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安倍元首相「国葬」 世論の推移 ※随時更新

 9月27日の安倍晋三元首相の国葬に対し、マスメディア各社の世論調査で賛否がどう推移したかを、わたしが目にした範囲で書きとめておきます。随時、更新します。

【10月】
■9月27日に国葬が実施されたことに対しての評価です。

・毎日新聞 ※22、23日実施

 「実施してよかった」            18%
 「問題はあったが、実施しないよりはよかった」17%
 「実施するべきではなかった」        60%

・産経新聞・FNN ※15、16日実施
 「よかった」35・2%
 「よくなかった」59・2%

・ANN ※15、16日実施
 「評価する」30%
 「評価しない」57%

・共同通信 ※8、9日実施
 「評価する」「どちらかといえば評価する」計36.9%
 「評価しない」「どちらかといえば評価しない」計61.9%

・朝日新聞 ※1、2日実施
 「評価する」35%
 「評価しない」59%

・読売新聞 ※1、2日実施
 ※国葬実施をよかったと思うか、思わないか
 「思う」41%
 「思わない」54%

・JNN ※1、2日実施
 「良かった」42%
 「良くなかった」54%

【9月】

・共同通信 ※17、18日実施
 「賛成」「どちらかといえば賛成」計38.5%
 「反対」「どちらかといえば反対」計60.8%

・毎日新聞・社会調査研究センター ※17、18日実施
 「賛成」27%
 「反対」62%

・日経新聞・テレビ東京 ※17、18日実施
 「反対」60%

・ANN ※17、18日実施
 「賛成」30%
 「反対」54%

・産経新聞・FNN ※17、18日実施
 「賛成」31.5%
 「反対」62.3%

・時事通信 ※9~12日実施、対面調査
 「賛成」25.3%
 「反対」51.9%

・朝日新聞 ※10、11日実施
 「賛成」38%
 「反対」56%

・NHK ※9~11日実施
 「評価する」32%
 「評価しない」57%

・JNN ※3、4日実施
 「賛成」38%
 「反対」51%

・読売新聞 ※2~4日実施
 「評価する」 38%
 「評価しない」56%

【8月】
・朝日新聞 ※27、28日実施
 「賛成」41%
 「反対」50%

・毎日新聞・社会調査研究センター ※20、21日実施
 「賛成」30%
 「反対」53%

・産経新聞・FNN ※20、21日実施
 「賛成」40.8%
 「反対」51.1%

・ANN ※20、21日実施
 「賛成」34%
 「反対」51%

・共同通信 ※10、11日実施
(岸田首相の説明に)
 「納得できる」 42.5%
 「納得できない」56.0%

・JNN ※6、7日実施
 「賛成」42%
 「反対」45%

・読売新聞 ※5~7日実施
 「評価する」 49%
 「評価しない」46%

・NHK ※5~7日実施
 「評価する」 36%
 「評価しない」50%

【7月】
・共同通信 ※30~31日実施
 「賛成」「どちらかといえば賛成」45.1%
 「反対」「どちらかといえば反対」53.3%

・日経新聞・テレビ東京 ※29~31日
 「賛成」43%
 「反対」47%

・産経新聞・FNN ※23、24日実施
 「よかった」「どちらかといえばよかった」    50.1%
 「よくなかった」「どちらかといえばよくなかった」46.9%

・NHK ※16~18日実施
 「評価する」 49%
 「評価しない」38%

何のための「国葬」か、もはや“迷走”~地方紙から続く批判、疑問

 岸田文雄首相は8月31日の記者会見で、旧統一教会と自民党の国会議員との関係や安倍晋三元首相の国葬を巡って「政権の初心に帰って丁寧な説明に全力を尽くしてまいります」と話しましたが、旧統一教会の調査にどこまで本気なのかは疑問で、国葬の理由も理由になっていないと言わざるを得ない内容でした。いくつかの地方紙が、社説や論説でやはり批判しているのを目にしました。
 信濃毎日新聞の9月1日付社説は、岸田首相が会見で「説明する」と繰り返すだけで質問に答えなかったことに対し「国会でも取り繕うだけで実質的に逃げ続け、なし崩しに27日の実施を迎える。そんな状況になりかねない」との危惧を示しています。また、広く弔意の表明を求める閣議了解を見送ったことについて、歴代首相経験者の内閣・自民党合同葬では行っていたことを指摘して「批判回避に躍起になるあまり、説明の付かない状態に陥っている」と指摘しています。同感です。
 会見で岸田首相が、海外の要人を迎えることを理由の前面に出したことに対しても、「変更できない要因になりはしても、決定した理由にはならない」(高知新聞)、「今回は出席しない米大統領らが過去の首相経験者の葬儀に参列している。まったく説得力がない」(京都新聞)などの批判が出ています。
 会見の前の掲載ですが、河北新報は8月31日付の社説で「国内での弔意の示し方も、過去の内閣・自民党合同葬などより後退させるという」「いずれも世論の逆風をかわす小手先の説明や対応で、政府自ら『国葬』が本来備えるべき意義や格式を損なっているように見える」「これでは国民の思いがこもらぬ、空虚な前例を作ることになりかねない」と辛辣に指摘しています。
 わたしはこのブログで、法的根拠のない国葬を閣議決定で強行するのは法治の逸脱だと書いてきました。加えて、何のために行うのか分からない、死者への敬意も感じられない現状は、もはや“迷走”と呼んでいいように思います。

 以下に、岸田首相の会見前後にネット上で目にした地方紙の社説、論説の見出しと、本文の一部を書きとめておきます。

【9月2日付】
▼高知新聞「【首相の姿勢】不信招いた後手対応」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/590514

 国葬を営む理由として、安倍氏の首相在任期間が歴代最長だったことのほか、国際社会から弔意が寄せられることなどが挙げられてきた。ここへきて、海外要人を迎える儀礼上の必要性が前面に出る。だがそれは変更できない要因になりはしても、決定した理由にはならない。
 首相が国葬を判断したのは、安倍氏がまとめてきた保守勢力との関係を維持したい狙いも指摘される。党内基盤を強めたいのだろう。その思いが先走って説明を脇へ押しやれば、理解は得られるはずはない。
 首相は国会の閉会中審査に出席し、説明責任を果たす考えを表明した。首相の新型コロナウイルス感染による療養はあったとはいえ、もっと早くの説明が求められた。疑念や反発を深刻に受け止めず、やり過ごそうとしていたのなら問題だ。

▼琉球新報「国葬・旧統一教会問題 首相説明は中途半端だ」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1576225.html

 低姿勢だったが中途半端な説明に終始し、国民の理解が得られたとは到底言えない。
 岸田文雄首相は8月31日の記者会見で、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民党の関係を断つと明言した。
 旧統一教会との関係について首相は「党として実態を明らかにして関係を断ち、信頼回復につなげたい」と述べた。だが、半世紀にわたる関係をどのようにして清算するのか明らかにしなかった。
 安倍晋三元首相の国葬の理由として、海外要人に応対する外交儀礼を前面に出した。要人対応なら憲法や法律にも明確に定められていない国葬を行ってもいいのだろうか。

【9月1日付】
▼信濃毎日新聞「国葬実施の説明 批判を受け止めるのなら」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022090100144

 岸田文雄首相が記者会見で、安倍晋三元首相の国葬について国会の閉会中審査で説明すると表明した。
 世論の反発を「真摯(しんし)に受け止め、正面から答える」と強調している。
 そう思うのなら、まず会見で正面から質問に答えるべきだった。「説明する」と繰り返すばかりで数々の疑問が残されたままだ。
 国会でも取り繕うだけで実質的に逃げ続け、なし崩しに27日の実施を迎える。そんな状況になりかねない。各党は、閉会中審査で国葬を巡る問題点を厳しく追及しなければならない。
 (中略)
 政府は先日、行政機関などに広く弔旗掲揚や黙とうを求める閣議了解を見送った。歴代首相経験者の内閣・自民党合同葬の際には行っていた対応である。
 合同葬の費用の国負担は半分。国葬は国の全額負担だ。批判回避に躍起になるあまり、説明の付かない状態に陥っている。
 首相は会見で国葬実施の基準策定について問われ、「時の政府が総合判断し、決定するのがあるべき姿」と述べた。現状は実施の法的根拠も不明確だ。政府が勝手に決めて構わないとは、国会や民意をどう考えているのか。

▼新潟日報「首相会見 国会召集し説明を尽くせ」
 https://www.niigata-nippo.co.jp/articles/-/106458

 国会での議論も十分な説明もないまま、重要案件を一方的に決めていく。それでは国民に不信が広がっても不思議ではない。

 首相は政治への信頼が揺らいでいると自覚するのなら、速やかに臨時国会を召集し、論戦を通して説明を尽くすべきだ。

▼京都新聞「岸田首相会見 国会開き責任を果たせ」
https://www.kyoto-np.co.jp/articles/-/869924

 国葬について野党は法的根拠がないと批判し、多くの国民も反対している。
 首相は「国民の弔意を強制するものではない」とする一方、多数の海外要人が参列を希望しており「各国からの敬意と弔意に、国として礼節を持って応えることが必要だ」と説明した。
 だが各国が弔意を示すのは通常の外交儀礼であり、今回は出席しない米大統領らが過去の首相経験者の葬儀に参列している。まったく説得力がない。
 首相は「丁寧な説明に全力を尽くし、国民の理解を得ながら国葬を行いたい」と述べ、国会の閉会中審査に出席する考えを表明した。拙速な決定と説明不足が招いた反対世論である。いったん白紙に戻して熟議すべきだ。
 (中略)
 内閣支持率は急落している。国葬を拙速に決める一方、教団との関係見直しは今頃になるなど、首相のちぐはぐさが最大の要因だろう。会見を聞く限り、姿勢が改まったとは思えない。

