ 政権に打撃」
3面・核心「菅自民 コロナの暗雲/迫る衆院選 感染抑え込めず」「野党は共闘に課題」「投票率42%台/過去2番目の低さか」

「不公平で矛盾した運営」(信濃毎日新聞)、「『中止』排除してはならない」(高知新聞)~開幕まで3週間、東京五輪の「今」 ※追記 熱海で土石流・20人不明

 東京五輪は7月23日の開幕まで3週間を切りました。なのに、観客数をどうするかも決められず、一方では東京の新型コロナウイルスの感染状況はリバウンドし、感染者は増加の一途です。この「東京五輪の今」の状況を、長野県を発行エリアにする信濃毎日新聞が7月3日付の社説で端的にまとめています。

※信濃毎日新聞「コロナ禍の五輪 安全安心は遠のくばかり」=2021年7月3日
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021070300127

 感染抑止を優先するほど、選手や観客、報道関係者らにとり、不公平で矛盾した面をはらむ大会運営にならざるを得ない。
 (中略)
 観客を入れての開催にこだわる菅義偉政権や大会組織委員会の意向が、開幕まで3週間になっても方針が定まらない事態を招いている。相反するケースを想定して準備を急ぐ現場の労苦に、少しは思いを巡らしてはどうか。

 具体的に以下のような点を指摘しています。

 菅政権は、海外選手団の事前合宿を受け入れる自治体向けのコロナ対策の指針を、6月末になって慌ただしく改定した。

 事前合宿は中止が相次ぐ。海外の選手たちは時差や暑さに慣れる日数が限られ、十分な調整もできない。競技関係者から「不公平だらけだ」との声が漏れる。

 濃厚接触者と判定された選手の出場を認めるか否かは「調整中」という。仮に認めれば、無観客になっても、選手間の感染リスクは拭えなくなる。

 米国の有力紙など12社は、記者の行動制限に抗議する書簡を組織委と国際オリンピック委員会に送付した。「自由な報道を脅かす危険な前例となる」とのもっともな訴えも、感染抑止とは並び立たない。この状況で五輪を開く無理を端的に示している。

 米メディアの抗議は朝日新聞が詳しく報じています。
※朝日新聞デジタル「『取材規制は五輪憲章違反』 米メディアが組織委に抗議」=2021年7月2日
 https://www.asahi.com/articles/ASP7225L9P72UHBI003.html

 書簡は、組織委がGPSで記者の行動を追跡するとしているものの、データがどのように集められ、保管されるのかが明らかにされていないと指摘。インストールを求められているスマートフォンアプリについても「機微に触れる個人情報が多く集められるが、どのように使われ、管理されるのか不明」とした。
 また、観客への取材が禁止されることや、新型コロナウイルスのワクチン接種を受け、マスクを着けても外出について規制を受けることなども問題視。「多くは、海外の記者だけを対象とし、観客や地元の記者の移動が自由に認められているにもかかわらず、変更されていない」と訴えた。

 五輪の取材・報道とは、競技場の中だけのことではありません。東京五輪に対しては日本社会の世論の圧倒多数(8割~9割)が新型コロナウイルスの感染拡大に不安を感じています。その中で開催が強行されることに、日本社会に住む人たちはどんな思いでいるのか。それを世界に伝えるのもマスメディアの仕事です。日本メディアも、海外で開催された五輪ではそうしてきました。「開催ありき」のゆがみが、ここにも出ています。
 もともと、新型コロナウイルスの感染拡大以前から、酷暑の時期の五輪開催には疑問の声が強くあり、マラソンの開催地は東京から札幌に慌ただしく変更されました。
 またこの時期は近年、日本各地で大きな災害が起きており、ことしも3日、豪雨に見舞われた静岡県熱海市で土石流が発生し、約20人の方が安否不明と伝えられています。

 7月3日付の新聞各紙の社説では、高知新聞が「無観客をためらってはならない」とした上で、「コロナの状況次第では、中止という選択肢があることを排除してはならない」と主張しているのが目を引きました。同感です。

※高知新聞「【東京五輪】無観客で感染を抑えよ」=2021年7月3日
 https://www.kochinews.co.jp/article/468759/

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 開幕まで1カ月の6月23日付以降に新聞各紙が掲載した東京五輪関連の社説・論説のうち、各紙のサイトで読めるものを以下の記事にまとめています。 

news-worker.hatenablog.com

 

※追記 2021年7月4日16時

 7月4日付の東京発行各紙の1面です。一人でも多くの方が救出されることを願っています。

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