ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

検証の対象は「安倍・菅政治」~“打算”の寄り集まり政権 1年で離散、投げ出し

 菅義偉首相が9月3日、17日告示、29日投開票の自民党総裁選に立候補しないことを党役員会で表明しました。前日は二階俊博幹事長に立候補することを伝えに党本部に出向いており、3日当日の新聞各紙朝刊の中には「総裁選出馬へ」の見出しが付いた紙面もありました。一夜にして、まったく逆の展開になりました。
 菅内閣の発足は昨年9月16日。その当時のこのブログ記事に、わたしはこんなことを書いていました。

 自民党総裁選が始まる前に、党内の各派閥が競うように菅氏支持を打ち出し、あっという間に大勢が決してしまったことは「打算の結果」としか言いようがありません。打算の寄り集まりなので、何かあれば離散も早いかもしれません。わたしが新内閣に感じるのは「不安」です。色々な意味で「大丈夫か」という不安があります。

 ※「『代わり映えのなさ』が『コロナ優先』民意とマッチ~菅義偉政権の高支持率」=2020年9月22日
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2020/09/22/112523

 退陣表明に至った直接の契機は、総裁選前に党役員人事と内閣改造をやると意気込んだものの、党内の反発を買って人事がうまく行かず、八方ふさがりを自覚したことでしょう。その舞台裏を新聞各紙は4日付朝刊で様々に探っています。日本の新聞の政治報道が得意とする分野であり、それぞれに興味深いのですが、もっともインパクトがあると感じたのはネットで目にした西日本新聞(本社福岡市)の次の記事です。記事に出てくる麻生太郎副総理兼財務相の地元は福岡県です。
 ※「『お前と一緒に沈められねえだろ』退陣表明前夜、“2A”から首相に三くだり半」=2021年9月4日
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/795598/

www.nishinippon.co.jp

 同じ神奈川県選出で信頼する麻生派の河野太郎行政改革担当相を要職に起用できないか―。だが、麻生氏は声を荒らげた。「おまえと一緒に、河野の将来まで沈めるわけにいかねえだろ」
 首相は説得を試みたが、麻生氏は最後まで首を縦に振らなかった。

 菅氏は表向き、新型コロナウイルス対策に専念するために総裁選に出馬しないことを決めたと主張しています。しかし1カ月もすれば権力を失う立場で、どんな強い対策が取れるというのか。理由としては理解しがたく、実際は “投げ出し”同然だろうと思いますし、マスメディアもそう報じています。「1年しか持たなかった」とみるか「よく1年も持った」とみるかはともかくとして、「派閥の離散」との1年前の予感が現実になったのかなと感じています。

 菅首相とその政権の特徴は、説明しない、聞かれたことに答えない、民意が求めていることをくみ取ろうとしない(民意に向き合わない)ことです。こうした政治は菅政権で始まったわけではなく、菅氏が官房長官を務めた安倍晋三前首相の当時に顕著になったことです。菅首相はその路線を引き継ぎ、安倍政権当時に解明が積み残しになった「桜を見る会」や森友学園などの疑惑を蒸し返さないことが党内で期待されていました。安倍政権では公文書の改ざんまで行われました。菅首相が退陣するのを機に、菅政権の1年間のみならず、総括の対象を「安倍・菅政治」としてとらえ、あらためて検証する必要があると思います。

 このほか、現在感じていること、考えていることを雑駁ながらいくつか書きとめておきます。
 ■五輪の政治利用がいっそうはっきりと
 この1週間ほど、菅首相は総裁再選を狙って党役員人事や内閣改造、9月中旬の衆院解散と総裁選の先送りなど、さまざまなことを目論みましたが、やることなすこと裏目に出て党内で反発が強まっていると報じられていました。総裁選不出馬もあるだろうと思っていましたが、表明があるとしたら、9月5日のパラリンピックの閉会を待って6日以降ではないかと思っていました。
 菅首相が世論の反対・慎重意見を一顧だにせず押し切り、五輪パラリンピックの開催を強行したのは記憶に新しいところです。コロナの感染拡大リスクもさることながら、わたしはそれ以上に、民意の多数の反対を押し切るという乱暴さが看過できないと考えています。そして、その閉会を見届けようともせずに政権の投げ出しを表明したことは、特にパラリンピックに対してあまりに失礼です。菅氏にとっては、五輪やパラリンピックの理念はどうでもよくて、開催の強行は、政権浮揚がねらいの露骨な政治利用だったことが一層はっきりしたように思います。

 ■政治報道の検証も必要
 今になって「コロナ対策に専念」を言うのなら、もっと前、6月のG7首脳会合のころに、五輪パラリンピックの中止を決断していれば、名実ともにコロナ対策に専念できたはずです。当時、世論調査では今夏の五輪開催強行に反対ないしは懐疑的な意見が多数を占めていました。あの時点で中止の決断をしていれば、内閣支持率も上昇に転じていたのではないかと思います。閉会後の世論調査では五輪自体は「開催して良かった」との肯定的な評価が否定的評価を上回りましたが、内閣支持率は続落し、何よりコロナは爆発的な感染拡大に至っています。五輪開催強行とコロナの爆発的感染との直接の関連性を証明するのは困難かもしれませんが、少なくとも五輪を中止していれば、五輪に費やしていた社会資源や労力をコロナ対策に注ぎ込むことは可能だったはずです。
 G7首脳会合で菅首相は、五輪開催に「全首脳から大変力強い支持をいただいた」と誇らしげに語りました。以後、五輪開催は日本国内で「国際公約」と位置付けられ、マスメディアもそう報じました。五輪開催が決定付けられたのがG7首脳会合でした。しかし、わたしはG7首脳会合で本当に菅首相が誇るようなやり取りがあったのか、疑問を持っています。
 ※詳しくは過去記事をお読みください
 「G7声明の英文サマリーに『東京五輪』は見当たらない~『全首脳から力強い支持』の“水増し感”」=2021年6月17日
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/17/004931
 G7首脳会合でのやり取りを詳細に検証したマスメディアの報道は、目にする限りありません。首相や外務省が発表することを報じて事足れり、ではないはずです。マスメディアの政治報道の自己検証課題ととらえた方がいいように思います。

 ■次の総裁選びと野党の対抗軸
 菅首相の不出馬表明によって、自民党総裁選の様相は一変しました。既に立候補を表明していた岸田文雄氏のほか、河野太郎氏、石破茂氏が軸になるとの報道が大勢です。河野氏、石破氏は、世論調査で「次の首相」候補として上位に挙がることが少なくありません。昨年の総裁選は党所属の国会議員だけの投票でしたが、今回は国会議員票と同数の地方組織票とで争われるようです。
 昨年は安倍政治の継承、言い方を変えれば安倍政権が積み残した負の課題は蒸し返さないことを結節点に、派閥力学で多数派を形成した菅氏が当選しました。今回は衆院選を直近に控えていることもあり、「選挙に勝てる総裁」選びになるようです。展開によっては人気投票になりかねません。安倍・菅政治を自民党として自己総括できるような総裁が選出されるのかどうか。注視したいと思います。
 自民党総裁選後の衆院選は、コロナ対策とともに安倍・菅政治の総括を争点にした政権選択選挙になりうると思うのですが、野党側の準備は遅れています。4日付の新聞各紙によると、立憲民主党からは、支持率が低迷している菅首相を相手にする方が良かった、との本音も漏れているようです。菅政権が自壊したというのに、野党が自公政治への対抗軸、別の選択肢を確固として示すことができていないのは極めて残念です。
 しかし、自民党を批判するだけ、野党の情けなさを嘆くだけでは何も変わりません。民主主義社会である以上、その社会の政治のありようは主権者のありようを映したものです。主権者が意思を示すことができるのは選挙の投票です。

 ■沖縄への視線
 日本本土に住む日本国の主権者が忘れてはならないことがあります。沖縄の過剰な基地集中です。
 菅首相の退陣表明に対して、沖縄県の玉城デニー知事は「沖縄の意見が聞き入れられなかったのは残念だ」とコメントしています。
 ※共同通信「『沖縄の意見聞き入れず残念』 辺野古で対立の玉城知事」=2021年9月3日
 https://nordot.app/806464008911110144

 県庁で報道陣の取材に「われわれは安倍晋三前首相の時から、辺野古移設は環境が破壊され時間がかかりすぎると述べてきた」と強調。次期首相にも沖縄の考え方を強く伝える構えを示した。

 沖縄の民意は辺野古新基地建設に反対なのは明らかです。しかし安倍政権は埋め立て工事を強行し、菅政権も踏襲しました。およそ日本本土であれば考えられないようなことが、沖縄では続いています。それを沖縄の住民に強いている政権は民主主義の手続きにのっとって成り立っています。個々に政権を支持する、支持しないにかかわらず、日本国の主権者である限り、沖縄への差別的な施策に対して責任は免れ得ません。安倍・菅政治を通じた検証課題として、それ以前からの経緯もあらためて踏まえてとらえることが必要です。マスメディアの報道の課題でもあると思います。

 以下に東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)が4日付朝刊で「菅首相退陣」をどのように報じたか、主な記事の見出しを書きとめておきます。

【朝日新聞】
▽1面
「菅首相 退陣へ/総裁選立候補を断念/コロナで支持低迷 党内混乱」
「河野氏、立候補へ 石破氏も検討」「衆院選 任期満了後の想定」
「説明を尽くさぬ姿勢 限界に」坂尻顕吾政治部長
▽2面
「解散 人事 封じられ自滅」「人心離れ ポスト打診不発/二階氏外し 派閥に不満」「動いた河野氏 若手が期待/岸田氏、構図一変に警戒感」
▽3面
「コロナ 後手後手1年」「『経済と両立』見えぬまま」「『五輪で政権浮揚』頓挫」「景気回復・規制改革 積み残し」
▽4面
「戦略見直し 迫られる野党/『政権の失敗、白紙に』衆院選に焦り」「『対策に空白』『接種進めるしか』/コロナ対応 現場にも同様」
▽13面(オピニオン)
「首相になり切れぬままの1年」政治学者・御厨貴さん
「国民と対話せず危機管理失敗」ジャーナリスト・江川紹子さん
▽社会面~第2社会面
「退陣 言葉響かぬまま」「第5波さなか『現場の声聞いて』」「説明2分 質問答えず」/「残る説明責任」「学術会議・総務省接待・河井事件・森友」
▽社説「菅首相1年で退陣へ 対コロナ 国民の信失った末に」/行き詰った延命策/政治手法の限界露呈/自民党の責任も重い

【毎日新聞】
▽1面
「菅首相 退陣/総裁選 一転不出馬/コロナ対応、批判招く/発足1年で幕」
「河野氏、出馬の意向」
「安倍政権からの総括を」前田浩智主筆
▽2面
「コロナ 迷走重ね」「ワクチン・五輪 広げた傷」「専門家『空白ないように』」「学術会議、GoTo…質問に答えず」
「経済回復は不発/デジタル 一定の成果」
▽3面
クローズアップ「首相 延命策尽き」「『人事・解散』党内しらけ」「選挙連敗 痛手に」
「総裁選 混戦か/河野氏 若手中心に支持/石破氏 派閥動向見極め/岸田氏 一転守りの戦い/高市氏・野田氏も意欲」
▽5面
「野党『無責任』『投げ出し』/不人気政権退陣 攻勢ムードに水」
▽8面(オピニオン)
「コロナ対策 世論と隔たり」竹中治堅・政策研究大学院大学教授
「官僚使えぬ『政治家主導』」寺脇研・元文部科学省官僚
「『語らぬ』理念がないから」落合恵美子・京都大教授
▽社会面~第2社会面
「また 説明尽くさず/発言たった2分」「『政治とカネ 解決を』/大規模買収 震源地の広島」/「自粛飲食店 ため息」「『コロナさじ投げたか』」「なぜ今 残る疑問」
▽社説「菅首相が辞意表明 独善と楽観が招いた末路」/延命へ禁じ手繰り返し/コロナ失策で民意離反

【読売新聞】
▽1面
「菅首相退陣表明/コロナ対応に批判/後任 岸田・河野・石破氏軸か/衆院選 11月の公算/総裁選不出馬」
「説明尽くす姿勢 見えず」村尾新一政治部長
▽2面
「『菅離れ』一気/解散・人事 延命策が裏目」「デジタル、脱炭素は成果」
▽3面
スキャナー「選挙の顔 混沌」「河野氏・石破氏『世論』に期待」「岸田氏 政策前面に 『一騎打ち』崩れ」
▽4面
「野党『新たな顔』警戒/衆院選『菅首相相手の方が…』」
▽11面(解説)
「人事による政治主導 極端」学習院大教授 野中尚人氏
「官邸に国民の声届かず」一橋大教授 中北浩爾氏
「未来志向の改革は進めた」政策研究大学院大教授 竹中治堅氏
▽社会面~第2社会面
「コロナ禍 迷走1年」「飲食店・医療現場 失望の声」「感染増で支持率低下」「政治とカネ 問題相次ぐ/鶏卵汚職・河井元法相買収…」/「突然の退場 驚き」「暮らし・女性 政策評価も」「五輪・パラ開催『功績大きい』」
▽社説「菅首相退陣へ コロナ克服に強力な体制作れ 政治への信頼回復が不可欠だ」/五輪開催で責任果たす/総裁選を政見競う場に/論戦は衆院選に直結

