ニュース・ワーカー2

組織ジャーナリズムに身を置き40年余

中労委に初めて非連合委員〜労働運動の新しい機運に期待

 労働争議を第三者の裁定に委ねようとする場合、行き先は大きく分けて裁判所と都道府県の労働委員会の二つがあります。裁判所の場合は、判決や決定に不服なら高裁などへ上訴する道があり、それと似て労働委員会にも、労働組合法に基づく国の行政委員会である中央労働委員会という上位裁定機関があります。中労委は使用者委員、労働者委員、交易委員の3者構成で各15人。少し前のことですが、その労働者委員に初めて連合(日本労働組合総連合会)以外から、全労連(全国労働組合総連合)出身の委員が16日付で選任されました。一般にはあまり注目されないニュースですが、わたしは労働運動の新しい機運を期待できる出来事として、好意的に受け止めています。
 労働運動のニュースをマスメディアの報道で見ていると「労働組合=連合」と受け止めてしまいかねないほど、労働側の動きと言えば連合ばかりが報道されています。日本のいわゆるナショナルセンターには、連合のほかにも全労連があるのですが、報道の上ではなかなか目にしません。厚生労働省の昨年6月現在の調査では、連合662万2千人、全労連68万4千人と、その組合員数には相当の差があることが主な理由と思います(少数意見にも光を当てるべき、との観点に立てば、いくら数に違いがあるとはいえ、現在のマスメディアの報道スタンスには問題があると考えていますが、ここではさて置きます)。別に労働組合の全国組織としては、国鉄労働組合国労)などが加盟する全国労働組合連絡協議会(全労協)がありますが、ナショナルセンターとしてカウントされていません。このほか、連合、全労連のいずれにも加盟しない組合もあり、わたしが専従役員を務めた新聞労連もそうした「中立系」と呼ばれる産業別組合の一つです。 
 ここからはわたしの個人的な理解ですが、日本の労働組合運動は1980年代後半、連合と全労連の2ナショナルセンターへと再編が進む課程で、同じ産業内でも連合系、全労連系という風に産別組合が分かれていきました。分かれなかったところは連合、全労連の双方に入ろうにも入れない、どちらかに行こうとすると分裂するという状況でした。なので、もともと連合系と全労連系は仲がよくありません。労働界再編後の中労委員選任が連合独占で推移してきたのも、仮に労働行政当局が全労連系の委員を選任しようとしても、連合がそれを許さず(連合が労働行政に協力しない事態は、労働行政当局も避けたかったのだと思います)、結果として実現してこなかったのだろうと考えています。
 中労委員の連合独占に対し、全労連や中立系の労組、新聞労連も加盟する日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)は非連合系の委員選任を求めて共闘会議をつくり、統一候補を立てて推薦してきました。わたしもMIC議長として、この取り組みに参加していました。今回の非連合委員の誕生を、まずは素直に喜んでいます。同時に、そうした労働運動の潮流間の〝勢力争い〟の観点にとどまらず、労働運動に芽生えている新しい機運が育っていくことを期待できる出来事ではないかと考えています。その機運とは、働く者の権利の擁護のために潮流の違いを超えて共闘する、ということです。
 前回のエントリーでも触れましたが、ワーキングプアや貧困が社会問題化し、既存の労組とは一線を画した個人加盟ユニオンが立ち上がっています。その中で連合も全労連も、既存の労組間で縄張り争いに暮れている場合ではない、ということにとうに気付いています。実際のところ、わたし自身も争議の現場で、潮流の違いを超えて支援する、支援を受けるという体験をしましたし、既存の正社員労組が、非正規雇用の人たちと連帯・共闘を図る取り組みにも参加しました。そうした労働運動の中の新しい機運が、今回の中労委員選任にも反映されたのではないか。希望的観測に過ぎないかもしれませんが、わたしはそう受け止め、労働運動の今後に期待しています。