▼南日本新聞「[安倍氏国葬] 批判の声にどう答える」
 https://373news.com/_column/syasetu.php?storyid=161997

 対象者などを規定した法令は現在ない。政府は1960年代前半に国葬の根拠法制定を検討したものの、対象者の選定基準を作るのが難しく、立ち消えになった経緯がある。
 時の政権が対象者を恣意(しい)的に判断し、今回のように国葬の日程や費用を閣議で決定できる余地を残した。国会の審議を経なかったことが、国民の批判を招いた一因とも言えるだろう。
 国葬が弔意の強制につながりかねないとの懸念も根強い。政府が地方公共団体や教育委員会に弔意表明を求めないとしたのは、反対論の拡大を避けたい思惑があるからに違いない。ただ、国葬は国を挙げて営む行事である。強制性を生まないか注視したい。

【8月31日付】
▼河北新報「『国葬』巡る政府対応 国民不在、本来の意義損なう」
 https://kahoku.news/articles/20220831khn000007.html

 そもそも、これを「国葬」と呼べるのだろうか。
 国として執り行うのは「海外からの弔意に国際儀礼として応える必要がある」(松野博一官房長官)ためで、主権者たる国民の意思はまるで二の次といった口ぶりだ。
 国内での弔意の示し方も、過去の内閣・自民党合同葬などより後退させるという。
 いずれも世論の逆風をかわす小手先の説明や対応で、政府自ら「国葬」が本来備えるべき意義や格式を損なっているように見える。
 これでは国民の思いがこもらぬ、空虚な前例を作ることになりかねない。岸田文雄首相は国民の疑問や批判に向き合い、ただちに国会審議に応じて説明を尽くすべきだ。

【8月30日付】
▼中日新聞・東京新聞「国葬 予備費から 財政民主主義に反する」
 https://www.chunichi.co.jp/article/535348

 財政法は自然災害など不測の事態に備えるため、毎年度の予算編成であらかじめ使途を定めない予備費の計上を認めており、その使途は国会審議を経ず、閣議決定のみで決めることができる。二〇二二年度当初予算では一般予備費五千億円が計上されている。
 しかし、安倍氏の国葬は亡くなってから二カ月半後に行われる予定で、災害などと比べると緊急性が高いとは言えない。
 憲法は「国の財政を処理する権限は、国会の議決に基づいて、これを行使しなければならない」とする。この規定が財政民主主義の根拠であり財政の基本原則だ。
 国葬に法的根拠はなく、国民の賛否も割れている。こうした状況下で国会審議を経ず、予備費を使って国葬を強行すれば、財政民主主義を破壊する行為と言わざるを得ない。
 さらに看過できないのは、国葬にかかる費用の全体像を明示していないことだ。国葬費用は国民から徴収した税でまかなわれるにもかかわらず、規模や詳しい使途を国民に伝えないのは到底納得できない。国葬への逆風が強まる中、意図的に予算規模を小さく見せようとしているのではないか。

【8月29日付】
▼琉球新報「迷走する岸田政権 なぜ民意と向き合わない」
 https://ryukyushimpo.jp/editorial/entry-1574050.html

 岸田文雄首相の「聞く力」は、党内向けだったのかと疑念が湧き起こる。安倍晋三元首相の国葬を巡る民意との差や、政治と宗教の関係性が問われる世界平和統一家庭連合(旧統一教会)を巡る自民党内の対応、改造内閣の顔ぶれなど迷走と言わざるを得ない。

 岸田氏は主権者である国民の視点に立った政権運営を心掛けるべきだ。できないなら改めて民意を問うしかない。

 全国紙は記者会見翌日の9月1日付で、朝日、毎日、読売、産経の4紙が社説で取り上げました。読売新聞が国葬への批判を批判していることは、一つ前の記事でも触れました。これまでは必ずしも「国葬支持」は明確ではなかったように感じていたのですが、ここにきて「支持を」を鮮明にしました。
 当初から「支持」というよりも強く推していた産経新聞は、広く弔意の表明を求める閣議了解を岸田首相が見送ったことに対し「残念だった」とし「国民に弔意の表明を強制するとの誤解を招かないためというが、誤解は正面から解くべきだ」と主張しています。ここに来て、岸田首相の迷走ぶりは、国葬を支持する人たちからも批判を浴びています。

【9月1日付】
▼朝日新聞「『国葬』・教団 信頼回復 言葉だけでは」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15403256.html

 極めて異例となる安倍元首相の「国葬」は、決めた本人が国会できちんと説明する。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との関係は、所属議員それぞれに対応をゆだねるのではなく、党が責任を持ってチェックし、関係を断たせる。
 こんな当たり前の判断に1カ月半もかかるとは、岸田首相は世論を甘く見ていたというほかない。この間に失われた信頼は大きく、納得のいく説明と確実な実行を伴わなければ、回復は容易ではないと知るべきだ。

▼毎日新聞「自民の旧統一教会調査 解明には程遠い首相指示」
 https://mainichi.jp/articles/20220901/ddm/005/070/071000c

 銃撃事件で死去した安倍晋三元首相は、関連団体のイベントにビデオメッセージを送っていた。参院選で教団の組織票のとりまとめをしていたとの証言もある。安倍氏と教団の関係を検証することは、実態解明には避けて通れない。
 にもかかわらず、首相は安倍氏が亡くなったことを理由に、「限界がある」と否定的だ。
 政策決定に影響を与えたかどうかも焦点だが、調査する姿勢は見られない。
 第2次安倍政権下の2015年に、宗教法人を管轄する文化庁が名称変更を認めた。これにより霊感商法や高額献金がトラブルになっていた教団の実態が隠され、被害が続いた可能性がある。その経緯が明らかになっていない。

▼読売新聞「首相記者会見 政策遂行し着実に成果出せ」
 https://www.yomiuri.co.jp/editorial/20220831-OYT1T50259/

 安倍元首相の銃撃事件を機に、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と多くの政治家の関わりが明らかになった。首相は「自民党として、団体と関係を断つことを基本方針とする」と語った。
 霊感商法など団体の反社会的な活動は許されない。政府と与野党は実態を解明し、必要な対策を打ち出すべきだ。だが、政治家が関連団体の取材を受けたり、会合に祝辞を贈ったりしたことの追及に終始するのは、理解に苦しむ。
 一部の野党が、旧統一教会の問題と安倍氏の国葬を結びつけて批判しているのは、合理性を欠く。「国葬は国民への弔意の強制につながる」といった声高な反対は、素直に弔意を表したい人への心理的な圧迫になりかねない。
 計8年8か月、首相の重責を務めた人を国葬で見送ることは、何ら不自然ではあるまい。

▼産経新聞「安倍元首相の国葬 万全尽くし堂々と実施を」
 https://www.sankei.com/article/20220901-6JT6VMHU7JIIVCNRMWHCJ3BYEU/

 首相は国会の閉会中審査に出席して説明する考えも示した。野党は政権攻撃のために国葬を政治利用するような真似(まね)はやめるべきだ。安倍氏が凶弾に倒れて間もない。政見が異なるとしても葬儀を攻撃するのは残念だ。諸外国からどう見られるかを少しは気にしたらどうか。
 世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と安倍氏の関係を理由に国葬を難じる向きもある。
 旧統一教会の影響で安倍政権の重要政策がゆがめられた事実はない。それで国葬に反対するのは無理がありすぎる。
 岸田首相は「本人が亡くなられた今、(関係を)十分に把握することは限界がある。大事なのは(政党が)当該団体との関係を絶つことだ」と述べた。確実に実行することが必要である。
 首相が府省庁による弔旗の掲揚や黙禱(もくとう)の実施を表明したのは当然だが、これらを実施する閣議了解を見送ったのは残念だった。国民に弔意の表明を強制するとの誤解を招かないためというが、誤解は正面から解くべきだ。

 

追い詰められる岸田首相~「国葬」基準を否定、法治ではなく人治ではないか

 岸田文雄首相は追い詰められている、と感じます。8月31日に記者会見し、安倍晋三元首相の国葬について、国会で自らが説明すると表明しました。また、自民党が旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係を絶つこと、党所属の国会議員との関係を点検して公表することを明らかにしました。国葬について、国会での説明には応じない姿勢を見せているうちに、民意は賛否二分から反対多数へと変わりました。個々の議員任せだった旧統一教会への対応にも批判が高まってきています。8月10日の内閣改造後も、内閣支持率の急落傾向になすすべがなく、従来の方針を大きく転換せざるを得なくなったようです。岸田首相を追い詰めているのは世論の怒りです。
 産経新聞の報道によると、会見で岸田首相は安倍元首相の国葬について、理由を4点説明しました。①安倍元首相が憲政史上最長の8年8カ月、首相の重責を務めた②東日本大震災の復興や日本経済の再生、平和秩序に貢献した③諸外国で敬意と弔意が示されている④選挙活動中の非業の死で暴力には屈しない姿勢を示す―です。しかし、安倍元首相の業績をどれだけ強調しようとも、まるで説得力はありません。自民党として関係を絶つ、と表明した旧統一教会と安倍元首相が深い関係にあったと指摘されているからです。参院選では、安倍元首相が旧統一教会票の差配役だったとの証言すら報じられています。なのに、岸田首相は調査する考えは全くないようです。これでは「関係を絶つ」と口にした、その本気度も疑わざるを得ません。
 さらに見過ごせない発言があります。毎日新聞によると、岸田首相は国葬に該当するか否かの基準策定について「基準をもとにして当てはめるのではなく、総合的に時の政府が責任を持って判断するのがあるべき姿だ」として否定したとのことです。驚きました。法の支配、法治を否定したのも同然です。
 国葬を巡るそもそもの、そしてある意味では最大の問題は、法令に何も規定がないことです。戦前の「国葬令」は現憲法の施行によって無効となりました。普通に解釈すれば、現憲法下では皇室典範に規定がある天皇関連の国葬以外には、国葬は認められていないということになります。かつては基準が定められていたのですから、再び国葬を行うなら新たに基準を明確にする必要があります。天皇以外の戦後の国葬は吉田茂元首相の1例しかないのも、新たな基準がないまま実施したことに無理があったからこそではないか。吉田元首相のケースは、国葬を実施した前例とみるべきではありません。その後は国葬が行われてこなかったことが、踏襲すべき前例です。法治国家であるなら、国葬をやるにはやはり法令に規定が必要です。それは不要だ、内閣、つまりは首相の判断で決めていい、というのは法治ではなく人治そのものです。
 岸田首相は会見で「政権の初心に帰って丁寧な説明に全力を尽くしてまいります」(朝日新聞)と述べたとのことです。しかし、安倍元首相と旧統一教会との関係を調査する姿勢すら見せないのでは、いかに「初心」を強調しようとも、口だけに終わるだろうと感じます。実際のところ、もはや国葬は後戻りできないのかもしれません。それならそれで、さらに信を失うことになるだけです。そうした政権が巨額の軍事費を計上する予算を組んだり、原発再稼働を掲げたりすることに疑問を感じざるを得ません。