【日経新聞】
▽1面
「菅首相 退陣へ/総裁選不出馬『コロナ対策専念』/河野氏、出馬の意向/石破氏も検討」
「衆院選、任期満了後の公算/投開票日 11月中が軸」
▽2面
「小泉氏の進言 影響/首相、不出馬の背景に/解散・人事 万策尽きる」「首相説明 わずか2分」
▽3面
「総裁選 構図が一変/岸田・河野氏出馬 石破氏も検討/立候補の動き活発に」/「日経平均、2万9000円回復/経済対策期待、買い広がる」
▽社会面
「コロナ対応 空白避けて」「苦しむ現場に目を 病床逼迫の病院」「接種の機会不十分 ワクチン待つ若者」「ますます先見えず/我慢続く飲食店」
「五輪・パラ関係者に戸惑い/現体制の変更 痛手/開催まで協力 感謝」
▽社説
「危機下で指導力発揮できる体制を」/広がった「菅離れ」/国民と真摯に向き合え

【産経新聞】
▽1面
「菅首相 退陣へ/自民総裁選出馬せず/就任1年 衆院選目前 コロナ引責/河野氏出馬の意向」
「『二階切り』『9月解散』全て裏目」
「ワクチン頼み 『言葉』足りぬまま」佐々木美恵政治部長
▽2面
「コロナ猛威 経済で失策重ね」「届かぬ支援、『GoTo』迷走」「出馬見送り好感 東証急伸」
▽3面
「自民総裁選 一転混戦に/『全く新しい展開』石破氏ら動く」
▽5面
「与党 決断に評価の声/野党 投げ出しと批判」
「立民 衆院選戦略見直し/『対菅首相』ならず誤算」
▽社会面
「コロナ『後手後手だった』/飲食・観光業 恨み節」「小池知事『大変驚いた』」
「拉致解決『時間内』/被害者家族ら 新首相に痛切訴え」
▽社説「首相退陣へ 長期担うリーダーを選べ 菅内閣はコロナに専念せよ」/感染症対策で失敗した/対中政策の明示必要だ

【東京新聞】
▽1面
「菅首相 退陣へ/自民総裁選 不出馬を表明/就任1年、求心力落ち/『コロナ対策に専念』」
「国民向かぬ『一強』信失う」高山晶一政治部長
▽2面
核心「コロナに後手 民意離れ/ちぐはぐ対応 宣言の効果も薄れ」
「衆院選、任期越え可能性/新首相選出で日程ずれ込み」
「河野氏、総裁選出馬へ/岸田氏に加え 高市氏、野田聖氏意欲」
▽3面
「説明軽視 不信を増幅/学術会議任命拒否、長男の接待問題でも」「首相『記者会見は来週』/取材対応2分で終了」「記者団への発言全文」
「『政治空白は無責任』/野党、総裁選で埋没警戒」
「海外メディア コロナ対応に批判集中と報道」
▽特報面:菅首相へ本音の送辞 コラムニストより
▽社会面~第2社会面
「『菅離れ』急転退場/医療関係者『早く代わってほしかった』」/「『コロナさえなければ』」「市長選敗北 追い込まれ 菅首相の地元・横浜」「驚きと落胆 出身地・秋田」
▽社説「菅首相が辞意表明 国民と向き合わぬ末に」/命の不安に無策続け/政権選ぶのは私たち

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写真:東京発行各紙の9月4日付朝刊1面(上)と3日付朝刊1面

「廃棄」のハードル低い五輪組織委への疑念~パラ・在京紙1面の報道の記録 8月26日付~31日付

 東京五輪パラリンピック組織委員会を巡って気になるニュースが8月31日に報じられています。
 ※共同通信「五輪会場の医療用手袋など廃棄 コロナ用、500万円分」
  https://nordot.app/805361363655360512

 東京五輪・パラリンピック組織委員会は31日、新型コロナウイルス対策として五輪会場の医務室に配備しながら使われなかった医療用の手袋やガウン、マスクなどを廃棄していたと発表した。医療施設などへの譲渡が可能だったが、保管場所がなく捨ててしまったという。再利用できたのに処分した手袋などの総額は約500万円。組織委の担当者は謝罪した。

 持続可能性を重視しているはずの大会で、なぜこういうことをするのか、理解に苦しみます。「余れば捨てる、不要になれば廃棄する」ということでは、少なくとも13万個もの運営スタッフ用の弁当を廃棄していたことも明らかになっています。無観客での開催が決まったのが開会直前であり、キャンセルが難しかったとしても、それならそれで有効活用は考えられなかったのか、その努力はしたのか。まして医療用の備品は日持ちしない食品とは違います。廃棄の理由に「保管場所がない」ことを挙げているようですが、組織委内では「捨てる」ということへのハードルが異様に低いのではないかとの疑いを持ちます。
 この東京大会を巡っては、巨額の開催経費が事後の検証課題の一つです。その時になって、資料や帳簿が廃棄されていた、という恐れはないでしょうか。「大会が終われば不要」「保管場所がない」との言い訳がされるのではないかと危惧しています。

 ■やはり日本選手のメダル重視

 8月24日にパラリンピックが始まって1週間。新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大が全国に広がりを見せる中で、競技日程は予定通りに進んでいます。発行元の新聞社が大会公式スポンサーに名前を連ねる全国紙各紙の報道は、やはり日本選手のメダル獲得が中心ですが、金メダルでも1面トップになることはなく、五輪の報道と比べれば、落ち着いた紙面づくりであるように感じます。
 全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)の東京発行紙面と東京新聞について、8月26日付から31日付まで、1面にどのような記事を載せたか、主な見出しを書きとめておきます。各紙がそれぞれ、パラリンピックのニュースバリューをどのように判断したかの目安になると思います。
 日本選手の金メダル獲得は、やはり読売新聞の扱いの大きさが目立ちます。対照的と感じるのは、公式スポンサーにはなっていない東京新聞です。開会式こそ翌日朝刊で1面トップでしたが、以後はパラリンピックの記事は1面ではインデックスにあるだけです。

【8月31日付】
▼朝日新聞
①「二階幹事長 交代へ/衆院選10月17日浮上」
②「米空爆 民間人巻き添えか/アフガン 米軍『犠牲出た可能性』」
③「五輪や原発情報 検索/富士通不正アクセス被害 インフラ狙いか」
④パラ「6大会 泳ぎ切った女王」
▼毎日新聞
①「二階幹事長交代へ/衆院選前 刷新アピール/衆院選『10月17日』案」
②パラ「『戦争に負けない』各国連携 決死の出国/アフガン2選手 きょうから出場」/競泳・鈴木が銀、富田は銅
③「米軍再攻撃IS応酬/アフガン『市民犠牲』の報道 きょう撤収起源」
▼読売新聞
①「アフガン 攻撃の応酬/空港付近 米軍きょう撤収起源/巻き添え9人死亡か」/「退避 遅れた準備 自衛隊機近く撤退」
②「巨大IT対抗 日米欧が連携」奔流デジタル 第3部#変わる社会の仕組み4
③パラ「鈴木『銀』200自、4個目メダル」写真
④「藤井二冠が竜王挑戦権」
※2面に「首相 二階氏交代検討」
▼日経新聞
①「電力データで『狙う広告』/博報堂系や東電、世帯を分析/個人情報保護 課題に」データの世紀
②「二階幹事長の交代検討/首相、来月にも党役員人事」
③「米軍、戒厳下の撤収期限/アフガン 退避対象者なお残る」
④「がん治療生存率 格差2倍/400の拠点病院 本社調査」
⑤「関西スーパーをH2O買収へ/傘下2社と統合」
▼産経新聞
①「与那国・台湾間に中国軍艦艇/昨年末以降、24時間展開」/「日台の認識齟齬 直接対話必要」
②「二階幹事長交代へ/首相、党役員の刷新検討」
③「『タリバンは退避に協力』/100カ国声明 きょう米軍撤退期限」
④パラ「鈴木『銀』競泳 富田『銅』」
▼東京新聞
①「使途報告不要 公然『抜け穴』/5党 幹部へ政治資金22億円『寄付』/19年分本紙集計 政策活動費など名目」/解説「30年近く放置 法改正議論を」
②「国会 総裁選前は開かず/憲法基に野党から召集要求 政府方針」

【8月30日付】
▼朝日新聞
①「カブール 住宅街で爆発/子ども含む数人死亡情報/米軍は空爆 関連は不明」
②「智弁和歌山3度目V/めざした堅守 結実」
③パラ「佐藤 強気の2冠/陸上車いす 1500も制す」
▼毎日新聞
①「空港再攻撃『可能性高い』/アフガン首都 米大統領警告」/「米軍 2回目報復攻撃」
②パラ「山口が金 競泳100平世界新/陸上・佐藤1500でも金」/「水泳は特別な『居場所』/知的障害クラスけん引」
③「智弁和歌山V 夏の甲子園」
▼読売新聞
①「侮辱罪に懲役刑導入/刑法改正諮問へ ネット中傷対策」
②パラ「山口『金』100平世界新/佐藤2冠 陸上尾1500制す」
③「伸びしろ68兆円 投資呼ぶ革新 混雑解消」奔流デジタル 第3部 #変わる社会の仕組み3
④「智弁和歌山V 夏の甲子園」
▼日経新聞
①「乱立200基金、余る2.6兆円/見通し過大、財政規律緩む/利用『半分未満』が3割」国費解剖
②「内閣支持率34%横ばい/コロナ対策『評価せず』64% 本社世論調査」
③パラ「佐藤2冠 山口『金』」
④「米、アフガン首都で空爆/空港周辺、テロ計画阻止か」
▼産経新聞
①「米、報復継続を表明/首都で車両空爆 軍発表 アフガン自爆テロ」/「邦人退避 首都陥落早く誤算/今月上旬から準備/海外の民間機使えず/空港に2日足止め…惨劇目撃」
②「都内人出増『半減』遠く/接種進み 感染『恐怖』薄れ?」
③パラ「山口 世界新『金』競泳 佐藤2冠 陸上」
▼東京新聞
①「自宅療養中 死亡相次ぐ/1都3県 今月31人/発熱・せきから容体急変も」
②「収集家癒やした糸杉」響きあう魂 ヘレーネとゴッホ
③「全員が取締役、対等経営」民主主義のあした

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※写真:5月30日付各紙朝刊1面

【8月29日付】
▼朝日新聞
①「米、ISに報復攻撃/アフガン 無人機で『標的殺害』」/「自衛隊機、アフガン人移送/14人 米の要請受け隣国へ」
②「コロナ困窮者支援金 低調/国想定の1割 資産要件がネック」
③パラ「山本 プロの気迫/走り幅跳び 日本記録更新、4位」
▼毎日新聞
①「こういうのが障害者なんだ/雑念 自転車で転倒」迫る 谷垣禎一 元自民総裁の今
②「菅内閣支持率最低26%/医療崩壊『不安だ』70% 本社世論調査」
▼読売新聞
①「米『イスラム国』に報復/アフガン 無人機空爆/自爆テロ死者180人に」
②「データ管理 安保に直結 強固な地盤」奔流デジタル 第3部 変わる社会の仕組み2
③パラ「宇田『銀』トライアスロン/『色々あったが、今、すごく幸せ』」
▼日経新聞
①「半導体再興 日米綱引き/キオクシア・WD東郷交渉/透ける産業保護の思惑 対中は危機感共有」
②「『常識』崩し 成熟の壁破る/生産性が決する未来」人口と世界 成長神話の先に7
③「米、対テロで強硬姿勢/『イスラム国』系2幹部殺害 アフガン空爆」
④「セブンも値引き自由に/公取委指摘受け 商慣行の転換点」
▼産経新聞
①「米 無人機で報復攻撃/IS系幹部2人殺害 アフガン自爆テロ」/「パラ断念一転 アフガン選手来日」
②「『同居孤独死』3都市552人/認知症で発見遅れなど 過去3年間」
③「コロナ起源 結論見送り/バイデン氏 中国の不透明性 非難」
④パラ「宇田『銀』」米岡『銅』トライアスロン男子」
▼東京新聞
①「私たちの幸せ/『ダウン症の子を』希望の養子縁組」笑顔 共にその先へ1
②「使用停止のモデルナワクチン/接種後 30代2人死亡 因果関係不明」「停止対象外ロットからも異物 沖縄」
③「米、IS系に報復」

【8月28日付】
▼朝日新聞
①「退避 日本人1人/自衛隊機 アフガン人含まず」/「テロ死者170人超 米は報復宣言」
②パラ「こぎ出せた 5人だから」
③「複数学年閉鎖なら休校/コロナ対応 文科省が指針」
▼毎日新聞
①「カブール爆破テロ 死者110人/IS声明、米報復へ」/「日本人1人輸送 自衛隊機」
②パラ「車いす男子400 佐藤が金/陸上 メダルラッシュ」
③「自宅療養者11万人 新型コロナ 医療整備が急務」
▼読売新聞
①「アフガン自爆 死者100人/『「イスラム国」』声明 米大統領、報復へ/邦人1人 空自機で退避」
②「IT敗戦 巻き返しへ」奔流デジタル第3部 変わる社会の仕組み1
③パラ「佐藤『金』陸上400メートル」
④コロナ自宅療養10万人超
▼日経新聞
①「『緩和縮小 年内に』/FRB議長 雇用に手応え/デルタ型、なお注視」
②「『日本病』絶つ戦略再起動/忍び寄る停滞とデフレ」人口と世界 成長神話の先に6
③「全サービス一括アプリ/イオン 小売りや金融、来月から」
④パラ「佐藤が金 陸上男子400」
▼産経新聞
①「日台与党 対中国で連携/外交・防衛担当 初の『2プラス2』」「中国が反発『内政干渉』」
②「邦人1人退避/空自機、近隣国に待機 アフガン」/「テロ犠牲 米兵ら100人超/IS声明、米大統領が報復指示」/「バイデン政権 最悪の展開」
③パラ「佐藤『金』陸上400 唐沢『銀』陸上5000」
▼東京新聞
①「都内の妊婦感染7月急増/最多『98人以上』 病院長が独自調査/全国集計なく実態不明」
②「地域つなぐ『防災遠足』」月刊SDGs 8月号
③「全国の重症者2000人/第5波 3週間で2倍に/死者も増加傾向」