 岸田首相の会見について、東京発行の新聞各紙の扱いは多様でした。
 1面トップは朝日新聞と東京新聞の2紙。ただし、東京新聞は市民らによる国会前での国葬反対の集会がメインでした。東京新聞以外の5紙の本記の見出しは以下の通りです。
・朝日「国葬 首相が国会説明へ/旧統一教会問題『総裁としておわび』」
・毎日「首相『旧統一教会と絶縁』/国葬、国会で説明へ」
・読売「入国上限5万人 表明/首相『旧統一教会 関係絶つ』」
・日経「旧統一教会と『関係絶つ』/首相、支持低下が迫った対応」
・産経「国葬『閉会中審査で説明』/首相会見 入国5万人に緩和/旧統一教会との断絶指示」
 主見出しは朝日、産経は国葬、毎日、日経は旧統一教会ですが、読売だけは新型コロナウイルス対応を主見出しにしています。国葬については大きく扱いたくない、ということなのでしょうか。

 社説は朝日、毎日、読売、産経の4紙が掲載。産経新聞はもともと国葬支持です。読売新聞の社説は、「政策遂行し着実に成果出せ」の見出しの通り、大半はコロナ禍対策についてですが、最後に以下のように国葬への反対意見の表明を批判しているのが目を引きました。

 一部の野党が、旧統一教会の問題と安倍氏の国葬を結びつけて批判しているのは、合理性を欠く。「国葬は国民への弔意の強制につながる」といった声高な反対は、素直に弔意を表したい人への心理的な圧迫になりかねない。
 計8年8か月、首相の重責を務めた人を国葬で見送ることは、何ら不自然ではあるまい。

 国葬を支持するのなら、そうとだけ書けばいいのに、わざわざ反対への批判の形を取るのは、どういう思惑なのか。国葬への批判は「表現の自由」には当たらない、との見解なのでしょうか。

 以下は岸田首相会見の各紙の扱いと主な見出しです。
【9月1日付朝刊】
▼朝日新聞
 ・1面トップ「国葬 首相が国会説明へ/旧統一教会問題『総裁としておわび』」/「弔旗・黙祷各府省で」
 ・2面・時時刻刻「『初心』首相の焦り/国葬に批判 旧統一教会問題」「支持率下落 打開図る/国会出席、党内説明せず表明」「教団と『断絶』鈍い自民/国葬経費の総額 野党追及へ」
 ・4面・会見要旨
 ・第2社会面「『国葬説明、首相はいい加減』国会前でデモ」 /「賛同会員『退会』 井上議員が説明/旧統一教会巡り」
・社説「『国葬』・教団 信頼回復 言葉だけでは」

▼毎日新聞
・1面準トップ「首相『旧統一教会と絶縁』/国葬、国会で説明へ」/「入国上限5万人に緩和」
 ※トップは「ゴルバチョフ氏死去」
・2面・焦点「支持率急落 方針転換/首相、国葬実施国会説明へ」「弔意表明 国民に求めず/各府省庁で弔旗・黙とう/閣議了解でなく『葬儀委員長決定』」
 ・社会面トップ「安倍氏国葬 説明足りぬ/旧統一教会との関係は/街の声」/「『弔意強制するな』国会前デモ」/「差し止め請求 高裁も認めず」/「国民の分断招く」武田真一郎・成蹊大教授(行政法):「再考する契機に」大川千寿・神奈川大教授(政治過程論)
・社説「自民の旧統一教会調査 解明には程遠い首相指示」

▼読売新聞
 ・1面「入国上限5万人 表明/首相『旧統一教会 関係絶つ』」
 ※トップは「防衛費最大5兆5947億円」
 ・4面(政治)「首相『初心に帰る』強調/国葬・旧統一教会 批判受け/政権ダメージ 低減意識」/「『関係浅い』議員 非公表方針/自民、旧統一教会調査で」/「自民・井上議員 『賛同会員』大会」/「国葬費用の総額 提示要求で一致/野党、警備費含め」
 ・社説「首相記者会見 政策遂行し着実に成果出せ」

▼日経新聞
 ・1面「旧統一教会と『関係絶つ』/首相、支持低下が迫った対応」
 ※トップは「車用鋼材 最大の値上げ」。新型コロナウイルス対策の記事5面

▼産経新聞
 ・1面準トップ「国葬『閉会中審査で説明』/首相会見 入国5万人に緩和/旧統一教会との断絶指示」
 ※トップは「『森元会長に200万円』」
 ・3面「首相 信頼回復へ道険し/政治と宗教 批判やまず陳謝/国葬にも波及『原点に戻る』」「『第7波』長期化 目算狂う」/「国葬開式は午後2時/各省庁で弔旗掲揚と黙祷」
 ・5面「国民の信頼揺らいでいる/国葬、弔意強制せず」首相会見要旨
 ・社説(「主張」)「安倍元首相の国葬 万全尽くし堂々と実施を」

▼東京新聞
 ・1面トップ「『国葬で税金使うな』/国会前 市民が抗議集会/首相は見直し否定」
 ・3面「『内閣一存で国葬』誤り認めず/首相 閉会中審査で説明へ」「『説明不十分』立民は反対」/「『府省庁で弔旗・黙とう』閣議了解見送りでも首相決定」/「自民『選挙支援』議員公表へ/安倍元首相側の調査慎重 旧統一教会」
 ・第2社会面「国葬おかしい 広がる声」/『国会議論なし』問題では 杉並で賛否アンケート 樋口千鶴子さん/「今はコロナ対策にお金を」亀有などでデモに参加 山口良雄さん
 「都内各地で集会を予定 司法判断仰ぐ動きも」「『国葬差し止め』東京高裁も棄却 特別抗告へ」

「国葬」に18~29歳は賛成64%、60代以上は反対6割(朝日新聞調査)

備忘です。
 朝日新聞が8月27、28日に実施した世論調査の結果が報じられています。安倍晋三元首相の国葬に対しては「賛成」41%、「反対」50%と、9ポイントの差がつきました。反対が圧倒というわけではありませんが、最近の各メディアの調査結果の傾向である、「賛否二分」「拮抗」から「反対」が多数派へという流れに、変化はないようです。
 朝日新聞の記事によると、自民党支持層では賛成65%、反対29%。全体で見れば男性は賛成45%、反対47%と拮抗しているのに対し、女性は賛成37%、反対53%でした。また年代別では、18~29歳は賛成64%、反対30%だったのに対し、60代以上では賛成3割、反対6割でした。
 2006~07年、12~20年と長期にわたって首相の座にありました。若い世代で国葬への賛成が3分の2に上るのは、「子どものころから、首相と言えば安倍首相だった」という事情が関係しているのかもしれないと感じます。
 朝日新聞の調査では、岸田文雄首相の旧統一教会と政治家を巡る問題への対応については「評価しない」が65%で、「評価する」は21%。岸田内閣の支持率は前回7月調査から10ポイントも下落し、47%でした。不支持率は14ポイント増の39%。旧統一教会の問題への対応のまずさと国葬の強行とで、政権支持が急落する傾向にも変わりはありません。

「国葬」が死者の政治利用であることが図らずも明確に~弔意表明を求める閣議了解見送り

 岸田文雄内閣は8月26日の閣議で、9月27日に行う安倍晋三元首相の国葬の費用として、2億4940万円を支出することを決めました。国会の議決を必要としない予備費からの支出となります。ただし、この金額は会場の日本武道館の借り上げ料や会場の設営費とのことです。警察の警備費などは含まれておらず、国葬にかかる費用としては、いったいどれぐらいに上るのか分かりません。今後、マスメディアのチェックが必要です。
 岸田内閣は一方で、弔意の表明を求める閣議了解を見送りました。過去の吉田茂元首相の国葬や、首相経験者の合同葬では、行政機関や国民に広く弔旗の掲揚などを求めていました。今回は日が経つにつれ、国葬に対して世論は賛否二分から反対多数に変わってきています。閣議了解見送りは、国葬が弔意を強制するものではないことを示す狙いがある、と伝えられています。しかし国葬は文字通り、国を挙げての弔意の元に死者を送る儀式です。弔意の表明を呼びかけないのであれば、いったい何のための国葬なのか、ということになります。
 閣議決定の2日前、24日には自民党の二階俊博元幹事長が講演で、国葬について「当たり前のことですよ。やらなかったらバカ」(朝日新聞)と話したことも報じられました。なぜやらなかったらバカなのか。逆に言えば、国葬を強行することに合理的で整然とした説明ができなくなっていることを如実に示すエピソードだと感じます。
 国を挙げての弔意の表明に値するからこその「国葬」のはずです。本当に必要な国葬ならば、政府は堂々と弔意の表明を要請すればいい。それを見送るのなら、国葬も中止するのが筋でしょう。岸田首相が国会で堂々と国葬の意義を語るでもなく、政権党の幹部は「やらなければバカだ」としか説明できない。そこに死者への敬意を感じ取ることはできません。国葬に賛成の意見の人たちにとっても、受け入れがたいことなのではないでしょうか。
 岸田首相のこの定見の無さは、安倍元首相を強固に支持していた右派層の歓心を買い、自らの政権基盤の安定につなげることを目的に、安倍元首相の死を政治的に利用しようとしたことを、図らずも示してしまっているように感じます。国葬を強行しておかしな前例を残すよりも、いっそ中止し、旧統一教会と安倍元首相、自民党との関係の徹底調査に乗り出した方が、政権の浮揚につながるはずです。世論調査の結果に表れている民意の求めにかなうからです。

 ここに来て、岸田首相が国葬に対する民意を読み違えた、との指摘も報道で目につくようになってきました。そのことはマスメディアも同様であるように思います。特に朝日新聞、毎日新聞両紙は、今でこそ国葬の強行に批判的な論調を展開していますが、岸田首相が7月14日に国葬の方針を表明した当初は違っていました。毎日新聞は国葬自体には反対ではないと読み取れるような、いかにも物分かりがいいと感じる論調でしたし、朝日新聞が初めて社説で取り上げたのは1週間近くもたってからでした。当初から明確に国葬に反対、あるいは批判的な論調の社説、論説を掲載していたのは、いくつかの地方紙です。

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 以下に、8月26日の閣議決定に対する社説、論説のうち、目に付いたものを記録しておきます。
【8月28日付】
▼朝日新聞「安倍氏『国葬』 疑問は膨らむばかりだ」
 https://digital.asahi.com/articles/DA3S15399678.html

 数々の疑問に答えず、社会に亀裂と不信を残したまま、既成事実を積み重ねるつもりなのか。岸田首相は、国民から厳しい目が注がれていることを自覚し、立ち止まるべきだ。
(中略)
 安倍氏は憲政史上最長の8年8カ月間、首相を務めた。だがその政策の評価はいまだ定まらず、「モリカケ桜」では政権を私物化した疑惑がぬぐえない。加えて、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)との深い関係も明らかになってきている。
(中略)
 首相は、教団と関係を持たないことを自民党のガバナンスコードに盛り込み、チェック体制を強化すると表明した。であれば安倍氏についても調査を尽くし、明らかにするのが当然ではないか。その作業抜きに「国民の皆さんの不信を払拭(ふっしょく)する」といっても説得力を欠く。

【8月27日付】
▼毎日新聞「説明なき『国葬』 これでは納得ができない」
 https://mainichi.jp/articles/20220827/ddm/005/070/152000c

 そもそも国葬には、明確な法的根拠がない。
 政府は、内閣府設置法が定める「国の儀式」として行う方針だが、同法は皇室行事に適用されてきた。政治家の葬儀を対象にしたことはない。基準や内容の規定もなく、時の政権によって恣意(しい)的に運用されかねない。
 (中略)
 首相は国民の疑問に真摯(しんし)に答える姿勢を欠いている。
 「さまざまな機会を通じて丁寧に説明する」と言いながら、野党が求める臨時国会の早期召集に応じず、国葬に関する閉会中審査もまだ開かれていない。
 政治不信を招いている旧統一教会の問題でも、対応が後手に回り、うみを出し切る覚悟は見えない。
 こうした状況下で国葬の準備をなし崩しに進めても、世論の分断を深めるだけだ。葬儀のあり方を含め、ふさわしい環境を整える責任は首相にある。

▼北海道新聞「安倍氏の国葬 理解なき強行分断招く」
 https://www.hokkaido-np.co.jp/article/722559/

 共同通信の今月の調査では、国葬が適当との首相の説明に「納得できない」とする回答が半数を超えていた。
 野党が求める臨時国会を早期に召集し、予算委員会で費用だけでなく、国葬とする基準などについても徹底的に議論するのが筋だ。
 戦後の首相経験者で唯一の先例である1967年の吉田茂氏の国葬では、政府が官庁に弔旗掲揚や黙とうなどを求めることを閣議了解した。
 2020年の中曽根康弘元首相の内閣・自民党合同葬などでも、同様の対応を取っており、閣議了解を見送るのは異例という。
 ただ、各府省で個別に黙とうなどを実施することは否定しておらず、小手先のごまかしというほかない。
 国葬という形式そのものが疑問視されていることを政府は認識する必要がある。

▼信濃毎日新聞「安倍氏国葬費用 何のためか分からぬまま」
 https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2022082700045

 国葬を通じて「民主主義を断固守り抜く」との首相の言い分は通らない。銃殺事件で浮かび上がったのは、政界と世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の深い関わりだ。いまも連日のように、議員との接点が発覚している。
 世論調査を見れば、時の経過とともに、国葬に反対が賛成を上回る傾向にある。安倍氏の功績のみを国家がたたえる儀式の押し付けに違和感を抱く向きは強い。
 政権は、省庁や関係機関に弔意の表明を求める閣議了解は見送った。が、同調圧力が働き、強制につながる懸念を拭えない。
 自民党の二階俊博氏は24日の講演で、国民の反対があっても「国葬をやめるわけではない。当たり前のことで、やらなかったらばかだ」と言い放った。
 国葬に法的根拠がない以上、広く国民の理解を得るのが最低条件だろう。主権者を誰だと考えるのか。見識を疑わざるを得ない。
 安倍氏の家族葬は済んでいる。国葬にこだわるにせよ、国会で与野党が合意できる規則をつくり、国民の理解を得てから検討するのが筋道のはずだ。

▼高知新聞「【安倍氏の国葬】納得を得ぬまま進むのか」
 https://www.kochinews.co.jp/article/detail/589128

 解消されない疑問にはまず法的根拠がある。戦前の国葬令は失効している。戦後、国葬が行われた首相経験者は1967年の吉田茂氏のみ。安倍氏と同じく従一位と大勲位菊花章頸飾を受けた中曽根氏は内閣と自民の合同葬、佐藤栄作氏は内閣と自民、国民有志による国民葬だった。
 安倍氏は中曽根、佐藤両氏とどう違うのか。政府は内閣府設置法が定める「国の儀式」として国葬は閣議決定できるとするが、対象者の基準は示されておらず曖昧なままだ。
 首相は10日、国際社会が弔意を示しているとして「公式行事として開催し、各国代表をお招きする形式で行うことが適切」と述べたが、説明になっていないということだろう。
 (中略)
 安倍政権の実績や功罪にはまだ評価が定まっていないものも多い。加えて安倍氏銃撃事件の容疑者の供述から、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)と自民議員の接点には厳しい目が向けられている。
 世論調査では党や所属議員の説明が不足しているとの回答が9割近くに上る。こうした疑念も国民の国葬への視線と無関係ではあるまい。
 国葬に関して、国会で徹底論議することを求める。岸田首相は自ら掲げる「聞く力」に加え、説明する力も発揮しなければならない。

▼沖縄タイムス「[国葬概要閣議決定]やはり問題が多すぎる」
 https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/1014394

 国葬の是非について、世論は割れている。共同通信が実施した調査では反対が半数を超えた。
 全額を国費で賄うにもかかわらず、国会の審議を経ずに決定されたことにも大きな疑問が残る。
 私たちはこれまで社説で、国葬の再考を求めてきたが、今回の決定の在り方を見ると、反対の意思を明確にせざるを得ない。
 そもそも国葬には法的根拠がない。
 戦前に制定された国葬令は現行憲法の施行に伴い1947年に失効している。
 戦後、国葬が行われたのは67年の吉田茂元首相だけだ。吉田氏の国葬の際も反対があった。その後、基準を作るべきだとの認識で与野党が一致したが、そのまま放置された。
 そんな中、なぜ根拠もないまま国葬を行うのか。
 安倍氏の功績については、経済政策「アベノミクス」や安保関連法案などを巡り、評価が割れるところだ。
 岸田文雄首相は、安倍氏の首相在職期間が憲政史上最長で、外国からの評価が高く、幅広い追悼の意が寄せられていることを理由に挙げる。
 しかし、いずれも国葬実施の根拠にはならない。

 

 安倍元首相が死亡した後、葬儀に合わせて東京都や仙台市などいくつかの自治体では、学校に半旗を掲揚するよう教育委員会が求めていました。国葬の大きな論点である「弔意の強制」にかかわる問題です。仙台市の地元紙である河北新報が8月13日付の社説で、仙台市に批判的な見解を掲載しているのが目に付きました。弔意が「情緒」の問題であること、しかし民主主義のルールで重要なのは「法に照らした是非」であることを指摘する内容です。国葬を巡る議論の本質をも突いているように思います。
【8月13日】
▼河北新報「教委への半旗掲揚依頼 『情緒』が問題なのではない」
 https://kahoku.news/articles/20220813khn000004.html

 仙台市教委が市総務局の依頼通知を受け、安倍晋三元首相の葬儀に合わせ半旗掲揚を全市立学校に求めた問題を巡り、郡和子市長は9日の定例記者会見で「弔意を表す半旗掲揚は当然」と、市の対応に誤りはないと繰り返した。
 市役所本庁舎に半旗を掲げて哀悼の意を示すなら賛否はあるにせよ、市の判断として一応は是認されよう。問題は市教委を通じて学校に半旗を掲げさせることの是非だ。
 (中略)
 一方で、安倍氏については政治的功罪への評価が国民の間で分かれ、国葬についても世論調査などで反対意見が増えている。そうした政治家をたたえて学校が掲げた半旗が子どもたちの目にどう映るか、その点を第一に考えるべきではなかったか。
 行政組織が法律の執行機関である以上、今回のケースで仙台市が最優先する必要があるのは教育基本法の理念だ。その意味で安倍氏の死去当日、政府から何らの要請もない段階で半旗掲揚を教委にも求めた市の無頓着さに驚く。そして、法に照らした是非を問う疑義に対し、弔意という「情緒」を持ち出して市の対応を正当化しようとするのは筋違いと言わざるを得ない。