【8月27日付】
▼朝日新聞
①「カブール空港付近 連続爆発/13人死亡 米国人ら待機場所/自衛隊機活動 27日まで想定」
②「自民総裁選 党員も投票/岸田氏出馬 衆院選にらみ始動」
③「東京 感染者潜在と指摘/専門家報告『お盆明け 人出急増』」
④パラ「足も国も失った 水泳があった」
▼毎日新聞
①「岸田氏出馬 首相と軸に/国会議員・党員 投票同数/自民総裁選 来月29日決定/石原派再選支持」
②「モデルナ製一部に異物/コロナワクチン 163万回分使用中止」
③パラ「鈴木、日本勢初の金 競泳100自」
④「カブール空港外 爆発/複数回 13人死亡の情報」
▼読売新聞
①「アフガン空港付近爆発/自爆テロ、13人死亡か/米兵負傷の情報」
②パラ「鈴木『金』/パラ日本1号 100自/富田『銀』400自」
③「岸田氏が出馬表明/自民総裁選 来月29日投開票」
▼日経新聞
①「総裁選 首相・岸田氏出馬へ/自民、来月29日 コロナ対策争点/3年ぶり本格投票」
②「量から質 豊かさ競う/国力の方程式一変」人口と世界 成長神話の先に(5)
③「カブール空港周辺 爆発/13人死亡か、自爆攻撃の情報」
④パラ「競泳・鈴木が金1号」
▼産経新聞
①「首相と岸田氏 軸に/来月29日投開票決定 自民総裁選」/「衆院選 最も遅いと11月28日」
②パラ「鈴木『金』日本勢2大会ぶり/富田『銀』400自」
③「カブール空港近く 爆発2回/13人死亡情報 米兵3人負傷か アフガン」
④「モデルナ製に異物混入/163万回分使用見合わせ 5都県で確認」
▼東京新聞
①「『明かり』どこに/感染止まらず 自宅療養急増」「首相は『見え始めている』と言うが…」「新規4300人超で高止まり『制御不能』/都モニタリング会議が危機感」
②「モデルナ製 一部に異物/19都府県で使用18万回超か」

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※写真:8月27日付各紙朝刊1面

【8月26日付】
▼朝日新聞
①「緊急事態 21都道府県に/学校に検査キット・教職員の接種推進」
②パラ「最年少14歳『銀』つかんだ脚力」
③「岸田氏、総裁選出馬へ/来月29日投開票 固まる」
④「アフガン撤退期限 『8月末』延長せず/米大統領、安全理由に」
▼毎日新聞
①「容体急変 20分で死亡/自宅療養死 首都圏今月21人/電話越し うめき声」/「緊急事態8道県追加」/「新学期対策強化」
②パラ「14歳山田が銀/日本最年少メダル 競泳 鈴木銅」
③「自民総裁選 来月29日/自民・二階氏確認 衆院選に先行」/「岸田氏が出馬へ」
▼読売新聞
①「緊急事態21都道府県に/あすから 8道県追加決定/まん延防止は12県 4県追加」/「新型コロナ対策に1.4兆円」
②パラ「14歳山田『銀』100メートル背泳ぎ/最年少メダル パラ日本勢1号/鈴木『銅』50メートル平泳ぎ」/「『100点満点』」
③「岸田氏、総裁選出馬へ/自民 選挙戦確実に」
▼日経新聞
①「来日外国人の子 進学に壁/大学入試枠 国立は1校のみ/グローバル化に課題」
②「社会保障の崖 世界に火種/富む前に迫る超高齢化」人口と世界 成長神話の先に(4)
③「緊急事態8道県追加/21都道府県に拡大決定 来月12日まで」
④「岸田氏、出馬へ/自民総裁選、きょう表明」/「衆院選実施10月以降に/総裁選、来月29日想定」
⑤パラ「14歳山田 銀」写真
▼産経新聞
①「総裁選 党員・党友含み実施/来月17日告示 29日投開票 衆院選10月以降に」/「コロナ政策論争 党巻き返し」
②「関空拡張 海外客4000万人/大阪万博 インフラ整備案 あす閣議決定」
③パラ「14歳山田『銀』 最年少メダル/競泳 鈴木は『銅』」
④「緊急事態 全国75%に 人口ベース/8道県追加」
⑤「藤井 2冠維持/豊島二冠下し王位防衛」
▼東京新聞
①「デルタ株は まるで ひっつき虫/段違いの感染力 専門家警鐘/枯れ葉(従来株)のように払えない」
②「藤井 王位初防衛/巻き返し4連勝 三冠へ弾み」
③「『妊産婦へ配慮』要請/政府 緊急事態21都道府県に」

コロナ感染拡大と五輪開催「影響したと思う」74%(毎日新聞調査)~支持続落の菅首相が奇策“二階外し”

 毎日新聞と社会調査研究センターが8月28日に実施した世論調査と、日経新聞とテレビ東京が27~29日に実施した世論調査の結果が報じられています。
 菅義偉内閣の支持率は以下の通りです(カッコ内は前月調査比、Pはポイント)。
 ▼毎日新聞・社会調査研究センター
 「支持」26%(4P減) 「不支持」66%(4P増)
 ▼日経新聞・テレビ東京
 「支持」34%(±ゼロ) 「不支持」56%(1P減)
 日経新聞調査では横ばいですが、上昇に転じてはいないわけで、大勢としては8月前半に実施した他社の調査結果と同じく続落傾向が続いています。菅政権の新型コロナウイルス対策への評価は、両調査とも「評価しない」が前回調査より6~7ポイント増え、毎日調査では70%、日経調査では64%となっています。感染者の爆発的な増加と医療ひっ迫が菅政権のコロナ対応への評価を下げ、支持率も回復しない要因になっていることがうかがえます。

 毎日の調査では「東京オリンピックの開催が新型コロナの感染拡大に影響したと思いますか」との質問があります。回答は「大きく影響したと思う」33%、「多少は影響したと思う」41%、「影響したとは思わない」21%、「何とも言えない」5%。「大きく」「多少は」を合わせて「影響したと思う」との回答は74%に上ります。爆発的な感染者増と五輪の開催の関連性については、間接的な「気の緩み」も含めて菅首相、小池百合子・東京都知事ともかたくなに否定しているのですが、民意の認識との間に大きな乖離があります。

 衆院選での投票先に関する質問では、両調査ともトップは自民党で変わりなく、2位の立憲民主党との間にはかなりの差があります。2009年の政権交代の直前と比べると、政権支持率(当時は麻生太郎首相)が下がり続けているのは共通していますが、野党第一党に当時のような勢いはありません。ただ、先日の横浜市長選では、野党が支援の共闘体制を組んだ新人候補が菅政権批判の受け皿になり、投票率も上がって圧勝しました。衆院選の帰すうは、野党の選挙協力の進展いかんではないかと感じます。

 ■刷新感を演出

 菅首相も民意の支持を得るために、いろいろ考えているのかもしれません。30日深夜から31日未明にかけて、ちょっと驚くような動きがマスメディアで一斉に報じられました。新聞各紙も31日付朝刊で大きく扱っています。
※共同通信「自民・二階幹事長交代へ 首相、解散せず10.17衆院選」=2021年8月31日
 https://nordot.app/805046097039228928

nordot.app

 菅義偉首相(自民党総裁)は衆院選前に党役員を刷新し、二階俊博幹事長を交代させる調整に入った。二階氏も容認した。首相が衆院解散の権限を行使せず、衆院議員の任期満了(10月21日)に伴って次期衆院選を閣議決定する案も政権内で浮上した。「10月5日公示、17日投開票」が軸となる。複数の政権関係者が30日、明らかにした。

 無派閥で自民党内に確固とした支持基盤がない菅首相にとって、安倍晋三前首相・党総裁当時から幹事長職にあり、いち早く「菅氏支持」を打ち出した二階氏は、最大の後ろ盾だったはずです。逆に言えば、その二階氏を幹事長職から外せば、「刷新」感は演出できるのかもしれません。奇策ではあるようですが、菅首相が地位にとどまりたいがための人事権の私物化といった批判も免れないように思います。そもそも、菅首相と政権への民意の不信の根深さは、そんな小手先の対応でぬぐえるようなものではないと思います。

 ちょっと気になるのは、二階幹事長を巡る動きです。
※共同通信
「二階氏、幹事長交代容認の意向伝達」=2021年8月30日
 https://nordot.app/805087810306359296

nordot.app

「二階氏、岸田氏党改革案に不快感 役員任期巡り『失敬だ』」=2021年8月30日
 https://nordot.app/804975608147476480

nordot.app

 二階氏は共同通信とのインタビューでは、岸田文雄・前党政調会長が総裁選出馬表明に際して掲げた「党役員は1期1年、連続3期まで」との改革案に「就きたいと名乗り出た覚えは一回もない。長いと文句を言われる筋合いもない。失敬だ」と不快感を示しています。その一方で、菅首相との会談では「自分には遠慮せず、気にせずに人事を行ってほしい」と幹事長職降板を容認すると伝えたと報じられています。
 人事権者である党総裁の言いつけには従う、ということなのか。菅首相は岸田氏の公約に着想を得て、“二階外し”を思い付いた可能性はないのか。そうだとしても、二階氏もその後にそれなりの処遇がなければ「はい、そうですか」とは行かないようにも思います。自民党政治ではよく目にする例えですが「表紙が代わっても中身はそのまま」ということはないのか、気になるところです。新聞の内幕検証に期待しています。

 

コロナ感染爆発でも中止の議論ないまま~パラ開会前後の新聞各紙の社説、論説の記録

 パラリンピックが開会した8月24日前後に、新聞各紙が掲載した関連の社説、論説のうち、各紙のサイト上で読めるものを中心に見てみました。
 五輪大会の期間中に、東京では新型コロナウイルスの感染者数は爆発的に増加し、現在は全国へと広がっています。にもかかわらず、パラリンピック中止の議論はほとんどありませんでした。朝日新聞の24日付社説は「五輪を強行しながらパラを見送れば、大会が掲げる共生社会の理念を否定するようで正義にもとる。そんな思いも交錯して、五輪が終わった後、議論を十分深める機会のないまま今日に至ったというのが、率直なところではないか」と指摘しています。五輪からパラリンピックまでの間の社会の雰囲気をうまく言い表しているのではないかと思います。
 各紙の社説、論説では、パラリンピックの意義は十分に認め、コロナ禍で開催する以上は安全面で万全の体制を求める内容がおおむね共通しています。しかし、感染拡大のピークすら見通せない深刻な状況というのに、大会中断に触れた社説、論説は多くはありません。「危機が迫った時は躊躇なく重大な決断を下すよう求めたい」(25日付琉球新報)、「感染状況によっては大会の中断をためらうべきではない」(24日付高知新聞)といった内容が目に付いた程度です。ほかに中日新聞・東京新聞が大会組織委員会に対して、沖縄タイムスが政府に対して、危機意識の薄さをそれぞれ批判しています。
 競技は無観客ながら、地元の児童生徒に観戦させる「学校連携観戦プログラム」に対しては、慎重な論調が目立ちます。

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【写真】東京・高尾山頂に置かれたパラリンピックのシンボルマーク「スリーアギトス」

 以下に各紙の社説、論説の見出しと内容の一部を書きとめておきます。それぞれのサイトで現在読めるものはリンクを張っています。

【8月25日付】
▼読売新聞「東京パラ開幕 共生社会考える契機にしよう」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20210825-OYT1T50057/

 今大会は、全会場が無観客となったが、NHKに加え、民放も初めて一部の競技を生中継する。能力の限界に挑むパラアスリートたちに大きな声援を送りたい。
 一方、児童生徒に観戦の機会を与える「学校連携観戦プログラム」は、感染への懸念から反対意見も根強い。選手の活躍を間近で見せる意義は大きいが、子供の感染者は増えている。
 状況によっては、教室でのテレビ観戦に切り替えるなどの柔軟な対応も必要だろう。
 大会中は、1万人以上の選手・関係者が来日する。パラリンピックを無事開催できてこそ、五輪を含む東京大会の成功と言える。

▼産経新聞「パラ大会開幕 ないものを嘆くのではなくあるものを活かすことを学ぶ」/心の変革をレガシーに/五輪の熱気をつなごう
 https://www.sankei.com/article/20210825-7RJJQJSPJZJMTIZJ6HF2OW7KMY/

 「パラリンピックの父」と呼ばれる英ストーク・マンデビル病院のルードウィッヒ・グットマン医師は「失ったものを数えるな。残された機能を最大限に生かそう」との言葉を残し、これが大会の精神となっている。
「経営の神様」松下幸之助翁にも「ないものを嘆くな。あるものを活(い)かせ」の名言がある。いわんとする哲学は同じであり、パラ大会のテーマは、経営の理念にも、あらゆる事案にも通底する。
 例えば、東京大会の目標は全ての会場での満員の観衆だった。新型コロナ禍で原則無観客を余儀なくされたが、選手を含むパラ関係者は学校連携で子供をスタンドに招くことをあきらめず、自治体などに地道な説得を重ねた。
 「父」や「神様」が説いたのは発想の転換や、あきらめない気持ちだった。そしてパラ大会が観戦者に期待するのは、偏見の棄却や共生への覚醒、気づきだ。
 パラ6大会の競泳で5個の金メダルを獲得した日本選手団の河合純一団長は「ハードではなくハートのレガシー(遺産)を残そう」と話してきた。大会が望む最大のレガシーは、心の変革である。