 一方、産経新聞は16日付の社説(「主張」)で、「弔意を表す半旗掲揚のどこが悪いのか理解に苦しむ」「弔意を妨げる不当な主張を学校に押し付けることこそ政治的であり、教育の中立を脅かす」と主張し、安倍元首相の国葬でも各学校が半旗を掲揚することを願う、としています。

【8月16日】
▼産経新聞「学校の半旗 弔意を妨げる方が問題だ」
 https://www.sankei.com/article/20220816-TDRAJTKVGRM37K4P37WQS72YJM/

 安倍晋三元首相が先月銃撃されて亡くなったことを受け、教育委員会が公立学校に国旗の半旗掲揚を求めたことに異論や批判が出ている。弔意を表す半旗掲揚のどこが悪いのか理解に苦しむ。
 「教育の中立」を損なうことが批判の理由というが、弔意を妨げる不当な主張を学校に押し付けることこそ政治的であり、教育の中立を脅かす。
(中略)
 9月には安倍氏の国葬が行われる。国民の支持を得て長く政権を預かった元首相を国として追悼するばかりでなく、日本が「暴力に屈せず、民主主義を守り抜く」(岸田文雄首相)姿勢を内外に示す意義が大きいことを本紙は指摘してきた。
 国葬の際には各学校でも半旗を掲揚し、その死去に背を向けることのないように願う。

 

国葬「賛否拮抗」から「反対多数」に、岸田内閣支持16ポイント減も~国会は開かず、国葬を強行なのか

 先週末、8月20、21両日に実施された世論調査の結果を、備忘を兼ねて書きとめておきます。
 岸田文雄内閣の支持率は急落の傾向が続いています。毎日新聞と社会調査研究センターの合同調査では、1カ月余りで支持率が16ポイントも下がりました。産経新聞とFNN(フジテレビ系)の合同調査でも前月比8ポイント減、ANN(テレビ朝日系)調査でも9.9ポイント減です。内閣改造はまったく政権浮揚につながっていないことが明らかです。
 内閣支持率の急落の主な要因は、安倍晋三元首相の国葬と旧統一教会と自民党の関係の二つであることがうかがえます。3件の調査で、安倍元首相の国葬に「賛成」は多くても4割。「反対」はいずれの調査でも過半数を超えており、毎日新聞調査では53%にも上り、「賛成」との差は23ポイントです。先行の調査では賛否「拮抗」の結果が目立ちましたが、ここに来て明確に「反対多数」と言い得る状況に変わってきています。旧統一教会と自民党の関係も、民意は極めて厳しく見ていることが明らかです。
 9月27日の国葬まで1カ月余りというのに、国を挙げて安倍元首相の遺徳をしのぶ、という状況ではまったくありません。それどころか、日を追って「反対」の民意は強まってきています。もともと国葬自体が法治を逸脱しています。加えて民意に逆らってまで強行するのは、民主主義の精神の否定です。野党各党は憲法に基づき臨時国会の召集を要求しています。国会は開かない、しかし国葬は強行するというのであれば「民主主義の葬式」ということになってしまいます。

■岸田内閣の支持率
▽毎日新聞・社会調査研究センターの合同調査
 支持する  36%(前回調査比16ポイント減)
 支持しない 54%(前回調査比17ポイント増)

▽産経新聞・FNN(フジテレビ系)の合同調査
 支持する  54.3%(8.1P減)
 支持しない 40.3%(9.4P増)

▽ANN(テレビ朝日系)の調査
 支持する  43.7%(9.9P減)
 支持しない 32.7%(10.0P増)

■安倍元首相の国葬
▽毎日新聞・社会調査研究センター
 政府は、安倍晋三元首相の国葬を9月に実施することを決めました。国葬に賛成ですか。
  賛成 30%
  反対 53%
  どちらともいえない 17%

▽産経新聞・FNN
 政府が安倍晋三元首相の葬儀を「国葬」として実施することに賛成か
  賛成 40.8%
  反対 51.1%

▽ANN
 政府は、安倍元総理の葬儀を、国が全額費用を負担する国葬として9月に行います。あなたは、この国葬に賛成ですか、反対ですか?
  賛成 34%
  反対 51%

■旧統一教会
▽毎日新聞・社会調査研究センター
 ・旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と政治の関係についてお尋ねします。自民党と旧統一教会の関係に問題があったと思いますか。
  極めて問題があったと思う  64%
  ある程度問題があったと思う 23%
  それほど問題があったとは思わない 7%
  全く問題があったとは思わない   4%

 ・政治家は旧統一教会との関係を絶つべきだと思いますか。
  関係を絶つべきだ 86%
  関係を絶つ必要はない 7%
  わからない      7%

 ・旧統一教会の問題で、あなたの安倍元首相に対する評価は変わりましたか。
  変わった  39%
  変わらない 63%

▽産経新聞・FNN
 ・岸田首相は、内閣改造の際、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)との関係について、自分で点検して見直すよう求め、了解した人を任命したとしている。こうした対応を評価するか、評価しないか。
  評価する  38.6%
  評価しない 54.1%

 ・旧統一教会との関係が指摘された閣僚や議員の説明について、全体として、納得できると思うか、納得できないと思うか。
  納得できる  11。1%
  納得できない 81.2%

 ・政党が、所属議員1人1人について、旧統一教会との関係を党として調査すべきだと思うか、思わないか。
  思う   76.0%
  思わない 18.5%

▽ANN
 ・新しい閣僚や党役員のうち、副大臣や政務官を含めておよそ30人が、旧統一教会と関係があったことを認め、今後は関係を見直すと発言しています。あなたは、今後は関係を見直すことで、納得しますか、納得しませんか?
  納得する  36%
  納得しない 51%

 ・あなたは、旧統一教会と政治とのつながりについて、政党や国会議員が、行っている調査や説明などの対応は、十分だと思いますか、足りないと思いますか?
  十分だ   8%
  足りない 80%

 ・あなたは、政治家が旧統一教会やその関連団体との関係を断つべきだと思いますか、断つ必要はないと思いますか?
  断つべきだ   78%
  断つ必要はない 11%

五輪汚職捜査に「『安倍政治の時代』の検証」の意味~新聞各社の公式スポンサー入りと金権構造

 かねて捜査の動きが報じられていた昨年の東京五輪を巡る汚職事件が8月17日、大きく展開しました。公式スポンサーだった紳士服大手の「AOKIホールディングス」側から、スポンサー選定などをめぐり計5100万円の賄賂を受け取ったとして、東京地検特捜部は受託収賄容疑で、大会組織委員会の高橋治之元理事を逮捕しました。贈賄容疑で、AOKI前会長ら3人も逮捕しました。「まさか」というよりも「やはり」との思いが優ります。元理事は容疑を否認していると伝えられていますので、受託収賄罪が成立するかどうかは慎重にみていきたいと思いますが、資金の提供自体は争いがないようです。大会組織委員会の理事を務める立場で、名目はどうあれ、公式スポンサーになる企業から多額の資金を得ること自体、金権体質が指摘されて久しい五輪の一面をよく表していると思います。
 受託収賄罪が成立するためには、わいろの授受に加えて、職務上の権限を巡って贈賄側から具体的な依頼(請託)を受けたことを証明する必要があり、その点で収賄罪と比べて捜査、立証はハードルが高くなります。
 特捜検察と言えば、近年は森友学園の土地取得を巡る財務省職員らの虚偽公文書作成や背任を不起訴にしたり、「桜を見る会」の経費補助で、家宅捜索もしないまま安倍晋三元首相を不起訴にしたりと、「安倍一強」に忖度したのではないかと思わざるを得ないほどに、安倍政治にかかわる事件では消極姿勢が際立っていました。「立件できない理由」ばかりを探し出しているようにさえ思えました。そうしたこれまでの姿勢との比較で言えば、この東京五輪を巡る疑惑には、特捜検察は積極的に取り組んでいるように思えます。東京五輪も安倍元首相が深くかかわった“国策”でした。安倍政治そのものではないかもしれませんが、「安倍政治の時代」の検証としての意味はあるように思います。特捜検察の捜査の推移を注視したいと思います。

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 この事件とマスメディア、特に新聞とのかかわりで考えることがあります。東京五輪では全国紙5紙と北海道新聞も新聞社として公式スポンサーに名前を連ねていました。1業種1企業が原則だった公式スポンサーは、東京大会では同じ業種で複数が選定されました。新聞業界はその一つです。この方式を進めるのに、逮捕された元理事が積極的に関与したとの報道もあります。狙いは収入増でした。そうやって収入を増やせば、その分、公費からの支出を減らすことができる、というのが大義名分だったようです。
 ただし、金が集まるところには利権が生まれます。五輪を巡って金権体質との批判が続くゆえんです。利権があれば不正、腐敗の温床になる、その構図が今回の事件でも浮かび上がっています。受託収賄罪に当たるかどうかはいったん留保するとしても、組織委の理事を務める人物が、公式スポンサーになる企業から多額の資金を得る構図は、やはり金権体質そのものです。そうした金権構造の一角に少なくない新聞社が連なっていました。その意味をあらためて考える機会でもあると思います。