▼東奥日報「共生社会実現への好機だ/パラリンピック開幕」
 https://www.toonippo.co.jp/articles/-/642336

▼秋田魁新報「東京パラ開幕 共生社会、根付く契機に」
 https://www.sakigake.jp/news/article/20210825AK0017/

 競技会場がある東京、千葉、埼玉、静岡の1都3県には緊急事態宣言が発令中。そうした中で児童や生徒に観戦機会を提供する「学校連携観戦プログラム」が実施されるのは疑問だ。
 政府の対策分科会の尾身茂会長は「(五輪開催時と比べ)今の感染状況はかなり悪い」と慎重姿勢を示す。東京都の小池百合子知事の「パラアスリートの挑戦を見るのは、教育的価値が高い」という考え自体に異論はないが、ここは安全を最優先すべきだ。不安を抱く学校や保護者の切実な声に耳を傾けたい。
 (中略)
 世界に残る障害者に対する偏見や差別をなくすため、スポーツを通じて人々の意識や社会の変革を促す―。そのメッセージを東京パラ開催地の日本から世界へ力強く発信してほしい。
 日本にもいまだ偏見や差別は存在する。その克服に向けた不断の努力こそが、共生社会実現のメッセージ発信国としての責任を果たすことにつながる。

▼新潟日報「東京パラ開幕 共生社会実現する弾みに」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/opinion/editorial/20210825637526.html

 医療への影響を抑え、選手が最高のパフォーマンスを発揮できるよう、万全な運営に力を尽くさねばならない。その上で、大会を共生社会実現への弾みにしたい。
 (中略)
 児童生徒らに教育的観点から観戦機会を提供する「学校連携観戦プログラム」は、東京、千葉、埼玉の3都県で4万人超が参加する見通しだ。
 多くの学校は移動に貸し切りバスを使い、会場で検温や消毒を実施するなどして感染対策を図るとしている。
 だが、感染は若い世代にも急速に広がっている。
 観戦で共生社会の理解を深める教育的効果を狙うのは分かるが、今それが必要なのか。子どもの健康を最優先にし、慎重に対応すべきだ。

▼山陰中央新報「『パラリンピック開幕』 共生社会実現の好機だ」
 https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/84147

▼佐賀新聞「パラリンピック開幕 共生社会実現の好機だ」 ※共同通信
 https://www.saga-s.co.jp/articles/-/729707

 パラリンピックは世界規模で選手がスポーツの栄光を目指して競い合う点では五輪と同じだ。しかし、開催を重ねるごとに五輪とは異なる、社会的な運動としての価値を高めている。
 その姿勢は、障害のある人に対する偏見や差別が残る社会に、大会を通じて強いインパクトを与え、それらの解消に導こうとする考えに基づいている。
 (中略)
 深刻なコロナ禍に直面し、児童や生徒に大会観戦の機会を設ける「学校連携観戦プログラム」を断念する学校や自治体が出た。やむを得ない判断だったに違いない。
 それでも、パラリンピックの教育的価値を競技会場で実感させたいとの願いから、その実施に踏み切る教育関係者の意向は、厳重な安全対策を整える条件の下に尊重されるべきだ。

▼琉球新報「東京パラが開幕 命守る大会運営に万全を」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1380980.html

 ただし開催には重大な懸念がある。東京五輪後も急激な感染拡大が続き、医療崩壊寸前だ。アスリートの中には基礎疾患のある人がいる。
 重症者や中等症者を収容する施設の拡充が進まない中で、パラ関係者に重症患者が出たとしても受け入れられない可能性がある。国民と選手の命と健康を守るために万全を期しつつ、危機が迫った時は躊躇(ちゅうちょ)なく重大な決断を下すよう求めたい。
 国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長は共同通信のインタビューに対し、パンデミック(世界的大流行)下での開催を「史上最も重要な大会」と語った。
 しかし、パンデミック下であっても開催しなければならない理由は何か。選手や国民の命と健康について誰が責任を取るのか。根本的な問いに答えていない。

【8月24日付】
▼朝日新聞「東京パラ大会 安全対策に万全期して」
 https://www.asahi.com/articles/DA3S15019614.html

 コロナの感染爆発で東京の医療提供体制は深刻な機能不全に陥り、専門家が「自分の身は自分で守って」と呼びかける状況にある。そこに世界各地から選手を招き、万単位の人を動員して巨大な祭典を開くことに、疑問と不安を禁じ得ない。
 一方で、五輪を強行しながらパラを見送れば、大会が掲げる共生社会の理念を否定するようで正義にもとる。そんな思いも交錯して、五輪が終わった後、議論を十分深める機会のないまま今日に至ったというのが、率直なところではないか。
 挙行する以上は、来訪者と市民の健康を守り抜くのが政治・行政の務めだ。五輪開催で世の中の空気を緩めた轍(てつ)を踏むことのないよう、メッセージの発信や付随するイベントにも細心の注意を払わねばならない。

▼北海道新聞「パラきょう開幕 共生の理念深める機に」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/581245

 競技場のある首都圏では自宅療養者が急増し、医療体制の崩壊が指摘されている。開催について是非を問う声も根強い。
 大会には基礎疾患のある選手も参加し、感染すれば高齢者と同じく重症化の懸念が拭えない。
 組織委は五輪以上に厳しい感染対策が求められる。それもパラ選手の特性に十分配慮し、徹底したものでなければならない。
 1都3県の全会場で原則無観客で競技が行われる。小中高生を対象とした学校観戦のみ実施されるが、慎重に判断されるべきだ。
 (中略)
 社会にまだ高いバリアー(壁)が残る。障害者との接触が少ないことも一因とされる。
 大会には世界中からさまざまな障害のある選手が出場し、創意工夫を凝らして限界に挑む。
 無観客開催であっても、映像などを通じて選手の姿を目に焼き付けることで、共生社会の実現に向けた動きを加速させたい。

▼山形新聞「パラリンピック開幕 共生社会実現の好機だ」
 https://www.yamagata-np.jp/shasetsu/index.php?par1=20210824.inc

▼福島民友新聞「東京パラ開幕/多様性と共生に目向けよう」
 https://www.minyu-net.com/shasetsu/shasetsu/FM20210824-649952.php

 大会ビジョンでは「全員が自己ベスト」とうたっている。悔いのない戦いで、県民に勇気と感動を届けてくれることを期待したい。
 大会組織委は、五輪と同様の新型コロナ感染対策を適用する。その五輪では、選手らと外部の接触を絶つバブル方式がほころび、多くの感染者が出た。
 基礎疾患を抱える選手の重症化リスクも指摘されている。五輪の事例を踏まえ、感染防止に万全を期す必要がある。
 国際パラリンピック委員会は大会を契機に、世界人口の15%に当たる約12億人の障害者の人権を守るキャンペーンを始める。差別や偏見のない社会づくりを加速させていくことが大切だ。

▼信濃毎日新聞「東京パラ開幕 数々の疑念を積み残して」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021082400115

 東京パラは「多様性を認め合う共生社会」を理念に掲げる。組織委が保護者らの懸念をよそに、子どもたちの観戦プログラムを断行するゆえんだ。
 2013年の招致決定後、街のバリアフリー化は進んだ。民間企業に障害者への配慮を義務付ける改正法も成立している。
 半面、健常者と同じように暮らす権利への理解は、十分には広がっていない。障害者がスポーツに親しむ割合は、環境面の制約もあって伸び悩む。
 理念を根付かせるには、日常の取り組みこそ重要だろう。いま無理をして子どもに観戦させることはない。大人も含め、多様性を浸透させる政策の展開を、国は自治体とともに示してほしい。
 具現化は、政府が果たさなくてはならないせめてもの役割だ。

▼福井新聞「東京パラきょう開幕 五輪の教訓生かし安全に」
 https://www.fukuishimbun.co.jp/articles/-/1384126

 新型コロナ対策として、外部との接触を遮断した「バブル方式」は、五輪で機能していたとは言い難い。選手村で大人数で飲酒する姿が確認されたり、観光目的で選手村から無断で外出し、大会参加に必要な資格認定証を剥奪されたりする事案があった。
 こうした振る舞いはごく一部に限られるかもしれない。だからといって許されるものではない。パラリンピック関係者の感染例も見られる。各国選手団や大会関係者には、感染対策や行動管理を定めた「プレーブック(規則集)」を順守してもらいたい。それは自身の健康を守ることにもつながる。
 五輪・パラリンピックの開催をめぐる賛否は、世論を大きく二分した。感染リスクを徹底的に低減し、国民の健康を守らねば、東京大会の意義は理解されない。大会を安全に運営するためには、五輪から学んだことを生かさなければならない。

▼神戸新聞「東京パラ開幕/共生社会は命の尊重から」
 https://www.kobe-np.co.jp/column/shasetsu/202108/0014616912.shtml

 主催者側は五輪に続いて外部との接触を絶つ「バブル方式」を守り、検査の回数も増やすとしている。しかしパラリンピックの選手や関係者のうち、陽性者は既に100人を超えている。首都圏では病床が不足するなど医療も逼迫(ひっぱく)している。選手らが感染し、症状が悪化した場合などの対応に不安は消えない。
 児童、生徒を対象にした「学校連携観戦プログラム」も懸念材料だ。変異株の流行で若年世代の感染が急速に広がっている。観戦に教育的な意味があるとしても、五輪では中止された東京などで実施する理由にはならない。実行するかどうかの判断を自治体や学校に委ねた対応は、政府の責任放棄にも見える。
 (中略)
 共生社会を目指すには、生命と健康の尊重が前提になるということを政府や組織委は強く意識すべきだ。

▼山陽新聞「東京パラ開幕へ 共生社会の歩み進めたい」
 https://www.sanyonews.jp/article/1167650?rct=shasetsu

 大会は全ての会場を原則、無観客とし、五輪と同じように行動管理で外部との接触を断つ「バブル方式」を採用する。それでも五輪では閉会日までに400人余りの大会関係者が陽性になった。選手村でクラスター(感染者集団)も発生し、バブルのほころびを露呈している。
 パラアスリートには基礎疾患があったり、介助者が必要で人と人との十分な距離が取れなかったりする人がいて、五輪とは対応が異なる。大会組織委員会は、検査頻度の引き上げなど対策強化を打ち出している。五輪の教訓を生かし、運営に万全を期さなければならない。
 期間中、希望する開催地の児童生徒らに観戦の機会を提供する「学校連携観戦プログラム」が行われる。いまのところ10万人台の参加が見込まれている。教育的意義は否定しないが、子どもたちの安全確保が最優先で求められるのは言うまでもなかろう。

▼高知新聞「【東京パラ開幕へ】共生社会を考える機会に」
 https://www.kochinews.co.jp/article/481614/

 多様性の尊重が打ち出される祭典には期待の一方で不安もある。大会は原則無観客で開催される。デルタ株が広がり感染が急拡大している。緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の対象地域が広がり、医療体制は逼迫(ひっぱく)している。
 コロナ下の大規模イベントには厳しい見方がある。感染対策を緩めてしまう印象を与えないよう、丁寧な運営を心掛けることだ。選手には重症化リスクを抱える人もいる。五輪で不十分だった対応をしっかりと修正することが必要となる。感染状況によっては大会の中断をためらうべきではない。

▼宮崎日日新聞「パラリンピック開幕 共生社会へ弾みをつけたい」
 https://www.the-miyanichi.co.jp/shasetsu/_55965.html

▼南日本新聞「[パラきょう開幕] 共生社会への出発点に」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=142429

 57年前の五輪直後に開催されたパラリンピックは、国内で障害者スポーツが広く認知されるきっかけとなった。
 当時、海外選手は自立した生活をし、競技レベルも桁違いだったのを日本の選手や関係者は目の当たりにした。社会の意識を変える転換点になったとされる。その後、ハード面は整備されつつある。
 共同通信が一昨年行った障害者アンケートによると、「障害を理由に周囲の言動で差別を受けたり感じたりしたことがあるか」との問いに、36%が「ある」と答えている。共生社会の理念が浸透しているとは言えない。
 世界がこれまで以上に、障害のある人を分け隔てなく受け入れる大切さを強く意識する大会にしなければならない。共生社会の実現に向け、活動を広げる好機とすべきである。

▼沖縄タイムス「[東京パラきょう開幕]感染防止対策の徹底を」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/809303

 本来なら国際的な大規模イベントを開催できる状況ではないのは明らかだ。それでも開くというのであれば徹底したコロナ対策を講じなければならない。
 大会関係者の行動範囲を制限し外部との接触を絶つ「バブル方式」は、パラ大会でも採用される。だが、五輪では開幕前からほころびが露呈し、感染の影響で欠場や途中棄権する選手が相次いだ。
 パラでは、基礎疾患があるなど感染した場合に重症化するリスクを抱えた選手が少なくない。
 大会組織委員会もきめ細かい対応が必要だとしているが、パラ関連の陽性者の累計は既に150人を超える。バブルの「穴」はふさげるのか不安は拭えない。
 だが、政府から危機感は伝わってこない。開催中のコロナ対策をどう考えているのか、競技にも影響が出かねない状況になればどうするのか、菅義偉首相は明確に示すべきだ。
 感染急拡大で東京パラは全会場が原則無観客となった。一方で、学校単位で児童や生徒が観戦する「学校連携観戦プログラム」は実施される。
 (中略)
 緊急事態宣言が出ていながら観戦を認めるのは、社会に誤ったメッセージを与えかねない。パラの教育的効果はテレビなどでも得られるはずだ。慎重な対応を求める。

【8月23日付】
▼毎日新聞「パラリンピックあす開幕 共生社会の姿映す大会に」/感染対策に不安が残る/個性を尊重し合いたい
 https://mainichi.jp/articles/20210823/ddm/005/070/026000c