 組織委の元理事らの逮捕を、東京発行の新聞各紙も18日付朝刊で大きく扱いました。朝日、毎日、読売、産経は1面トップ。日経、東京は準トップでした。大型の事件とあって、朝日、毎日、読売、日経、産経の5紙が連載企画を組んでいます。わたしが検察担当の記者だった当時は、こうした事件の連載企画には、事件の性格を端的に表すタイトルを考えるのが常でした。今回は各紙のタイトルは以下の通りです。
 朝日:「五輪汚職」
 毎日:「暗躍 五輪汚職事件」
 読売:「五輪汚職」
 日経:「五輪汚職」
 産経:「蝕まれた祭典」
 5紙のうち3紙がそっけない「五輪汚職」でした。そもそも3紙ものタイトルが同じ、ということ自体、わたしの感覚では「異例」です。
 むしろ、以下のように各紙の社説の見出しの方に「腐敗の祭典」「『五輪マネー』の闇」「不正の構図」など、それらしいキーワードが目に付きます。
 朝日「五輪汚職 腐敗の祭典だったのか」
 毎日「組織委元理事を逮捕 『五輪マネー』の闇解明を」
 読売「五輪贈収賄逮捕 『平和の祭典』に泥を塗るとは」
 産経「五輪元理事の逮捕 不正の構図の解明を急げ」
 当事者が容疑を否定していること、推定無罪の原則があることもあって、連載企画に凝ったタイトルを考えるような時代ではないのかもなあ、と思ったりしています。

 以下に、8月18日付の東京発行各紙朝刊の主な記事の見出しを書きとめておきます。

▼朝日新聞
・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー選定 受託収賄容疑/東京地検 AOKI側から5100万円/高橋元理事と青木前会長 容疑否認」
・2面:時時刻刻「コンサル料 全て『賄賂』/組織委理事 みなし公務員/検察、継続的な便宜認定」「スポンサー集め 電通が主導/国内68社から3761億円」
・3面「五輪マネー 闇またも/承知時に豪華接待・組織委会長が有罪」
・15面(スポーツ)「札幌招致へ影響懸念/JOC会長『残念』」
・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「祭典の陰 カネ呼んだ存在感/高橋元理事 海外スポーツ界要人と人脈」/「青木さんには『何もできませんよ』と/逮捕前 高橋容疑者の一問一答」/識者談話2本/「招致めざす札幌『この時期に…』」
・社説「五輪汚職 腐敗の祭典だったのか」

▼毎日新聞
・1面トップ「東京五輪 高橋元理事逮捕/5100万円受託収賄容疑 東京地検/贈賄容疑 AOKI3人も」
・3面:クローズアップ「五輪で便宜 立証焦点」「特捜、『賄賂性』判断にめど」「閉鎖性 汚職の温床に」/「スポーツ界『驚き』 選手『怒り』」
・社会面トップ:連載企画「暗躍 五輪汚職事件」(上)「五輪の蜜月 破綻/青木前会長『だまされた』」
・社説「組織委元理事を逮捕 『五輪マネー』の闇解明を」

▼読売新聞
 ・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー契約便宜か/5100万円受託収賄容疑/AOKI前会長ら贈賄容疑 東京地検」
 ・3面:スキャナー「五輪利権 証拠固め/『事業要望文書』入手/東京地検特捜部」「コンサル契約 スポンサー選定1年前」「スポーツとカネ 過去にも」
 ・19面(スポーツ)「札幌五輪の招致『影響確実』/支持率向上に逆風」
 ・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「『ドン』誰も逆らえず/『高橋詣で』AOKI何度も/電通で辣腕 国内外に人脈」
 ・第2社会面「スポーツ界 落胆/小池知事『誠に残念』」
 ・社説「五輪贈収賄逮捕 『平和の祭典』に泥を塗るとは」

▼日経新聞
 ・1面準トップ「五輪組織委元理事を逮捕/東京地検 5100万円受託収賄の疑い/AOKI前会長も 贈賄容疑」
 ・2面「五輪汚職 利権にメス/不透明な商品選定や契約/IOC規程に抵触も」
 ・社会面トップ:連載企画「五輪汚職」(上)「『第一人者』の影響力頼み/公式商品販売狙う/AOKI 元理事と親交09年から」/「創業一代で大手に/青木前会長、賄賂性を否定」/「高橋元理事『便宜はない』 主な一問一答」
「コンサル料、賄賂と認定/東京地検 依頼メールなど決め手/請託の立証にハードル」/「組織委清算法人『捜査に協力』」

▼産経新聞
 ・1面トップ「五輪組織委元理事 逮捕/スポンサー契約巡り 受託収賄疑い 東京地検特捜部/AOKI前会長らは贈賄容疑」
 ・1面:連載企画「蝕まれた祭典」(上)「『私が中止回避』聴取は独演会」※社会面へ
 ・3面「コンサル料『賄賂』認定/契約1年後に五輪スポンサー」「受託収賄 立証にハードル」/「スポンサー企業『迷惑』」
 ・12面(スポーツ)「札幌五輪招致に陰/関係者『タイミング悪い』」
 ・社会面トップ:蝕まれた祭典「『高橋案件』古巣に影響力/企業集め 圧倒的なスポーツ人脈」/「電通社員 イメージ悪化懸念」/「行商から業界大手に 青木前会長」
 ・社説(「主張」)「五輪元理事の逮捕 不正の構図の解明を急げ」

▼東京新聞
 ・1面準トップ「五輪組織委元理事を逮捕/協賛社選定で受託収賄疑い 東京地検/AOKI前会長ら3人 贈賄容疑」
 ・3面「スポンサー選定 介入か/元電通・高橋容疑者 受領資金の使途 焦点」
 ・10面(スポーツ)「汚職 五輪イメージ失墜/札幌招致 影響も」/「『極めて残念』山下JOC会長」
 ・社会面「五輪招致『隠然たる力』/『レジェンド』大物政治家とも接点」/「『こんなの事件になるか』/高橋容疑者 捜査に反発」/「64年の感動原点 青木容疑者」/「『私服のためか』『最後までけち』市民ら失望」

維新の元勲とともに合祀された西園寺公望、吉田茂~国葬の歴史的系譜と「神格化」

 安倍晋三元首相の国葬にわたしが反対であることは、何度かこのブログで表明しています。理由は①法令に規定がない国葬を内閣府設置法に基づき閣議決定で実施できるとするのは拡大解釈が行き過ぎており、法治を逸脱している②全額国費で賄うことは弔意の強制を意味し憲法違反の疑いが極めて強い③憲法や国会を軽視した安倍政治は社会に分断の深刻化を残しており、国を挙げての葬儀の対象にはふさわしくない―などです。国葬を巡って、もう一つ、気になっていることがあります。「神格化」です。法治の逸脱や違憲の疑い、安倍政治の負の遺産をいわば「理」の問題とするなら、「情」の問題と言えるかもしれません。近代日本の国葬の歴史的系譜をさかのぼってたどっているうちに、国葬は対象者の神格化と親和性が高いのではないか、と気付きました。このまま国葬を実施すれば、その後は安倍元首相を「護国の神」と祀り上げるような動きが出るかもしれない、と感じます。

 日本国憲法の施行により1947年末で失効した国葬令は、天皇、上皇や皇族の葬儀を国葬とすることを定め、次に「國家ニ偉功アル者」を国葬とすることがある、と定めていました。明治以降、国葬は国家に多大な貢献をした功労者に対し、天皇や皇族に準じた扱いで弔う性格があったのだと、わたしは理解しています。1945年8月の敗戦までの日本は、国家神道という“国教”の制度下にありました。明治天皇が死後、明治神宮に祀られたように、天皇制は神格化と不可分でしたので、国葬の対象者もまた神格化に近いところにあったのは当然かもしれません。
 昭和の国葬の対象者のうち皇室以外は、東郷平八郎、西園寺公望、山本五十六、吉田茂の4人です。うち東郷と山本は海軍元帥、軍人です。東郷は死後、東郷神社に祀られ、山本にもそうした動きがあったと伝えられます(後述します)。旧日本軍は天皇の軍隊であり、戦死者は靖国神社に神として祀られたように、神格化と極めて高い親和性がありました。第2次大戦末期、生還が望めない体当たりの「特攻」が、軍事的な合理性を欠いているにもかかわらず組織的に継続されました。「死んで護国の神になる」との想念が、人命尊重の倫理観を薄れさせていたのではないかとも感じます。
 では、文官、政治家だった西園寺公望、吉田茂はどうだったのでしょうか。特に吉田茂の死去は1967年で敗戦から20年以上もたった後のことです。本人はクリスチャンだったともされ、およそ神格化とは無縁なのかもしれないと思ったのですが、調べていて、意外なことを知りました。祭神として神社が建立される、というほど明白ではないのですが、神格化と呼べなくもないことがありました。
 神奈川県大磯町に、吉田茂の自宅跡地が保存されています。建物は2009年に火災で焼失しましたがその後、復元されて公開されています。その広大な敷地の一角に「七賢堂(しちけんどう)」という建物があり、国の登録有形文化財に登録されています。「七賢」とは、木戸孝允、大久保利通、岩倉具視、三条実美、伊藤博文、西園寺公望、吉田茂のこと。この7人を祀った堂です。

【写真 旧吉田茂邸の敷地内にある「七賢堂」】

 現地を訪ねてみました。JR東海道線の大磯駅からバスで10分ほど。「城下公園前」のバス停で降りてすぐ、国道1号に面して「県立城下公園 旧吉田茂邸地区」があります。約9千坪という広大な敷地の一角、林の中に七賢堂は建っています。案内板には以下の説明が書かれています。明治36年は1903年です。

 七賢堂(しちけんどう)は明治三十六年、伊藤博文の自邸、大磯の「滄浪閣(そうろうかく)」に建立されたものです。はじめ、明治維新の元勲のうち岩倉具視、大久保利通、三条実美、木戸孝允の四人が祀られた「四賢堂」でした。その後、伊藤博文が祀られ、昭和三十五年には吉田茂がこの地に移設し、西園寺公望を合祀し、吉田茂本人も死後に合祀され、現在の「七賢堂」となりました。
 正面の扁額(へんがく)「七賢堂」の文字は、佐藤栄作の揮毫(きごう)によるものです。