 「ミックスジュースではなく、フルーツポンチのような社会にならなければならない」。日本選手団の団長を務める河合純一さんはそう説く。競泳の視覚障害クラスで過去6大会に出場し、金メダル5個を獲得した経験を持つ。
 環境の違いや個性を混ぜ合わせて均一にするのではなく、フルーツポンチの果物のように、それぞれの「味」を尊重し合うことが共生社会には欠かせない。
 今大会には世界各国から約4400人の選手が参加する見通しだ。ボッチャやゴールボールなど、パラリンピック独自のスポーツも含め22競技が行われる。
 大会ビジョンは五輪と同じ「多様性と調和」だ。鍛え上げられたパラアスリートの熱戦を通し、共生社会のあるべき姿を考えたい。

▼日経新聞「パラ大会を共生社会への大きな一歩に」

▼河北新報「東京パラあす開幕/多様性と共生 意義実感を」
 https://kahoku.news/articles/20210823khn000007.html

 パラリンピックは五輪以上に、スポーツにとどまらない社会的な側面を強く有する。
 国際パラリンピック委員会(IPC)など障害者に関わる多くの国際組織は19日、「We The 15」というプロジェクトを開始した。世界の人口のうち、何らかの障害がある15%、約12億人の生活の変革を目指し、今後10年にわたって展開される最大規模の人権運動となる。
 ムーブメントは政策、ビジネス、芸術など全ての分野に及ぶ。スポーツイベントは中でも世界的な注目を集める手段で、東京パラリンピックがオープニングイベントの役割を果たす。
 日本でも「多様性の尊重」「共生社会」への取り組みが開催に合わせて進められてきた。2018年にユニバーサル社会推進実現法、今年4月には改正バリアフリー法が施行され、ハード整備にとどまらず、学校教育などでの「心のバリアフリー」推進などが盛り込まれている。
 全国の約3万6000校には、国際的なパラリンピック教育プログラムの日本語版教材が配布されている。直接観戦できない子どもたちが大半ではあるが、より身近に感じられるはずだ。

▼中日新聞・東京新聞「東京パラ開幕へ 命と健康を最優先に」
 https://www.chunichi.co.jp/article/316234?rct=editorial

 ただ、感染状況は七月の五輪開幕時より深刻化している。一都三県の全会場で無観客となったが、必要最低限の措置にすぎない。
 パラ選手の中には、身体の障害とは別に基礎疾患を抱えている人もいる。年齢が高い選手もおり、重症化のリスクは増すはずだ。
 にもかかわらず、組織委から危機感は伝わってこない。
 五輪では五百人超の感染が判明。業務委託先の事業者が半数以上を占め、選手も約三十人いた。まず五輪の感染対策を検証し、「穴」を塞(ふさ)ぐことが先決だが、組織委には全ての感染経路を分析、公表する姿勢が見られない。
 (中略)
 パラ大会は無観客にする一方、自治体や学校が希望すれば児童生徒の観戦は実施するという。五輪でも都内では行わなかった試みであり、ましてや実施の可否を教育現場や保護者に「丸投げ」している。無責任極まりない。
 感染力の強いデルタ株の広がりで、学校のクラブ活動や学習塾でクラスター(感染者集団)が確認されている。政府のコロナ感染症対策分科会の尾身茂会長も学校観戦に否定的な考えを示しており、専門家の意見に従うべきだ。
 選手の活躍はテレビで観戦し、共生社会に向けた教育は大会後にじっくり取り組めばいい。観戦がきっかけで感染が広がれば、取り返しがつかないことになる。

▼京都新聞「パラリンピック 共生社会を考える機会に」
 https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/623603

 東京パラリンピックの開催を受け、「パラ教育」を行う小中学校や特別支援学校が増えた。日本財団などの調査によると、首都圏での実施割合は小学校で約8割に上る。
 パラ選手の講演やスポーツ交流、通常授業での実技などを通じ、多くの学校で障害者や共生社会に対する児童生徒の理解が進んだとしている。
 子どもたちの東京パラ観戦プログラムは、授業の仕上げの意味を持つ。
 コロナ禍であり、行き帰りなどでの感染リスクも指摘される。保護者の意向も踏まえた上で、自治体や学校の慎重な判断が求められよう。
 重要なのはパラ教育を一過性の取り組みで終わらせないことだ。共生社会や多様性への理解を深める機運につなげたい。

▼西日本新聞「東京パラ開幕へ 感染拡大防ぎ魅力伝えて」
 https://www.nishinippon.co.jp/item/n/789136/

 感染対策は五輪と同様に、泡をイメージした空間に選手や関係者を包む「バブル方式」が中心となる。五輪では選手が検査を毎日続け、外部との接触を避けたことで効果があった。
 それでも選手や大会関係者、運営に携わる委託業者ら500人を超える陽性が確認された。五輪で明らかになったほころびを点検し、バブル方式を強化する必要がある。
 主会場である東京都を含む首都圏は爆発的な感染拡大のただ中にあり、開会式から9月5日の閉会式までの全期間が緊急事態宣言下となる。専門家は人の動きを半減させないと感染の急拡大は抑えられないと厳しく指摘しており、無観客を原則としたのは妥当な判断だ。
 賛否が割れているのが学校連携観戦プログラムだ。子どもたちに競技を見てもらい、障害者への理解を深める狙いがある。さまざまな障害のあるアスリートの躍動を目の当たりにする教育的効果は確かに大きい。
 とはいえ、若年層に感染が広がる中での集団行動である。参加を見送る自治体が多いのもやむを得ない。自治体や学校は最新の感染情報を考慮し、参加について慎重に判断すべきだ。

【8月22日付】
▼徳島新聞「東京パラ 感染防止策が不可欠だ」
 https://www.topics.or.jp/articles/-/578657

言うまでもなく、大会の意義は、障害の有無にかかわらず、全ての人が能力や個性を発揮できる多様性を尊重する共生社会を育むことである。
 五輪・パラリンピックの開催で政権浮揚を図るといった薄っぺらい政治的なもくろみは論外だ。
 五輪の開幕直前には、女性蔑視発言や過去のいじめなど、大会の趣旨とは相容れない複数の関係者の言動が問題になった。残念ながら、この国の人権意識が問われている。
 困難に負けずに高みを目指すアスリートの姿に感動する。彼らへの応援を大会中の一過性に終わらせないことが、人権意識を高め、共生社会を築くことにつながる。そんな機運を高めるのが、コロナ下でも大会を開く意味と言えそうだ。

 

読売紙面のオリパラ大広告と新聞社の生き残り~パラリンピックが開会、漂う「特別扱い」感

 新型コロナウイルスの爆発的な感染拡大のさなかの8月24日、東京パラリンピック大会が開会しました。東京発行の新聞6紙(朝日、毎日、読売、日経、産経、東京)は25日付朝刊でそろって1面トップで報じました。目を引くのは読売新聞です。五輪の開会式、閉会式を報じた紙面と同じように、1面と最終面をつないで日本選手団の写真を大きく配置。下部には、障害者を象徴する紫色を基調にしたコカコーラの大きな広告が入っています。
 東京五輪パラリンピックでは全国紙5紙(朝日、毎日、読売、日経、産経)と北海道新聞の発行元新聞社6社が公式スポンサーに名前を連ねています。その中で読売新聞だけが1面と最終面をつないだ特別な紙面を複数回作り、そこに大会公式スポンサーの大企業の広告を入れています。他社に抜きんでて、公式スポンサー社のメリットを広告の面で生かしているように感じます。スポーツ事業に強みを持つ読売新聞グループならではのことかもしれません。
 いずれ整理して考えてみたいと思いますが、東京五輪パラリンピックを通じて全国紙5紙にはそれぞれのスタンスの違いを感じています。そこには報道の内容=ジャーナリズムの面だけでなく、新聞社の経営面、各新聞社の生き残り策の違いも読み取れるように感じています。読売新聞の特別な紙面で言えば、カギは広告です。紙の新聞は近年、発行部数の減少が顕著です。広告媒体としての地位も低下しています。そうではあっても、どこか1紙が広告面で優位に立ち、広告を独占的に取ることができれば、経営モデルとしては持続性を追及追求することが可能なのかもしれないと感じます。ただし、そのことがジャーナリズムを制限するのかどうかの問題が別にあると思います。

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 以下に、東京発行の新聞各紙が、25日付朝刊の1面でどんな記事をどんな風に扱ったかを書きとめておきます。
▼朝日新聞
①「東京パラリンピック開幕/4400人出場 コロナ下で無観客」/視点「共生社会へ 人々つなぐ大会に」
②「工藤会トップ 死刑判決/福岡地裁 市民襲撃 指揮を認定」
③「宣言下 首相『解散できる』/求心力低下の声 自民内を牽制か」
④「緊急事態 8道県追加へ」
▼毎日新聞
①「パラ開幕 制約の中/コロナ収束せず 無観客」
②「工藤会トップに死刑判決/市民襲撃 会長は無期 福岡地裁」
③「緊急事態 8道県も」
▼読売新聞 ※1面~最終面
①「東京パラ開幕/コロナ下 4400人参加 無観客」「パラ 発祥から73年」「マスクで行進/聖火点火 上地ら」
②「緊急事態8道県追加/政府方針 まん延防止4県も/27日から来月12日 きょう決定」
▼日経新聞
①「パラと歩む共生社会/東京大会開幕 最多4400千種/多様性受容へ試金石」
②「少子化克服は『百年の計』/『出生率1.5の落とし穴』」人口と世界 成長神話の先に(3)
③「緊急事態 8道県追加へ/政府きょう諮問 愛知・広島など」
④「ダイキン、銅の使用半減/脱炭素で高騰、アルミに」
▼産経新聞
①「深まる共生 東京パラ開幕/コロナ禍 最多の4403人参加/来月5日まで熱戦」/「『私たちの祭典』にしたい」森田景史論説委員
②「工藤会トップ 死刑判決/市民襲撃 4事件の関与認定」
▼東京新聞
①「コロナ猛威 葛藤の大会/パラリンピック無観客で開幕」
②「緊急事態8道県追加へ/27日から まん延防止 4県検討」

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 ■「パラ中止」は議論にならず~やはり特別なのか
 新型コロナウイルスの感染は五輪期間中に爆発的に増え始め、パラリンピック開会翌日の25日には、8道県が新たに緊急事態宣言の対象に加わることが決まりました。宣言は計21都道府県になります。まん延防止重点措置の対象も12県に拡大が決まりました。首都圏では、感染者が医療を受けられないまま、症状が悪化して死に至るケースも報じられています。感染のピークがいつかも見通しがつかない惨状なのですが、パラリンピックの中止はほとんど議論もないままでした。朝日新聞の24日付社説は「五輪を強行しながらパラを見送れば、大会が掲げる共生社会の理念を否定するようで正義にもとる。そんな思いも交錯して、五輪が終わった後、議論を十分深める機会のないまま今日に至ったというのが、率直なところではないか」と指摘しています。
 政府も自治体も人の動きを抑えようと、不要不急の外出の自粛やリモートワークの徹底を呼び掛けているのに、ブルーインパルスが開会を祝って展示飛行をしたり、開会式ではやはり派手な花火が上がる演出があったりと、五輪でも指摘され、世論調査でも裏付けられた「気の緩み」を危惧します。
 あきれるような出来事もありました。

 ※共同通信「IPC会長招き歓迎会 組織委、首相ら40人出席」=2021年8月23日
  https://nordot.app/802550344055275520

nordot.app

 東京五輪・パラリンピック組織委員会は23日、国際パラリンピック委員会(IPC)のパーソンズ会長や理事を招いた歓迎会を東京都内のホテルで開催した。
 (中略)歓迎会は午後6時半から1時間開かれた。新型コロナウイルス感染防止のため、食事やアルコール類は提供されず、文化イベントなどで歓迎の意を伝えた。

 飲食を伴わないとか、十分に間隔を取れば大丈夫とか、そういうことは本質ではないはずです。移動や人と人の接触自体を減らすことが求められているのに、首相や都知事も参加してこういう会合をやることが、社会にどんなメッセージとして伝わるか。五輪期間中には、山梨県教委の幹部職員ら12人がゴルフをしていました。「参加した幹部は『東京オリンピックが感染対策を徹底して実施されている。対策すれば、同じスポーツのゴルフも開催していいのではと判断した』と釈明した」(毎日新聞)と報じられています。しかし、さらにあきれるニュースがありました。

 ※共同通信「歓迎会への批判『理解できない』 組織委幹部が反論、40人で会合」=2021年8月24日
  https://nordot.app/802745250993684480

nordot.app

 東京五輪・パラリンピック組織委員会の高谷正哲スポークスパーソンは24日の記者会見で、国際パラリンピック委員会のパーソンズ会長や理事を招いて23日に東京都内で開いた歓迎会を巡り、新型コロナウイルス感染拡大の状況下での集会は飲食を伴わなくとも不適切ではないかとの指摘に対し「質問の意図が全く理解できない」と述べた。
 (中略)高谷氏は「(組織委、政府など)それぞれのパートナーのトップが直接あいさつする場は、今の社会の慣習においては適切な範囲内の対応と強く考える」と反論した。

 社会一般との意識の乖離が可視化されてしまいました。五輪だけでなくパラリンピックも特別な存在、社会一般の人たちとは異なった特別な扱いを受けるのは当然であるとの組織委内の意識がよく分かります。
 25日には、こんなニュースもありました。

 ※東京新聞「尾身氏『バッハ会長なんで来るのか』パラ学校連携観戦は『感染が問題じゃない』」=2021年8月25日
 https://www.tokyo-np.co.jp/article/126700

www.tokyo-np.co.jp

 テレワークを要請している中でのバッハ氏の再来日について「やっぱり国民にお願いしてるんだったら、オリンピックのリーダーバッハ会長は、なんで、わざわざ来るのかと。普通のカモンセンス(常識)なら判断できるはずなんですね。なぜわざわざバッハ会長がもう一回?そんなのオンラインで出来るじゃないですか、というような気分がある」と語気を強めた。
 東京都などが実施するパラリンピックの学校連携観戦について、尾身氏は「おそらく、小学校の子が行っても感染はしない確率が高い。熱中症のことはあるけど。 実はそこが問題じゃないんですね。本質はそこで感染が起きるか起きないかじゃないんです」と述べた上で、観戦を実施することで「どういうメッセージを一般の人に(与えるか)ということ」と心理的な影響を懸念した。