 復元された邸宅の中にも、七賢堂に関連した写真展示がありました。説明に以下のくだりがありました。

 吉田は五賢堂移転を契機として、伊藤博文の祥月命日である10月26日前後に毎年「五賢堂祭(ごけんどうさい)」を挙行しました。
 五賢堂祭では毎年、神官による祭典とガーデンパーティが行われ、五賢堂に合祀されていた人物の遺族や関係者のほか、吉田とつながりのある政財界の要人たちを含め、200人程度が吉田邸に集まりました。

 1965年の五賢堂祭の模様として、庭のテーブルで吉田茂が招待客らと談笑する写真が展示されていました。
 現在の七賢堂はどうなのか、邸宅の職員の方に聞いてみました。年に一度、堂の扉を開けて中を公開しているものの、神官が来ての祭典は行っていないとのこと。「自治体(神奈川県)が管理しているので、宗教色を帯びた行事は行わないようです」と聞いて、なるほどと思いました。
 吉田茂が西園寺公望を合祀したこと、かつては「神官による祭典=宗教行事」を行っていた堂に今は吉田茂も合祀されていることは、ごくプライベートな範囲のことなのかもしれませんが、西園寺公望も吉田茂も神格化されていると言えば言えなくはない、と思います。わたしには驚きでした。
 ※大磯町郷土資料館・旧吉田茂邸
 http://www.town.oiso.kanagawa.jp/oisomuseum/kyuyoshidatei/info/index.html

【写真 旧吉田茂邸の敷地内にある吉田茂の像】

 「七賢堂」の扁額を佐藤栄作が揮毫していたことも興味深く感じます。吉田茂の門下生であり、首相として吉田茂の国葬を取り仕切ったのが佐藤栄作だったからです。展示資料の中には、吉田邸を訪れた際の佐藤の写真もありました。五賢堂祭のことも当然、佐藤は知っていたと思われます。佐藤の中で、吉田を国葬で送ることと、吉田が明治の元勲とともに神として合祀されることは、ごく自然に受け入れられていたと考えても、無理はないように思います。
 佐藤栄作は安倍晋三元首相の祖父である岸信介元首相の弟です。安倍元首相から見れば大叔父に当たります。山口県の出身。維新の元勲との関係で言えば、長州閥の流れにあります。七賢堂の元の四賢堂を建てた伊藤博文も長州閥、当初から祀られた4人のうちの木戸孝允も長州閥の大立者でした。
 長州閥と神格化を考えた時にもう一人、思い当たるのは乃木希典です。陸軍大将として日露戦争の旅順攻略戦の指揮官でした。明治天皇に殉じて自死。東京・赤坂の私邸に隣接して乃木神社が建立され、祭神として祀られています。乃木の同郷の朋友で、日露戦争では陸軍の現地派遣軍の参謀長を務めた児玉源太郎も死後、神奈川県・江の島に児玉神社が建立されています。

【写真 東京・赤坂の乃木神社】

 ※乃木神社トップ
  https://nogijinja.or.jp/
 ※児玉神社トップ
  https://www.kodamajinja.or.jp/

 明治期以降の長州出身者の神格化をたどっていくと、行き着くのは吉田松陰です。山口県・萩の私塾「松下村塾」の門下生から維新の元勲を輩出したことは広く知られています。幕末の幕府による弾圧、安政の大獄で刑死。遺体は高杉晋作や伊藤博文らによって、長州藩主の別邸があった東京・世田谷に改葬されました。その地に明治15(1882)年、松陰神社が建立されました。

【写真 東京・世田谷の松陰神社】

【写真 松蔭神社の一角にある吉田松陰の墓所】
 ※松陰神社トップ
  https://www.shoinjinja.org/
 「松陰神社鎮座の由来について」
  https://www.shoinjinja.org/history/yurai/

 国葬の対象になった東郷平八郎と山本五十六についても、もう少し触れておきます。
ウイキペディア「東郷平八郎」には、出典は不明ですが、「東郷自身は生前の乃木神社建立時、(陸軍に対抗するために)将来自身を祭る神社の設立される計画を聞いて驚き、『やめてほしい』と強く懇願した。願いは聞き入れられず結局、没後に神社は建立されている」との逸話が紹介されています。東郷は薩摩閥でした。海軍は薩摩、陸軍は長州が主流でした。

【写真】東京・原宿の東郷神社。日本海海戦で東郷平八郎が乗艦する戦艦「三笠」に掲げたZ旗が社殿にもかかっています
※東郷神社トップ
 https://togojinja.or.jp/

 山本五十六は太平洋戦争開戦時の連合艦隊司令長官で、新潟県・長岡の出身でした。戊辰戦争では長岡藩は新政府軍と激戦を展開した“逆賊”でした。山本は1943年4月、最前線を視察中にパプアニューギニアのブーゲンビル島で搭乗機が撃墜され戦死しました。国葬は、戦意高揚の狙いもあったのだと思います。その後、地元の長岡で、山本神社をつくろうとの動きがあったものの、山本と志を同じくしていた米内光政や、海軍兵学校以来の親友だった堀悌吉が「山本は決して喜ばない」と言ってやめさせた、との逸話が、阿川弘之さんの小説「米内光政」に紹介されています。山本は海軍省次官の時、大臣だった米内、軍務局長だった井上成美とともに、日独伊の三国軍事同盟締結に徹底的に反対していました。

 日本には古くから「御霊信仰」があります。天災や疫病の流行などを、怨みを持って死んだり非業の死を遂げた「怨霊」のたたりとして恐れ、神として祀って「御霊」となして、たたりを免れ平穏と安寧を得ようとする信仰です。菅原道真を学問の神として祭る天神信仰は今も身近な例だと思います。こうした歴史的な精神風土もあって、国家の功労者の神格化は明治以降、日本社会に根を張ったようにも思えます。そう考えると、ひとたび国葬で送られた対象者が、容易に神格化へと結びつくのは何ら不思議ではありません(国葬の対象になると神格化される、との因果関係を言いたいのではありません)。
 信教の自由に照らせば、何を神として信仰するかは個々人の自由でしょう。問題は、政治家を神格化することによって、その政治家の政治的な業績を、批判を含めて自由に論じることがはばかられるような雰囲気が社会に醸し出されることです。神格化が現実の政治や社会に影響を及ぼすようなことは、あってはならないことです。

安倍元首相の国葬、旧統一教会との関係で急落した岸田内閣と自民党の支持率~内閣改造後の共同、読売両調査から

 8月10日に岸田文雄首相が内閣改造を行ったことに対し、共同通信と読売新聞がそれぞれ10~11日に実施した世論調査の結果が報じられています。内閣支持率は共同通信調査が54.1%で、前回7月30、31日の調査から3.1ポイント増、読売新聞調査は51%で、前回8月5~7日調査から6ポイント減でした。
 時間軸をそろえて傾向を見るために、自民党が大勝した参院選直後の調査(7月11、12日実施)の結果と比較してみました。以下の通りです。 

  7月11、12日 8月10、11日  
共同通信調査   63.2%   54.1% 9.1P減
読売新聞調査   65%   51% 14P減

※Pはポイント
 参院選から約1カ月で10ポイント前後も急落しています。自民党の支持率も、以下のように下がっています。

  7月11、12日 8月10、11日  
共同通信調査   46.1%   40.6% 5.5P減
読売新聞調査   44%   35% 9P減

 参院選で大勝したのにもかかわらず、岸田内閣の支持率、自民党の支持率がそろって下がっている要因は、参院選後に噴き出してきた事情、つまりは旧統一教会(「世界平和統一家庭連合」)と自民党との関係と、安倍晋三元首相の国葬を強行しようとしていることの二つだとみていいと思います。
 以下は、8月10、11日の共同と読売の調査のうち、旧統一協会に関連した質問と回答の状況です。

■読売新聞

・岸田首相は、今回の人事で、「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)との関係を、新しい閣僚や党役員が自ら点検し、見直すことを求めました。こうした対応は、十分だと思いますか、思いませんか。
思う 36%
思わない 55%
答えない 10%

■共同通信

・宗教団体の「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)と自民党の国会議員との間で、選挙支援などの関わりが次々と判明しています。あなたは、自民党や党所属の議員が十分に説明していると思いますか、説明が不足していると思いますか。        
 十分に説明している  6・9%
 説明が不足している  89・5%
・あなたは、政治家が旧統一教会や関連団体と関係を絶つべきだと思いますか、関係を絶つ必要はないと思いますか。
 関係を絶つべきだ 84・7%
 関係を絶つ必要はない 12・8%

 共同通信の調査では、安倍元首相の国葬についても尋ねています。

・政府は、安倍晋三元首相の葬儀を、全額国の費用で賄う国葬として実施すると決めました。岸田首相は、敬意と弔意を国全体として表す国の公式行事として開催するのは適切だとしています。あなたは、首相の説明に納得できますか、納得できませんか。
 納得できる 42・5%
 納得できない 56・0%

 安倍元首相の国葬について、これまでのマスメディア各社の世論調査では、肯定的な回答が過半数に達した例はありません。肯定的な回答と否定的な回答はよくて拮抗。調査によっては否定的な回答が過半数を占める状況が続いています。
 国葬の意味合いを、故人の遺徳を、国を挙げてたたえ、しのぶ機会だと考えるなら、国葬を巡って社会が二分されている状況それ自体が、国葬実施の大前提を欠いています。そもそも法的な根拠を欠いている国葬は違法、違憲の疑いが濃厚です。中止すべきです。