 五輪大会の時から、菅義偉首相も小池百合子都知事も大会組織委も、コロナ感染急増との関連性は心理面を含めてかたくなに否定しています。しかし危機管理の観点に立てば、あらゆる可能性を想定するのが基本です。現に爆発的な感染が起きている中で、この態度を変えようとしないことに、首相や知事が人命を守るという自らの責任をいったいどこまで自覚しているのか、不信が強まります。

菅批判票の明確な受け皿になった新人が圧勝~示唆に富む横浜市長選の結果

 8月22日投開票の横浜市長選で、菅義偉首相が全面的に支援していた小此木八郎候補が、立憲民主党推薦の新人、山中竹春候補に大差で敗れました。横浜市議から衆院議員へと進んだ菅氏にとって、地元の市長選での大敗は、党総裁選や衆院解散・総選挙への対応に大きく影響し、政局が一気に流動化するとの指摘が報じられています。
 東京発行の新聞各紙も23日付朝刊で選挙結果を大きく扱いました。朝日、毎日、読売、東京の4紙が1面トップ、日経、産経も1面でした。各紙とも総合面や社会面にも関連記事を載せています。この選挙結果の大きな要因として、各紙ともおおむね共通して指摘しているのは、菅政権の新型コロナウイルス対策への有権者の不信、不満です。
 当初は横浜市へのカジノ誘致の是非が最大争点とされていました。しかしコロナ感染が爆発的な増加を見せるのと同時に、選挙の焦点もコロナ対策へと転じたようです。新聞各紙の出口調査によると、小此木候補は自民党支持層をまとめきれず、また無党派層も4割が山中候補に流れたとのことです。
 菅内閣の支持率は五輪を経ても続落傾向が続いています。衆院選を控えて、このままでは自民党は持たないでしょう。
 横浜市長選でもう一つ、見逃せない要因は山中候補の支援体制です。共産党、社民党に加えて、前回は現職支持だった連合神奈川も今回は山中候補を支援したと報じられています。現職のほか知名度を持つ知事職経験者2人も含め、立候補者は計8人に上る乱戦もようだったのですが、政治経験ゼロの無名の新人である山中氏が圧勝した最大の要因は、こうした共闘態勢によって菅政権批判票の明確な受け皿になり得たことだろうと思います。投票率が前回から11ポイント余も上がった(49.05%)こととも、相乗効果があったのではないかと感じます。
 秋には必ず実施される衆院選で、野党がどのような共闘態勢を組めるのか、あるいは組まないのかが焦点です。特に連合が、労働組合として何を重んじて最終的にどのような判断を示すのか、注目しています。

 23日には、テレビ朝日系列のANNが21~22日に実施した世論調査の結果も報じられました。菅内閣の支持率は前回調査から3.8ポイント下がって25.8%。内閣発足以来の最低を更新している点は、先行各社の調査と同じ傾向です。
 気になるのは東京五輪の評価です。「あなたは、この時期にオリンピックを開催して、良かったと思いますか、良くなかったと思いますか?」との問いに対して、「良かった」38%、「良くなかった」44%でした。
 五輪最終盤の時期、および閉会から1週間のタイミングで実施された先行調査では、五輪を開催してよかったかどうかの問いには、肯定的な回答が64~54%に上っていました。閉会から2週間がたって、「よかった」との気持ちが冷めたのでしょうか。ANNの調査では質問に「この時期に」が入っています。他の調査にはありません。ANN調査では、コロナの爆発的な感染拡大や酷暑を思い浮かべた人が少なくなかった可能性があるように思います。
https://www.tv-asahi.co.jp/hst/poll/202108/

www.tv-asahi.co.jp

 以下に、23日付の東京発行各紙の横浜市長選関連の主な記事の見出しを書きとめておきます。
▼朝日新聞
・1面トップ「横浜市長に野党系・山中氏/IR誘致反対 首相支援候補破る」「解散戦略 影響も」
・社会面トップ「コロナ対応 不満あらわ/横浜市長に山中氏 専門家 受け皿に/IR誘致 中止へ」「介入し敗北『菅離れ』必至」「無党派層39% 山中氏へ 出口調査へ」
▼毎日新聞
・1面トップ「横浜市長選 野党系勝利/首相地元 小此木氏破る/コロナ専門家 山中氏当選」/解説「衆院選前に菅氏痛恨」
・2面:焦点「首相の不人気 鮮明/盟友肩入れ 大打撃」「無党派層4割、山中氏へ」
・社会面「コロナ対策 訴え奏功/横浜市長に山中氏 市民の不満追い風」
▼読売新聞
・1面トップ「横浜市長選 与党惨敗/野党系・山中氏当選 菅政権に打撃/政府コロナ対策に不満」「首相10月前半解散を模索/総裁選後、求心力回復狙う」
・2面「コロナ禍 崩れた戦略」/「IR誘致 事実上頓挫」「感染拡大 政府に不信感 出口調査」
・3面:スキャナー「首相『選挙の顔』窮地/『全力応援』地元で敗北」「総裁選『岸田氏出馬』が焦点」
・4面(政治・経済)「野党『コロナ批判』奏功/共闘『共産隠し』不満も」
・社会面「小此木陣営 恨み節/地元議員『内閣不支持が敗因』」「小此木さん 政界引退言及」
▼日経新聞
・1面準トップ「総裁選、来月実施強まる/首相、早期解散難しく」/「世コアはm市長 野党系・山中氏/首相支援の小此木氏敗北」
・3面「首相地元で敗北 打撃/総裁選先行、活路探る」/「小此木氏、自民層4割/分裂で林氏に2割流れる」
・社会面「首都圏IR、白紙に/他自治体に影響も/『誘致しない宣言、早期に』」
▼産経新聞
・1面準トップ「横浜市長選 自民系敗北/野党系 山中氏が初当選/IR撤回宣言へ」
・3面「お膝元で敗北 菅政権打撃/衆院選へ首相交代論加速も」「野党、共闘に向け実績」/「IR反対『選挙熱冷めた』/自民市連 推進・林氏らに票流れる」
▼東京新聞
・1面トップ「横浜市長に野党系・山中氏/首相支援の小此木氏破る/コロナ拡大 政権へ批判票」「続く敗北 首相の求心力低下必至」
・2面:解説「『真のIR反対』浸透」/「小此木氏は自民層の4割止まり/分裂で2割は林氏に 出口調査」
・第2社会面「『市民一人一人と向き合う』/当選の山中さん決意」「今後の選挙『立候補しない』/落選の小此木さん」

爆発的感染さなかの「9月解散戦略」「東京の底力」「パラ強行と学校連携観戦」

 新型コロナウイルスの感染者急増は東京から他地域に広がり、政府は8月17日、緊急事態宣言の対象に7府県を追加することを決めました。対象は計13都府県となり、期間は9月12日まで。東京など6都府県では当初、8月31日までとされていました。東京都は4回目の宣言で期間延長が2回ということになります。ほかにまん延防止重点措置も10県が追加され、計16道県に広がりました。
 19日に発表された東京の感染者は5534人、全国では2万5千人を超えました。既に首都圏では医療がひっ迫し、入院できない感染者が自宅での待機、療養を余儀なくされ、症状が急速に悪化して亡くなる事例が出ています。何としても、これ以上の感染拡大を抑え込まなければいけないはずですが、具体的な対応策に目新しさは感じられません。それどころか、パラリンピックは無観客を決めただけで予定通りの開催へ突き進んでいます。「9月12日まで」との緊急事態宣言の期間についても、自民党総裁選と衆院解散の日程をにらんだ菅義偉首相の政治的思惑を込めた判断との指摘も報じられています。
 ここ数日の気になる動きを書きとめておきます。

 ■9月解散戦略
 菅首相は17日の記者会見で、対策として①医療体制の確保②感染防止対策③ワクチン接種―の3本柱を進めることを強調しました。①では、自治体や医療機関と連携して自宅療養者に必ず連絡を取れるようにすること、病床の確保に努めることなどを挙げました。「いまさら」感しかありません。東京の感染爆発は五輪期間中に始まっていました。感染力が強い変異株の脅威を見誤っていなければ、五輪開会前にでも、医療体制の拡充が必要との判断は可能だったはずで、その時間もありました。②の感染防止対策も、宣言地域では新たにデパートやショッピングモールの人数制限を呼び掛けていくとしたほか、旅行や帰省は控え、日々の買物などの外出も半減させるよう要請しました。しかし、支持率が続落している菅政権のこの程度のメッセージに、どれだけ実効性が期待できるか疑問です。
 18日付の朝日新聞朝刊(東京本社最終版)は総合面に連載企画「漂流 菅政権 コロナの時代」の初回を掲載。「延長12日間 透ける再選戦略/総裁選前の解散 余地残した首相」の見出しで、9月12日までとの宣言の期間が、菅首相の政治判断で決まったとの政府関係者の説明を紹介しています。自民党総裁の任期は9月末。総裁選は9月17日に告示され29日に投開票する日程で調整が進んでいます。菅首相は総裁選前に衆院解散に踏み切り、衆院選に勝利して総裁選を無投票で乗り切る「再選戦略」を持っており、9月12日で緊急事態宣言が解除になれば、17日までの間に衆院を解散するチャンスが残る、というわけです。
 菅首相が9月の衆院解散・総選挙にこだわっているとの同様の見方は、18日付の毎日新聞朝刊も総合面の記事「『9月解散戦略』大誤算」の記事で紹介しています。緊急事態宣言の期間の選択肢として8月31日までの現状維持、9月12日まで、同19日までの三つが示され、田村憲久厚労相はもっとも長い9月19日を主張したのに、菅首相と加藤勝信官房長官は迷わず12日を選んだとのことです
 こうした政界の内情リポートは全国紙の政治報道の得意分野の一つで、実情をほぼ正確に伝えていると思います。この期に及んでも、なおも自身の再選を最優先に考えているのかと思うと、もはや菅首相、菅政権の元では、人命は守れないと考えざるを得ません。
 菅首相と政権が民意の支持と信頼を失っている様子は、8月に入って実施されたメディア各社の世論調査の結果からも明らかです。朝日新聞の記事では、9月解散が不可能になった場合は、党総裁選で菅首相とは別の「選挙の顔」を求める動きが本格化する可能性に触れています。

 ■「東京の底力」って何?
 首都圏では医療の現場はひっ迫しています。東京発行新聞各紙の18日付朝刊は、パラリンピックの人ものの読売新聞を除いて、社会面トップにそろって関連のリポートを掲載しました。以下に見出しを書きとめておきます。
 ・朝日新聞「自宅療養 薄氷の見守り/『息は?』『指先が紫?』看護師の電話切迫/玄関座り込む40台 1カ月前なら入院も」
 ・毎日新聞「自宅療養 足らぬ酸素/往診医『見放される命』憂慮」
 ・日経新聞「救急搬送困難 最多3361件/コロナ第5波 病床余力なく/『一時受け入れ』整備急務」
 ・産経新聞「保健所『もう限界』/鳴り続ける電話/入院調整難航/『死ねというのか』怒鳴られ」
 ・東京新聞「入院『30人待ち』搬送に1週間/『危険な状態に』医師警鐘/神奈川県立足柄上病院 ほぼ満床」

 感染しても医療にアクセスできずに自宅で過ごすほかなく、容態が急変して亡くなるなどの事例も報告されています。

 ▽共同通信「入院先5日見つからず死亡、千葉/中等症と診断」=2021年8月17日
  https://nordot.app/800333864798928896

nordot.app

 千葉県は17日、同日公表した新型コロナウイルス感染の死亡者8人のうち、2人が自宅待機中だったと明らかにした。1人は60代の男性で、8月上旬に軽症と診断、その後中等症と判断されたものの、入院先が見つからないまま9日から酸素投与を受け、自宅待機していた。13日に自宅で倒れているのを発見され、搬送されたが、死亡が確認された。

 ▽NHK NEWS WEB「東京都内 親子3人全員が感染し自宅療養中 40代母親が死亡」=2021年8月18日
  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210818/k10013209851000.html

www3.nhk.or.jp

 都によりますと、亡くなった40代の女性は家庭内感染で、今月10日に陽性がわかったということです。
 夫と子どもも陽性となり、3人で自宅療養をしていたということです。
 女性は、陽性がわかった翌日、11日に保健所が行った健康観察では発熱とせきの症状があったということです。
 都には、保健所から入院の調整依頼がなかったということで、都は軽症だったとみています。
 その翌日12日に自宅で倒れているのを夫が見つけましたが、すでに亡くなっていたということです。
 現時点で、女性の死因は不明だということです。

 ▽東京新聞「コロナ感染の30代妊婦、救急搬送先見つからず自宅で出産 早産の赤ちゃん死亡」=2021年8月19日

www.tokyo-np.co.jp

千葉県柏市は19日、新型コロナウイルスで軽症と診断され自宅療養中だった30代妊婦が早産となり、入院先が見つからないまま、17日に自宅で出産した男の赤ちゃんが死亡したと発表した。女性は妊娠29週だった。

(中略)市保健所の小倉恵美専門監は「感染した妊婦の入院は産婦人科系と呼吸器系の連携ができる病院でなければならず、受け入れ先を探すのが一層難しくなっていた」と話した。

 菅首相は、7月31日の記者会見での自身の発言を覚えているでしょうか。「もし、この感染の波、止められずに医療崩壊して、救うべき命が救えなくなったときに、総理、総理の職を辞職する覚悟はありますか」と問われ、いったんは答えをはぐらかして終わろうとしたのですが、重ねて覚悟を問われるとこう答えていました。
 「私がこの感染対策を自分の責任の下にしっかりと対応することが私の責任で、私はできると思っています」
 「できていない」としか言いようがないように思います。

news-worker.hatenablog.com

 小池百合子・東京都知事のこの発言も書きとめておきます。
 ▽スポーツ報知「小池百合子都知事、コロナ禍の五輪開催『東京と我が国の底力示した』パラ“必ず成功”強調」=2021年8月18日
  https://hochi.news/articles/20210818-OHT1T51103.html

hochi.news

 東京都の小池百合子知事は18日、都議会の第2回臨時会の所信表明において、新型コロナウイルス禍で行われ、8日に閉幕した東京五輪について「この未曾有の難局の中、歴史に残る祭典を成し遂げたことは、東京、そして我が国が持つ底力を示したものと言える」と述べた。

 五輪開催期間中に、東京の感染拡大は爆発的な状態になりました。いったい何が「底力」だというのでしょうか。暗澹たる気分です。
 菅首相にしても、小池知事にしても、民主主義の正当な手続きを経てその地位にあります。選挙での個々人の投票先いかんにかかわらず、首相も知事も社会の総意として選ばれました。首相や小池知事を批判するだけでは何も始まりません。重要なのは、有権者がその権利を行使すること、選挙を棄権せずに1票を投じることだと思います。

 ■パラ強行、学校連携観戦も
 東京のこの感染爆発の状況でも、パラリンピックは予定通り8月24日に開会するようです。さすがに無観客とすることが決まりましたが、「学校連携観戦プログラム」は実施。つまり児童生徒を集団で観戦させることに変更はないとのことです。
 政府も自治体も住民に移動の自粛を求めている一方で、ワクチン未接種の子どもたちだけは例外とする理由は何でしょうか。何よりも、ひとたび感染したら今は医療にアクセスするのが絶望的な状況です。
 東京都教育委員会の18日の臨時会では、出席した4人の委員全員が反対を表明したと報じられています。しかし議決事項ではないため、実施に変わりはないとのことです。

 ▽毎日新聞「実施か、中止か パラ学校観戦、都教委と教育委員が異例の衝突」=2021年8月19日
  https://mainichi.jp/articles/20210819/k00/00m/050/052000c

mainichi.jp

 「医療が逼迫(ひっぱく)する中で大変な状況に置かれている医療従事者に寄り添い、感染者を増やさないためにどういう行動をとらなければならないかが求められている。それは子供にも教えていかなければならない」。元日本オリンピック委員会理事の山口香委員は、オリンピックの開催時より感染状況が悪化していると指摘し、反対意見を述べた。

 児童生徒の観戦の大義名分は教育効果なのかもしれませんが、あくまでも実施するというなら、山口香さんを納得させられるだけの説明が必要ではないでしょうか。
 この問題は国会でも疑問が示されています。
 ▽共同通信「尾身氏、児童らのパラ観戦に慎重/参院内閣委が閉会中審査」=2021年8月19日
  https://nordot.app/800912678069911552

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 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は19日の参院内閣委員会閉会中審査で、東京パラリンピックを巡り、児童や生徒に観戦機会を提供する「学校連携観戦プログラム」の実施に慎重な姿勢を示した。野党議員が見解をただしたのに対し「今の感染状況はかなり悪い。そういう中で考えていただければ、当然の結論になると思う」と述べた。

 連携観戦プログラムは千葉県も実施するとのことですので、東京都だけの問題ではないようですが、感染症の専門家からも疑義が示されていることを、教育の場で強行することが、子どもたちにどのように受け止められるかも考慮するべきだろうと思います。

 パラリンピックでは五輪大会と同じように、航空自衛隊のブルーインパルスが都心上空を飛ぶようです。わざわざ都民に「外に出ましょう」と呼び掛けるようなものです。住民に外出を控えるよう呼び掛けている一方で、これがどんなメッセージとして受け止められるか。五輪会期中から感染爆発が起きているというのに、何を考えているのか理解できません。
 ▽共同通信「ブルーインパルス、パラでも飛行/都心周回、3色でライン」=2021年8月17日  

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航空自衛隊は17日、アクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が、東京パラリンピック開会式当日の24日に東京都心を周回飛行するルートを明らかにした。パラリンピックのシンボルマークに使われている赤、青、緑のカラースモークで線を引きながら飛ぶ。五輪の開会日とは異なり、場所を決めてマークを描くことはしない。

 

菅首相「続けてほしくない」65%(共同通信調査)~個人の行動制限の前に、コロナ失政の検証必要

 共同通信が8月14~16日に実施した世論調査の結果が報じられています。8月8日の東京五輪の閉会から1週間のタイミングです。五輪が開催されてよかったと思うかの回答は「よかった」62.9%、「よくなかった」30.8%でした。この1週間前、東京五輪の閉会前後に実施された4件の世論調査(朝日新聞、読売新聞、NHK、JNN)も同じ傾向で、「よかった」は64~56%に上ります。その一方で、菅義偉内閣の支持率は、共同通信調査では前月調査から4.1ポイント減の31.8%でした。先行する4件の調査と同じく、内閣発足以来最低でした。
 共同通信の調査では、9月の自民党総裁選で菅首相が再選されて首相を続けてほしいかを尋ねています。回答は「続けてほしい」27.5%に対し、「続けてほしくない」が65.1%に上りました。菅首相の任期を巡っては、1週間前の読売新聞調査でも「どのくらい首相を続けてほしいと思うか」を尋ねたところ、「すぐに交代してほしい」18%、「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%との結果でした。長くても9月の総裁任期までとの回答が計66%であり、共同通信の調査結果とほぼ一致しています。朝日新聞の調査でも「続けてほしい」25%に対して「続けてほしくない」60%でした。
 菅首相は五輪の成功で政権浮揚を図り、党総裁選、衆院選に勝利することを狙っていると、繰り返し報じられてきました。開催前と比べて、五輪開催への評価は好転し、そこは菅首相の思惑通りとなりましたが、政権浮揚に結びついていないどころか、内閣支持率は続落し発足以来最低。民意の大勢は菅首相にもはや期待していないという状況です。
 菅政権への厳しい評価の要因の一つは、新型コロナウイルスの感染拡大でしょう。五輪開催期間中から感染者は急増し、東京や首都圏では医療のひっ迫が深刻になっています。感染は急速に全国へ広がり、17日には、緊急事態宣言の期間延長と対象地域の拡大が決まりました。しかし、感染ピークがいつになるのか、それすら分からない状況です。
 この感染急拡大と五輪開催の強行との関連性について、菅首相も東京都の小池百合子知事もかたくなに否定しています。開催期間前と比べて人の流れは減っている、テレビで観戦した人が多くステイホームに寄与している、などと強弁しています。しかし、共同通信の調査では、五輪開催が感染拡大の一因になったと考えているとの回答が59.8%に上り、JNNの調査でも「そう思う」「ある程度そう思う」を合わせて60%を占めています。朝日新聞の調査では、五輪開催によって外出や会食を自粛するムードがゆるんだと思うか、それほどではないと思うかを尋ねたところ、「ゆるんだ」が61%に対して「それほどではない」32%でした。
 少なくとも人々の主観の問題として、五輪開催と感染拡大に関連があるとの考える人が6割に達し、自粛ムードが緩んだと感じている人が、そうは思わない人の倍に上っているわけです。仮に五輪と感染拡大の明確な因果関係を示すエビデンスが見当たらないとしても、「気の緩み」という心理的な要因がある可能性はコロナ対策の際に十分留意しておく必要があるはずです。こうした民意が示されているにもかかわらず、頭から五輪との関連性を否定してかかる菅首相や小池知事の姿勢は、危機管理の責任を負う立場としては極めて危うく感じます。政府や自治体の指導者がこうした態度では、いくら呼びかけても危機感が社会で共有されない、人々の行動が変わらないのも無理はないように思います。

 感染拡大がやまない現状に、感染症の専門家らからは、個人の行動を制限する仕組みを検討するよう求める声も上がるようになっています。政府の対策分科会の尾身茂会長は17日、報道陣に対し、「単に協力をお願いするだけではこの事態を乗り越えられないことを想定し、法的な仕組みの構築や現行の法律のしっかりした運用について、早急に検討してほしいという強い意見が出た」と説明しました。
 ※NHK NEWS WEB「分科会 尾身会長“一般の人々への行動制限の仕組みづくりを”」
 https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210817/k10013207621000.html

www3.nhk.or.jp

 お願いベースの呼びかけだけでは、もはや間に合わないというわけです。しかし個人の行動は私権、人権にかかわることであり、その制限には慎重で抑制的であるべきです。どうしてもそこに踏み込まざるを得ないのであれば、まずこれまでの政府や自治体の対策の不備や、防げたはずの人為的な失政を検証し、責任の所在を明らかにすべきです。
 五輪は開催期間中だけの問題ではありません。昨年の1年延期の決定以降、コロナ対策の節目では「五輪ありき」の判断があり、十分な効果が上がる前に緊急事態宣言が解除される、などの対応がありました。変異株であるデルタ株の感染力の強さを甘く見ずに、五輪の中止ないしは再延期を早期に決断して、社会資源を医療態勢の拡充に充てて感染拡大に備えることも選択肢としてはあったはずです。
 そもそも菅内閣への支持は下がり続け、菅首相には民意の6割以上が続投を求めていない、期待していない状況です。そのような民意の支持を失った政権の下で、コロナの感染拡大に対する危機意識が共有され浸透するかは疑問ですし、ましてやそうした政権が人権の制限の拡大を手掛けるのは極めて問題があると思います。

 17日には、こんなニュースもありました。与党もこうでは、もはや何を言っても説得力はないように思います。
 ※共同通信「自公幹事長ら5人が会食 コロナ禍、SNSで批判も」
  https://nordot.app/800310585497845760

nordot.app

 自民党の二階俊博、公明党の石井啓一両幹事長ら与党幹部5人は17日昼、東京都内の日本料理店で会食した。「不要不急でなく大事な会議だ」(与党幹部)と説明するものの、緊急事態宣言の地域拡大や延長が決まるタイミングでの菅政権幹部による会食。SNSなどで早速批判が上がった。

 以下、8月前半の5件の世論調査結果から、いくつかの問いと回答状況を書きとめておきます。
▼内閣支持率
・共同通信:14~16日実施
  支持 31.8%(4.1P減) 不支持 50.6%(0.8P増)
・読売新聞:7~9日実施
  支持 35%(2P減) 不支持 54%(1P増)
・NHK:7~9日実施
  支持 29%(4P減) 不支持 52%(6P増)
・朝日新聞:7~8日実施
  支持 28%(3P減) 不支持 53%(4P増)
・JNN:7~8日実施
  支持 32.6%(10.1P減) 不支持 63.5%(9.2P増)
▼菅首相の任期
・共同通信:今年9月に菅首相の自民党総裁としての任期が終わります。あなたは菅首相が自民党総裁選で再選され、首相を続けてほしいと思いますか。
 「続けてほしい」27.5% 「続けてほしくない」65.1%
・読売新聞:菅首相には、どのくらい首相を続けてほしいと思いますか。
 「すぐに交代してほしい」18%
 「今年9月の自民党の総裁任期まで」48%
 「1、2年くらい」21%
 「できるだけ長く」8%
・朝日新聞:菅首相の自民党総裁としての任期は9月末までです。あなたは、菅さんには、総裁に再選して首相を続けてほしいと思いますか。続けてほしくないと思いますか。
 「続けてほしい」25% 「続けてほしくない」60%
▼東京五輪が開催されてよかったと思うか
・共同通信 「よかった」62.9% 「よくなかった」30.8%
・読売新聞 「(よかったと)思う」64% 「思わない」28%
・NHK 「よかった」26% 「まあよかった」36% 「あまりよくなかった」18% 「よくなかった」16%
・朝日新聞 「よかった」56% 「よくなかった」32%
・JNN 「開催してよかった」25% 「どちらかといえば開催してよかった」36% 「どちらかといえば開催すべきでなかった」24% 「開催すべきでなかった」14%
▼五輪と感染拡大
・共同通信:あなたは、東京五輪の開催も、新型コロナウイルスの感染拡大の一因になったと思いますか、思いませんか。
 「一因になったと思う」59.8% 「一因になったと思わない」36.4%
・読売新聞:あなたは、東京オリンピックは、菅首相が掲げた『安心安全』な形で開催できたと思いますか、思いませんか。
 「思う」38% 「思わない」55%
・NHK:「安全・安心な大会」になったと思うか。
 「なった」31% 「ならなかった」57%
・朝日新聞①:東京オリンピックは、菅首相の言っていたように、「安全、安心の大会」にできたと思いますか。できなかったと思いますか。
 「できた」32% 「できなかった」54%
・朝日新聞②:この夏にオリンピックを開いたことで、新型コロナウイルス対策のため、外出や会食を自粛する世の中のムードが、ゆるんだと思いますか。それほどではないと思いますか。
 「ゆるんだ」61% 「それほどではない」32%
・JNN:あなたは、今回のオリンピックが感染拡大につながったと思いますか。
 「つながったと思う」20% 「ある程度つながったと思う」40% 「あまりつながったとは思わない」27% 「つながったとは思わない」11%