岸田首相あいさつ「ほぼコピペ」、長崎の8割は広島と同じ~改造内閣の第一の課題は「防衛力強化」=「軍拡」

 8月9日は長崎の原爆の日でした。平和祈念式典での岸田文雄首相のあいさつは、6日の広島と同じく、核兵器禁止条約には触れませんでした。気になったのは、枢要な部分の表現が、広島でのあいさつと相当程度、一緒だったことです。「非核三原則を堅持しつつ、『厳しい安全保障環境』という『現実』を『核兵器のない世界』という『理想』に結び付ける努力を行ってまいります」という分かりにくい表現も、一言一句そのままでした。
※「長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典あいさつ」=2022年8月9日
 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0809nagasaki.html

www.kantei.go.jp

※広島でのあいさつは以下です
 https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/statement/2022/0806hiroshima.html

www.kantei.go.jp

 試みに、長崎でのあいさつ全文計1100字余りのうち、広島でのあいさつと同一の部分を手元で数えてみたところ、約900字でした。約8割です。広島と長崎に同じように向き合う、ということなのかもしれませんが、いわゆる「コピペ」の対応はあまりに事務的であるように感じます。それぞれに誠実に向き合うなら、それぞれの被害の実相に目を凝らすべきだとも思います。安倍晋三元首相も広島と長崎であいさつの文章はほぼ同じでした。先例を踏襲したということならば「お役所仕事」です。
 この点については毎日新聞が10日付の朝刊に「あいさつ ほぼ『コピペ』」の見出しの記事を掲載しています。政治家は何を語るか、その言葉が問われます。ましてや首相の言葉に関わることです。広く報じられていいように思います。

 ■“今ここにある危機”

 長崎市の田上富久市長が読み上げた「長崎平和宣言」の中で、もっとも印象に残ったのは、核兵器の使用が“杞憂”ではなく“今ここにある危機”であるとの指摘です。
 長崎平和宣言は、米ロ英仏中の核保有5か国首脳が「核戦争に勝者はいない。決して戦ってはならない」との共同声明を発信した翌月、ロシアがウクライナに侵攻し、核兵器による威嚇を行ったことを挙げて、以下のように強調しています。

 この出来事は、核兵器の使用が“杞憂”ではなく“今ここにある危機”であることを世界に示しました。世界に核兵器がある限り、人間の誤った判断や、機械の誤作動、テロ行為などによって核兵器が使われてしまうリスクに、私たち人類は常に直面しているという現実を突き付けたのです。
 核兵器によって国を守ろうという考え方の下で、核兵器に依存する国が増え、世界はますます危険になっています。持っていても使われることはないだろうというのは、幻想であり期待に過ぎません。「存在する限りは使われる」。核兵器をなくすことが、地球と人類の未来を守るための唯一の現実的な道だということを、今こそ私たちは認識しなければなりません。

 核兵器の「抑止論」は、もはや現実の前に意味を持ちません。ロシアのウクライナ侵攻はそのことを突き付けています。
 一方で、戦争を起こさせないことは不可能ではない、可能性はゼロではありません。平和宣言の以下の部分には深く共感します。

 私たちの市民社会は、戦争の温床にも、平和の礎にもなり得ます。不信感を広め、恐怖心をあおり、暴力で解決しようとする“戦争の文化”ではなく、信頼を広め、他者を尊重し、話し合いで解決しようとする“平和の文化”を、市民社会の中にたゆむことなく根づかせていきましょう。高校生平和大使たちの合言葉「微力だけど無力じゃない」を、平和を求める私たち一人ひとりの合言葉にしていきましょう。

※「令和4年 長崎平和宣言」=2022年8月9日
https://www.city.nagasaki.lg.jp/heiwa/3070000/307100/p036984.html

※参考過去記事

news-worker.hatenablog.com

 ■「軍拡」内閣

 長崎の原爆の日の翌10日、岸田首相は内閣改造を行いました。安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会(世界平和統一家庭連合)と自民党の関係が注目されるさなかですが、首相は記者会見で、五つの重点分野に取り組むと表明。「第一に防衛力強化を挙げ、経済安全保障の推進、経済再生、コロナ対策の強化などを挙げた」(共同通信)とのことです。「防衛力強化」とは「軍備拡大」を呼び変えたものです。広島、長崎の原爆の日の直後、そして8月15日の敗戦の日の直前に、「軍拡」を課題の第一に掲げる内閣が発足しました。

※共同通信「第2次岸田改造内閣が発足/防衛力強化の検討推進」=2022年8月10日

nordot.app

 岸田文雄首相は改造後会見し、年末に向けた課題として防衛力強化を挙げ「必要となる防衛力の検討、予算規模の把握、財源の確保を一体的かつ強力に進める」と政府内の議論を加速する考えを強調。新型コロナや米中緊張を挙げて有事に対応する「政策断行内閣だ」と述べた。

 敗戦から77年。社会で戦争体験を継承していくことがより一層、重要になっています。そこにマスメディアの役割と責任もあります。

 以下は、長崎の原爆の日を東京発行の新聞各紙がどう報じたか、10日付朝刊の記録です。
 朝日新聞、毎日新聞、産経新聞、東京新聞は1面でしたが、読売新聞は本記が第2社会面と、扱いが突出して控え目なのが目を引きました。

【8月10日付朝刊】
▼朝日新聞
・1面準トップ・本記「核批准条約 迫る長崎」/「『被爆体験者』の医療費/がんに至急検討/首相表明」
・4面:首相の会見要旨
・社会面トップ「戦火の世 断ち切る誓い/ウクライナ『ピカドンの恐怖そのもの』」/「被爆者合唱団 最後の式典/高齢化背景 平和『歌い続ける』」/「原水爆禁止2大会閉幕」/「長崎資料館に首相初の訪問」/「両陛下が黙祷」
・第2社会面「『二度と私をつくらないで』/平和宣言『車いすの語り部』の祈り」/「『抜本解決ほど遠い』/被爆体験者の救済拡大方針」
・第3社会面 長崎市長 平和宣言(全文)/平和祈念式典 首相あいさつ(全文)
・社説「核廃絶と首相 核禁条約は『入り口』だ」

▼毎日新聞
・1面準トップ・本記「『核廃絶 先導役に』/長崎原爆77年 平和式典」
・4面・特集「語らしめる『この姿』/被爆で下半身不自由に 故渡辺千恵子さん」/長崎平和宣言(全文)/平和への誓い(全文)/首相あいさつ(全文)/国連事務総長あいさつ(全文)※中満泉・国連事務次長・軍縮担当上級代表が代読
・社会面トップ「被爆体験者 首相に失望/『広島選出』…救済言及なし」/「あいさつ ほぼ『コピペ』/『心こめてほしい』」/「資料館、現職で初訪問」

▼読売新聞
・4面(政治)「首相、核禁条約言及せず/長崎平和式典 米の抑止力 考慮」
・9面(国際) 長崎平和宣言全文/岸田首相あいさつ全文
・第2社会面・本記「惨禍なくす 決意と祈り/核廃絶『未来守る唯一の道』 長崎原爆の日」/「『きょうだい仲良く』生きたよ/式典で献水 母をしのぶ」/「両陛下が黙とう」

▼日経新聞
・4面(政治・外交)「核軍縮 首相が発信強化/長崎で『安全環境との両立へ努力』/来年広島サミット 平和への結束訴え」
・社会面トップ・本記「核なき世界 願い一つ/市長『私用の危機に直面』/禁止条約の批准求める」/「『被爆体験者』救済なお課題/『黒い雨』訴訟で国が新基準/広島との線引き、反発も」/「被爆体験者支援 一部のがん追加/首相が検討表明」

▼産経新聞
・1面・本記「核兵器廃絶『唯一の道』/長崎原爆77年 露侵攻に危機感」
・社会面準トップ「4歳で被爆 体験語らねば/長崎『原爆の日』77年」/「天皇ご一家 ご黙祷」
・第3社会面 平和宣言 要旨/首相あいさつ 要旨/平和への誓い 要旨

▼東京新聞
・1面準トップ・本記「非核化 人類唯一の道/首相 核禁条約に触れず 長崎原爆の日」
・3面「長崎・被爆体験者『被爆者認定を』/首相、支援対象に がん一部追加へ」
・7面 長崎平和宣言全文/「平和の誓い」全文/首相あいさつ要旨
・社会面トップ「核なき世界 きっと咲く/平均81歳 被爆者合唱団『ひまわり』/願い込めて 式典最後の参加」/「『平和が一番』祈り静かに」

 

◆追記 2022年8月17日8時30分
 備忘です。広島、長崎の原爆の日のあいさつだけでなく、岸田首相は8月15日の全国戦没者追悼式典のあいさつも、8割以上が前任者と「一言一句同じだった」と朝日新聞が伝えています。近隣諸国への加害責任には言及しなかった点も同じです。

※朝日新聞「『岸田カラー』見えない首相式辞 8割が前年と同じ 戦没者追悼式」=2022年8月15日
 https://digital.asahi.com/articles/ASQ8H5KG6Q8HUTFK005.html

 東京・日本武道館であった全国戦没者追悼式で岸田文雄首相は15日、首相として初めて参列し、式辞を述べた。全体の8割以上が前年の菅義偉前首相の表現と一言一句同じだった。残りも安倍晋三元首相の式辞を踏襲した部分が目立ち、「岸田カラー」の見えない中身となった。
(中略)
 「積極的平和主義」は安倍氏が2020年の式辞に盛り込み、菅氏も踏襲。岸田首相は菅氏の表現をそのまま用いた形だ。菅氏が昨年盛り込んだ「戦争の惨禍を二度と繰り返さない」に続く、「この信念をこれからも貫いていく」という表現は「この決然たる誓いをこれからも貫いていく」に変わったが、これも20年の安倍氏と同じだった。