死者との「約束の場所」靖国神社

 過日、夏の休暇を取った平日の午後、東京・九段の靖国神社を訪ねました。
 新聞、テレビのマスメディアは、首相や閣僚が靖国神社に参拝するたびに大きなニュースとして扱ってきました。第二次世界大戦後に東京裁判を経て処刑されたA級戦犯らが「昭和の殉難者」として合祀されていることを主な理由として、首相や閣僚の参拝には賛否両論があることが背景にあります。毎年8月15日の敗戦の日には、マスメディア各社は終日、神社周辺をウオッチして閣僚や国会議員らの参拝を取材しています。
 通信社で記者として働きながら、中でも社会部に長く身を置きながら、靖国神社にかかわる取材は経験がなく、訪ねることもありませんでした。昨年秋に定年を迎えて、マスメディアで働く現役の時間を終えたのを機に、靖国神社がどういう場所なのか、自身で確認しておきたいと思うようになりました。
 今年3月に一度、訪ねました。ちょうど境内の桜が満開を迎えるころで、おびただしい人でにぎわっていました。明らかに、参拝よりも桜を見るのが目的の人が大半でした。笑顔と歓声がそこかしこにありました。それも靖国神社の一面なのかもしれませんが、静かな時に再訪しようと思いました。

 ■「靖国で会おう」

 第二次大戦を軍人として戦った人たちが残したいわゆる戦記物を読んでいると、「靖国で会おう」という言葉が出てきます。生きて帰れるとは思わない。死んだらお互いに靖国神社に祀られるのだから、そこで会おう、ということです。特に生還が予定されていなかった特攻隊の隊員の間では頻繁に交わされていたようです。いわば、靖国神社は死者たちの「約束の場所」と言っていいのだと思います。
 20年前に初めて読んだ山崎豊子さんの長編小説「沈まぬ太陽」のあるシーンが長らく印象に残っています。国民航空がジャンボ機墜落事故を引き起こした後、絶対安全を至上命題として再建に乗り出すに当たり、繊維会社を徹底した労使協調で再建させた実績を持つ国見正之が、時の利根川泰司首相の意向で国民航空の会長職に就きます。二度固辞した国見が、利根川の代理人であり、シベリア抑留の経験を持つ元大本営参謀の龍崎一清から「お国のために」と要請され、ついに受諾を伝えた冬の日、向かった先が靖国神社でした。
 国見は学徒出陣した元軍人で、連隊勤務を経て陸軍予備士官学校へ進み、前線指揮官として養成されました。同期生の300人は前線に赴きますが、国見は教官要員として残りました。多くの友が戦死しました。戦後、国見は毎年大みそかに、必ず靖国神社を訪ねていました。
 「今年は少し早く来た―」。予備士官学校の寮で「死んだら靖国神社で会おう」と誓い合った友の姿を思い浮かべながら、国見は心の中で語りかけます。「貴君らと別れて、四十二年目の今日、私は遅ればせながら、二度目の召集を受けた」「五百二十名の死者を出した航空史上最大の惨事を起した国民航空の再建を引き受けることになった」「微力の私には至難なことだが、せめて生き残った者としての務めを果たす覚悟だ。貴君らのご加護をお願いする―。」

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【写真:靖国神社参道と大村益次郎像 】

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【写真:靖国神社拝殿】

 わたしが2度目に靖国神社を訪ねたのは、国見の時とは違って8月の暑い日でした。15日の敗戦の日にはまだ数日の間があり、境内に人はまばらで静かでした。地下鉄の九段下駅から第一鳥居(大鳥居)をくぐり、大村益次郎像を過ぎて第二鳥居までの長い参道は神社の境内というよりも公園の趣きです。かつて、戦死者の霊を合祀する儀式「招魂祭」の際には、全国から遺族が集まり、式典を見守った場所だそうです。
 第二鳥居に続いて神門をくぐると、桜の木が青い葉を繁らせていました。3月に来たときには、大勢の人でにぎわっていた一角ですが、この日は閑散としていました。
 拝殿の前で、二礼二拍して手を合わせました。拝殿から本殿までは、ゆったりと距離を取って建てられています。拝殿から本殿を見た時に奥行きを感じました。人が少なく、静かなこともあって、その奥行きの深さに厳粛さを感じるように思いました。
 わたしのすぐ横に、車いすの老齢の女性がいました。手を合わせた後、持参した小さな写真の額を、本殿に向けてしばらくの間、掲げていました。無言のままでした。声を掛けるのがはばかられたのですが、ここに祀られている父親と、亡くなった母親とを会わせてあげているのかもしれないと思いました。靖国神社は、生き残った者が死者と向き合う「約束の場所」でもあるのかもしれないと感じました。

 ■遊就館

 付属施設の「遊就(ゆうしゅう)館」も見学しました。
 「遊就館は、靖国神社に鎮まります英霊のご遺書やご遺品をはじめ、その『みこころ』や『ご事跡』を今に伝える貴重な史資料を展示しています」とのパンフレットの記載の通り、博物館とは似て非なる施設です。
 明治維新に始まり日清、日露両戦争から「支那事変」「大東亜戦争」までを時系列にたどる展示構成になっており、有名無名の戦死者の遺品とエピソードが紹介されています。日中戦争を「支那事変」、太平洋戦争を「大東亜戦争」と呼んでいるように、戦争当時の歴史観、価値観が色濃く反映されています。敗戦後に戦犯として問われ刑死した、あるいは獄中死した軍人は「昭和の殉難者」として扱われており、「戦死」の用語に対して「法務死」が使われています。

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【写真:遊就館】
 靖国神社に祀られているのは戦闘に加わった軍人が中心であるため、遊就館の展示も彼らがいかに戦い、いかに死んだかに重点が置かれ、日本軍がアジア各地で行った加害の側面や、日本国内での住民被害にはほとんど言及がありません。
 また、同じ作戦に従事していても、紹介されているのは戦死者だけです。例えば日米開戦時のハワイ・真珠湾攻撃の際、日本海軍からは航空部隊とは別に特殊潜航艇5隻も攻撃に参加しました。1隻に2人が乗り組んでおり、計10人のうち9人が戦死、1人は捕虜となりました。日本国内では当時、9軍神として大々的に報じられましたが、遊就館の展示も9人についてのみです。やはり、戦争の実相を伝える展示内容とは言い難く、戦争遂行を正当視する側の視点に貫かれていると感じました。
 いろいろな意味で印象に残るのは、特攻に関しての展示です。フィリピン戦線で海軍最初の特攻隊を組織し、敗戦とともに自死した大西瀧治郎中将が、周囲には特攻について「統率の外道だ」と語っていたことが紹介されています。この言葉は、当時の日本軍には、もはやまともに戦う力が残っていなかったことを、特攻の生みの親とされる大西がよく自覚していたことを示すものとして知られています。それだけの劣勢なら、一日でも早く停戦に持って行くのが合理的な思考のはずです。しかし、日本ではそうした思考は働きませんでした。大西のこの言葉は、当時の日本軍の非合理性をよく表している、とわたしは受け止めています。
 また、ポツダム宣言の受諾を伝える昭和天皇の玉音放送が流れた1945年8月15日午後、海軍の大分基地では、特攻作戦の指揮を執っていた宇垣纒中将が11機の特攻隊を自ら率いて沖縄沖へ出撃し、宇垣を含め23人が未帰還になりました。遊就館には、出撃の際の写真も何枚か、展示されていました。この行為は停戦命令への違反とする見方と、玉音放送を停戦命令と解釈できるか疑問とする意見の両方があるようですが、宇垣はともかくとして22人は死ななくてもいいはずでした。生きていれば、その後の戦後復興を支えていたはずの若者たちでした。
 大西にしても宇垣にしても、多くの特攻隊員を死なせたことへの責めを負って自ら命を絶ったことを強調する展示ではあるのですが、同時に当時の日本軍を非合理的な発想、極端な精神主義が覆っていたこともあらためて実感しました。
 展示の終わり近くには、戦死者の遺族の思いが紹介されているコーナーがありました。第三者の目に触れることを前提に述懐したと思われるものが多く、本当の心情がどこまで表れているのかは分かりません。中に戦後、特殊潜航艇に乗った息子が戦死したオーストラリアの港を訪ねた際の母親の述懐がありました。「よくこんな狭いところを。母はほめてあげますよ」。何であれ、息子ががんばったことをほめてやりたい。国家とか軍隊とか、個人の力ではどうしようもない時代だったのだと思いますが、だれを責めるでもなく親としての万感の思いが凝縮された一言のように思え、胸が詰まる思いがしました。

 ■特攻兵器「桜花」

 遊就館には第二次世界大戦当時の日本軍の兵器も展示されています。玄関ホールにあるのは海軍の主力戦闘機だった零式艦上戦闘機(零戦)。大展示室には人間魚雷「回天」や艦上爆撃機「彗星」などが置かれています。回天は文字通り、乗員1人が操縦して敵艦に体当たりする特攻兵器。零戦や彗星も大戦末期には特攻に使われました。
 わたしが目を引かれたのは、大展示室で、彗星の真上に天井からつるされているロケット特攻機「桜花」の実物大のレプリカです。機種に約1.2トンの火薬を搭載し、ロケット噴射で上空から敵艦を目がけて体当たりします。航続距離が短いため、双発の一式陸上攻撃機につり下げられて基地を出撃します。目標に近付くと母機から切り離され、乗員1人が操縦して飛行しました。

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【写真:特攻兵器「桜花」のレプリカ】
 日本は陸軍、海軍とも様々な航空機を特攻に使用しました。その中で桜花は、最初から特攻専門に設計、開発されたほぼ唯一の例でした。兵器としての正式採用は1945年3月。ひとたび母機から切り離されれば、絶対に生還できない非情さがありました。桜花のレプリカの下には、一式陸攻に抱かれた桜花が護衛の零戦に守られ、夕日を浴びながら沖縄へと進む状況のジオラマが展示されています。沖縄戦のころには、日本軍はまともな航空作戦を構えることができず、航空特攻一本でした。そこまで追い込まれたのならば、一刻も早く戦争を終わらせなければなりませんでした。搭乗員たちはどのような思いで出撃していったのか。このジオラマにも胸が詰まりました。

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【写真:(上)桜花部隊のジオラマ(下)ジオラマの一部・桜花を抱いた一式陸攻】
 桜花の特攻作戦では母機も撃墜されて未帰還となる例が多かったそうです。ジオラマの横には、その戦死者名の一覧のプレートがありました。ジオラマの説明によると、レプリカやジオラマは戦後、桜花部隊の「神雷部隊」戦友会から奉納されました。「かつて神雷部隊の将兵は戦死したら『神社のご神門を入って右の二番目の桜の木の下に集まって再会しよう』を合言葉としていた」とのことです。

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【写真:艦上爆撃機「彗星」 その上に「桜花」】

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【写真:人間魚雷「回天」】

 遊就館の見学を終えて退出するまで、入館から2時間半がたっていました。もっと一つひとつの展示をじっくりと、メモを取りながら見ていれば、優に半日はかかると思います。

 靖国神社の源流は、幕末の戊辰戦争の官軍戦死者の顕彰です。賊軍の戦死者は供養も禁じられ、遺体はしばらくの間、その場で朽ち果てるままにされていた例もあったとされます。明治の元勲の一人である西郷隆盛も、最後は西南戦争で賊軍となったため靖国神社には祀られていません。3年前、西南戦争の激戦地だった熊本県の田原坂を訪ねる機会がありました。現地には政府軍、薩摩軍それぞれの戦死者名を記した慰霊碑がありました。双方をわけ隔てしない、そうした感覚は今日的なもので、靖国神社の思想は異なるようです。国家のために生命を落とした者は国家の責任で顕彰する―。いわば兵役に就く者へ死後の名誉を国家が保障する場所であり、戦争をする社会にはどうしても必要な施設だったのかもしれません。
 日本が不戦を国是とする今では、政治と宗教の分離という意味でも、やはり首相や閣僚、国会議員らがその身分を公然とかたって参拝することには疑問があります。
 一方で、76年前の敗戦を挟んで日本の社会は大きく変わりましたが、死者には時間の経過はないのかもしれません。そうだとすれば、死者にとっては今も変わらない「約束の場所」かもしれない。そんなことも感じました。


※遊就館は拝観料1000円です。玄関ホールと大展示室の展示のみ、写真撮影が可能です。

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

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【写真:熊本県・田原坂の慰霊碑。西南戦争の薩摩軍、政府軍双方の戦死者の氏名をわけ隔てなく刻んでいます=2018年11月】

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【写真:靖国神社境内の満開の桜。3月に訪ねた際には大勢の人でにぎわっていました。これも現代の靖国神社のひとコマです】

 

カテゴリ「東京五輪・直前2カ月~期間中の社説」

 東京五輪開会2カ月前の5月23日付から、新聞各紙の五輪関連の社説、論説を、各紙のサイト上で読めるものを対象に記録してきました。8月11日付で区切りとします。
 新聞の社説、論説は時の世論そのものではないにしても、世論を探るための歴史史料としての価値は持つと思っています。
 わたしのこの記録も、今すぐには役に立たずとも、いずれ時が経過した後で、この大会のことを調べたり考察したりする人たちに、何がしかの足掛かりにはなるのではないかと思って、こつこつと刻みました。この大会を巡るあれやこれやの出来事と、その報道に対するわたしの考察も、このブログにさまざまに書きとめています。それらの記事と一体で、後世の研究者の目に止まることを期待しています。
 「あれはいつごろだったか」といった記憶喚起にも使えるかもしれません。役立てていただければ幸いです。


 記事は計3本です。
(1)「東京五輪 直前2カ月間の社説、論説の記録①5月23日付~6月22日付」
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/02/002508
(2)「東京五輪 直前2カ月間の社説、論説の記録②6月23日付~7月22日付」
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/06/27/100757
(3)「東京五輪 期間中の社説、論説の記録」7月23日付~8月11日付
 https://news-worker.hatenablog.com/entry/2021/07/28/092407

 

 カテゴリ「東京五輪・直前2カ月~期間中の社説」にまとめています。